遠州は高級綿織物の産地として知られていますが、実は麻（リネン）織物の生産量もとても多いんです。

リネン製品はここ数年人気が高まっていますが、その品質や風合いは製品によって大きく異なります。

世界でも珍しい旧式のシャトル織機を使い、ゆっくりと低速で織った「HUIS.」のシャトルリネンは、ほかの製品とは一線を画すリネン生地です。

生地の品質は、主に「原料となる糸の品質」と「織る織機（しょっき）」という2つの要素で決まります。

まず、原料として「HUIS.」のシャトルリネンが使用しているのは、フランス・ノルマンディー地方で生産される高品質で希少なリネンです。

上質な原料は、ネップ（節）やムラが少なく、ありのままの“生成り”の状態でもきれいなリネン生地として使用することができます。

そうなんです。

実は現代のリネン素材というのは、原料そのままで使える良質なものは数少なくなってしまっているのですが、市場での需要は多いんです。

そのため、そのまま使えないような粗悪な原料もすべてまとめて化学的な処理を施し、大量の麻素材が生産されているという裏側があります。ケミカルな処理が施されたリネンは、紡績された糸の状態からすでに白いことが特長です。

一方、「HUIS.」のシャトルリネンは最高級のリネン原料をそのまま使っていることから、糸はきなり色です。

だから、きなり色のリネン生地というのは現代では、実はとても貴重なんですよ。

ちなみに、「HUIS.」の白いシャトルリネン生地は、きなりの生地を白く綺麗に晒している生地です。

最初から白い糸で織ったリネン生地とは、実はまったく違うものなんです。

リネンに限らず、高品質な原料ほど生産できる地域が限られ、生育に時間と手間がかかります。

特にリネンの原料（フラックス）は、生産が大変なため、世界的にも年々生産量が減少しています。

「HUIS.」では、そのような高品質な糸を、旧式のシャトル織機を使ってゆっくりと織り上げることで、立体感のある特別な風合いややわらかさ、耐久性を持つ生地をつくり出しています。

この生地は、使い込むほどに風合いが増していきます。

綿でもリネンでも、その姿勢は変わりません。

安価な原料の糸を使い、超高速型の織機を使えば、安価な生地を大量に生産することができます。

でも「HUIS.」のシャトルリネンは最高品質の糸を使い、ゆっくりと時間をかけてシャトル織機で織ることで、ほかに類を見ない最高品質を実現しています。

そもそもリネン（麻）100％の服って、どういうイメージがありますか？

そうですよね。

麻素材の大きな特長は、空気を多く含み、余分な湿気を蒸散してくれるところです。

そのため、春夏シーズンの服だというイメージが強いかもしれませんが、実は体と外気の緩衝をしてくれる調温機能に優れているという点で、一年を通して快適に着ることができる天然素材なんですよ。

麻は繊維の中心に大きな空洞があり、また表面にもたくさんのひび割れや小さな空洞がある「多孔構造」になっています。

この繊維の空洞に、体から出た水分がすばやく吸収され、外気への蒸散が促されます。

この吸湿・速乾性が、汗をかきやすいシーズンに重宝される理由ですが、水分を蒸発した後の空洞は、体から出た空気をとどめて空気の層をつくってくれるので、冬も暖かく感じられるんです。

まさに、外気との緩衝を担う多孔構造の空気の層が、麻素材が持つ調温機能の秘密です。

また、一般的な麻素材はごわつきがちですが、「HUIS.」のシャトルリネンは軽くてしなやか。重ね着にも最適です。

ですから秋冬シーズンは、アウターには風を通しにくい高密度な生地の服を着てもらい、インナーにリネン素材の服を一枚重ねる、という着方をしてもらうとすごく理にかなっているんです。

麻というのは、四季のある日本で古来から使われてきた、日本人にとってはもっとも馴染みのある素材です。そう考えると、オールシーズン重宝されるその機能性にも、納得できますよね。

おっしゃる通りです。そもそも今は、さまざまな原材料が値上がりしていて、アパレル業界も例外ではありません。原料にこだわっているシャトルリネンは、なおさらです。

世界的に天然素材が人気を集めるなか、とりわけ素材感を感じやすい麻生地の需要は高まっています。ただ、原料は農産物であるため、生産量には限りがあります。

さらに原料を栽培する農家の減少や、生産地における近年の気候変動により、従来のような栽培が困難になってきているんです。

その結果…世界のリネン原料の生産量は近年、約半分以下にまで落ち込んでいます。

リネンやヘンプ素材の原料は需給バランスが大きく崩れ、現在、世界的に原料の高騰が続いている状況にあります。

具体的に言うと、2019年と比べ、2024年時点のリネン原料価格は2.5倍以上にもなりました。

価格高騰は為替や投機といった一時的な要因ではなく、世界的な気候変動や農家の減少が理由なので、今後も値が下がる可能性は低いと言われています。

「HUIS.」では、これまで原料価格の上昇前にリネン糸を年間分仕入れることで生産を維持してきましたが、現在の糸ストックがなくなったら影響が出てくるかもしれません…

というのも、「HUIS.」シャトルリネンは、一般的なリネン100％の商品に比べ、価格をかなり抑えているんです。

「HUIS.」は、いわゆるブランド料を商品価格にのせていません。

また、生地の直接仕入れや無店舗型経営など、さまざまな独自の取り組みにより、商品の価格を抑えて展開してきました。

ただその分、商品価格に占める原料の価格の割合は大きいので…

今後新しく、価格の上がったリネン糸を仕入れるとなると、現行の商品価格を大幅に見直すか、あるいは生産を当面中止するかという岐路に立たされているのは事実です。

そうですね。この先は本当に不透明ですが、「HUIS.」のシャトルリネンの希少性、そして一般的なリネン素材とは一線を画す品質の高さを知ってもらえたらうれしいです。

驚くほど軽くしなやかで、着る人の五感に幸せをもたらす、とびきり着心地の良い生地です。ぜひ体験してみてください。