ビジネスパーソンインタビュー
仕事ばかりで、感受性がニブってきた方へ
父にヌード写真を撮ってもらったnoteが話題の島田彩に「深みのある人になりたい」と相談した
新R25編集部
仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。
今回登場するのは、島田彩さん。
noteにつづったエッセイ「小学1年生ぶりに、父の前で真っ裸になった話」は1万5000、「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」は3万5000を超える「スキ」を獲得し、多くの人から称賛の声があがっています。
とくに、高校生といっしょにアルバイトの志望動機を考える「ユニクロで白T」は、“働くことの本質”をとらえた名作でした…。
【島田彩(しまだ・あや)】1987年生まれ。2010年から、NPO法人「HELLOlife」にて、教育・就活分野のソーシャルデザインに従事。2020年に独立すると、noteにつづった「小学1年生ぶりに、父の前で真っ裸になった話」「今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く」などが話題に
最近、仕事に邁進するあまり、ハートフルな部分をちょっとおろそかにしている自分がいます。
仕事でも「言葉の力」や「ストーリー」が重要と言われることも多い昨今ですが、「自分は薄っぺらい人生を歩んできて、人の心を動かす言葉の深さがない」「共感されるストーリーを語れない」とコンプレックスを感じているビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
やや異色なテーマですが、島田彩さんに「人の心を動かす、人間的な深み」をテーマにお話を聞いてみました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
人が『ショーシャンク』で泣くのはなぜか? 「感受性とは後天的なもの」
天野
note、読んでます! 今日は、島田さん独特の“深み”についておうかがいしたいなと。
仕事ばかりしてるうちに、感受性や共感性がニブくなってるという人は多いと思うんです。
島田さん
ほんまですか? ありがたいです~。
私なんてあっさい人間ですよ(笑)。
ゴリッゴリのネイティブ関西弁で再生してください(「あっさい」のイントネーションは「ファックス」と同じ)
島田さん
でもたしかに最近、うれしいことに「どうやったら感受性を磨けるのか」ってきかれるんです。
…希望を込めて言うんですけど、私は「感受性とは後天的に身につけるモノ」と思うんですね。
天野さん、『ライフ・イズ・ビューティフル』って映画観たことあります?
天野
えっ、ないです。
(ないんかい…)
島田さん
じゃあ『ショーシャンクの空に』でもいいんですけど…
ああいう感動する映画を観て私たちは涙するけれど、3歳の子が見ても、たぶん泣かない。
それは、「いろんな人生の苦しみに同席した経験」によって、後天的に感受性を身につけるからだと思うんですね。
天野
人の苦しみに同席する…。わかる気がします。
島田さん
自分の視点だけで考えるんじゃなく、いろんな人の“人生のアップダウン”に寄り添うことによって、いろんなものさしが持てるようになる。
「感受性」「優しさ」みたいなものの正体って、このものさしの数なんじゃないかな。
私が2020年まで10年間やっていた仕事は、毎日、いろんな人生のアップダウンに同席することの連続だったんです。
天野
去年まで勤めていた、教育・就職関連のNPO法人ですね。
島田さん
その仕事に就いたころは“父が仕事をできなくなった”時期で…
私は幼少期はかなり恵まれていて、父はカメラマンとしていーっぱいお金を稼いでいたし、習い事もなーんでもさせてもらってたような気がします。
それでも、「ヤバいときって来るんやな」と。
島田さん
父が病気になってカメラマンの仕事が減り、アルコール依存のような感じになってしまって。
カメラを持つことも難しくなっていた父に「誕生日にヌードを撮ってほしい」とお願いしたときの話を書いたが、このnoteなんです。
天野
最後に貼られていたお父さんとのツーショットを見て、グッときました…
NPO法人に入ってからはどんなことをされてたんですか?
島田さん
高校生からシニア世代まで、いろんな方のキャリアに関するサポートです。就活や転職活動の相談を受けたり、「働くって何か」を考えるワークショップをしたり、職場体験を企画したり。
でも、そもそも「きちんと朝起きてご飯食べて会社に行く」「誰かと働く」っていうことが何かしらの原因で難しくなっている人もいる。
私が担っていたのはほんの一部ですけど、経験はすべて今につながってると思います。
「ものさし」があるとどんなメリットがあるのか…「4万円の皿、割れてもええ」話
天野
そうやっていろんな方の人生のアップダウンに寄り添ってきたのか…
島田さんは実際、ものさしを持ってどのように“優しく”なれたんでしょうか?
島田さん
そうですねえ。「4万円のお皿、割られても怒らへん」って思えることかな。
私、Twitterのプロフィールにも書いてるんですけど、「家の94%を開放中」なんです。
いろいろどういうことやねん
島田さん
奈良で、家賃が安い家を借りたんですよ。ノリで。
そしたら奈良に住んでる知り合いの高校生が「Wi-Fi貸して」とか言って来るようになったんです。
「友だち呼んでいい?」みたいになって、もうカギを渡すわと。「あなたも、信頼できる人なら勝手に呼んでええよ」と。
天野
ほんとに開放してる…
島田さん
どんどんいろんな人が来るようになって、「洗濯物取り込んどいたで」とか「うちの庭でできたレモン、親が持っていけって」とかいうふうになってきて、これは素晴らしいなと(笑)。
でね、うちにお皿好きの同居人もいて、「4万円のお皿」が家にあるんですよ。
でも、中高生たちがワチャワチャして、「割れたらどうするん?」って思うじゃないですか。
天野
はい。
島田さん
もちろん割れたら悲しいけど、でも、私も同居人も「割れたら割れたでええわ」って言うんですよ。
…そこでやっと「ものさし」が出てくるんですけど。
私の母が、ここ数年「金継ぎ」にハマってるんですよ。
※金継ぎ(きんつぎ)=破損したお皿などを、漆と金属で修復する技術
島田さん
それで私は、日本に金継ぎという技法があることを知って、「金継ぎされてるお皿ってステキ」っていうものさしも知ることができたんです。
天野
あっ、たしかに絶妙に金継ぎされたお皿は、割れる前より価値が上がるって聞いたことあります。
島田さん
それを知らないと「割れたらお皿の価値が下がる」と考えるから悲しみや怒りが強くなると思うんですけど、「金継ぎステキ」っていう価値観のものさしを持っていれば、たとえ割れたとしても、解決策を知ってるからそんなにへこまない。
これって「いろんなものさしを持っていれば人に優しくできる」ってことやなと思うんです。
なるほど…ものさしスゲエ
島田さんが教えてくれた「ものさしの増やし方」
天野
島田さんのような仕事をしていたり、暮らし方をしてたりしたらいろんな人に触れられると思うんですが…
会社という同質な人が集まる場所にだけいると、「ものさし」を集めるのは難しいんですかね?
島田さん
私も昔はそう思ってたんですけど、ものさしって“人が大事にしている尺度”のことやから、いろんな人が「本気で向き合ってる仕事の現場」を見ることでも増やせると思うんですね。
たとえば、こういうペンを見ただけで、私はエモーショナルな気持ちになるんですよ。
エモーショナルとは無縁の文具に見えますが…
島田さん
このペンのフタに「ぽっち」がついてるの知ってます?
小さい「ぽっち」がついてて、平らな机でも転がっていかないんです。(転がしてみて)ほら。
天野
ほんとだ。考えたことなかったです。
島田さん
これって、ある種の優しさだし、「誰かの本気のものさし」によって作れられたものじゃないですか。
何十年もペン工場で働いてる人は、「どうやったら転がらないペンにできるか」「どういう顔料だと文字が読みやすいか」「どれぐらいの太さだと持ちやすいか」とか、私たちには想像もできない「本気のものさし」を持ってるわけなんですよ。
天野
なるほど…職人さんならではの細かいこだわりが…
島田さん
私はもう「ものさしを増やす」のが趣味なので、仕事で工場の職場見学をしたときも、「自分のものさしを増やそう」と思って、集めてるんです。
私たちにははかり知れないものさしを持って働いてる人がいるって思うだけで、急にエモーショナルに感じるんですよ。
急に泣き出して、「アンタなんで泣いてんの!?」ってビックリされますけど(笑)。
皆さんも、お手元のペンを転がしてみてください
島田さん
そういうものさしを蓄積していくと、お得やと思います。
いろんなことに気付けたら企画でも営業の仕事でも、お得ですよ。
「私のnoteも、アウティングや」“感動”を見つけるときに、注意してほしいこと
天野
「ものさし」のお話、ありがとうございます。
最後に、いろいろなものさしを集めて感受性を高めていくことの、注意点などあれば教えてください。
島田さん
私も失敗ばっかりなんですけど、人が大事にしてる価値観を知っても、それを公にするときは気をつけるってことですよね…
自分の“感動”がもとで「アウティング」になってしまうことがあるので、本当に気をつけないと。
※「アウティング」とは、本人が秘密にしたいことを暴露してしまうこと。LGBTを暴露されるような文脈でも使われることが多い言葉です
島田さん
ある人のエピソードで、自分は感動した!と思って美談のように発信しても、本人にとっては全然面白くも感動でもない、「美談として扱ってほしくなかった」ってことはある。
私は、父について書いたnoteもアウティングやと思ってるんです。
島田さんの代表作も…
島田さん
父は当時、警備員してたことを誰にも言ってなくて、知り合いに会いそうな場所ではヘルメットを深くかぶってたって聞いて…
「家族でもあかん、これはアウティングやな」と思いました。
天野
“書く仕事”じゃなくても、社内チャットやメール、SNSへの投稿で、それをしてしまう恐れはありますよね…
島田さん
そうなんですよ。
父は、最終的には「どんな仕事でも誇れるんやな。隠したいと思ってたことでも、公にしてみんなに褒めてもらえて、気持ちが晴れることもあるんやな」って言ってくれたんですけど。
やっぱり、人の大事にしている部分に触れるときは、そういう配慮はすごく必要なんだと思います。
天野
今日は島田さんの“愛”を感じるお話が聞けました。
島田さんは愛のある方で、だからこそ家に人が集まってきたり、ユニークなエピソードも集まったりするんですね…
島田さん
愛! ほんまですか、うれしい。
こんなんでよかったですかね?
感受性や、人生的な“深み”は、特殊な経験をした人だけが身につけられるものなのかも…とどこかで思っていました。
しかし、島田さんの口から出てきたのは「ものさしを集めて、人の価値観に寄り添う」という言葉。
我々は島田さんの能力を、「ものさし集め力」と名付けさせていただくことにしました。まあ、若干語呂が悪いですが…。
“自分の言葉で語りたい”と感じている方は、まずは自分が今持っている「ものさし」を意識してみるといいかもしれません。
あのビジネスパーソンの「○○力」
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