

土木・建築会社と水産ベンチャーをマッチング。地域の新たな未来を切り拓く「EHIME新事業ラボ」
新たな地域産業創出の切り札は…牡蠣!?
新R25編集部
愛媛県が県内企業とスタートアップのマッチングと共創を支援し、新規ビジネスの創出を図るプロジェクト「EHIME新事業ラボ」。
令和6年度は株式会社ローカル大学が運営を担い、複数の共創事例が生まれました。

この取り組みをきっかけに、現在、「南海放送」×「SHOWROOM」によるライバープロジェクトや、スーパーマーケット「FUJI」×資源循環サービス「PASSTO」による衣類や雑貨・ホビー用品の再流通などのプロジェクトが進行しているそうです。
そして今回紹介するのは、愛媛の地元企業がまったく異なる分野の“とある事業”に挑戦しているというプロジェクト。
創業66年を迎え、新たな事業領域への参入を決意した愛媛県新居浜市の老舗企業、株式会社シティプラスホールディングスの代表取締役社長・白石尚寛さんと、水産ベンチャーである株式会社リブルの代表取締役・早川尚吾さんに詳しい話を伺いました。
〈聞き手=古川裕子(新R25編集部)〉
異業種タッグで始まった“新プロジェクト”とは?

白石さん
私たち株式会社シティプラスホールディングスは、株式会社リブルと協業し、市の新しい産業となる「牡蠣養殖プロジェクト」をスタートしました。


白石さん
本事業では、新居浜市の海洋資源を活かし、高品質な牡蠣の養殖に取り組むことで、新たな地域産業の創出と水産業の活性化を目指します。
持続可能な養殖技術の導入により、地域経済の発展と環境保全の両立を実現し、新居浜の特産品としてのブランド化を進めていきます。

古川
御社はそもそもどういった事業を手がけてるんですか?

白石さん
株式会社シティプラスホールディングスは、土木・建築事業をメインに、住宅・リフォーム事業、介護事業、リサイクル事業、農業など、多岐にわたる事業を展開しています。
ホールディングス内に7社のグループ会社をもち、新居浜市を中心としたまちづくりを基軸に様々な事業を運営しています。

古川
事業の幅が広い…! まちづくりというのは、昔から意識していたのでしょうか?

白石さん
もともと大手企業の下請けとして、土木業からスタートしました。その後、時代の変化とともに地域のニーズに応え、街がハッピーになるような事業に携わり続け、現在に至ります。介護やリサイクルもその一環ですね。


古川
では次に、株式会社リブルについて教えてください。

早川さん
私たち株式会社リブルは、徳島県を本拠地とする水産ベンチャーで、牡蠣養殖を通じて日本の水産業の改革に取り組んでいます。
最大の特徴は、海洋環境データと生育データを蓄積・分析し、養殖技術IoTシステムを構築する「スマート養殖」というもの。
牡蠣養殖を「誰でも、どこでも、いつでも」再現できる社会を目指し、日本各地で養殖支援を行っています。


古川
牡蠣の養殖って、そんなに日本全国でできるものなんですか?

早川さん
海があって人がいれば、種から販売まで一気通貫の生産・販売を行うサプライチェーンをつくることができます。
何もないところから産業を生み出せる強みを活かし、ノウハウの広域展開を続けることで、最終的にはあらゆるニーズに耐えられる供給ができる体制を目指しています。
「畑違い」から始めた牡蠣養殖。どんな可能性を秘めている?

古川
「EHIME新事業ラボ」では企業同士のマッチングでプロジェクトが始まる、ということですが、紹介されたときはどう思いましたか?

白石さん
正直なところ…最初は「漁業は畑違いすぎる」と思いました。
牡蠣養殖なんて、難しいやろと。

古川
それなのに、なぜ取り組むことに?

白石さん
新居浜には養殖ブランドがないので、テーマ自体は面白いと思ったんです。
また、たまたま知り合いに養殖事業をやっている人がいまして。仲間がいればできるかもしれないと思ったので、何人か集めて、マッチング前にリブルさんのところへ見学に行きました。


古川
実際に見に行ってみて、どうでしたか?

白石さん
できる・できない以上に、ワクワクしましたね。
しかも案内してくれたのが、まだ「牡蠣の養殖を始めて半年」という方だったんです。家が漁業というわけでも、ずっと漁業に携わってきたというわけでもなく。
だから「僕らでもイチから始められるやん」となって。目の前で見せてもらい、勇気をもらいました。

古川
それは可能性を感じますね…!


白石さん
しかも、IT技術を駆使したスマート養殖という、これまで業界に取り入れられていなかった手法で養殖に挑戦するというのも魅力でした。

早川さん
もちろん、ITがすべてではないと思っています。
ただ、職人の感覚に頼る産業はいずれ衰退するのではないかと。「こうなったらいい感じ」といった曖昧な表現では理解が難しく、再現性も低いので…
なので、IT技術を活用してデータや仕組みを整備し、誰でも養殖に取り組めるようになれば、日本の水産業はもっと活性化するのではないかと考えています。

古川
たしかに、今は後継者不足ということもあって、あらゆる産業の存続が危ぶまれてますもんね…

白石さん
新居浜はこれまであまり特産品がなかった地域なので、“世界に打って出る養殖牡蠣ブランド”に育てられる可能性が大いにあると考えて、共創をお願いすることにしました。
まずはスモールスタートで始め、ある程度市場に出せるようになってから一気にスケールさせていきたいと考えています。現時点ではまだ試験養殖の段階ですが、これから次の具体的な展開を決めていく予定です。

地域に根ざし、世界を目指す。新居浜で事業を行うメリット

古川
そもそもなのですが…牡蠣のマーケットって大きいんですか?

早川さん
実は、国内市場はもう頭打ちです。

古川
え、そうなんですか!?

早川さん
もともと日本は牡蠣をよく食べる国なので、需要が安定していますし、新しい品種の牡蠣が登場するわけでもありません。
近年はオイスターバーブームも落ち着き、500億円ぐらいの規模で推移している感じです。
ただ、海外はそれより2桁ほど大きい市場規模があり、日本からの安定供給が求められているんですよ。私たちの養殖は、その市場を狙いとしています。

古川
ほう…! 最初から海外展開を視野に入れているんですね。


古川
ほかにも、新居浜で牡蠣養殖を行うのはどんなメリットがありますか?

早川さん
ひとつは、地方に目が向く話題として若い世代の漁師が増えることです。
また、地域が活性化することで、治安の面でもメリットがあります。
最近、各地で漁港や港湾が放置されてきており、そこが事件や犯罪の温床になるなど、治安の悪化が問題視されているんです。その抑止力のためにも、生産者を増やすことが重要だと考えています。

古川
なるほど、治安改善にもつながるとは意外でした。

早川さん
あと、これは副次的な効果にすぎませんが、牡蠣には高い浄化能力があるので、環境改善にも寄与すると思っています。
共創することで広がる“ビジネスチャンス”

早川さん
これまで公共事業と組むことが多かった私たちにとっても、民間事業との共創は一号事例です。それが四国でできるというのはうれしい限りです。
行政と組まなくてもできるということを、全国にどんどん広めていきたいですね。

白石さん
まさか牡蠣の養殖をすることになるとは、半年前は夢にも思っていませんでした(笑)。
他社と一緒に新しい事業を手がける“共創”は、地域の未来にとって大事なことだと思っています。
1社だけで頑張ってもダメ。地域の産業をつくっていくために、いろんなメンバーと一緒に、みんなでビジネスをどう広げていくか、それをまちにどう残していくかを議論していきたいと考えています。


白石さん
“地域”だからこそ、できることがあるはずです。
まったくの素人が集まってそのエリアになかったものを一からつくるというのは、ワクワクしかないですよね!
白石さんと早川さんの言葉からは、地域活性化への熱意と、新しいことに挑戦する喜びが伝わってきました。大きな可能性を感じさせる牡蠣養殖プロジェクト、これからも目が離せません。
〈執筆=吉河未布/編集=古川裕子〉
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