ビジネスパーソンインタビュー
「私は、どんな時でも描く人でいたい」
“SNSでバズった人”で終わりたくない。漫画家・山科ティナの「夢をブラさない生き方」
新R25編集部
山科ティナさんをご存じでしょうか。弱冠23歳の漫画家で、2015年(当時20歳)、『#アルファベット乳』という、4コマ漫画ならぬ“4スラ(スライド)漫画”でTwitterを中心に話題をさらいました。
その活躍はSNS、雑誌、書籍、企業広告、TVなどに及び、Twitter、Instagramで多くのフォロワーを抱える次世代の売れっ子漫画家として注目されています。
彼女はなぜこんなに若くして、世間の話題をさらう作品が描けるのか。その秘密は、キュートな笑顔からは想像がつかない、強烈な「描きたい」という想いにありました。
〈聞き手:宮内麻希(新R25編集部)〉
『バクマン』で火がついた! 漫画賞の審査員コメントをファイリングして研究した高校時代
宮内
SNSを活用して作品を発信している印象が強い山科さんですが、実はバリバリの紙デビューなんですよね。
山科さん
はい! 集英社の別冊マーガレットの投稿から高校1年の時にデビューをしたので、もう7年になります。
宮内
早熟! 漫画界のエリートですね!
山科さん
あ、でもそんな、才能があったわけじゃないですよ。
中学時代から漫画を描いているんですが、3年間くらい「こんなもんじゃない!」ってなかなか最後まで描ききれなかったんです。それが、中3の終わりに『バクマン』を読んで、燃え上がっちゃって(笑)。「将来は漫画で食べていく!」と心に決めたんです。
その当時、愛読していた別冊マーガレットに一般でも応募できる賞があったので、それを目標に、高校1年の夏休みから本腰を入れて描きはじめました。
努力も才能のうちです
山科さん
そこから、すごく研究しました。
別冊マーガレットの投稿者ページには、毎回賞を獲った作品のレビューがあるんです。そこに審査員のコメントが載ってるんですけど、それを切り取って、重要なところにマーカーを引いてファイリングしてました。試験前に教科書を勉強するみたいに(笑)。
ちょうどこの頃から、ただ楽しく読んでいた漫画を、「どうすれば面白くなるのか?」と戦略的に捉えられるようになって、どんどん描くことが楽しくなっていきました。
宮内
圧倒的努力の人だ…! ちなみに、審査員のコメントって、どんな感じなんですか?
山科さん
「少女漫画なんだから、男キャラの色気を出そう」とか、「後半の展開がテンプレで作者の息切れが見える」とか。
内心「図星だー!」と焦ってましたね(笑)
宮内
へ~、面白い!
山科さん
結局、はじめて描ききった漫画がデビュー作になったんです。
主人公の女子校生と塾の先生が恋をするっていうのがメインのストーリーに、ちょっとしたファンタジー要素も加えました。
主人公の頭の中の理性を王様のキャラクターにたとえた読み切り漫画だったんです。
美大生のコミュニティでは、面白いものをつくれなければ、“私”を認識してもらえない
宮内
そこから、SNSで漫画を発信するようになるまでに、どんな転機があったんですか?
山科さん
大学に進学してから、知り合う人は全員なにかを”つくっている”人たちで、同世代でもすでに社会で活躍しているような人が何人もいたんです。今も尊敬する、ハヤカワ五味さんとか。
実力も、SNSでの発信力もある彼女たちと話していると、よしとされる価値観が今までとまったく違うことに気がついたんですよ。
宮内
価値観、ですか…
山科さん
中学、高校の頃は、「明るい人」「優しい人」など、人間性を重視してお互いに興味を持つ環境にいました。
山科さん
でも、自分が戦っていこうと思った世界は違ったんです。
その人が“何をつくっているか、やっているか”をまず見られて、それが面白ければ自分自身にも興味を持ってもらえるし、そうでなければ私という存在すら認識されない。
宮内
アウトプットにしか価値が置かれない世界。山科さんで言うと、“どんな漫画を描いているか”だったと。
山科さん
なんですけど、実はこの集まりに参加していたころ、一切漫画を描いていなかったんです。漫画のネームを出版社に持ち込んではボツの繰り返しで、完全に自信喪失状態になっちゃって。
小さな頃からずっと、“漫画で食べていく”という夢を持っていたのに、このままじゃ、漫画を描いてることすら認識してもらえない、ヤバイって、かなり焦ってました。
負けず嫌いな一面が…
山科さん
そこから、まずは自分の漫画をもっと多くの人に見てもらうために、なにか面白いことができないかと考えることにしたんです。
宮内
その第1弾が、LINEの広告企画である『プレゼント・ハラスメント!』だったんですね。
2015年に配信されたLINEのサービス「LINEギフト」を紹介する広告マンガ。3日間で150万人に読まれ話題に
山科さん
「これが広告漫画なの?」「感動しました」とうれしい声をネット越しで聞くことができて、自分の漫画もちゃんと誰かの心に届くんだと、自信を取り戻す大きなきっかけになりましたね。
これから生き残るには、「山科ティナだから読む」と思ってもらわなければならない
宮内
『プレゼント・ハラスメント!』の後、Twitter上で『#アルファベット乳』の連載を開始されますよね。あれは衝撃的だったな~。
山科さん
『プレゼント・ハラスメント!』を発表した時、SNS上でたくさん反応をもらえて “作品”そのものは認知されたと思います。一方で、“山科ティナ”という名前はそれだけではなかなか認知されていなくて。フォロワーも、あまり増えなかったんです。
“自分をもっと知ってもらうためにはどうしたらいいのか?”という考えで企画したのが『#アルファベット乳』でした。
宮内
実際に、反響もかなりあったんですか?
山科さん
あったんですが、最初の頃は読者からの反応が怖かったんです。投稿してすぐにiPhoneの電源を消してました。時間が経って恐る恐る確認しながら、「うわあ、めっちゃリツイートされてる」「げえ、フォロワー増えてる」って興奮して(笑)。
ちなみに、連載中はCカップの友人に話を聞いたり、ストリップ劇場に行ってビジュアルを観察したりしました。
宮内
ストリップ劇場にまで…(衝撃)
でもこれ、AカップからZまでの長期連載で、ちょっとヤラしい話、お金も入ってこないわけですよね。学校の授業や他の仕事もある中で、自主企画でよく挑戦できたなと思ってしまいます。
山科さん
それはもう、これからもずっと漫画を描いていたいからです。
今、漫画自体も転換期を迎えていて、紙、ウェブ、アプリなど展開できるメディアがものすごいスピードで増えています。言い換えれば、技術の発展とともに、読者が求めるものも変化していくということですよね。
宮内
たしかに、ここ数年で漫画は一気にデジタルで読むものというイメージがつきました。
山科さん
私たちが中学生のころ“携帯小説”って流行ったの覚えてますか? 授業中もみんな隠して読んでたりしてたじゃないですか。
もちろん今でも読者の多いジャンルですが、昔ほど話題にならなくなったと思いません?
宮内
懐かしい! でもたしかに、最近は見ないですね~
(※宮内と山科さんは同年代)
山科さん
「SNSでのバズ」も、それと同じになるんじゃないかなって思ってるんです。
今流行っていても、来年には見向きもされなくなっているかもしれない。時代を象徴するものだからこそ、いつかは古く感じられてしまうと思うんです。
山科さん
結局、そういうなかで漫画家として生き残っていくためには、まずは自分の名前を際立たせる必要があると思ったんです。
“山科ティナ”がメディアとして認識されるようになって、そこにファンがつけば、媒体は変わっても読んでもらえるようになりますよね。
宮内
作品だけじゃなくて、作家名を覚えてもらうということですね。
山科さん
はい。それを意識してから長期的に読んでくれるファンもできたと思いますし、お仕事に関しても私自身の作風や実績などを前提としていただけるので、スムーズに進むようになりましたね。
ちょっとずつですけど、漫画家としての地盤が固まってきた感覚というか。
ブームで終わりたくない。ずっと描きつづけたい
宮内
ちなみにご自身のnoteでは2017年の振り返りとして “2017年の下半期は取材もTV出演もイベント登壇も一切せず、極力メディア露出を控えた”と書かれていました。
でも、先ほどのお話だと、自分の名前を知ってもらうにはどんどん前に出た方がいいと思ってしまうのですが…
山科さん
そういうお仕事が増えちゃうとどうしても“描く人”じゃなくて、“タレント”に近い存在になってしまうんじゃないかという不安があったんです。
それは自分のイメージしている姿とずれてしまうので、控えようと。
宮内
メディアに出つつ、描く人じゃダメだったんでしょうか?
山科さん
ただでさえ、漫画家としてはSNS活用という意味で新しいジャンルだと思うので、これ以上メディア露出が増えると「何かいろいろやってる人」だと思われてしまうかなって。
私の仕事はあくまで“描くこと”。そしてこれからも、“漫画を描くこと”で食べていくのが夢なんです。
宮内
それで最近は雑誌などにも描かれているんですね。
山科さん
はい。今って、完全に「SNSバブル」だと思うんです。そこに乗っかることができれば自分の名前も広められますし、それも一つの戦略だと思います。
ただ、それで終わりたくない。
山科さん
SNS上のクリエイター自体、この数年でものすごく増えていて、レッドオーシャン状態でもあります。その中で「自分ならでは」の色を出さなくてはいけないし、戦えるフィールドを増やさないといけない。
最近はありがたいことに『フィールヤング』(祥伝社)、『ar』(主婦と生活社)、『sevwnteen』(集英社)など、雑誌のお仕事や、テレビ番組など他の媒体からもお仕事をいただけるようになりました。
自分自身でも意識的にSNS以外の活動を増やすようにしています。
宮内
なるほど。山科さんが雑誌で描き始めたと知った時、方向転換したのかと思っていたんですが、そういう戦略があったんですね…!
山科さん
そうしないと、いつか飽きられちゃいますからね。
ファンとの距離感が近くて、生の声を聞くことができるので、SNSでの発信もつづけていきたいです。
ただ、新しい何かが出た時にSNSに固執してばかりじゃなく、すぐに飛びついていけるような、自由に動き回れる漫画家でありたいと思っています。
〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=長谷英史〉
そんな山科さんの新刊が発売されます!
3冊目の単行本、『#アルファベット乳』と自伝的エッセイ、『#アルファベット乳の言えなかった話。』を収録した新刊が9月頃太田出版より発売予定。単行本では大幅書き下ろしもあります! ぜひ、お手にとってみてください。
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