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「稼ぎ」じゃなくて「仕事」がしたい。元研究者が離島の引越し屋になって気づいた“はたらくWell-being”

「稼ぎ」じゃなくて「仕事」がしたい。元研究者が離島の引越し屋になって気づいた“はたらくWell-being”

連載「“はたらくWell-being”を考えよう」

新R25編集部

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

2018年に創業したアイランデクス株式会社の代表・池田和法(いけだ・かずのり)さんは、大学院で農業研究をしていた研究者でした。方向転換のきっかけとなったのは、東日本大震災。「今、目の前の人に役立てる仕事がしたい」とアカデミアを離れ、紆余曲折を経て、「離島への引越しが高すぎる」という課題に出会います。

そこから日本唯一の離島専門引越し会社を立ち上げ、現在スタッフ50名超、80を超える有人離島への引越しを手がけるまでになりました。

稼ぎじゃなくて、仕事がしたい」。研究者として培った物事の捉え方と、島々での体験が滲み出る池田さんにとっての、“はたらくWell-being”を聞きました。

1987年、愛媛県生まれ。神戸大学大学院在学中に自営業を始め、2018年にアイランデクス株式会社を創業。離島専門の引越し事業を軸に、シェアハウス・工務店・マリン事業など離島の「困りごと」を解決するサービスを展開。現在もフィールドとなる島々を転々としながら、年間100日以上をリモートワークで業務を行う

2000件の御用聞きから、事業の種を見つける!?

飯室

まず、アイランデクス株式会社がどんな会社なのか教えてください!

池田さん

アイランデクスは、離島専門の引越し会社です。

実は、大手の引越し業者でも離島への家財運搬の対応は難しく、できたとしても高額になりがちなんです。そこで、フェリーや海上コンテナ、現地の運送業者と独自のネットワークを組むことで、一般的な業者より安く安全に届ける仕組みをつくりました。なので、日本唯一の離島専門引越しサービスだと自負しています!

池田さん

その他、ゲストハウスの運営やシェアハウス、工務店など、離島の困りごとを解決する事業も展開しています。

スタッフはパートナー含めて50名を超え、これまでに80以上の有人離島への引越しを手がけてきました

飯室

大学院在学中に事業を始められたとお伺いしたのですが、起業したきっかけを教えてください。

池田さん

もともと大学院で農業の研究をしていたんですが、2011年の東日本大震災がひとつの転機になりました。

研究は、大切なものではあるけれど、成果が世の中に出るまでに何年もかかるじゃないですか。それがすごくもどかしく感じてしまって。「もっと目の前の人に、ちゃんと役に立っている実感がほしい」と思うようになったんです。

飯室

そこから引越し業へは、どうつながるんですか?

池田さん

想いはあったものの、何をすれば人の役に立てるかの構想はまったくなかったですね。なので、「誰かの役に立って、その対価としてお金をもらう」という原始的な経済活動を試してみました。

神戸の街で、飲食店など2,000件以上に飛び込み営業をして、「何か役に立てることはありませんか?」って聞いて回ったんです。

飯室

2,000件! しかも、すごいざっくりとしたアプローチ! 反応はどうだったんですか?

池田さん

最初は、全然相手にしてもらえなかったです(笑)

でも不思議なことに、あまり落ち込まなかったんです。研究者として長く活動していたおかげか、失敗を「失敗」と捉えないんですよね。「この言い方ではこのお客さまには刺さらなかった」という、新しい事実の発見として一つのデータが得られる感覚で受け止められました。

アイランデクス株式会社 代表取締役 池田 和法さん

飯室

(研究者の思考、強すぎる)。でも、依頼してもらわないとお金を稼げないわけですよね? その不安を抱えたまま2,000件はすごいなと。

池田さん

生活に関しては、夜にアルバイトをして家賃や食費をまかなっていたんです。なので、日中は完全に「自分の実験の時間」として使えました。だから、焦りはそんなになくて、好奇心のほうが勝っていましたね。

飯室

そうか、事業を探すこともご自身にとっては実験のような感覚だったんですね。その飛び込み営業のなかに、事業のヒントがあったんですか?

池田さん

そうなんです。あるとき、自分が大好きな神戸牛コロッケを持って、「街の人とわらしべ長者をしながら神戸牛ゲットなるか!?」という企画を思い立って。

最初に応じてくれたのが、奄美大島出身のカップルだったんです。彼らにお困りごとを聞いてみたら、「結婚して奄美大島に引越したいんだけど、業者の見積もりが70万円と言われて高くて困っていて…」と。だから「手伝いますよ」と。

飯室

ん? ん? 池田さんは、離島への引越しの経験はあったんですか?

池田さん

ないです。でも直感的に「70万は高すぎるよなあ」と思って、試しに個人で手配してみたら35万くらいでできたんですよ。

飯室

できるものなんですか!

池田さん

学生時代にフェリー会社でアルバイトした経験があったので、船で荷物を運ぶ相場感がわかったり、起こりうるリスクもなんとなく想像できたのは、大きいと思います。

飯室

アルバイトの経験が。何がいつ役に立つかわからないですね。

池田さん

本当ですよね。でも、この経験を経て「もしかして同じように困っている人が他にもいて、役に立てるんじゃないか」と思ったんです。

すぐにブログを書いたら、数カ月後に問い合わせがきました。当時、ネット検索しても100位くらいにようやくヒットするブログだったんですけど、わざわざ探して連絡してきてくれるわけですよね。それだけ困っている人がいるんだと確信して、本格的に事業として始めました。

荷物じゃなくて、暮らしを運んでいる。そう気づいた日

飯室

隠れていたニーズとご自身のできることを掛け合わせて立ち上がった事業だったんですね。それを会社にしようと決めたのは、なぜですか?

池田さん

しばらくは個人でやっていて、法人化を迷っていた時期があったんです。そのときに、奄美大島の離島・加計呂麻島(かけろまじま)での引越しを担当したことが分岐点になりました。

飯室

加計呂麻島。

池田さん

離島のさらに離島という感じで、奄美空港から車で約1.5時間かけて港へ行き、そこからフェリーまたは海上タクシーで20分というルートで運搬します。

飯室

その工程を、大きな家財とともに。想像していたより、はるかに大変そうです。

池田さん

そうなんです。フェリー会社や現地の運送会社との連携は必須で、引っ越し業者一社で完結しにくいから、大手があまりやりたがらない理由はよくわかります。

でも、その引越しで島に荷物が届いたときに、どこからともなく島の方々が自然に集まってきて、一緒に荷解きを手伝ってくれたんです

飯室

へえ、素敵ですね。

池田さん

引っ越してきたことを地域の人が歓迎して、暮らしの始まりに立ち会っている。そのとき初めて「あ、僕たちは荷物を運んでいるんじゃなくて、人の暮らしを運んでいるんだ」と気づいたんです。

池田さん

離島に移住するって、単なる引越しじゃないんですよ。Uターンで故郷に帰る人、憧れの島暮らしを始める人、人生の大きな決断をして来る人が多い。その「暮らしの始まり」を届けることに、ちゃんと責任を持ちたいと思った。それで法人化を決めました。

飯室

今、池田さんにとってお仕事のやりがいはどこにありますか?

池田さん

根っこは研究者の頃からずっと変わっていなくて、「探求と、新しい事実を発見すること」なんです。離島の引越しって、島ごとに航路も違うし、天気にも左右されるし、毎回が新しいパズルです。そこに面白さを感じ続けています。

もうひとつは、お客さまとの関係性が永遠に積み重なっていくこと。人生の大きな変化に立ち会うので関係性も強くなりますし、引越しが終わったあとも、島で「顔の知れた隣人」みたいになっていけるんです。こういう人とのつながりは、なかなか生まれないと思うので、やりがいになりますね。

飯室

きっと、誰かの恩人になっていける仕事ですよね、すごいなあ。

池田さん

以前お客さまからいただいたお手紙に、「若いころからの夢だった島への移住が、ついに叶いました」と書いてあったんです。

僕らは依頼がきてからお客さまと関わり始めますが、お客さまにとってはずっと昔から温めてきた夢が叶う瞬間なんですよね。そんな大事な瞬間に立ち会えているんだと実感しました

飯室

チームが増えた今は、また違うやりがいもありますか?

池田さん

そうですね。今はチームで一緒にやり遂げるというモチベーションも加わりました。難しい案件をみんなで乗り越えたときの達成感は、一人でやっていた頃とはまた別のものがあります。

「稼ぎ」じゃなくて「仕事」がしたい

飯室

池田さんにとって“はたらくWell-being”とは、どういう状態だと思いますか?

池田さん

哲学者の内山節(うちやま たかし)さんが、山里の労働には「仕事」と「稼ぎ」の2種類があることを発見していて、この言葉がすごく好きなんです。

飯室

仕事と、稼ぎ。

池田さん

稼ぎは、現金を得るための手段。もっと現金を得られる手段があるなら、いつでも乗り換えていいものです。

一方で仕事は、食事や服をつくるといった家庭内での仕事、自分が住む山の道を直す仕事、村の寄り合いに出る仕事など、それを行わなければ家族やコミュニティとの関係性が危うくなっていくようなことを指すんです

飯室

へえ! 池田さんの仕事は、その定義でいうとどちらですか?

池田さん

「仕事性」が高いと思っています。離島に人が移住してくれば、島が豊かになる。島の物流を支えれば、そこに暮らす人の生活が守られる。お金をいただいている以上「稼ぎ」の要素もありますが、それだけじゃない手ごたえが毎日あります。

最初は、「社会的に良いことをしよう」なんて大きな気持ちではなくて、ただ目の前の人に喜んでほしいという気持ちが強かったように思います。でも続けているうちに、見過ごされていたニーズを拾えているんだと体感するようになってきた。

目の前の人の力になることで社会の役に立てている実感がある。これが僕にとっての、“はたらくWell-being”です。

飯室

今後の展望を聞かせてください。

池田さん

離島は「日本の2050年を先取りしている」とよく言われるように、日本がこれから迎える人口減少問題に、すでに直面している場所なんです。

でも、僕が一番課題だと思っているのは、人口の数が減るより「人と人のつながりが薄れていくこと」なんです。

飯室

つながりが薄れる。確かに、首都圏に住んでいても、その感覚があります。

池田さん

そうですよね。でも、島では引越しが終わったあとも「顔の知れた隣人」になれるんです。それが当たり前にある豊かさを、もっと多くの人に知ってほしい。

離島から、顔の見える関係の価値を日本全体に届けたい。そのためにも、一緒に現場で汗をかいてくれる仲間や、島の課題を研究してくれるような人とも出会いたいと思っています。

<取材・文=飯室 佐世子(株式会社声音)>

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