ビジネスパーソンインタビュー

会議の進行は「つつがなく」じゃ全然ダメ。アベプラアナウンサーが教える“ファシリの神髄”

リモート時代に必要なスキルを“猛獣使い”にきいた

会議の進行は「つつがなく」じゃ全然ダメ。アベプラアナウンサーが教える“ファシリの神髄”

新R25編集部

連載

あのビジネスパーソンの「○○力」

2021/03/16

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仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

今回は、テレビ朝日・平石直之アナウンサーに、「ファシリ力」について聞いてみました。

【平石直之(ひらいし・なおゆき)】1974年生まれ、大阪府出身。1997年、テレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『報道ステーション』『スーパーモーニング』などに出演。現在は『ABEMA Prime』で司会進行を担当

リモートワークが定着してから、会議って難しくなりましたよね。

距離感がわからないから、喋りすぎてしまう人がいたり、逆に発言が出なかったり、空気が悪くなってしまったり…。

『ABEMA Prime』で司会進行を担当する平石アナは、オンライン/オフラインさまざまに激論を交わす“猛獣”たちをどうファシリテートしているのか?

平石さんを直撃したところ、思わぬアツい一面が垣間見えてきました

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

「つつがない進行を目指したい」と言ったら猛獣使いにキバをむかれた

天野

番組を観てて思うんですけど、平石さんって絶対メンタル強いですよね?

自分だったら、あんな論争のなかで冷静にファシリできないなと。

収録前のスタジオにお邪魔しています

平石さん

そう見えてます?(笑)

たしかに「身を削ってるな~」と思いますよ。

結局、グループトークのファシリテーターに一番必要なことは「自己犠牲」なんですよ。“自分が身を削ってでも、面白い時間をつくる”っていう気概を持たないと。

天野

ただ、一般の会社では『アベプラ』みたいに変わった人を相手にするわけじゃないので、会議をつつがなく進行させるスキルを教えてもらえればと…

平石さん

ああ~、もう全然ダメ

「ぜ~んぜんダメッ!」って言われた

平石さん

いいですか?ファシリテートというものは、「台本通りやる」じゃ最低ラインなんですよ。

後輩アナが進行するのを観ていることもあるんですが、「つつがなくできてましたね」ではダメだと思うので、そう伝えるようにしてますね。

じゃあ、そのつつがない数時間を通して何が残りました?」っていうことなんですよ。

天野

平石さんの何かに火をつけてしまった

机をバンバン叩いている…アツいな~

平石さん

私は、グループトークのファシリテートをする以上は、自分が身を削ってでも、とにかく“見応え、手応え”のある時間にすることにかなりのエネルギーを使っています

天野

な、なるほど…

平石さん

つつがなく会議が終わって、1時間埋まりました」じゃ意味がない。

会議の進行を任せられる人は、まずはそういった気概を持っていただければと思います。

“喋りすぎ”“白熱しすぎ”への対処:「相づちを駆使して会議全体をリードしていく」

天野

では、その前提で教えてください…!

平石さんは“アベプラの猛獣使い”と言われてます。ヒートアップする論客たちの議論を、どうファシリテートしてるんでしょうか?

平石さん

ファシリテーターの基本スキルは、相づちです。

単に合いの手を入れるという認識ではなくて、会議全体をリード、誘導するものと考えてみてください。

さっきとは打って変わってさわやかな猛獣使い

平石さん

たとえば喋りすぎてる人がいたら、「そうですよね~、わかりました~」「なるほど、はじめてうかがいました~」ってゆっくりとフェードインして、“終わり感”を出す

それでも止まらなかったら、「すみません」「おっしゃってることはよくわかりました」、最終的には「マナー違反です」と毅然と止める。

対面の会議だと、アイコンタクトでこの“リード、誘導”ができることもありますが、リモートワークではほぼできない。相づちは少し過剰なぐらいの大きさで大丈夫です。

天野

ふむふむ。

平石さん

会社の会議でもそうだと思いますが、人は組織を背負って発言するとより攻撃的になる傾向があるので、空気が悪くならないように注意してください。

そういうときは、ムードメーカーに話を振るのがいいですね。『ABEMA Prime』ではよくEXITのお二人とか、パンサー・向井さんに助けられてます(笑)。

天野

たしかにそんな芸人さんが会議にいたらめっちゃ和ませてくれそう。

ただ、それでも議論が白熱して止まらなくなることもありますよね。ひろゆきさんとか

平石さん

ひろゆきさんが“そういうモード”になったときは、いつもヒヤヒヤしてますよ(笑)。

でも、ああいうふうに「議論を詰めてくれる」メンバーは、グループトークにおいて貢献度が高いんですよ。

猛獣使いにもヒヤヒヤされているお方

平石さん

たとえばひろゆきさんは、「はんこ議連」の人に「なぜはんこが必要なのか?」を詰めるわけです。

それによって、ちゃんと答えられるのか? 答えがないのか? はぐらかしてるのか? が明らかになっていく。

ただ、白熱してもいいんですが、「これは答えがないんだな」という状態が見えたら、「これ以上やるとトドメを刺してしまう」という手前で止めるようにしてます

ひろゆきさんの論破の裏側には、トドメを刺させないファシリテートがありました…

“場が盛り上がらない”への対処:「“喋りたい”でパンパンにして、オープンに振る」

天野

逆に、「喋らない人がいる」「場が盛り上がらない」っていう会議では、どうすればいいでしょうか?

平石さん

これは、話の振り方ですね。私は、話を振るときは「オープンクエスチョンであるほどよい」と思ってます。

天野

オープンな質問で意見が引き出せると。

平石さん

「AとBのどちらの意見ですか?」のように回答を限定するクローズドクエスチョンはよくない。

可能な限り「どう思われますか?」ぐらいのオープンさで話を振るんです。「どうですか、○○さん」って名前だけ呼ぶとかね。

天野

そうですか…? クローズドのほうが、どちらか言えばいいだけだから答えやすいような…

名前だけ呼ばれても困っちゃいません?

平石さん

いや、クローズドできかれると「自分の話したいことを話している」というスッキリ感がないから、“苦しい”と感じさせてしまうんですよ。

発言させられた」「思ってもないことを絞り出して答えた」みたいなね。

番組や会議に出て「言わされた」という気持ちが募ると、「出なきゃよかった」というネガティブな感想になる

天野

ああ~、学校で先生にあてられたみたいな。

平石さん

イヤですよね? 私だってイヤですもん。

会議では、参加メンバーを“苦しい状態で喋らせない”っていうのがすごく大事なんです。

それはわかる気がする

平石さん

そのためには、前提として「皆さんに振りますから、喋りたいことを考えてきてください」と事前に伝えておいて、参加者が「喋りたい、喋りたい」でパンパンな状態にしておくべきなんです。

天野

会議当日だけじゃなくて前提の準備が大事だと。

平石さん

そこで「あなたは今日、何を言いにきましたか?」というスタンスで、オープンに振る

天野

それなら、“言わされてる”とは感じないですね…

平石さん

『ABEMA Prime』のスタジオにも、いま新人アナウンサーが来てくれてるんですけど、「必ず振るからいつでも喋れるように。ただし、流れに沿わなくていい。喋りたいことを喋っていい」って伝えてます。

天野

なるほど。

平石さん

逆に、会議の“参加者”の立場だったら意識してほしいのは「答えがズレててもいい」「きかれたことに答えてなくていい」ってことなんです。

就活の面接で、「何をきかれても、用意してきた“志望動機”につなげて話しちゃっていい」っていうテクニックあるじゃないですか。

めちゃくちゃやってました

天野

なんで、きかれたことに答えなくていいんですか…?

平石さん

実のあることは、それなりに考えてないと出てこないからです。

当たり前のことのようですが、会議で話すべきなのは「本当に普段から考えていること」であり、その場で取りつくろって思ってないことを無理に答えるのは“悪”です。それでは“苦しい状態で喋っている”ことになってしまう。

天野

思ってないことを無理やり答えさせるのも“悪”なら、思ってないことを答えるのも“悪”なんだ…!

平石さん

参加者は「これだけは喋りたい」ことを用意して、多少流れとズレてようが喋る、という姿勢でいいんです。

天野

そのルールを意識するだけで、会議がグッとよくなる気がするな…

「アナウンサーの枠をはみ出している自覚はあるんです」

天野

「とりあえずスキルを教えてください」というスタンスでしたが、そもそもの“気概”から教えていただけましたね…

平石さん

スキルもありつつ、最終的には自己犠牲して「面白いものを作り上げていく」っていう感覚ですよね。

私も、場合によっては言いたいわけじゃなくても“会社員の悲哀”みたいなことを話してみたり、自己開示してみたり、アナウンサーの枠をはみ出している自覚はあるんです。

天野

「つつがない」アナウンサー像じゃダメだと。

平石さん

そう!

日曜討論』(※NHKで毎週日曜朝に放送されている、政治討論番組。戦後から続く超ご長寿企画)的な、枠をはみ出さない進行だけしていても意味がな…

…あ~、これは言いすぎちゃった…また言いすぎた…

平石さん、ちょいちょいアツくなって言いすぎてしまう

天野

(笑)。

最後に、平石さんの「ファシリ力」のキモを一言でいただければ。

平石さん

お話をまとめるなら、ファシリテートは

・「身を削ってでも手応えをつくる」自己犠牲の精神

・相づちなどによる積極的なリード

・「喋りたい」を醸成し、持論を述べることが気持ちよくなる準備

の三つが重要だと思います。

R25世代の皆さんは、会議の進行役など任される機会も多そうですから、参考にしていただければ!

「こんな感じでよかったかな?」

会議といえば、「つつがない進行」をして、問題なく時間がすぎればいい…。

どこかでそう思っていた人は多いと思います。

ただ、グループトークのプロに話を聞いたことで、その考えがくつがえされました。

営業や企画と同じように、会議だって「気概」を持って取り組むべきもの

ちょいちょいアナウンサーらしからぬヒートアップをする平石さんの熱気から、大事なことを教えていただきました…!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=高橋団(@dangphoto83)〉

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