ビジネスパーソンインタビュー

「次の経営陣は僕らの代でしょ?」花王DX戦略EC部長の活躍から紐解く“企業人”の心構え

みんな「〇〇をやらないと」って準備するでしょう?

「次の経営陣は僕らの代でしょ?」花王DX戦略EC部長の活躍から紐解く“企業人”の心構え

新R25編集部

連載

あのビジネスパーソンの「○○力」

Sponsored by 花王株式会社

2022/09/30

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仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

今回登場するのは、花王株式会社でDX戦略推進センター・ECビジネス推進部長を務める生井秀一さん

【生井秀一(なまい・しゅういち)】1976年、茨城県生まれ。1999年に花王カスタマーマーケティング株式会社入社。2012年に花王株式会社に出向。ヘアケアブランドマーケティングを担当した後、Eコマース担当。2018年先端技術戦略室在籍、2021年DX戦略推進センター設立メンバーとして立ち上げ

大企業花王で「伝説のセールスマン」として実績を残し、そこから会社のこれからを担うDX戦略の中心人物となった生井さんですが…同期が百名近くいるような大企業に入社し、そこから出世している人にはどんな力があるのでしょう?

そんな素朴な疑問をぶつけると同時に、花王のDX戦略について伺うべく、生井さんがパーソナリティを務める、ニッポン放送のラジオ番組「ラジオ情熱ラボ~ビジネスの先に」(毎週日曜日21時〜21時20分)の収録後に突撃してきました。

〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉

ラジオブースで取材することなんてもう二度とないだろうな…

誰も持ってこれなかった大手コンビニチェーンの顧客データを武器に「社長賞」へ

福田

生井さんは3万人以上いる花王社員のなかで、2度も「社長賞」を受賞した“記憶に残るセールスマン”だったと聞きます。

どんな実績を出されたのか教えていただけますか?

生井さん

初めて「社長賞」を受賞したのは20代だったかな。

当時、僕は大手コンビニチェーンの営業担当者だったんですよ。

“やり手のセールスマン”と聞いていたので、すごい迫力の方を想像していたのですが、すごく穏やかな口調…

生井さん

その大手コンビニチェーンは、自分たちで商品をつくる文化が強かった。

簡単にメーカーの商品を置かせてくれる状態じゃなかったんです。

だから花王の商品も置いてくれなくて。

福田

いわゆる「プライベートブランド」が増えていた時期ですね。

生井さん

そう。その大手コンビニチェーンにずっと向き合ってきた社員の方からは「いろんな会社と取引しているからMTGの時間も限られていて、すごく大変だよ」と言われてたんです。

事実、初めてお電話したときも「対面で会う必要はないので、販促メニューをメールで送っておいてくれませんか?」って言われたんですよ。

福田

厳しい…そこからどうやってこじ開けていったんですか?

生井さん

当時、そのクライアントから花王への印象は「打ち合わせをしても何も決まらない会社」というものでした。

だから僕が担当になったタイミングで、「会社に何かしらのアクションを絶対に起こさせます。だから今、御社が何をやりたいのかを会って教えてください」って約束を取り付けたんです。

福田

つよ…

生井さん

そしてそのアポイントで、担当者から「うちのコンビニ限定商品はつくれないのか?」って言われたんです。

初めて先方からニーズを引き出した。そこからは駆け引きで「商品を絶対につくるので、そのために顧客の購買データをください」って開示してもらったんです。

普通はメーカーに絶対見せないものらしいんですけどね。

違った、穏やかな口調で相手を口説くのがめちゃくちゃうまい人だ

生井さん

その購買データを見たら、金曜日の夜に「『めぐりズム 1枚入り』と入浴剤とデザート」を買っている女性がたくさんいることがわかりました。

しかも1人単位で見ると、「めぐりズム 1枚入り」は月末月初で2回買われている。つまり「月に2枚の『めぐりズム』を使う人が多いんだな」ってことなんですよ。

そのデータを持って、会社に「大手コンビニチェーン限定で『めぐりズム 2枚入り』を開発しましょう」って持ちかけたんです。

福田

それで開発に至ったと。

生井さん

会社の人には「あの大手コンビニチェーンからこんな貴重なデータを持ってきたセールスマンは初めてだ」って驚かれましたよ。

そこからデータに基づいて開発を進めて、ほかにも「メンズビオレ」のコンビニ限定商品なども生み出しました。

その結果、全国2万店以上ある大手コンビニチェーンで花王の商品がたくさん買われるようになり、社長賞をいただいたんです

「顧客ニーズ」と「社内の声」の組み合わせで、地方採用から本社へ抜擢

福田

そもそも、生井さんってどんな新入社員だったんですか?

大手コンビニチェーンの営業担当になるって、相当な抜擢な気がするんですけど…

生井さん

僕のキャリアは、花王のなかでは珍しいんですよ。

就職氷河期だったので、とりあえず地元で入れそうな会社はないかと探していたら、花王のグループ会社にいる先輩から声がかかって。

そのときは、花王については「石鹸の会社」というイメージしかなかったですね。

福田

とりあえず入れればいいやって感覚だったんですかね?

生井さん

そう。ただ、入社したからには成果を残したいなと思ったんですよ。

花王の本体で採用された先輩や同世代と会う機会があったんですけど、会社の大きさに甘んじているような人が多かった。

だからこそ、負けてらんねえぞって。

生井さん

当時、僕らの会社がどうしても開拓できなかった、地域で一番大きいホームセンターがあったんです。競合が一等地を抑えていて、どうしても勝てなかった。

そこを切り崩せば、実績がつくれる。絶対に自分が開拓するぞって意気込みましたよ。

福田

でも、みんなができてないということは、それだけ難易度が高いということですよね。

生井さん

そうです。

販売の基礎は「場所を取る」こと。つまり、その売場の店長と関係値を築くことができればうまくいくはずだと思ってました。

そこでまず、その店長が何を求めているか?を考えたんですよ。

福田

ほう…

生井さん

僕が考えたのは、そのホームセンター全体の売上を上げること。

そのために集客方法を企画したんですよ。夏は金魚すくいを用意したり、冬にはクリスマスにバンドを呼んだりして。

じつはそのホームセンターは筆者の地元にあり、小学生のころにそのバンドの演奏を聞いたことがあったのでした…すごいところでつながっていたんだな…

生井さん

そんな競合がやらないような手間を取りに行ったことで、花王の棚を一等地に置いてくれて、売上が大きく伸びた。

そしたら花王本社で「茨城に生井っていう変なセールスマンがいるらしいぞ!」と話題になって。その噂を聞いた人が、僕を大手コンビニチェーンの営業担当に任命してくれたんです。

福田

そこにつながるのか…!

生井さんがそんなに成果を出せた理由ってなんなんでしょう?

生井さん

これはコンビニ担当時代の話にも通ずるんですが、相手のニーズと“社内の声”を紐付けることが得意だった。この社内の声っていうのがすごく大事で。

僕が大手コンビニ担当のいちセールスマンだったのに、商品を開発することができたのは、会社の上層部がチラッと「コンビニに花王商品が置いてないのをなんとかしたい」ってぼやいていたのを知ってて。

上層部がやりたいと思っているなら、きっと会社は動いてくれるだろうと確信していたんです。

「顧客のニーズ」と「社内の声」の組み合わせ。この生井さんの強みを、ここからもっと深堀りします

「トップに抜擢されても動揺しない」すべては日頃の準備から始まる

福田

自分が「これをやるべきだ」と思ったことと「会社の方向性の違い」に悩む方も多いと思います。

生井さんのように、そこをうまくつなげる方法はありますか?

生井さん

…明確な答えはないかもしれないね。

そうなのか…

生井さん

そこは会社のタイミング次第だと思う。

僕もEコマースの営業担当に移ったとき、コンビニ営業での経験を生かして、Eコマース限定商品をつくろうと思った。

そして商品のCMで「お買い求めはWebで」とメッセージを入れようと思ったの。そしたら絶対私が担当しているECチェーンの購買率が上がると思って。

ただ、まだ店舗販売が主流だったので、花王が「お買い求めはWebで」と言ってしまうと、「店舗や販売員からクレームが来てしまうだろう」って止められたんですよ。

福田

そうですよね…これまで培ってきた全国の店舗との関係値に関わりますから…

生井さん

そういうときには「まだ会社はECに注力するタイミングじゃないんだな」と謙虚に受け止めます。

そして、会社が「EC販路を強化する」と決めたらすぐに施策を打てるようにアイデアとしてまとめておく

福田

なるほど…

生井さん

みんな「〇〇をやらないと」って話が出てから準備を始めるでしょう?

でも、本当に大事なのは、あらゆるアイデアをいつもストックしておいて、それをベストなタイミングで打ち出すということ

会社で上司から「〇〇をやったらもっといいんじゃないか」という話が出たとき、すぐに「僕だったらこういうことができますよ」って言えるように考えておくんです。

福田

そうか…それが生井さんがほかの人より優れている点なんですね。

生井さん

そうかもしれません。でも決して難しくはないんですよ。

アイデアのヒントは社外に落ちていることが多い。会社の外の人とたくさん会って仕事の話を聞いていると、「うちの会社ならこういうことができるな」って考えられます。

今こうやってラジオパーソナリティをしているのも、ぼくのアイデアの源になってますから(笑)。

生井さん

僕は今早稲田大学のビジネススクールに通っているんだけど、それも準備しているからなんですよ。

40代の今になって、学校に通いはじめるなんてあまりないんだけどね。

福田

それは何の準備ですかね?

生井さん

将来的に花王の部門責任者や経営に携わるための準備です。

おお…大企業に勤めていて、それを言い切れる人に初めて会いました…!

生井さん

今の花王を引っ張ってくれている諸先輩方は、いつか引退して後輩のバトンをつないでいきます。

そのとき誰が花王を引っ張るんだってなったら、僕らの世代が担わなくていけないときがくるでしょ。僕は自分の得意分野を磨いて、活躍できる自信は持っている。

だから将来的にチャンスが回ってきたときに、動揺しないように準備を始めているんです。

福田

そこまで準備しているのか…!

大企業を動かすのは「ミドル層」の情熱。生井さんが花王DXを推進できるワケ

福田

そんな生井さんは現在、花王がこれからさらに注力していくであろうDX戦略推進センターの立ち上げメンバーとして選ばれましたよね。

それも、その将来のための準備なんですか?

生井さん

そうです。僕はいつも「販売はこれからどう変わっていくのか?」ということをいつも構想しているんですよ。

今は小売店での販売が大半で、Amazonや専業ECなどのデジタルプラットフォームを介する買い物が増えてきた。そしてメーカーが直接販売するD2Cが立ち上がり始めている。

この3つのバランスがどう変わっていくのか? そのなかで花王が目指すべき方向を描いています。

福田

ふむふむ…具体的にどんなことをやっているんでしょうか?

生井さん

花王ブランドのEC戦略を立案する部長です。

たとえば、「ヘルシア」が「モニタリングヘルス」というサービスを始めました。ユーザーの健康状態や内臓脂肪レベルを計測できるんです。

そして、同時期に「ヘルシア」がECチャネルの大きなセールでプロモーションがおこなわれている。

これらって、もともとは別々の部署で考えられていて、連携はしていなかったんです。

福田

マーケティング部門と販売部門は別軸で動いていそうですよね。

たくさんの部署がある大企業だと連携も難しそうです。

生井さん

でも「モニタリングヘルス」に登録している人は「ヘルシア」の見込み客ですよね。

だから、そのサービスに登録している人に「ECチェーンでお買い得なセールをやってます」という広告を打つようにしたんです。

実際、それで販売数は大幅に伸びました。

生井さんはどんな場所でも活躍している。こんなキャリアを歩んでみたいものです

生井さん

花王ではチャネルごとにあらゆる販売戦略が動いている。

とはいえ、戦略が違ったとしても、デジタルを介して連携できる部分はたくさんあります。

さまざまな部門に散在していたECに関わる人たちをひとつにまとめることにより、ECチャネルの販売戦略が立案できるようになったんです。

福田

なるほど…それで言うと、花王のような大手企業では、まだまだDX化が進んでいないところも多そうです。

それって何が理由だと思いますか?

生井さん

組織的な問題もありますが、一番は人だと思います

生井さん

トップ層の「DXを強化する」という意思決定に対して、それを実行できるミドル層がいるかどうか

とくに30代後半〜40代のミドル層が守りに入ってしまうことが多い。

今のままでもうまくいってる」と思って、DXに対しての問題意識を持ちづらい。会社の課題を自分ごと化できているミドル層が少ないんです。

福田

生井さんは、「自分が花王の経営に関わる仕事をおこなう」という意識があるから自分ごと化できているということですね。

生井さん

そう。大企業で一番楽しいのってミドル層だと思うんですよ

経験と裁量と体力がある。そこに情熱があれば、会社をどんどん前に進めることができる。

今この記事を読んでいるのは若手ビジネスパーソンだと思うんですけど、これから10年後にそんなミドル層になるために準備を始めておくのをおすすめします

40代のキャリアが一番面白い」という生井さんの主張。

30代に差しかかろうとしている筆者からすると、これから10年後にはそんなキャリアを歩めるだろうか…と不安になる一方で、ワクワクしました。

昨今「大企業からの独立」や「会社の看板に頼らないキャリア」などが目立ちますが、会社のなかで頭角を表し、看板をうまく活用しながら輝く生井さんの経歴こそ、ビジネスパーソンが目指すべき歩み方のひとつなのかもしれません。

〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=石川みく(@newfang298)/撮影=オカダマコト〉

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