ビジネスパーソンインタビュー
あれ? マネーの“賢者”じゃないかも…
「パイの実を食べてるときみたいに、突然お金がゼロになった」家入一真とお金の歴史
新R25編集部
「マネー“賢者”に切り込むお金の話」というテーマで展開してきた『マネ凸』。今回登場するのは連続起業家の家入一真さんです。
現在は株式会社CAMPFIREの代表として、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」やフレンドファンディングアプリ「polca」などの“やさしい革命”を起こすサービスを運営している家入さん。
そんな“やさしい革命児”のマネーの価値観…気になりますよね?
ですが、あらかじめ断っておきます。
家入さん、もしかするとマネーの“貧者”かもしれません…
〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)〉
【家入一真(いえいり・かずま)】株式会社CAMPFIRE 代表取締役社長。1978年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を創業し、JASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役社長に就任。他にもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など。
飲み代はMAX月2000万円…!? お酒に溺れていた上場後の生活
渡辺
家入さんは2008年、29歳のときにpaperboy&co.を上場させてからお金を使いまくっていた時期があったとのことですが、まずは当時の話を改めて聞きたいです。
家入さん
上場時のキャピタルゲインで、個人的にスタートアップへのエンジェル投資やカフェの立ち上げなどをやってたのですが、その時期にお酒の味を覚えてしまって…
渡辺
当時、飲み代に月2000万円使ったと話しているインタビューを見ました(笑)。
家入さん
ひどいときはそういう月もありましたね。
渡辺
なんでそんなことになってしまったんですか?
家入さん
僕、30歳くらいまではお酒が一滴も飲めなかったんですよ。人と話すのも苦手なので、会食やパーティみたいなものも避けて通ってきましたし。
だけど上場した後は偉い人との会食なんかも増えてくるじゃないですか。その過程で、ちょっとずつお酒が飲めるようになっていって。
渡辺
そうだったんですか。
なんか勝手に、元々酒豪だったイメージを持ってました。
家入さん
いえいえ、全然。
あと僕、ふだんは緊張して人とうまくしゃべれないんですよ。ただ、酔っているときは緊張せずに楽しく話せることに気づいて、だんだんお酒に頼ることが増えていきました。
あの頃は常に血中アルコール濃度が高い状態でしたね。
渡辺
「酒に溺れる」という言葉がピッタリです…
家入さん
そもそも僕、10〜20代で青春みたいなものがなかったんです。
中2でいじめがきっかけで引きこもって退学、その状態のまま20代前半で起業してるので、友だちと旅行に行くとかカラオケに行くとか、そういう経験が一切なくて。
渡辺
なるほど。それでいわゆる“上場デビュー”してしまったと。
家入さん
はい。デビューが遅いとこじらせるって言いますけど、まさにその通りの現象が起きましたね。
30歳から青春を取り戻そうとしてました。
渡辺
連日どんな飲み会をしていたんでしょうか? やはり女の子がたくさんいて…みたいな?
家入さん
そういう会もありましたけど、みんなが集まっているなかで僕がつないだ起業家同士が意気投合してたり、女の子を口説いてるヤツがいたり、酔ってケンカしてるヤツがいたり…その状況を見てるのが楽しかったんですよね。
渡辺
当時遊んでた人たちとは今でも交流があるんですか?
家入さん
いや、最終的にお金がなくなったら、みんなキレイにいなくなっちゃいました。わかりやすいですよね。
ただ、当時つながってた女の子たちも、電話帳に連絡先を登録してるとLINEに出てくるじゃないですか。
それでアイコン見たら今はお母さんになってたりして、「なんか良かったなぁ」としみじみ思ったりもしますね(笑)。
胸が締め付けられるようなエピソード
パイの実を食べているような感覚で、お金が突然ゼロになった
渡辺
でも常識的に考えたら、「このペースで飲んでたら、絶対お金なくなるな」ってわかるじゃないですか。
それでもなぜやめられなかったんですか?
家入さん
何なんですかね…?
たぶんおかしくなってたんだと思います。お金ないのに飲みに行ってましたから。
渡辺
それはどういう感覚なんでしょうか…
家入さん
うーん…もう当時の気持ちを思い出せないんですよね。
今でも「なんであんなに使ってたんだろう」って思いますし。
「でも、そうだな…」
家入さん
僕ロッテのパイの実が好きなんですけど、お金がなくなるのって、あれを食べてるときの感覚にすごい似てるんですよね。
…これ伝わります?
渡辺
そうですね、わからないです。
家入さん
パイの実みたいなお菓子って、最初の一個はホントに食べたいと思って食べるんですけど、だんだん惰性で箱に手を伸ばすようになってくるじゃないですか。
渡辺
その感覚はわかります。
家入さん
とは言え、なくならないでほしい気持ちはあるから、手を突っ込むたびに「まだある、良かった」って安心して。
でもそうやって食べてると、あるとき急にゼロになるんです。
渡辺
あー、なるほど。
家入さん
「あれ、もうない」みたいな。
減ってきたからどうしようとか、そういう感覚にならないんです。なくなるまでのグラデーションが存在しない。いきなりゼロになる。
…伝わります?
渡辺
箱が透明じゃないから、外から見たら残り何個なのかわからないですもんね。
家入さん
そうですそうです。わかっていただけてよかったです。
無理やり話を合わせたら共感されてしまった
渡辺
でも、そこから2年くらいでキャッシュが尽きて会社も辞めてしまってからは、どうやって生きていたんですか?
家入さん
家も追い出されて、リバ邸(家入さんが立ち上げたシェアハウス)や人の家を転々としてた感じですね。
渡辺
収入もまったくなくなったんですか?
家入さん
一応当時は飲食店を10店舗ぐらい経営してたので、その売上が細々と入ってきてはいました。
とはいえギリギリの生活で、「今日アパホテルに泊まるお金が払えないから、5000円だけ振り込んでください」みたいなことを会計事務所にお願いしたりしてましたね。
渡辺
会計事務所も「家入さんの様子がおかしい」と思ってたでしょうね。
家入さん
かもしれないです。
あと、上場したときに自分へのご褒美として買った数百万円ぐらいする時計があったんですけど、最終的にはそれも大黒屋に売りに行きました。
渡辺
元上場企業の社長が、高級時計を持って大黒屋に…
ちょっとその姿は見たくないですね。
家入さん
ですよね。ひとりで大黒屋に行って、すごい悲しくて。
ホント泣きそうになりましたよ。
渡辺
もうやめてください。
家入さん
あのときのことを思い出すと、今でも泣きそうになります。
な…泣いちゃう!?
渡辺
今当時を振り返って、「もっとこうしておけばよかった」みたいなことは考えますか?
家入さん
うーん…お金があるときに不動産とか金融商品を買っとけばよかったんですかね?
そういうのに一切興味持てなくて、結局ぜんぶ使っちゃったんですよね。
なんで誰もアドバイスしてくれなかったんだろう?
渡辺
失礼かもしれませんが、金融機関にとってもいいカモだったと思うんですけどね(笑)。
家入さん
でも、こうやってお金がなくなって、まわりにいた人たちがわーっといなくなって、家もなくなって…みたいな経験をして、お金に対する価値観が変わった部分はあります。
それが今やってることにつながってはいますね。
大黒屋の話をいきなり美談に転換してきた家入さん
現在の収入・資産は? エンジェル投資をライフワークにしているワケ
渡辺
現在はCAMPFIREの役員報酬以外にも何か収入があるんでしょうか?
家入さん
カフェの収入や顧問先がいくつかあるのと、あとは定期的じゃないですけど、投資先がエグジットしたりするとまとまったお金が入ってきたりはしますね。
渡辺
家入さんはエンジェル投資をライフワークとして続けているイメージがありますが、これまで何社ぐらいに投資してきたんでしょうか?
「そうですね…」
家入さん
累計でいうと、たぶん70〜80社ぐらいだと思います。
渡辺
80社…! そこまで力を入れている理由が知りたいです。
家入さん
エンジェル投資はビジネスとしてというより、起業家やスタートアップを応援したいという気持ちでやってますね。僕が上の世代から受け取ったバトンを次の世代に回す感覚というか。
あと、自分は興味自体の幅はすごく広い人間なので、出資をすることで事業に参加させてもらうというか。その世界を垣間見るための参加費みたいな感覚が強いです。
渡辺
なるほど。ちなみに、やはり現在の資産のなかで株が占める割合は大きいですか?
家入さん
ほとんど株ですね。未公開株。
渡辺
キャッシュは…?
家入さん
キャッシュは毎月生活費で消えるので、ほぼないです。
渡辺
でも、キャッシュがないと投資できないですよね?
家入さん
そうなんです。
渡辺
じゃあ投資資金はどこから捻出してるんですか?
家入さん
どこかがエグジットしたら、入ってきたお金をまた別の会社に投資するというのをぐるぐる繰り返してる感じですね。
リターンがほしくてエンジェル投資をしてきたわけじゃないですけど、結果的に今まで投資してきた会社は、10年ぐらい経って花開きつつあります。
家入さん
最近は、若くしてエグジットする人たちも増えてきているじゃないですか。
そういった人たちが次の世代に投資して、少しずつスタートアップのエコシステムが大きくなっているのはすごく良いことだと思っていて。
自分もそこに貢献していきたい気持ちはありますね。
「物欲もない。ご飯も旅行も興味ない。というか、食べるってすごい疲れる」
渡辺
豪遊していた8〜10年前と比べて、お金の使い方は変わりましたか?
家入さん
会食は相変わらず多くて、ほぼ毎日入ってます。
ただ、もう今は一次会で帰ることが多いですし、(二次会に)行くとしても普通のバーみたいなところですから、そんなにお金もかからないです。健全です。
渡辺
大人数で飲みに行くことも少なそうですね。
家入さん
むしろ今は少人数で話したい感じですね。
そう考えると、引きこもりのころにまた戻ってきたような。
渡辺
他に何かお金を使う対象はありますか?
家入さん
うーん、なんだろう…?
僕、物欲もまったくないし、美味しいご飯も旅行も興味ないですし、コレクション欲求とか、これといった趣味もなくて。
というか、最近はもうすべてがどうでもよくなってきてますね。
自分はいったい何のために生きてるんだろう…
渡辺
なんか…すいません。
家入さん
だってたとえば、吉野家とかコンビニのご飯もめちゃうまいじゃないですか。
それでじゃあ2万円のコースと200円のおにぎりを比べたときに100倍の差があるのかっていうと、よくわからなくて。
正直、ワインもぜんぶ同じ味がします。
渡辺
ツッコみたいところですが、実は自分も家入さんと同じタイプです…
家入さん
僕、以前藤田(晋)さんにサシでご飯に連れて行ってもらったことがあって。
藤田さんってワイン好きじゃないですか。
渡辺
そうですね。
家入さん
なのでお店でオススメのワインをたくさん出してくれたんですけど、僕、ワイン飲むと眠くなるんですよ。
…で、サシの会食なのに途中で寝ちゃって。
家入さん
それを見かねた藤田さんが「家入さん、もう帰ろうか」って気を遣ってくれて、「すみません」って言って帰らせてもらったこともありました。
渡辺
たぶんそれ、むちゃくちゃいいワインだったと思いますよ。
でも、それぐらい(ワインにも)興味がないと。
家入さん
そうですね。むしろ最近は、「食べる」ってすごい疲れることだなと思ってて。
今日は何食べようかな、店をどこにしようかな、注文どれにしようかなって考えて、料理が来たら咀嚼して、飲み込んで、消化して、排泄して、お尻を拭くじゃないですか。
すごい疲れるんです。
渡辺
たしかに、毎日何を食べようか考えるのはめんどくさいですよね。そこはめちゃくちゃ共感します。
排泄までは気にしてませんでしたけど。
家入さん
極端な話、もうチューブ食でいいんですよ。
もちろん、家族や友人と大切な時間を過ごすみたいな文脈で美味しいものを食べることはあると思うんですけど、日々自分が生きていくためだったら、チューブ食でいいと思ってます。
…ダメですかね? この考え。
自分の考えが不安なのか、しきりに共感を求めてくる家入さん
渡辺
いやいや、わかります。
僕も、毎日のように外に出てお店を開拓している人のエネルギーを見るとすごいなって思いますから。
家入さん
いますよね、そういう人。
渡辺
ZOZOの前澤さんは、物欲が止まらないって言ってました。
家入さん
それはもう才能ですよね。
僕も知り合いに、自分が30歳ぐらいのときにやっていたような飲み方を10年も20年も続けている人がいるんですよ。
そういう人たちを見ていると、これはひとつの才能だなと思います。
渡辺
エネルギーが尽きないというか。
家入さん
そうですね。そうやって欲を持ちつづけられることの強さみたいなものは絶対あると思ってます。
夢なんてなくてもいい。成功者が夢を見せることの罪深さ
渡辺
家入さんって、事業で大きな成功を収めたのにもかかわらず、壮大な夢を語るわけでもないですし、こうやって話を聞いていても等身大というか…
クズキャラというか…
家入さん
「家入さんの夢は何ですか」とか、昔からよくインタビューでも聞かれますけど、僕自身の価値観でいうと、夢を追うよりもただひたすら目の前の仕事だったり、隣りにいる人のために粛々と日々の仕事をやっている人が美しいなと思っていて。
渡辺
それ、よくおっしゃってますよね。
家入さん
もちろん夢を追いかけている人は素晴らしいと思いますけど、自分のなかに「夢を持たなきゃいけない」みたいな風潮に対する拒否感がすごいあるんです。
僕自身も夢なんてなかったですし、今もないですし。
渡辺
なぜそんなに夢を拒絶するんですか?
家入さん
たとえば雑誌とか読んでいても、「モテる方法」とか「金持ちになる方法」みたいな企画って多いじゃないですか。そしてみんなそれを見て、「自分もこんなふうになりたい」と思うわけで。
僕が思っている資本主義の本質というのは、そういう“今の自分と理想の自分との差分”をお金に変えるってことだと思うんですよ。
渡辺
そうですね。その願望がビジネスになってます。
家入さん
世の中には、“夢を見せる側”の人たちっていますよね。
僕も昔は「僕みたいな中卒の人間でも、起業して成功した。だからみんな起業しよう」みたいなことを言ってたんですけど、でもそれってウソじゃんって思うようになっちゃって。
たしかに僕自身は起業して救われたし、その経験があったからこそ活動の幅が広がったのは事実です。
だけどこれはあくまでも僕の人生であって、再現性はまったくない。
渡辺
「生存バイアス」というやつですね。
家入さん
そうです。さらに、そうやって夢を見せた分の気持ちをマネタイズして、本を買ってもらったりメルマガに登録してもらったりするわけじゃないですか。
でもその結果、挫折がいっぱい生まれていて。
そういう状況を見ていたら、成功者が「こうするとうまくいくよ」なんて言うことのウソ臭さというか、夢を見せることの罪深さみたいなものを考えるようになっちゃったんですよね。
家入さん
人は夢を見るから絶望するわけで、夢を見なければ絶望もしないのかなって。
だから僕自身、最近はあまりそういう発言をしないように心がけてます。
渡辺
なるほど…たしかにその通りだと思いますが、一方で夢を見せる人がまったくいなくなるのも寂しい気がします。
難しい問題ですが、家入さんは本当にたくさんの人が幸せになることを望んでるんですね。
家入さん
僕はCAMPFIREも、「個人が小さな声をあげたとき使えるサービスであるべきだ」という想いでずっと運営してます。
でも、やっぱりまだお金が集まる人と集まらない人がいて。
これまではハードルを下げてより多くの人たちに使ってもらうという視点でサービスを広げてきたんですけど、今後は「使ってくれる人たち一人ひとりが、どうやったらもっと幸せになれるのか」を追求していきたいと思ってます。
伝えたいことが多すぎて1記事では収まりきらなかった「家入一真×マネ凸」、前編はここまで。
後編では、家入さんの考える「お金が集まる人の条件」について語ってもらいました。
はたして最後には、どんなマネーの金言が飛び出すのか…。続きをお楽しみに!
〈取材・文=渡辺将基(@mw19830720)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
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