ビジネスパーソンインタビュー

26歳で「妊娠は難しい」と宣告された。mederi代表・坂梨亜里咲が、不妊治療の経験を“正解”に変えるまで

選んだ道を“正解にする”生き方

26歳で「妊娠は難しい」と宣告された。mederi代表・坂梨亜里咲が、不妊治療の経験を“正解”に変えるまで

新R25編集部

連載

あのビジネスパーソンの「○○力」

2022/07/24

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仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」

今回登場するのは、mederi株式会社・代表取締役の坂梨亜里咲さん。

【坂梨亜里咲(さかなし・ありさ)】1990年生まれ。大学卒業後、ECコンサルティング会社に勤務。女性向けwebメディアのディレクター、COO、代表取締役を経験した後に、2020年自らの4年にわたる不妊治療経験からmederi株式会社を創業

オンラインピル診療サービス「mederi Pill(メデリピル)」や、妊娠出産を望む女性のための体作りをサポートする「mederi Baby(メデリベイビー)」などを運営し、フェムテックの分野で注目を集める女性起業家です。

2020年に前澤友作さんが打ち出した出資企画「前澤ファンド」にも選出されるなど、事業は順調。

「元・女性メディアの編集長」という華々しいキャリアをお持ちで、しかも超美人。今回は「〇〇力」史上一番キラキラした回になりそうだなと思っていたのですが…

坂梨さんから飛び出てきたのは、想像とは正反対のエピソードばかり。

まさかの、「〇〇力」史上一番泥臭い回になってしまいました…!

〈聞き手:石川みく(新R25編集部)〉

順風満帆じゃないからこそ、選んだ道を「正解」にしていく

石川

人気女性メディアの編集長を務めた後、30歳で起業。

あの「前澤ファンド」からも資金調達を受けているということで…坂梨さんのキャリア、わりと順風満帆ですよね…!?

坂梨さん

いやいや、全然ですよ!

前職のときは「明日会社が潰れるかも」って状態になったことが1回…いや1回じゃないな、2回あったし(笑)。

mederiを立ち上げた当初も、創業期の経営についてはまったくの素人だったので、今振り返ると怖いことばかり起きてましたよ。4000万の資金調達を直前で断られたりとか

「昔の自分ヤバいなって!アハハ!」笑っていいやつ?

石川

想像以上にハードな…そんな状況だと「起業は諦めよう」と思っちゃいませんか?

坂梨さん

それはないですね。だって、諦めたら「失敗した」ことになっちゃうじゃないですか

私は自分が選んだ道を「正解」にするために、全力で壁を突破していきたいんです。

石川

正解…!

坂梨さん

「〇〇力」で言うなら、私はきっと「正解にする力」が強いんだと思います。

「AよりBを選べばよかった」と思うのは簡単だけど、その時点で「選択を間違えた」ことになってしまいますよね。

そうじゃなくて「Aを選んだからこそ、Bではできない経験ができた」って、正解のストーリーを自分で作っちゃうんです。

石川

なるほど…坂梨さんが過去のピンチを笑って話せるのも、「正解にしてきた」自負があるからなんですね。

坂梨さん

そう!人生、思い通りにいかないことばかりじゃないですか。

私なんて、本当はアイドルになりたかったはずなのに社長になってるくらいなんで(笑)。

順風満帆じゃないからこそ、ずっと「正解にしなきゃ、正解にしなきゃ」って思いながら走りつづけているんです。

唯一正解にできなかった「不妊治療」が大きな転機に

坂梨さん

ただ…そんな私が、1つだけ“正解にできなかったこと”があって。

石川

というと…?

坂梨さん

「不妊治療」です。

私、26歳のころに「子供を産むのは難しい」と診断されてるんですよ

坂梨さん

30歳までに子どもを産みたかったから、結婚するときにブライダルチェック(結婚前の女性を対象にした検診)に行ったんです。

そしたら「AMH*の値が、平均4前後なのに対して0.02です」「これは閉経間際の女性と同程度の値なので、あなたは妊娠できません」って言われて。

*AMH…アンチミューラリアンホルモンの略。発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンの値で、卵巣内にどれぐらい卵が残っているかを反映する

石川

そんな、ツラすぎる…

坂梨さん

26歳でそんなこと言われるなんて、考えもしないですよね。

当時私は女性メディアの編集長で、女性に役立つネタを集めて発信する立場だったのに…「そのネタ知らないけど!?」って。

かわいくなれるメイクもファッションも、行列ができるスポットもたくさん知ってたのに、自分の身体のことはなにも知らなかった。すごくショックでしたね。

石川

そこからすぐに不妊治療を始めたんですか…?

坂梨さん

そうなんですが…不妊治療って、本当にお金がかかるんですよ

私は症状が重かったこともあって、平気で月30〜60万は飛んでいきました。

石川

そんなに!? 知らなかった…

坂梨さん

しかも不妊治療は、とんでもない時間がかかります。1回の診療で4時間ぐらい拘束されるので。

…何よりツラいのが、そこまでしても子どもができなかったこと

最大限の時間とお金を費やしてるのに、いつまでたっても「正解」にならないんです

坂梨さん

だから私は、現実から目を逸らすことにしました。この状況を忘れるくらい仕事に没頭しようって。

産婦人科にいる4時間のあいだ、ずっと待合室でカタカタPCを触りながら、自分に言い聞かせるんですよ。

ここは病院じゃない。私は今、カフェで仕事をしてるんだ」って。

想像しただけで胸が痛い…

坂梨さん

人前では「キラキラした女性メディアの編集長」でいるために気を張っちゃうし、まわりも悪気なく「子どもはいつ産むの?」とか聞いてくるし。

そういうツラさも全部適当にごまかして、自分の気持ちにウソをついてたんですけど…

石川

けど…!?

坂梨さん

30歳を目前に控えたころに、自分にウソついてるときの顔、めっちゃブサイクだなって気づいたんです。

このままじゃどんどん自分のことが嫌いになっちゃう。どんな形でもいいから、この経験を「正解」にしなきゃって

石川

ついに坂梨さんの「なんでも正解にするマインド」が戻ってきた…!

坂梨さん

その決意が、「mederi」立ち上げのきっかけになりました。

30歳って、ちょうど自分のライフプランを見直す時期でもあるじゃないですか。

20代までは「年収」や「評価」があればやりがいを感じられるけど、30代は「社会貢献」に向き合わないとやりがいを感じられなくなってくる世代なんですよね。

石川

私も今31歳なので、すごくわかります。

坂梨さん

30代の私が一番本気で向き合えるのは、自分自身が抱えている「不妊治療」という社会課題なんじゃないかって。

不妊治療で悩んでいる女性はたくさんいるし、数年前の私のように自分の身体のことを知らない女性も多い。

そこを解決するために、「すべての女性に、自分の身体を“愛でて”ほしい」。そして、望むタイミングで妊娠・出産・キャリアを実現してほしいという思いでmederiを立ち上げました。

石川

そうか…mederiこそが、坂梨さんが見つけた「新しい正解の形」だったんですね。

坂梨さん

まさにそうですね!

私はまだ不妊治療を続けているので、子どもがほしいという希望が叶ったわけじゃないんです。

でもmederiという「正解」を見つけてからは、その事実も受け止められるようになったし、他の人を羨んだりすることもなくなりました

坂梨さん

今は、mederi Babyのユーザーさんが「子どもが生まれました!」と言って解約してくれるのが素直に幸せなんです。

「正解にする力」があれば、ツラい経験もネガティブな感情も克服できる

私自身が、それを再確認できた経験でしたね。

「正解にする力」の源は“超どうでもいいこと”にも全力な姿勢

石川

坂梨さんのような「正解にする力」を身につけたい若手ビジネスパーソンは、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか?

坂梨さん

粘り強く全力を尽くすこと」でしょうか。

私、超どうでもいいことにも全力になっちゃうタイプなんですよ(笑)。

たとえば「昼にオムライス食べたい」って思ったら、おいしいオムライスを食べるまで絶対に諦めません。

石川

(超どうでもいいな)

坂梨さん

あと、よく知らない人の誕生日会とかも盛大に祝いたくなっちゃうんですよね。

石川

じゃあ、私の誕生日も祝ってくれます?(←今日が初対面)

坂梨さん

もちろん! 会場も複数候補探すし、バルーンとかめちゃくちゃ買い込みます!

そこまで…友達にもバルーン用意されたことないのに…

坂梨さん

もちろん、仕事も同じです。

「前澤ファンド」に選んでいただいたのも、私が炎を燃やし続けられる人だとわかってもらえたからだと思うんですよ。

石川

へぇ…!

坂梨さん

選考期間の半年間、何度も前澤さんとディスカッションをさせてもらったんですけど、創業してまもないフェーズの自分にとってはハードな「宿題」を毎回出されたんですよ。

難しいお題もあったし、準備期間がめちゃくちゃ短いときもあったんですけど…どんな条件でも絶対に「はい!」の二つ返事でやりきると決めてました

「最後、前澤さんには“よく通いましたね”って言われました(笑)」

石川

坂梨さんが、どんなときでも全力でいられるのはどうしてなんでしょう…?

坂梨さん

誰よりも粘り強くやらないと、その道が「正解」にはならないからです。私が諦めたら、そこで事業が終わっちゃう。

それにサービスも事業も、結局は“人”勝負だと思うので。

石川

人勝負、ですか。

坂梨さん

たとえばメディアでも、PVやUUだけを武器に戦うには限界があるんですよね。

それよりは編集長の私自身が「このメディアは最高だ!」と言いつづけることのほうが、よっぽど価値があると思っていて。

石川

たしかに…「この人なら信頼できる」と思える人がいるメディアに出稿したくなるのはわかる気がします。

坂梨さん

mederiも、私の不妊治療という原体験からスタートしているから、トップとしての想いが圧倒的に違うんです

その想いが、同じように身体の悩みを抱える女性に選んでいただける理由になっていたらいいな、と思います。

おせっかいでも“未来”に向き合いたい。「mederi Pill(メデリピル)」が届けてくれるもの

石川

そんなmederiで、新しくオンラインピル処方サービスを開始されたそうですが…

坂梨さん

はい! 「mederi Pill(メデリピル)」は、予約、診療、ピルの処方がすべてスマホで完結

月経不順や生理痛などのお悩みを、手軽に産婦人科医に相談できるサービスなんです。

7月からテレビCMも放映中。ガーリーなフワちゃんが目印のかわいらしいCMです

坂梨さん

私たちはピルだけでなく、「情報」も一緒に届けることを意識しています。

私自身、不妊治療を始める前は、月経不順でピルをもらうために産婦人科に月1回通院していたのに、身体に関する正しい情報は何も知らなかったので。

石川

そこも坂梨さんの原体験がベースなんですね。

坂梨さん

はい! 診療代はずっと無料なので、服用中の悩みや不安があればいつでも産婦人科医に相談できます。

ピルを届ける際も、ピルや女性の身体に関する知識をまとめたガイドブックを同封してるんですよ。

石川

そこまで! ただ手軽なだけじゃないのか…

坂梨さん

産婦人科が「課題」に向きあうところだとしたら、mederiは「未来」に向きあっていきたい。

私たちが定期的に情報を届けつづけることで、その人の未来を救えるかもしれないから。

おせっかいだと言われても、この気持ちをサービスに乗せつづけていたいと思います。

壁は「失敗」じゃない。むしろ「成長できるチャンス」

石川

坂梨さんのように、30歳前後で思わぬ“壁”にぶつかる人は多いと思います。

かつての坂梨さんのように壁にぶつかっているビジネスパーソンに、どんなことを伝えたいですか?

坂梨さん

私が胸に刻んでる名言があって…『ドラえもん』のセリフなんですけど

ドラえもん…出典がカワイイ

坂梨さん

未来ののび太が過去に戻って、子ども時代ののび太にこう言うんです。

きみはこれからも何度もつまずく。でもそのたびに立ち直る強さも持ってるんだよ」。

これってまさに、「正解にする力」を言い表していると思っていて。

石川

そうか、「つまずく」こと自体は悪いことではないってことですね…!

坂梨さん

そう! 壁は「失敗」じゃなくて、むしろ「成長できるチャンス」なんです。

だからみなさんも、ぶつかるのを喜んで立ち向かってほしい。

全力で挑めば絶対に、進んだ道が「正解」になると思います

取材中もとにかく明るく、終始笑顔で質問に答えてくれた坂梨さん。

華々しい活躍の裏には、どこまでも泥臭くしがみついていく、全力で一途な面があることに驚かされ…取材が終わったころには、坂梨さんのことが大好きになってしまいました。

思わぬ逆境を迎えていて、心のどこかで「自分の選択は間違っていたかもしれない」という気持ちがよぎったとしたら。

そのタイミングこそが、あなたの「正解にする力」を発揮する大きなチャンスなのかもしれません

〈取材・編集=石川みく(@newfang298)/執筆=エディット/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉

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