ビジネスパーソンインタビュー
若者の消費の変化についてはどう思ってる?
家入一真が考える「お金が集まる人」の条件は、“サッカーでボールが回ってくる人”と同じ!?
新R25編集部
「パイの実を食べてるときみたいに、突然お金がゼロになったんです」
20代で上場後に散財していた当時のことを回顧するこんな名言を残し、ロッテさんからパイの実が送られてくるという結末になった「家入一真×マネ凸」前編。
前編とはうってかわって真面目モードの後編では、現代の若者の消費行動の変化、そして家入さんが考える「お金が集まる人の条件」について語ってもらいました。
〈聞き手:渡辺将基(新R25編集長)〉
若者のお金の使い方に変化が。なぜ寄付文化が根づいてきた?
渡辺
最近、クラウドファンディングのプロジェクトを見ていても、明らかに昔よりお金が集まるようになっているなと感じます。
箕輪さん(幻冬舎の編集者)が「財布なくした」って騒いだら『polca(※)』で数万円集まるとか、ちょっと前までなら考えられなかったと思うんですが。
※『polca』とは、やりたいことを思いついたらカンタンに企画を立て、必要な金額を身近な友だち同士で集めることができるフレンドファンディングアプリ(フレンドファンディングとは、友だち=friendと、資金調達=fundingを合わせた造語)。
家入さん
新しいですよね。財布なくしても生きていける、みたいな。
渡辺
でも、僕も『note』に書いたコンテンツに投げ銭をしてもらったことがあるんですけど、こういうお金の使い方って、ここ最近になって加速してきた気がします。
しかも、こういう消費をしているのはけっして高所得層というわけでもない。
家入さんに、この変化をどう捉えているのかを聞きたいなと。何が原因で若い人たちの消費の価値観が変わってきているのか。
家入さん
まずはインターネットに常時接続されたスマホというデバイスをみんなが手に入れて、SNSを通じて日頃からいろいろな人の人格に触れられるようになったという点が大きいと思います。
ただ、そもそもの消費の形も変わってきていますよね。
渡辺
というと?
家入さん
「モノを買うためにお金を払う」っていうのはわかりやすい消費ですけど、最近はいいモノが安く手に入ったり、シェアで済ませられるようになってきたりしてるじゃないですか。
そうなると、「じゃあこれ以上お金を払って欲しいものってあるんだっけ?」ってことにみんな気付きはじめてると思うんですよ。
渡辺
なるほど。僕の近くにいる若い人たちも、あまり物欲ないですね。
家入さん
同感です。
僕のまわりにいる大学生とかウチの会社に入ってくる若い子たちと話をしていても、自分がどう社会に関わっているのかとか、自分たちがやろうとしていることにどんな社会的意義があるのかとか、そういったところに重きを置いている感じがします。
モノが欲しいからお金を払うんじゃなくて、つながりが欲しいからお金を払う、応援したいからお金を払うみたいに、消費の対象がよく言うところの「モノからコトへ」にシフトしてきていることを実感しますね。
稼ぐだけじゃなくて、生活コストを抑える仕組みもつくっていきたい
家入さん
ただ、箕輪さんみたいにオンラインサロンや『polca』で大きな支援を集められる人ってほんの一部だと思うんですよ。
「アフィリエイトブログやクラウドソーシングで月収100万円になりました」みたいな人も少ないはずで。
渡辺
そうですね。
家入さん
でも僕はそれでいいと思っていて。
もっと本質的に大事なのは、『note』で毎月1万円入るようになったとか、クラウドソーシングで月3万円稼げるようになったとか、そういうふうに個人が“小さくお金を稼ぐ手段”がたくさん増えたことだと思うんですよね。
渡辺
プラスの変化とはいえ、まだまだお小遣い程度のお金という気もしますが…
家入さん
いまだと月3万円じゃ暮らせないですけど、シェアハウスに住むとか地方に引っ越すみたいな選択肢がもっと増えていくと、今後それぐらいのお金で生きていける生活圏ができると思うんです。
そうなれば、東京の家賃の高いマンションに住んで朝から夜遅くまでヒィヒィ言って働く生き方から脱却できるかもしれない。
渡辺
なるほど。
家入さん
たとえばゆるく開発の仕事をしながら、シェアハウスに暮らして畑を耕すみたいな生活のほうが幸福度は高いんじゃないかなって、最近ちょっと思うんです。
渡辺
本当はそうかもしれませんよね。ただ、いまはほとんどの人にその選択肢がないのかなと。
家入さん
なので僕は、個人が小さく稼ぐことができる世の中になってきているからこそ、これからはコストを下げるっていう観点が必要だと思っていて。
「人生定額プラン」でもっと生活費を抑えて生きていける仕組みをつくっていきたいんですよね。そのひとつが『リバ邸(※)』というシェアハウスだったりします。
※「リバ邸」とは、「現代の駆け込み寺」をコンセプトに掲げて各地に展開しているシェアハウス。住みたいと思った人同士が自主的に集まり設立・運営しているため家賃は安く、都心部でも月3万円前後で住むことが可能になっている。
バーニングマンに参加して実感した「ギブ・アンド・ギブ」文化の魅力
家入さん
ちょっと話が変わるんですけど、数年前に「バーニングマン」っていうお祭りに行ってきたんです。知ってますか?
渡辺
いや、知らないです。
家入さん
ネバダの砂漠で1週間かけて開催されるイベントなんですけど、毎年7万人ぐらいが参加するんです。しかも、みんな全裸で。
渡辺
え。じゃあ家入さんも…?
家入さん
僕も全裸で行きました。日本人はほとんどいなかったですけど。
渡辺
全裸になって砂漠で1週間過ごすんですか?
家入さん
そうです。かなり過酷なイベントです。
食料は全部自分たちで持っていかなきゃいけないし、寒暖差も激しいので毎年死人が出るくらいで。
渡辺
いや、ホントにめちゃくちゃ危険じゃないですか…
家入さん
バーニングマンは元々ヒッピー発祥のイベントで、独自のルールというか文化がたくさんあるんです。そのなかに「ギブ・アンド・ギブ」的なものがあって。
“ペイフォワード”とか“恩送り”とも言ったりしますけど、これは自分たちのために持ってきた水とかご飯は自分たちで消費せず、かつ物々交換するでもなく、一方的に与えようっていう思想なんです。
渡辺
物々交換もダメなんですか。
家入さん
はい。たとえば、喉が渇いたときに通りかかった人が水をくれたりするんですけど、その人にお返ししちゃいけないんです。一方的に与えられるだけ。
渡辺
へぇ〜、そんな文化が。
家入さん
だから、自分で持ってきた飲み物やご飯をどんどん人にあげていくわけです。
そうすると当然自分たちの分がなくなっちゃうんですけど、それがぐるっと回って、最終的にまた僕らも知らない誰かからもらえるんですね。
そうやって1週間生き延びようというコンセプトのお祭りなんです。
渡辺
壮大な社会実験の場みたいになってますね。
実際に参加してみて、そういう(ギブ・アンド・ギブ)文化の魅力はどこにあると思いましたか?
家入さん
ギブ・アンド・テイクって、1対1の関係で終わっちゃうじゃないですか。私はお金を払いました、相手はサービスを提供してくれました。以上。
渡辺
はい。
家入さん
一方でギブ・アンド・ギブは、見返りを求めずに与えることで、与えた恩がどこまでも続いていって、最終的に自分もその恩恵に与ることができるんです。
渡辺
なるほど、参加者全体でひとつの経済圏ができると。
バーニングマンの体験は家入さんのサービスづくりにも影響を与えているんですかね?
家入さん
そうですね。まだまだ小さなサービスですけど、『polca』もギブ・アンド・テイクじゃなくて、ギブ・アンド・ギブでつながっていくサービスだと思ってます。
そのギブを受け取った人がまた次につなげて、最終的に“polcaの輪”みたいなコミュニティができる。
『polca』でよく支援をしている人は、最終的にその輪の一員になれる権利料を払っているようなものなんじゃないかなと。
渡辺
なるほど。“polcaコミュニティ”への参加費。
家入さん
はい。『polca』に限らず、最近の若い人たちの消費行動の変化は、「お金を払ったからこれがもらえる」みたいな資本主義的なギブアンドテイクだけではこれからの社会は持続していかないよね、っていう危機感に対する本能的な行動なんじゃないかなって思うんです。
渡辺
セーフティネット的なものを求めているというか。
家入さん
そうですね。オンラインサロンやシェアハウスもそれに近いものがあるかもしれません。
家入さんが考える「お金が集まる人」の条件とは?
渡辺
最後に聞きたいんですが、家入さんはどういう人にお金が集まると思いますか?
家入さん
やっぱり…「与えている人」ですかね。
これは哲学研究者の内田樹さんが言ってたことなんですけど、サッカーもボールを回す人にボールが集まってくるんだと。
渡辺
なるほど、たしかに。
家入さん
ゴールを決めるまで誰にもボールを渡さずに突っ込んでいくみたいな人には、誰もパスを回さなくなるよねと。
それを違う言葉で表現すると「評価経済」とか「贈与経済」みたいな言い方になるんでしょうけど。
渡辺
家入さんがいう「与えている人にお金が集まる」ということの意味は、「与えた相手から直接見返りがある」ということではなく、バーニングマンのように「見返りを求めずに与えている人に最終的にはお金が回ってくる」ということでしょうか?
家入さん
そうですね。
常日頃まわりに与えている人は、毎回それを期待してやっているわけではないと思うんですけど。
渡辺
ちなみに、家入さんのなかに「与えるものはこういうものであるべき」みたいな考えはあるんでしょうか?
家入さん
それは何でもいいと思うんです。
お金や実利につながるモノじゃなくてもよくて、たとえばNPOでボランティアをやっているとか、もっというとTwitterで有益な情報を発信しているとかだっていいんじゃないですかね。
渡辺
なるほど。
家入さん
そうやって普段から不特定多数の人たちに対して何かを与えている人には、いざ困ったときに力になってくれる人たちが一定数現れるんじゃないかなと思ってます。
渡辺
バーニングマン以外で、実際にそういう“ギブが回ってくる”流れを実感したことはありますか?
家入さん
僕がシェアハウスをやるきっかけになった高木新平ってヤツがいて。
彼は「トーキョーよるヒルズ」というコミュニティ型のシェアハウスを立ち上げて、そこのリビングで1年間毎晩イベントをやってたんです。
累計で2000人ぐらいがその部屋に訪れたんですけど、その結果何が起きているかっていうと、いま彼はどの地方にいっても泊まる家があるんですよね。
渡辺
どういうことですか?
家入さん
そこに来た子たちがUターンやIターンをして日本全国にいるので、彼が地方に行くと「じゃあウチに泊まっていきなよ」みたいな感じになっていて。
彼がずっと与えてきた結果として、いま日本中に住む場所があるんです。それってすごい面白いことだなと思って。
渡辺
それはすごい。でも本人はそんな状況になるとは予想もしていなかったでしょうね。
家入さん
だと思います。
渡辺
現在の事業にもつながっている家入さんのお金の価値観、大変参考になりました。
はじめは「この人、お金の貧者かも…?」などと思ってしまい失礼いたしました…
最後に、この連載お決まりの一筆をお願いします。R25世代へのお金のアドバイスをぜひ。
家入さん
色紙書くって性格出ますよね。
渡辺
そうですね。
ちなみにこれ、読者プレゼントしたいです。
広報・たけべさん
社員でこぞって応募しましょう。
家入さん
ウチの社員は僕に興味ないんですよ。
渡辺
そんなことないんじゃないですか?
家入さん
いや、みんな僕のインタビューとか見てないんですよ。ホントに。
広報・たけべさん
それは正直そうですね。
家入さん
ヒドイですよね。
…あれ、やばい。漢字がわからない。
実はこの連載、ほとんどの賢者が色紙を書く際に漢字をスマホなどで調べています
家入さん
…よし。こんなんでどうですかね?
「得たければ 与えることから 始めよう」
渡辺
バッチリだと思います。ありがとうございました!
自らが成功を経験しつつも、生存バイアスに抗い、弱者に寄り添うようなプラットフォームをつくろうとしている家入さん。
等身大な発信とあわせて、彼が愛される理由がよくわかりました。
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