ビジネスパーソンインタビュー
日本を代表する「フードテック・ベンチャー」だけど…
これで590円って高くない? 完全栄養食「ベースパスタクイック」にツッコんできた
新R25編集部
各社からさまざまな新商品が登場する現在。でも、その商品って本当にいいモノなんでしょうか?よく考えてみると、ちょっとツッコミどころもありませんか?
新連載「新商品ポリス」(タイアップ募集中!)では、新R25編集部が企業にお邪魔して、商品やサービスに読者目線(?)で切り込みます。果たして担当者はツッコミを見事跳ね返し、商品の良さをアピールできるのか…。
記念すべき第1回、ツッコミに行ったのはこちらです。
今年4月に発売された「BASE PASTA quick」(ベースパスタクイック)!
お湯を入れて3分で食べられるカップ型パスタながら、10種類以上の食材が麺に練りこまれており、「1食で1日に必要な栄養素の1/3をカバー」しているのだとか。昨年発売の「BASE PASTA」(カップではなく袋詰めタイプ)の新シリーズとして、おもにネット通販やナチュラルローソンなどで販売されています。
たしかに画期的な商品ですが、ツッコミどころも多い気が…。
編集部・天野
というわけで、代表を直撃しにきました。
橋本さん
「ベースフード」社の橋本です。今日はよろしくです。
ベースフード株式会社のCEO・橋本舜さん。温和な印象だが、DeNAを経てわずか28歳でベースフード社を立ち上げたキレ者である
ツッコミ1:なんでDeNA出身でパスタを作ろうと思ったの!?
編集部・天野
まず聞きたいのが、DeNAというIT企業で働いてた方が、なぜ急にパスタを開発したのか?というところです。
橋本さん
渋谷ヒカリエで5年働いてたんですけど、あのあたりって安くて栄養あるご飯を食べられるところがあんまりなかったんですよ。
カレー、ラーメン、コンビニのローテーションみたいな。そしたら、健康診断の結果がどんどん悪くなっていって。
ファストフードはダメだとか言われてるけど、手軽に食べられるファストフードが健康的だったらいいよね…と思って、開発してみることにしたんです。
編集部・天野
開発…って言いますけど、パスタの開発なんてできるもんなんですか? 経験とかあったんですか?
橋本さん
いや、まったくの未経験です。
YouTubeで「麺の作り方」とか検索して、家庭用の製麺機でやってましたね(笑)。
編集部・天野
なんか、果てしない道のりな気がしてしまいます。
橋本さん
そうですよね。最初は、スーパーにある食品を片っ端から粉末にして麺に混ぜてました。
「ココアと煮干し」を混ぜた麺を作ったときはキツかったですね。めちゃくちゃマズくて、挫折しそうになりました。
橋本さん
その後、三軒茶屋の「ぺペロッソ」というイタリアンレストランのシェフに開発を手伝ってもらえるようにもなって、なんとかここまでたどりつきました。
ツッコミ2:これで1食590円はさすがに高くない?
編集部・天野
「ベースパスタクイック」はこの量で1食590円で売られてますよね。
正直に申し上げると…第一印象で「高い!」って思ってしまったんですが…。どうお考えなんですか?
しばしの沈黙である
橋本さん
やっぱり来ましたね。その質問。
ナチュラルローソンの担当者にも言われました。
編集部・天野
そうでしょう。お店に並んでるカップ麺は198円とかですから。
橋本さん
でも、普通のカップ麺と比べるから高いと感じるだけじゃないでしょうか?
編集部・天野
いやあ、おっしゃることはわかりますが…。普通に消費者目線で言えば、カップ麺コーナーにこれが置いてあって「590円」って書いてあったら、「たかっ!!」ってなると思いますよ。
橋本さん
そう言いますけどねえ、「ベースパスタクイック」は、原価もめちゃくちゃ高いんですよ!
白熱してきたのか、Tシャツ1枚になった橋本さん
橋本さん
そりゃあ小麦粉だけで作ったら安いですよ。なぜなら小麦粉って「世界一安い食材」と言っても過言じゃないですから。
でも小麦粉はほぼ炭水化物でしょう。我々はそこに10種類以上も栄養豊富な食品を練りこんで麺を作ってるわけですから、そもそも原材料が高いんですよ! それに加工も手間がかかってます!
実際、最初は650円で売るつもりでしたからね。590円で売るのも大変なんですよ。
編集部・天野
な、なるほど…
橋本さん
…ただ、「高い」という声があるのは我々ももちろん認識してます。初期段階では、すべてをゼロから作ってるので、ある程度高くなってしまうんです。
今の値段でずっと売ろうとは思ってなくて、490円、390円…というふうに、設備投資とスケールメリットによって、段階的に価格を下げるつもりです。
編集部・天野
いずれはどれぐらいまで下げるつもりなんですか?
橋本さん
一般的なカップ麺と同じくらい普及すれば、「198円」で売ることも実現できると思います。
「健康を当たり前にする」と言って起業したわけですから、値段もそれぐらい手ごろにしないといけないのはわかってます。
編集部・天野
実現したら、理念通りのすばらしいことだと思いますけど…そんなこと可能なんですか?
橋本さん
「クイック」じゃない袋版の「ベースパスタ」は最初540円で発売してましたが、販売開始から1年経った現在では、さまざまな努力の結果390円で売ってます。
どうです? 信じてもらえますかね。
事例を挙げられると説得力があるな…
ツッコミ3:ちょっと独特な食感だけど…味への評価ってどうなの?
編集部・天野
もう少しツッコませてください。「味」についてはどう思われてますか?
歯ごたえがある独特の食感ですし、一部には微妙だという意見もあるようですが…
橋本さん
…たしかに、普通のパスタとは風味や食感が違います。そういった反応は、ユーザー調査をした結果、多くいただいています。
でも、お客様からは、「こっちのほうが好き」みたいな声も多いんですよ。玄米とかライ麦パンとかをイメージしてください。
「ベースパスタおいしい食べ方」で検索すると、ウチのサイトでおいしい食べ方を紹介してますし、いろいろ試しておいしく食べてほしいですね。
編集部・天野
なるほど、ライ麦パンとかが好きな人はクセになると。ちなみに、ソースなどの味についてはどういう反応が多いんですか?
橋本さん
ここまで来たらこれも正直に言いましょう。
「クイック」のジェノベーゼ味については、「しょっぱい」という意見が多かったです。
麺自体にカリウムという栄養素が入っていて、その味がしちゃうんですね。カリウムのしょっぱさは身体に悪くないんですけどね…
編集部・天野
結構否定的な意見も寄せられてるんですね…。話してくれてありがとうございます。
橋本さん
ただ言いたいのは、我々は「意見が寄せられてすぐに改良している」ってこと。
4月に発売してから、ソースや麺についてしょっぱさを解消するなど、もう3回バージョンアップしてますから。
発売前にも容器を改良したんですよ。
編集部・天野
3回も!
「湯切り口がわかりにくい」という声に応えて、湯切り口の説明シールを貼付
また、紙パッケージも、開けやすいように切り口を入れたという
橋本さん
たとえば一番最初に出たiPhoneって、今売られてたら「なんだこの不良品」ってなりますよね?
つまり、世の中のためになるものは“まず出してその後改良していくべき”だと考えてるんです。
まず出してから改良。さすが、DeNA仕込みの改善力が商品開発に生きている
ツッコミ4:完全栄養食とはいえ、こればっかりじゃ飽きません?
編集部・天野
すいません、懲りずにもう少しだけ…。「1日に必要な栄養素の1/3が摂れる」とうたってますが、さすがにこればっかり食べるんじゃ飽きますよね?
実際御社の皆さんは「ベースパスタ」ばっかり食べてるんですか?
橋本さん
僕は1日1食ぐらいですね。昨日の晩御飯はベースパスタとは関係なく、「よだれ鶏」を作って食べました。
編集部・天野
よだれ鶏はおいしいですが、御社の理念は「完全栄養食・ベースパスタばっかり食べて健康になろう」ってことなのでは?
橋本さん
いや、それは誤解です。
…うんざりされてますか?
橋本さん
僕は、お客様には「月20食食べてほしい」と思ってます。
これは、平日のお昼に子どもが学校給食を食べる回数と同じです。
編集部・天野
?
橋本さん
学校給食は、栄養士が考案したメニューを食べ、一週間を通して栄養バランスの取れた食生活が送れるというもの。
これがあると、多少家庭での食生活がおろそかになっても「健康の基盤になる」という考え方なんです。
編集部・天野
「ベースパスタ」を給食のように基盤にすれば、他の食事が少々乱れても大丈夫だ…ということですか?
橋本さん
その通りです。忙しいビジネスマンでも、「ベースパスタ」を給食ぐらいの頻度で食べてもらえれば“健康の底上げ”ができると。
定食、ラーメン、コンビニメシを全否定したいとは思ってないです。
編集部・天野
そうなんですね。なんか「完全栄養食」とか言われると、「これだけ食え!」みたいなストイックなイメージがあって…
橋本さん
食べ物っていうのはバリエーションですから。
我々も飽きられないようにそのバリエーションを増やそうと、ショートパスタ、冷凍食品版、米粉バージョン、「ベースブレッド(パン)」とかを作ろうとしてます。
編集部・天野
おお~、パンまで!
橋本さん
他にも、「フードロス(廃棄された食材)を使って麺にしよう」とか、「アメリカでも発売しよう」とか、さまざまな計画があるんですよ。
どうです? 結構いろいろ考えてるでしょ?
編集部・天野
なるほど…おみそれしました!
さすが「日本を代表するフードテック・ベンチャー」を率いる起業家。イジワルなツッコミにも、人並みならぬ熱意とビジョンで返してくれました。
実際、「ベースパスタ」の売れ行きは、発売初週のAmazonランキングで「食品ランキング1位」を獲得するという好調ぶり。
また「アメリカでの販売」は、シリコンバレーの製麺所で麺を作り、今年8月には早くも発売が実現しそうなのだとか。気になった人はぜひ一度味わってみてください!
〈取材・文=天野俊吉 新R25編集部(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
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