企業インタビュー
画像認識AI技術でがんを早期発見、東大卒の医師が手がけるスタートアップの物語
エリート街道から逸れてまで、世界を変えていく挑戦
新R25編集部
今、胃がんの早期発見に有効な技術として「内視鏡画像診断支援AI」が注目を浴びています。
専門医でも診断が困難だという「早期胃がん」を中心に内視鏡検査データを大量に学習させたAIが、内視鏡検査中に診断をサポートしてくれるそうですが、そのAI技術を世界に広めたいと取り組んでいるのが、「株式会社AIメディカルサービス」の代表取締役CEOの多田智裕さんです。
医師でもある多田さんの著書『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』(東洋経済新報社)は、Amazonや書店などでヒット中。
1年半余りの時間をかけて書き上げたという、多田さん流“成功への法則”の一部をご紹介します。
〈聞き手=池田さのみ(新R25編集部)〉
AI技術で医療をもっとスマートに
多田さん
「株式会社AIメディカルサービス」は、2017年に設立したスタートアップ企業です。
私はもともと東大病院勤務を経て、埼玉で内視鏡専門クリニックを開業。その後、「株式会社AIメディカルサービス」を起業しました。
左)内視鏡専門クリニック 右)AIメディカルサービス
池田
東大病院勤務ってエリートのイメージなのに…どうして起業を?
多田さん
世界でもっと多くの命を救うために、日本がリードする「内視鏡」という分野で、がんの見逃しをなくしたいと思ったからです。
私たちのミッションは「世界の患者を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ〜」。AI技術を活用すればそれが可能になると思っています。
池田
AI技術はどういった場面で活きてくるんですか?
多田さん
人間より画像識別能力が優れているAIを活用することで、素早く正確にがんの発見を行うことが期待されています。
実は自治体が行う胃がん検診においては、見逃しを防ぐために検査画像を2人の医師でダブルチェックしているんです。
これにより見逃しを防ぐことはできているのですが、ゼロなわけではないですし、たとえば私が所属する医師会では1回当たり約1時間で約70人分、3,000枚弱の内視鏡画像を見なければならないので、現場の負担につながってしまっている現状。
池田
そんなに数があったら見逃しちゃいそう…
多田さん
人間は画面の真ん中に意識が集中してしまいがちですが、AIは画面全体を瞬時に解析し、病変を疑う特徴やパターンを網羅的に見つけることができます。
一方で、人間は積み重ねた経験から総合的な判断を下すことや、イレギュラーな状況に臨機応変な対応をすることが得意です。
なので医師とAIが協力して検査を行うことで、がんの見逃しを減らすことができると考えています。
池田
人と比べると、どのくらい正確でスピーディーですか?
多田さん
医師とAIの診断能を比較する研究では、専門医の発見率が37.2%に対して、AIはこれを上回る58.4%。さらに、専門医が画像1枚あたりおよそ4秒かけて判別する一方で、AIは画像1枚あたり0.02秒で判別し、スピードでも圧倒的な差があります。
池田
そんなにスピーディーで、感度も高いのはすごいですね。
多田さん
内視鏡は日本発の技術ということもあり、海外ではまだまだマイナーです。
なので、私はこれを広めるべく、今後も研究を重ねながらグローバルスタンダードへの挑戦を続けていきます。
著書で伝えたい〜6つの行動哲学が変える力に〜
多田さん
私の著書『東大病院を辞めて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』では、スタートアップ・ベンチャー立ち上げのベンチマークとして、研究開発を続けるための会社設立と資金調達、製品の製造・販売に必要な承認を厚生労働省に対して求める薬事承認まで、詳細に書いています。
題材は医療に関してですが…医療関係者、ベンチャー関係者のみならず、ビジネスパーソンから学生の方まで、これから起業をしたいと思っている方、新しいことに挑戦しようと思っている方におすすめできる本ですよ。
池田
どんなところがポイントなんでしょう?
多田さん
これらのプロジェクトを行なっていくうえで、私を支えた「6つの行動哲学」とともに解説しているところです。
池田
6つの行動哲学?
多田さん
はい。本はこのような内容で構成されています。
第1章 目標力――そこそこの目標設定では、そこそこの結果しか出ない
第2章 孤高力――隣を見ない、隣と比べない
第3章 傾聴力――知りたいことは、臆せず聞きに行く
第4章 徹底力――凡事徹底、地味でもやるべきことをやり切る
第5章 連帯力――一人ですべてのことはできない
第6章 確信力――不安は因数分解すればたいしたことはない
池田
たしかにビジネスの世界でも通用しそうな内容ばかりだ…
多田さん
「世界で勝てるストーリーとビジョンがあれば、相当な資金を集め、同じ志を持つすばらしい多くの仲間とともに道を切り開いていくことが可能な」事例のひとつとして、世界を目指す起業家の参考になればと考えております。
池田
具体的にはどんなことが書かれてるんですか?
多田さん
たとえば“目標力”についてですが、私は「そこそこの目標設定では、そこそこの結果しか出ない」と、考えております。
なぜなら、立てた目標が必ずしもすべて叶うことはありませんが、立てた目標以上のことが叶うことはないからです。
池田
甘えた目標だとダメですかね?
多田さん
自分自身に対して思う、限界を超えてストレッチした目標設定をすると、その目標を掲げ、達成したときに得られた満足感は一生続きます。
大きな目標を持って生きること。高い理想を掲げること。これらは、支えてくれた人たちへの礼儀でもあるのではないでしょうか。
高い目標に向かって突き進むことは、周りの人たちへの恩返しにもなるはずです。
池田
あまり意識したことなかったです…
多田さん
また、目標を自分だけのものにせず、同じ志を持った多くの人と共有することで、より素晴らしい多くの仲間に出会うことができます。
私自身も目標を共有していったことで、インキュベイトファンド(スタートアップ支援の投資会社)から、10億円の投資をいただき製品のプロトタイプを完成させることができました。
多田さん
その後も、2019年には総額46億円、2022年にはソフトバンク・ビジョン・ファンドをリード投資家とする総額80億円の資金を調達することができ、投資を受けたということで、日本国内はもちろん、世界にも認知を広げられたと思っています。
今回は“目標力”でしたが、私を動かしている「6つの行動哲学」が、読者にとっても「新しく何かに挑戦したい」という気持ちを湧き起こし、背中を押されるきっかけになれば良いと思います。
高い目標を持つのは、周りへの礼儀でもある
クリニックを開業したとき、多くの優秀な内視鏡医が手を貸してくれましたが、そのときに言われた言葉は、今も私の心に強く残っています。
開業当初から非常勤医として週3回勤務してくれた武神健之先生(現:一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)は、東大の同僚でしたが、彼からは「日本でトップになるつもりがないなら、このクリニックは手伝わない」と告げられました。
また同じく東大で指導を受けていた藤城光弘先生(現:東京大学大学院医学系研究科消化器内科教授)からは、「自分の理想とする医療を実践したいなら止めない。成功もするだろう。ただ、東大から出ていく以上は、何か医療の未来や発展に貢献するような活動をしなさい。東大を卒業した以上はそういう責務があるのだということを、忘れないでほしい」とも言われました。
実際に藤城先生は、クリニック開業後の患者さんが少ない時期に、わざわざ自分のアルバイト先から患者さんを紹介してくださり、密かに応援してくださいました。
幸い、クリニックは5年経たずに年間8000件を超える国内トップクラスの内視鏡検査数を誇るクリニックに成長しました。
現在私はクリニックの院長を信頼できる人物に委ね、理事長として月1~2回臨床現場に立つほかは、AIメディカルサービスの経営に集中しています。高い目標を応援してくれた人たちがいたからこそ、私もゆるぎなく高い目標に向かって進んでこられたのだと思います。
皆さんにも、これまで支えてくれたり、導いてくれたり、応援してくれたりした人がたくさんいると思います。今の力があるのは、自分だけの力ではありません。
何をするにしても、こぢんまりまとまってしまわないこと。大きな目標を持って生きること。高い理想を掲げること。これらは、支えてくれた人たちへの礼儀でもあるのではないでしょうか。高い目標に向かって突き進むことは、周りの人たちへの恩返しにもなるはずです。
「行動哲学」があるから、ビジョンとリーダーシップが輝く
多田さん
今の日本に決定的に足りないものは、より良い世の中に変えていきたいというビジョンとそれを進めるリーダーシップだと思っております。
名だたる経営者の方々が数多くいるなかで、まだまだ精進しなければならないことばかりですが、私が掲げる「6つの行動哲学」があれば、どこにいても、どんな状態でも、必ず成功できると、私は確信しています。
多田さんの「6つの行動哲学」を伺ってみましたが、私自身にも落とし込めそうな内容もあるように思いました。
レールから外れた先に新たな道を切り拓き、自身のビジョンに忠実に行動できる姿には憧れます…。
気になる方はぜひ、書店などで手にとってみてください!
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