ビジネスパーソンインタビュー
“未知”に飛び込むのって、怖くないの?
「3年後、CMの概念が変わる」コネクテッドTVで業界の変革に挑戦するCA子会社社長を突き動かす“妄想”
新R25編集部
仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。
今回登場するのは、株式会社AJA代表取締役社長の野屋敷 健太(のやしき・けんた)さん。
サイバーエージェントに新卒入社後、いち社員からわずか3年で子会社の取締役に就任。
2016年に子会社となる株式会社AJAを立ち上げ、2022年には業界初となる“コネクテッドTV特化型”の広告配信サービス「インクリー」をリリースした野屋敷さん。
何度もゼロイチの事業立ち上げを実現させてきた野屋敷さんの原動力を探ったところ、その正体は意外にも…“妄想する力”でした。
〈聞き手:宮内麻希(新R25編集部)〉
きっかけは藤田社長の一言。取締役抜擢までの“3つのゼロイチ経験”

宮内
野屋敷さんがサイバーエージェントに入社されたのは2008年ですよね。
新卒のころはどんなことをされてたんですか?

野屋敷さん
ちょうど入社した4月に北海道支社ができまして。
そこでの“ネット広告事業の営業”がキャリアのスタートでしたね。

宮内
北海道…
ゼロイチ経験① 北海道支社で飛び込み営業

宮内
まさか入社してすぐ北海道に飛ばされるなんて思わないですよね…

野屋敷さん
いや、僕が自分から「行きたい」って手を挙げたんですよ。
何で?

野屋敷さん
あれなんですよ、入社式で(藤田)社長が「迷ったらベトナム行け」と言ってたので。
手を挙げた1カ月後に「じゃ、行ってらっしゃい」みたいな(笑)。

宮内
やばい世代じゃないですか。

野屋敷さん
「お菓子や魚介類が道外からもネット経由で売れるようになりますよ」という営業をしてたんですけど…よく「道外で買ってもらう必要ない」みたいに言われて詰んでました。
道内だけでビジネスが成り立っている状態の企業さんばかりだったので、イメージを持ってもらえなかったんですよね。
で、1年半ぐらいで「もうやめよう」って。ダメになっちゃいました。
ゼロイチ経験② CyberZ時代の“太客戦略”

宮内
やめたあとは東京に戻ってきたんですか?

野屋敷さん

野屋敷さん
なんとか兆しをつくりたくて、「スマートフォンの事業がやりたい」と手を挙げたんですよね。
当時はちょうど、ガラケーからスマートフォンに変わる流れが来そうなタイミングで。
これから参入するなら、自分の身の周りの人が毎日使うような“インフラ”となるビジネスがしたいと思ったんです。

宮内
市場としても兆しがあったんですね。

野屋敷さん
…でも、当初はアホな戦略ばっかやってましたよ。
「競合も少ないし、日本にあるすべての企業と契約しよう!」ってムダに契約社数を追ったりして、描いてたような結果は全然出ませんでした。
そこで、「太客戦略」に変えたんです。

野屋敷さん
新しい市場やサービスに参入するのって、まず市場のトップ企業からなんですよ。それを追いかけるように市場2番手3番手が参入するっていう順番。
だったらトップ企業に絞って落としにいこうよという戦略で。

宮内
なるほど…具体的にはどう落とすんですか?

野屋敷さん
「創って、作って、売る」 をひたすら回しました。
顧客の理想状態を定期的にヒアリングして、「どういう機能が欲しいのか」とか「どうバージョンアップしていけばいいか」みたいな意見をどんどん取り入れながら形にしていく。
伸びてる市場ほど“答え”を持ってないので、“一緒に答えをつくる体験”が差別化につながって、結果的に参入障壁が高まったんじゃないかなと思いますね。
この「太客戦略」で事業が伸び、CyberZの取締役に抜擢されます
ゼロイチ経験③ AJAの立ち上げへ

宮内
そこからなぜAJAを立ち上げることに?

野屋敷さん
CyberZのあとにメディア広告の部署に異動して、Amebaとかのメディアの立ち上げをやったんですけど…
当時のメディアって、まだPVとかUUだけに注力していた時代で。
マネタイズの仕組みまでまるっと自社で完結できるチームやシステムがなかったんですよ。

宮内
ほう…

野屋敷さん
すでにGoogleには「GDN(Googleディスプレイ広告)」があったし、Yahoo!には「YDN(Yahoo! ディスプレイ広告)」があったので…じゃあうちにもつくろうよ!と。
それで2016年に、メディア発のアドテク企業となるAJAを立ち上げました。

野屋敷さん
3〜4年ぐらい前に「これからは動画の波が来る」と思ったタイミングで、ディスプレイ広告からOTT(※)のスポンサー広告支援事業にピボットしまして…
OTT…Over The Top(オーバー・ザ・トップ)の略。インターネット上にある音声・動画などのコンテンツやサービスのこと。マネタイズモデルは、ABEMAなどの「スポンサー広告」か、Netflixなどの「ユーザー課金」に分かれている

野屋敷さん
去年の夏に、「インクリー」というサービスをリリースしたところですね。
“テレビ離れ”が叫ばれる時代に「コネクテッドTV」に特化する理由

宮内
「インクリー」はどういうサービスなんですか?

野屋敷さん
簡単に言うと、コネクテッドTVでABEMAのようなOTTを観ているときに流れるCMの枠を、広告主に提供するサービスです。
リモコンに「ABEMAボタン」がついたコネクテッドTVを使っている人もいるのでは?

野屋敷さん
最近はABEMAのほかにも、TVerやDAZNなど、出稿できるメディアがどんどん増えてきています。
「インクリー」の強みはなんと言っても、「この期間に何回配信したい」みたいなフリークエンシーや「F1層にリーチしたい」みたいなターゲットを、コントロールして各局に出し分けられることなんですよ。

野屋敷さん
たとえばコスメを売りたい企業さんなら「美容に興味があるユーザー」をターゲティングして配信することもできますし…
「ABEMAの恋愛リアリティーショー」みたいに、観ているコンテンツに合わせて配信することもできます。
“観たいコンテンツ”の合間に流れるCMだと視聴態度も能動的なので、しっかり観てもらえるんですよね。

宮内
ちなみに、コンテンツによって料金は変わるんですか?

野屋敷さん
変わらないです。
指定の番組のダイレクトバイイングを希望しないかぎりは、まるっと出稿して出し分けできる「インクリー」を使ったほうが、出稿コストを抑えられると思いますね。

宮内
へえ〜!

野屋敷さん
もちろん、ネット広告と同じレベルの高い精度の効果測定もできます。
地上波の視聴率のようなふわふわした計測ではなく、「このTVでこの時間にこのチャンネルを付けてた」まで詳細に計測できるので…
たとえばこんなふうに活用していただいていますね。
・
デバイスの比較
「スマートフォンと比べてコネクテッドTVのほうがサイト来訪の効果がよかった」のように、デバイスごとの効果を比較する
・
リーチ効果
「イベントの周年で広告を配信したらアプリインストールの効率がよかった」のように、特定期間のリーチ効果を測る
・
独自のターゲティングに基づくカスタマイズ
“過去にサイトに来たことがある人で自社商品を持っている可能性が高い人”に絞って新商品を当て、顧客との良好な関係を構築する

野屋敷さん
さらに去年の冬には、国内大手メーカーと提携してテレビ視聴データ活用できる「インクリー.TV」というサービスの提供も始めまして。

宮内
「インクリー」とは何が違うんですか?

野屋敷さん
「インクリー」はOTTの出し分けに特化しているんですが…
テレビメーカーが保有する“地上波の実視聴データ”を活用することで、OTTと地上波との出し分けが可能になりました。

宮内
ほう…具体的にはどんな使い方ができるんでしょう?

野屋敷さん
たとえば「地上波CMに何回も当たっている人にはOTTを出さない」とか。
逆に「OTTで出すなら地上波CMで当たってない人をメインに出そう」みたいな出し分けができます。
地上波とデジタルを横断することで、リーチの最大化を図れるんですよね。

宮内
一つ気になるのが…ここ数年は“テレビ離れ”が叫ばれてるじゃないですか。
そもそもコネクテッドTVを使ってる人って、そんなにいるのでしょうか?

野屋敷さん
コネクテッドTVを使ってる人はざっくり3000〜4000万人ほどで、そのなかで「インクリー」が接触できる人は1000万人ほどなので…
正直言うと、今はまだ地上波TVほどリーチを取れていません。
…でも僕、これからはコネクテッドTVがインフラになると思っているんですよ。

野屋敷さん
肌感覚としても、コネクテッドTVを観てる人がじわじわ増えてきている実感があります。
「ABEMAのコンテンツをテレビの大画面で観る」とか「地上波のドラマとかバラエティをTVerの見逃し配信で観る」みたいな体験って、もう当たり前になってきてませんか?

宮内
たしかに…

野屋敷さん
実際、コロナ禍以降、PC以上にコネクテッドTVの視聴ユーザーが増えているというデータもあります。

野屋敷さん
これからもっと需要が高まっていけば、そもそも製造元がコネクテッドTVしか製造しなくなると思うんです。
ガラケーからスマホに売り場が一変したときみたいに、売り場が全部コネクテッドTVになっていくんじゃないかなと。

宮内
スマホの転換期と同じ現象がテレビにも起こっている…?

野屋敷さん
それに近い現象だと思います。
つまりコネクテッドTVの普及に伴って、これからますますOTTとの接触時間が伸びていくということじゃないですか。
そんななかで「地上波CMと同じくらいリーチが取れる出稿先ってどこなの?」ってなったときに、ぶっちゃけYouTubeか「インクリー」しかないんですよ。
「今後、地上波とデジタルとの垣根が融解されていく」野屋敷さんを突き動かす“妄想力”

宮内
お話しを聞くと、野屋敷さんは新規事業立ち上げなど“ゼロイチ”に強いという印象です。
ご自身の考える新規立ち上げを成功させてきた要因ってなんでしょうか?

野屋敷さん
…なんか僕、妄想するのが好きなんですよね(笑)。
3年〜5年の大局観で「これがこう伸びていったらこういう世界になりそうだよな」みたいな未来を妄想して、それを実際に組み立てていく作業が好きなんですよ。

野屋敷さん
「インクリー」もそうです。
今は“テレビCM”と言えば地上波のキー局さんか番組のダイレクトバイイングが中心ですけど、これからは地上波とデジタルとの垣根が融解されていくと妄想していて。
だってユーザーからしたら、「地上波のテレビを観てるときに流れるCM」と「ABEMA観てるときに流れるCM」って変わんなくないですか?

宮内
たしかに…どっちも“家でテレビを観てるときに流れるCM”って感覚ですね。

野屋敷さん
今ですでにこの感覚なら、4年後には「サッカーの国際大会を地上波かデジタルのどっちで放送する?」みたいになっててもおかしくないんじゃないかなって思うんですよね。

宮内
そうか…!
妄想とはいっても自分たちが肌で一番リアルに感じてることに参入しているから、実現する未来がリアルに描けるんですね。

宮内
でも…どうなるかわからないことに飛び込むのって怖くないんですか?

野屋敷さん
ゼロイチ経験が多かったんで、物怖じしなくなりましたね。
わかんないことに対して飛び込むことへの抵抗がなくなったというか。
あとたぶん僕、固執するものがそんなに多くないんですよ。
僕が仕事で重要視してるのって「何をやるか」と「誰とやるか」ぐらいしかなくて。

宮内
身軽だから何にでもチャレンジできると。

野屋敷さん
…とは言っても、「インクリー」に関して言えば、怖い部分もありますよ。
僕らがやってることって、地上波からデジタルにシフトする“テレビCMのDX”に近いと思っているんで。

野屋敷さん
ただ、もし僕たちがテレビCMのDXを実現できたら、企業の宣伝部とかマーケティング部のCMプランニングがもっとフレキシブルになると思うんですよね。
半年前からプランニングして出稿するのではなく、「番組が話題になったらそのとき出稿しよう」という選択肢ができたりとか。

宮内
たしかに…

野屋敷さん
ユーザーにとっても「同じCMが何回も当たらない」とか「本当に必要なCMだけ流れてくる」みたいな便益がつくりたいし、結果としてメディアも儲かるしくみがつくりたい。
そういう“三方よしのプロダクト”にしなきゃなって思ってますね。
何度もゼロイチの事業立ち上げを実現させてきた野屋敷さんの原動力は、リアルな日常をベースにした“妄想”。
日々の変化を嗅ぎとって「3年後どうなっていくか」を妄想し、物怖じせずに自分から飛び込む。
つねにこの流れをつくれていたから、前例のない事業にどんどんチャレンジできて、社内でずば抜ける存在になれているのかもしれません。
そんな野屋敷さんが手がける、“近い未来、業界の常識を覆す(!?)サービス”「インクリー」。
PR担当やマーケターのみなさん。売り場からテレビが消える前に、先駆けてコネクテッドTVへの出稿をはじめてみては?
〈取材・編集=宮内麻希(@haribo1126)/文=山田三奈(@l_okbj)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

あのビジネスパーソンの「○○力」

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