ビジネスパーソンインタビュー
「死ぬほどお客さんの気持ちを考えました」
「ファイア」のペットボトルコーヒーが逆境のなかで大ヒット。箕輪厚介も納得したその理由とは?
新R25編集部
発売から2カ月で2000万本。驚異的なペースで売上を伸ばしているペットボトルコーヒー「キリン ファイア ワンデイ ブラック」。
「どデカうまい。」「常温でもうまい。」とキャッチーな魅力を打ち出している同商品ですが、ペットボトルコーヒーでは最後発。レッドオーシャンとも思われる“逆境”な市場で、ここまでのヒットを生み出せたのはどうして?
その秘訣を探る対談相手にふさわしい人がいないかと考えていたところ…
いました!
“逆境”の出版業界のなか、大ヒット書籍を次々連発する幻冬舎の編集者、箕輪厚介さんです。
箕輪厚介さん(写真左)とキリンビバレッジ株式会社マーケティング部主任の山中進さん(写真右)
今回は、このお2人に「逆境からヒットを生む仕事術」というテーマでお話しいただきましょう。
逆境でも挑戦しようと思えたのは、“届けたい人の顔”がはっきり見えたから
箕輪さん
ペットボトルコーヒーって今たくさん出てるじゃないですか。僕、ぶっちゃけなにが違うのかわからないんですよね…(笑)
箕輪さんらしい率直な本音から取材がスタート
山中さん
では、「ファイア ワンデイ ブラック」のコンセプトからお話しさせてください。
箕輪さん
ぜひ。
山中さん
最近、働き方改革で仕事の生産性をあげようと言われてますけど、それでも日々忙しく頑張っている人って多いと思うんです。
そうやって頑張って働く人の火を消さないように、励ましてあげられるような商品をつくりたいという想いからファイア ワンデイ ブラックはつくられました。
※ファイアブランドそのものは20年前に缶コーヒーからその歴史をスタート。「火の力で引き出したコーヒーのうまさで、人の心に火をつける」というコンセプトからはじまっています。
箕輪さん
あ〜それ、いい!
効率よく働いて定時に帰っている人がいるなかで、1人オフィスに残って「俺はまだ頑張るぞ! もっとやれる!」って気合いを入れている人が、デスクで今朝買ったファイア ワンデイ ブラックを飲む感じですよね。
山中さん
そのとおりです(笑)。
箕輪さん
「これなら多くの人が買う」と思って企画されたものってだいたいスベるんですよ。
でも、たとえニッチでも、「あの人なら絶対買う」と届けたい相手の顔まで具体的に想像できた商品がドーンと売れたりするんですよね。
山中さん
そうなんですね。実は、僕たちも実際にキリンの社員で届けたい人物を設定していました。
仕事を頑張っている誰かがデスクの上にお供のようにファイア ワンデイ ブラックを置いて、1日かけて飲んでほしい。デスク以外でも鞄に入れて持ち歩いたり、移動中にも飲んでほしい。
それには、机の上で倒れてしまう不安がある缶コーヒーも、飲み口が広くて鞄の中で漏れてしまいそうな不安があるボトル缶コーヒーも向いていないんです。
山中さん
そして、「帰るときに飲んでもまだおいしければ、明日も買いたくなるよね」と考え、「デカくて、常温でもおいしい」ペットボトルコーヒーを目指しました。
届けたい人の姿を明確にイメージできればたとえ後発で逆境のなかだとしても、お客さんが求めるものを提案すれば必ず受け入れてもらえるはずだと信じていました。
箕輪さん
大事ですね。
山中さん
だからこそ、お客さんの声に徹底的に耳を傾け、死ぬほどお客さんの気持ちを考えました。
パッケージデザインや味はもちろん、容器も鞄に入れやすく、車のドリンクホルダーにも入る形状にしています。
一番の特徴と言える容量も、競合より大容量にすることが目的ではなくて「飲みたい容量」と「重すぎず、かさばらなくて持ち歩きやすい容量」のバランスから600mlという設計にしているんです。
市場や数字を分析しているだけでは、ヒットは生まれない
箕輪さん
今の話、ヒット本をつくるときも同じです。
「出版物の売り上げが毎年下がっている」という事実だけをみると未来がないように思われますけど、本当にヒットが出るときって、そこはあまり関係ないんですよね。
「他の本がこうだから」ではなく、一人ひとりの気持ちを想像して「この人は、どういうときに本を読むんだろう?」と考える方がよっぽど大事。
箕輪さん
実際に僕が編集しているビジネス本は売れてるんですけど、賢い人が読むと「内容が薄い」と感じることもあると思うんです。
でも今のビジネス本って、スマホに慣れた若者にとっては長くて読み切れない。
山中さん
たしかに、それはすごくわかります。
箕輪さん
そこの“不”を想像して、「1時間くらいで読めるビジネス本があればいいんじゃないか?」というイメージで本をつくる。結果それがヒットしてるんです。
山中さん
実は僕、2年前に営業からマーケティング部に異動してきて、はじめて開発を担当したのがこのファイア ワンデイ ブラックなんです。
正直、知識もあまりなかったので、営業で培ってきた消費者のリアルな反応を想像するしかないと思ったんですよね。
だからこそ、「競合とどう差別化できるか」ではなく、「本当に届けたいのは誰か」という想いから考えることができていたのかもな、と。
箕輪さん
まさにそれが大事ですよね。オリジナルなものは、数字で分析するのとはまったく違う市場から生まれるんです。
そして、「無理だと思ったのになんか売れてる!?」ってみんなが騒ぎだすっていうのが世の常。
箕輪さん
ヒットを出したければ、市場の数字を分析するより、届けたい一人ひとりに向き合うことにエネルギーを割くべきなんですよ。
誰か1人が異様な熱を持ってまわりを巻き込むプロジェクトが成功する
山中さん
実は、最初にファイア ワンデイ ブラックを重要な会議にあげたときは、企画が通らなかったんです。
悔しかったので今でもPCに保存しているんですけど、上司から「賛成してくれる人が1人もいなかった」というメールが届いて。
箕輪さん
そんな逆境からのスタートだったんですね。大きい会社のなかでそれは、めっちゃ孤独だな…
山中さん
でも、今振り返るとそれが逆に良かったのかなとポジティブに考えています。
新しく注力商品を発売するときって、全社で大規模なプロジェクトを発足させるんですけど、そうなると「プロジェクトがあるからやる」という考えになってしまって、成功できる気がしなかったんです。
箕輪さん
それ、めっちゃわかります。
僕もはじめからフレームが決まっていて、関わる人が多すぎるプロジェクトだと自分が当事者にならないから全然テンション上がらないですもん。
山中さん
…ただ、マイナスからのスタートだったので、幸いにも(?)大規模なプロジェクトは発足しませんでした(笑)。
売れてよかったです(涙)
山中さん
だからこそまず自分が本気になって、関わるメンバー1人ずつ火をつけていこうと思ったんです。
だれか1人が「いいじゃん」って言いはじめると、やっぱりそれが伝染していくんではないかなと。
箕輪さん
大きなプロジェクトや大規模PRみたいな盛り上げ方は一時の追い風にはなるけど、本気の当事者を増やさないと、一瞬で去っていくムーブメントになってしまいますよね。
やっぱり継続して人を巻き込むには、孤独であっても誰かが異様な熱を持って、一人ひとりに火をつけていくことが必要。
ファイア ワンデイ ブラックがそこからはじまっているというのは成功の大きなポイントだと思います。
試作は1000本超え。そこに込められた“想い”はマネできない
山中さん
とくに中味の開発は、商品開発研究所の担当者の想いが商品に向いていなければ乗り越えられませんでした。
最初のひと口も最後のひと口も、「1本飲み終わって“おいしい”と感じてもらうことを当たり前にする」というミッションでコーヒーの開発をはじめたのですが、これがキリンとしてもはじめての挑戦で…
山中さん
気がついたら試作が1000本を超えてたんですよね。
箕輪さん
1000本!?
山中さん
中味開発の担当者も本当にツラいなか、想いを持って頑張ってくれて。あとから聞いた話なんですけど、担当者のモットーは「妥協は死」らしくて。
箕輪さん
めっちゃかっこいい(笑)。
そんな苦労も知らずに、「ウチも常温でもおいしいものをつくろう」と浅はかに考える会社がでてきそう(笑)。
山中さん
ははは(笑)。
これには苦笑いの山中さん
箕輪さん
でも、「頑張っている人の心の火を絶やさないようにしたい」という想いはワンデイ ブラックだけなので、他がマネしても同じものはできないんですよ。
山中さん
そう言ってもらえると心強いです。
箕輪さん
やっぱりね、超個人的な悩みや想いから出てきた企画こそヒットするんです。
出版業界でもダメな編集者って、売れ筋ランキングを見て似たような企画を出したり、売れている本の傾向からデザインを決めたり、データにばかり向き合おうとするんですけど、本質はそこじゃないんですよね。
箕輪さん
「今までの業界の常識なんてどうでもいい」と思えるくらい、心から自分がやりたいと思えているかどうか。それがすべてですよ。
世の中が変わっても、“人に深く刺す”ものづくりに大切なことは変わらない
箕輪さん
特に大企業だと、上司や社内に“Yes”と言ってもらうための仕事をしちゃう人ってすごい多いじゃないですか。
もちろん、届けたいものを世に出すために必要なこともありますが、それはあくまでステップであって目的ではないですよね。
箕輪さん
目的がそこになると、本来自分が持っていたピュアな想いがなくなって、稟議を通すためだけの商品が生まれてしまう。
そうすると、本来届けたいと思っていた価値からは乖離してしまうんですよね。
山中さん
僕たちは、会議でバチバチに議論することも多くて。議事録を読んだ人から「山中、ケンカしたのか」って心配されたり(笑)。
でも、「とにかくお客さんだけを見ましょう」と言っていたので、本音でぶつかり合って前向きな議論ができていました。
箕輪さん
やっぱり、そこですよね。
僕、自分の本をどれだけ批判されても平気なんですよね。なぜなら、自分が届けたいのはそういうことを言ってくる人じゃないから。
分厚いビジネス本を読むのが苦手な若い世代に、「ステージに立つことがかっこいいんだ」と思ってもらうまでが自分の仕事なんです。
箕輪さん
そう思わせるには、時代の第一線で活躍している人の熱量を本でわかりやすく伝えるのが一番なんです。
さらに言えば、僕自身がチャレンジして、ステージに立っている姿を見せるべき。だから歌手デビューもしました(笑)。
「アイツ何やってんだ」と思われても、僕のなかでは届けたい人が明確なんです。だから、どれだけ批判されても仕事の方向を見誤らない自信があるんですよね。
山中さん
そう考えると、僕たちが見誤らなかったのは、キリンに“ものづくりの精神”が流れているからかもしれません。
たとえば、2016年に期間限定で発売したキリンビールの「47都道府県の一番搾り」。これも地域ごとに、「その土地の風土で楽しめる味わいはなにか」という議論を重ねてようやく実現しています。
※現在は製造を終了しております
山中さん
「手間がかかっても、本当に求められるものを追求する」というDNAが根底に流れているからこそ、諦めずにファイア ワンデイ ブラックまでたどりつけたと思っています。
箕輪さん
世の中が変わって働き方が多様になっても、“人に深く刺す”ために大事なことって変わらない。
それが、普通の人ならが諦めてしまいそうなときでも諦めないことだったり、孤独であっても自分の想いを貫くことだったりするんですよね。
…ってあれ? これまさにファイアが応援したい人じゃん!
最後はキレイに締めていただき、ありがとうございます(笑)
取材時にいただいた「ファイア ワンデイ ブラック」ですが、取材が終わるころにはすっかり常温に。
「本当においしいのかな…?」と思って飲んでみると…たしかに、ぬるいのに香ばしい!
デスクの上にはシルバーのペットボトルを置いておきたいです。
山中さん、キリンさん、諦めないでくれて本当にありがとうございます!
〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
みのわトレンド総研
「自分も昔は会社のこと愚痴ってた」箕輪厚介が「転職同期」に投稿された質問トップ3に回答
新R25編集部
Sponsored
「これは“本気”が伝わりますよ」薄毛の悩みゼロの箕輪厚介も共感した「スカルプD ミノキ補償制度*」
新R25編集部
Sponsored
「これなら“罪悪感に悩まない糖質制限”ができそう」健康に気をつかう箕輪厚介に朗報!
新R25編集部
Sponsored
「25歳で結婚してなかったら、僕は何者にもなってなかった」箕輪厚介と考える“20代の結婚”
新R25編集部
Sponsored
「時代に合った“ボケの外注”ツールだ」箕輪厚介が唸ったカプセルトイ『TAMA-KYU(たまきゅう)』の魅力
新R25編集部
Sponsored
「本業のスキルで遊んでほしい」"社員5人、副業者60人"スポットメイトの働き方に箕輪厚介が共感
新R25編集部
Sponsored
ビジネスパーソンインタビュー
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部
「俯瞰するって、むしろ大人ではない」“エンタメ鑑賞タスク化してる問題”に佐渡島庸平が一石
新R25編集部
社内にたった一人で“違和感”を口にできるか?「BPaaS」推進するkubell桐谷豪が語るコミットの本質
新R25編集部
【仕事なくなる?そんなにすごい?】“AIがずっとしっくりこない”悩みへのけんすうさんの回答が超ハラオチ
新R25編集部
情報はインターネットがベスト、という考えに異を唱える。学生発信「金沢シーサイドFM」の挑戦
新R25編集部
いろんな仕事をこなす「ゼネラリスト」は目立てない? サイバーエージェント2年目社員の悩みにUUUM創業者が喝
新R25編集部
スモールビジネスの課題“3つの分断”に挑む。freeeによるプロダクト開発の基盤「統合flow」を発表
新R25編集部