ビジネスパーソンインタビュー
何も恐れない最強のSNS芸人…!?
承服しかねるものには、信念を持って立ち向かう。水道橋博士はなぜSNSで闘うのか!?
新R25編集部
水道橋博士――。
ご存じ「浅草キッド」の知性派。
『別冊アサ秘ジャーナル』(TBS系)や、『バラいろダンディ』(TOKYO MX)などのテレビ番組でおなじみだ。
また、『週刊文春』にコラム連載を持つなど、そのルポライターとしての評価も高い。
【水道橋博士(すいどうばしはかせ)】1986年にビートたけしに弟子入り。「浅草フランス座」での地獄の住み込み生活を経て、翌年玉袋筋太郎と「浅草キッド」を結成。日本発の「芸能人ブロガー」でもある。著書に『藝人春秋』(文藝春秋社)など
しかし最近では、Twitterでその名前を見る人も多いのではないだろうか。
さまざまな人と議論を交わし、多くの“摩擦”がニュースになる…。
芸人ならではのプロレスなのか? 博士の考える「SNS論」を聞くべく、恐る恐る取材を申し込んだ!
〈※聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
博士、なんであちこちで議論をしてるんですか?
水道橋博士
「摩擦」ってあの程度でそんな風に思うのが不思議だよ!
あのねえ、実際はTwitterなんか衝突したってしょせん「仮想」、エアなんだから、どれだけ議論しても「そよ風」みたいなもんでしょう。
それにボクは本当にSNSに“ヘイト”を書かないからね。長くやっているけど、「死ね」っていう言葉なんて、1回も書いたことないよ。
天野
なるほど、そういうポリシーで投稿されてるんですね。
水道橋博士
「コイツ」っていう言葉を使ったことすら…
天野
ないんですか?
水道橋博士
1回だけある。
天野
(あるんかい…)
水道橋博士
某お笑いライターにね(笑)。
自分が“乱暴運転”してるつもりはないのよ。ただ、「炎上なんてキャンプファイヤー」だと思ってるし、何も恐れてないっていうのはあるね。
水道橋博士
特定の思想があるわけじゃないけど、「リベラル」という立場を明確にしてることも、議論を起こす原因だとは思う。
Twitterにはあまりにもヘイトがひどい、議論が通じない人たちがいっぱい寄ってくるのね。もう自覚的にやっているから、自分が「ハエ取り紙」になったような心境だよ。「こんなに右翼バエがたかっているよ~」って。
とはいえ、ネット民は人を右左のふたつに分けて考えすぎ。あらゆる事象に多様性があり、グラデーションがある。「みんな違って、みんないい」だよ。
天野
なるほど。でもハエって…本当に何も恐れてないんですね…
水道橋博士
見えてるところだけじゃないよ。ツイッターのDM(ダイレクトメッセージ)でも、メールでもひとりひとりと長~い議論をしてることもある。
「殺害予告」が来ることもあって、この前は「そんなに言うなら会いにこい」って、殺害予告してきた人をボクが主催する「フランス座」の舞台に上げようとしたんだよね。
結局、小屋の方が警察に連絡して、予告犯は浅草署に身柄を拘束されてた。前科がつくのがかわいそうだから、ボクからは訴えなかったけど。
スゴすぎてツッコめなくなってきました…
天野
ちょっと話がコワすぎますが、なんでそんな危ないところに首を突っ込むんですか? 無視すればいいのでは?
水道橋博士
「うーん、自分に関心がある人に関心がある」というか…。ネットをはじめた当初から「エゴサーチ」もずっとやってる。自分が何か言われてると逆に相手に興味が出ちゃうんだよ。
この前もエゴサーチしてたら、「水道橋博士が1000円カットで偉そうに座っていた」だって(笑)。座るぐらいいいじゃねえかって(笑)。
「ネットでもてはやされてる人」に噛み付きたくなるの?
天野
ネットでもてはやされている人に噛み付くような言動もありますが…
水道橋博士
まったく無名の人とも議論や意見交換をしてるよ。でも、一部の人たちにネットでもてはやされている“ネット弁慶”を見てると、恥ずかしいと思っちゃうね。
箕輪くん(幻冬舎・箕輪厚介氏。堀江貴文氏や落合陽一氏の著書の編集やオンラインサロンの主宰などで注目を集めている)なんて、ビジネスの場所でダメージジーンズ穿いて踏ん反りかえってるけどさ、なんかそういうスタイルを気にしすぎで、そんなのボクに言わせれば型破りでもなんでもないよ! 昔っからみんなやっとるわって。自意識過剰なんだよ。
自戒を込めて言うけど、そういう「うぬぼれ鏡」で自分を見てる人には、ついつい一言言ってやりたくなっちゃうね。
天野
「調子に乗っている人の鼻をへし折ってやりたくなる」ということですか?
水道橋博士
うん、若いから威勢もいいんだろうけど、もっと自分を客観的に見てみろって。ネットだけじゃなくて、ポンと人前に客前に出されたときに何を喋れるか? どういうことができるのか?そういうカッコよさがないと。
今度、格闘技イベント「HATASHIAI」で「リングで戦え!」って話があるから、「どうぞどんなルールでもいらっしゃい」って返事してるよ。
天野
博士が考える、その「カッコよさ」とはどういうことなんでしょうか…?
水道橋博士
たとえて言えば、精神的にも物理的にも「いつでもフリチンになれること」じゃないの。ボクはいつ、どんな番組でも「ここでフリチンになったらどうなるかな」って考えてる。
天野
“笑い”に対してとても無粋な質問ですが…、「フリチン」が面白くて、「ダメージジーンズ」がカッコ悪いというのはどういう基準なんですか?
ジロッ
水道橋博士
うーん…。いや、根本は一緒だと思うね。
確かにどっちも「自己演出」で「自己陶酔」してるんだと思う。でも「フリチン」のほうが、「より剥き身でカッコ悪いことができてる」とは思う。
天野
(え~? わかるようなわからないような…)
ホリエモンは「合理的で教養がある」から“認めている”
天野
「ネットで目立っている人」ということで言うと、たとえば堀江貴文さんはいかがですか?
水道橋博士
ボク、『藝人春秋』でも彼について書いているけど、ホリエモンとは付き合いが長いんだよ。でも、相手が「社長」だからってヘコヘコするつもりはまったくない。個人的に飲みに行ったこともない。それでも彼の年齢差に臆さないところ、改革的なところや、合理的なところ、我慢強さは好きなんだよね。
少し前にホリエモンが「寿司なんて3カ月教われば握れる。何年も修行して技術を盗めなんて古い」って言って炎上したじゃない。
ああやって耳目を集めてることがあると、ボクはまず、「本当なのか」って調査したくなっちゃうのね。
天野
調査? ご自身でですか?
水道橋博士
そう。3カ月で寿司の技術を教えるっていう西新宿の「すしアカデミー」に番組の取材に行ってさ、そうすると、2カ月コースや7カ月コースで寿司職人が促成育成できている。
老舗で伝統的に修行してる若者を蔑むつもりは一切ないけど、「確かにホリエモンが言うとおりだ」ってわかったのよ。これは一理あるって。
天野
聞いたところによると、博士が最近開設した、ご自身の「YouTubeチャンネル」に堀江さんが出演されるらしいですね!
水道橋博士
少し前に、たまたまホリエモンとすれ違ったの。それで、「YouTubeの番組についていろいろ教えてもらえないか?」って話になってね。お互いの番組にも出ることになったんだよ。
でも、今ボクが見城徹さん(幻冬舎社長)とか、ホリエモンの周りの人たちとモメてるから、「君にとって面倒になるから、やっぱり出ないほうがいいかな?」って言ったら、彼は「いや博士、それは関係ない」って言うんだよね。「博士の人間関係とは違う話だよ」って。
それも合理的なの。周りのしがらみ的なことに、おもねらない。そういうホリエモンはすごい好きだね。
天野
博士が噛み付く人とそうしない人の差は、「ルールやポリシーがあるかどうか」ということなんですかね?
水道橋博士
うーん、「権威を恐れて、誰も噛み付かない人」には噛み付くしかないでしょ。もうひとつ言えば、「自分を客観視する教養があるかどうか」。
ホリエモンが駆け出しのころに家に行ったことがあって、部屋にはマンガばっかりだったの。浪人生の部屋みたいで「教養のない人だな」って思ったけど、服役して、『刑務所なう』(文藝春秋社)に書いてるようにたくさん本を読んで、すごく教養を高めて帰ってきたじゃん。
天野
「教養」を評価されてるんですね。
「“教養を強要”してるわけじゃないけどね!」という博士…。「本は読めば読むほど、自分が読むべき本を知れる」とも
「人生経験がないと、いざというときに面白い話なんてできない」
天野
博士は、付き人とマネージャーもツイッターで募集されてましたよね?
水道橋博士
そう、オフィス北野問題でマネージャーが現場にいなくなってね。
ツイッターでパッと「急募!」みたいに書いたら、50人ぐらいから連絡来て、すぐに面接したの。
※取材にも立ち会ってくれた“新付き人”は24歳。新マネージャーは31歳でした
天野
このお2人に決めた理由は?
水道橋博士
この2人は「条件交渉」しなかったから。
24時間体制で仕事をする、お金はいらない、それでもいいというからね。それでもボクのところへどうしても来たい、って自分よりはるかに若い連中が言ってくれることは芸人冥利に尽きるね。
天野
それはなかなか…“ブラック”的な…
水道橋博士
でもね、師匠に弟子入りするときに「お金ください」なんて言うのはおかしいでしょ! そこに「今の若い世代だから」なんて関係ない。
よしもとに「NSC」ができたときも、「へえ~? 芸の世界なのに学校で勉強して就職するつもりで入るんだ?」って思ったもん。ボクは親に勘当されて、家出してこの世界に入ってきたわけだから。
水道橋博士
ボクは若いころはダンカンさんの「専属付き人」しててさ、殴られるわ、寝かしてもらえないわ…地獄のような日々だったの。
『キッドのもと』(学研パブリッシング)P.106~107より睡眠時間は、決して大袈裟ではなく、毎日一、二時間程度であった。ダンカンさんは今も「いったい、いつ寝てるの?」と言われるようなナポレオン睡眠の人だが、当時のボクは、朝一番で、そのフランス人というよりペルー人のような顔のダンカン皇帝を起こし、夜になると枕元で「子守唄を唄って!」とのリクエストにお応えし、寝かしつけてから、今度は部屋に戻ってネタを書いていた。
「キツイ・キタナイ・キケン」の3Kなぞ、とうに通り越し、当時は「寝ない・食わない・死なない」という標語を部屋の壁に貼っていた。芸人として、「宵越しの金は持たない」ではなく、「宵越しの命は持たない」ような凄惨な毎日であった。
(中略)
ダンカンさんは、ボクを二十四時間専属で連れ歩き、事あるごとに「今度入ってきた中で、オメェがいちばん面白くないからなぁ!」と囁いた。
水道橋博士
ただ、自分が昔やられたような殴る蹴るのかわいがりは、今の付き人や弟弟子にはやらない。逆恨みはしてないけど、それはくだらないってわかってるから。
自分も「漫才を学ぶのに、もっと速い学び方があった」って思うからね。
天野
え、そうなんですか?
水道橋博士
うん、付き人なんて職業でもないし、何年もやることはないんだよ。
天野
じゃあ…なぜやってたんですか?
水道橋博士
必要も意味もないんだけど、自分で無理やり「意味がある」と思ってやってたから。
例えばダンカンさんに「扮装やれ」「明日までにネタ1000本書け」とかムチャ振りされるじゃない。そしたら、向こうが引くぐらいのことを過剰にやる。周りの人も「ダンちゃん、やりすぎだよ」みたいに心配しちゃうぐらい。そうしたらボクの「勝ち」。当時、毎日、ノートに勝ち負けつけてたからね。
だから、そういうゲームのようなムチャ振りは今でもやるよ。
天野
そういった“しごき”の経験が、どんな役に立つんですか?
水道橋博士
「パッと人前に出されたとき、物怖じせずに何ができるか」っていう強さや瞬発力。人生の予行演習だと。
漫才の方法論を学ぶだけなら、いくらでも学べるんだよ。でもそれだけじゃ人生経験がなさすぎて、いざテレビの雛段に立ったときに、面白い話なんてできない。
「全人格的な教育を経て得たものは芸人としての血肉となってるし、ダンカン仕込みの芸人は、まぁ粘り強い」とも。なるほど、ただの根性論ではない気がしてきました
「世界は殺し合いのようなキャッチボール」。承服できないなら、信念を持って立ち向かえ
水道橋博士
ツイッターの話に戻ると、ボクは「フォロワー52万人もいるのに、あんまり反応(リプライなど)がないのは珍しい」って言われるのね。
天野
…なぜ反応が少ないんでしょうか。
水道橋博士
自分がそれを望んでないというのもあると思う。
SNSであれなんであれ、群れて周りにおもねっていてもしょうがない。竹中労(多くのタブーに切り込んだことで知られるルポライター)の「無力だから群れるんじゃない。群れるから無力なんだ」という言葉があるけど、まさにそうなんだよね。
天野
群れない“強さ”を持つべきだということでしょうか?
水道橋博士
そう。たとえば今「反則タックルを指示した」って叩かれてる日大アメフット部の監督が話題になるけどさ、あんなレベルの人は、社会にはいくらでもいるじゃん。いてもいいって意味じゃないけど、権威をかさにきた理不尽な人は、ザラにいるよね。
これは大槻ケンヂの言葉だけど「世界は、殺し合いのようなキャッチボール」なんだと。「なんで摩擦を?」って言うけどさ、やっぱり承服しかねるものに対して信念と“お笑い”を持って立ち向かっていかないといけない。
ボクらはクレームをつけているんじゃない、権威をイジって、笑い飛ばしてるんだから。
天野
うーむ、博士の「発信」に対するポリシーがなんとなくわかったような気がします…
最後に博士に、今後の活動や目標について聞いてみると…。
水道橋博士
今は、書きかけの本が8冊あって忙しいね。でも、いずれ「“北野武”正伝」を書くつもり。
たけしさんの私物の管理を任されたから「北野武博物館」も作ってて、そこを若手と泊まり込みの合宿所にしようともしてるんだよね。「YOU、見込みあるから泊まりな!」って(笑)。
水道橋博士
あと、刑務所に入るのが目標なの(笑)。だってゆっくり本が読めそうじゃん。「刑務所で読むための本」も集めてるんだよね(笑)。
とのこと…。
どこまでがギャグでどこまでが本気なのか、最後まで分からない博士。今後もそのポリシーの通り、“群れずに”タイムラインを突っ走ってください!
〈取材・文=天野俊吉 新R25編集部(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
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