ビジネスパーソンインタビュー
世界規模で盛り上がるWell-being推進の機運
その人の主観で考える、持続的な良好状態って?GDPを超えた、“新たな指標”の必要性
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人も多いはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
今回はパーソルホールディングスが4月に新設した「はたらくWell-being推進室」の中山友希室長に、Well-beingの歴史とその価値が重要視されるに至った背景について聞いてみました。
インテリジェンス(現パーソルキャリア)入社後、営業を経て経営企画、事業企画を担当。2018年にパーソルキャリアのミッション策定プロジェクト担当としてアンカースターへ出向。帰任後は対外的なミッション浸透のため、産官学とのパートナーシップを推進。2020年からはパーソルのグループビジョン「はたらいて、笑おう。」実現に向け、はたらく領域におけるWell-beingのグローバル指標策定、浸透に取り組む。2023年4月に新設されたはたらくWell-being推進室長に就任
身体的、精神的、そして社会的にも良好な状態
――(編集部)今回もWell-beingについて教えてください。
中山さん
はい。SDGsなどと比較するとまだまだ知名度があるとは言えませんが、Well-beingは今後、確実に注目されてくる領域だと思います。
――(編集部)そもそもWell-beingっていつくらいから注目されたんでしたっけ?
中山さん
Well-beingは、もともとは「健康的な・幸せな」を意味する16世紀のイタリア語「benessere(ベネッセレ)」を始源としているって言われているんですよね。
ただ、Well-beingという言葉自体は、1946年のWHO(世界保健機関)設立に際して、設立者の1人であるスーミン・スー博士が定義づけした「健康」にはじめて登場します。
英語の原文では以下のように記載されていますね。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
訳:健康は、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない(出典:厚生労働省 昭和26年官報掲載の訳)
――(編集部)肉体的な健康だけじゃなくて、精神的なことまで内包した概念として取り上げられているって感じですかね?
中山さん
そうです。従来の健康が身体的に良好な状態を表す狭義の概念であるのに対し、Well-beingは身体的、精神的、そして社会的にも良好な状態と、より広い概念を表しています。
また、「状態」としていることからわかるように、一時的・瞬間的に良好かどうかではなく、持続的に良好であるとしていることもその特徴です。
幸せと訳されることの多い「Happiness」は一時的・瞬間的な精神的な面での幸せを表しますが、Well-beingはこの「Happiness」を包み込むような一段大きな概念です。
この話は連載第一回目でもしましたよね!
「客観的Well-being」と「主観的Well-being」
中山さん
私たちにとってなじみのある統計の一つに、経済の指標であるGDP(Gross Domestic Product/国内総生産)があるじゃないですか。
国の経済的な豊かさを表す指標で、各国政府の政策実行の目的として広く使われているんですけど、ほかに代替する指標がなかったことから、人々の生活の質がどれくらい向上しているかといった、豊かさや幸福度を計測するときにも使われていたんですよね。
ただこれでは十分ではないという議論は早くからあったんです。1970年代にブータンが幸福度指数を導入したことで国際的な注目を集めましたよね。
――(編集部)「幸せの国ブータン」!確か国民の幸福度が日本よりはるかに高いんでしたよね。でも、「最貧国に近いブータンの国民が日本人よりも幸せなんてありえるのか?」っていう批判も結構あったような気がします。
中山さん
Well-beingには「主観的Well-being」と「客観的Well-being」の2種類があるんです。「主観的Well-being」とは、一人ひとりが自分自身で感じる認識や感覚によって見えてくるものです。
「いい状態かどうか」という感じ方は人それぞれで異なります。それを測る指標として、「人生への幸福感や満足感」「生活への自己評価」「うれしい、楽しいなどの感情」などが挙げられます。一方で「客観的Well-being」は、客観的な数値基準で把握できます。
たとえば、平均寿命や生涯賃金、失業率やGDP、大学進学率や収入に占める家賃の割合、労働時間や有休取得率。もっと言うと、人と関わる時間や保育所待機児童数、育児休業取得者数、介護時間など、そうした統計データで測れるものです。
長い間、人々のWell-beingは客観的な指標でしか語られていなくて、その人の主観的な観点や実感みたいなものが抜け落ちている状態だったんですよね。
いくら客観的によいとされている状態でも、その人自身の主観でよいと実感できていなかったら、Well-beingな状態とは言えないんです。
――(編集部)なるほど…
中山さん
話を戻しますと、長い間、GDPが人々のWell-beingを図る指標として使われてきました。
2007年に欧州委員会、欧州議会、ローマクラブ、OECD、WWFによる「Beyond GDP」の国際会議が開催され、「GDPを超えた新たな指標が必要だ」という認識が示されました。
この会議はWell-beingという新しい価値観が注目を集める契機になりました。
2012年には、国連からWorld Happiness Report(世界幸福度報告)が発行されることになります。このレポートで毎年150を超える国や地域で調査がおこなわれ、今日では世界中の人々のWell-beingを可視化する指標のひとつとなっています。
2015年9月に開かれた国連サミットでは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsが採択されました。現在、日本も積極的に取り組んでいるSDGsでは17の目標が掲げられていますが、その3つ目の目標に以下が定義されています。
「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」―「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」
SDGsの中にもWell-beingがある
――(編集部)とりあえず、2030年まではSDGs達成のために頑張ろうという風潮なんですね。
中山さん
ここからはあくまでも私の私見なんですけど、Well-beingはむしろ2030年以降にその重要性が高まっていくのではないかと考えているんです。
少子高齢化が進み、労働人材が不足してくるなかで、企業は従業員の多様性を尊重し、最大限力を発揮できる環境を整えることが求められるようになります。
ですので、今後もWell-beingの考え方を踏まえた形で、労働関連の法律見直しや各企業における制度整備が進められていく可能性が高いです。
――(編集部)コロナ禍ははたらき方や生き方を見直す機会にもなりました。
中山さん
リモートワークが一般化したことで、生活スタイルが変化したことが大きいですよね。
ステイホームが推奨されていた時期に孤独感を感じたり、リモートワークやオンライン会議が急激に増えたりすることは、自身のライフスタイルについて見直す機会になったと思います。
自身のWell-beingの重要性について、再認識する人も増えたのではないでしょうか。
――(編集部)確かに、今後Well-beingがより一層の注目を集める可能性は高そうですね。
中山さん
2025年には日本で大阪・関西万国博覧会が開催されます。
この万博では「持続可能な社会の実現」がテーマの一つとして掲げられており、Well-beingを追求することが持続可能な社会の実現につながるというメッセージが発信される予定です。
世界中から訪れる人々がWell-beingについて考える場が提供されることは、一つの契機にもなりますので、まずはそこを目標として日本におけるWell-being推進の機運を盛り上げていきたいですね!
パーソルグループが推進する はたらく“Well-being”についてはこちら。
「“はたらくWell-being”を考えよう」
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