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海と都会をつなぐ。「Don’t think. FEEL!」で拓く、長谷川琢也さんの“はたらくWell-being”

海と都会をつなぐ。「Don’t think. FEEL!」で拓く、長谷川琢也さんの“はたらくWell-being”

連載「“はたらくWell-being”を考えよう」

新R25編集部

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらく Well-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

日本食の代表格といっても過言ではない、海産物。日本は世界でもトップクラスの漁獲量を誇っていますが、近年では少子高齢化や過疎化を背景に漁業の人手不足が加速しています。水産庁によると、2003年には約24万人いた漁業就業者が、2020年には13.6万人にまで減少しました。

そんななか、2014年に宮城県石巻市で設立されたのが、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンです。三陸の海から漁業が「新3K=カッコいい、稼げる、革新的」になることを目指し、漁師学校の開催といった育成事業やアパレル企業とコラボした商品開発などユニークな活動を仕掛けています。

フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げたのは、LINEヤフー株式会社の社員・長谷川琢也さんです。なぜ漁業に携わるようになったのか、長谷川さんの“はたらくWell-being”を聞きました。

1977年3月11日生まれ。自分の誕生日に東日本大震災が起こり、思うところあってヤフー石巻復興ベースを立ち上げ、石巻に移り住む。被災地の農作物や海産物、伝統工芸品などをネットで販売する「復興デパートメント(現エールマーケット)」や、漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変えるため、地域や職種を超えた漁業集団フィッシャーマン・ジャパンの立ち上げに従事。現在は持続可能な地域や社会をつくるため、LINEヤフー株式会社では地域の脱炭素事業を後押しする「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」や、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクト「サストモ」の統括編集長などを担当。フィッシャーマン・ジャパンのノウハウの全国展開にも取り組んでいる。「はたらく Well-being AWARDS 2025」ビジネス・行政部門を受賞

海が怖くて海産物が苦手! それでも漁業の変革を担う

田邉

見習い漁師のためのシェアハウスや求人サイトの運営、体験プログラムの企画をはじめ、独自の事業を展開する一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン

なにより、HPのトップに登場するフィッシャーマンたちがカッコよすぎます!

長谷川さん

ありがとうございます! 僕はいま事務局メンバーのまとめ役として携わっていて、代表理事はワカメ漁師が務めているのですが、彼の漁業に対する情熱や向き合い方もめちゃくちゃすごいんですよ~!

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンのサイト。右正面にいるのが、代表理事を務める阿部勝太さん

田邉

フィッシャーマン・ジャパンのお取り組みがある一方で、長谷川さんはLINEヤフー株式会社の社員でもあるんですよね?

長谷川さん

はい! 今は、サステナビリティに関するニュースやアイデアを届けるプロジェクト「サストモ」の統括編集長を務めています。

田邉

もともと、なにか漁業と縁があったのでしょうか?

長谷川さん

いや、まったくないんですよ(笑)。僕、関東生まれ関東育ちですし。

田邉

じゃあ、めちゃくちゃ海産物が好きとか?

長谷川さん

苦手でしたね

しかも、泳げないので海も怖くて。牡蠣漁に乗船させてもらったことがあるのですが、そのときは勇気をふり絞りました。

田邉

海産物が苦手で海も怖いのに、フィッシャーマン・ジャパンをされている…?

田邉「混乱してきました」 長谷川さん「そうですよね(笑)」

一度知った以上、もう無関心ではいられない

田邉

なぜ、今の活動をされているのでしょうか?

長谷川さん

きっかけは、東日本大震災でした。

僕、誕生日が3月11日で同じ日なんですよね。震災直後はいてもたってもいられず、平日はふつうにはたらきながら、週末には個人のボランティア活動で被災地に行っていました。ですが、体力が屈強なわけでもなければ、料理も苦手で炊き出しも思うように手伝えない。

ボランティアをしながら、「この場所で自分にしかできないことはなんだろう」と考えたときに気がついたのが、「ヤフーの社員である」ということ。そのとき、IT業界のサラリーマンが僕しかいなかったので、これが強みだと思ったんです。

田邉

被災地の場において、「ヤフーの社員」が長谷川さんならではの強みになった。

長谷川さん

ちょうどそのころ、現地の生産者から「産業やビジネスが必要だ」と言われ、これなら自分が手助けできる領域だと感じました

そこで立ち上げたのが、東北の農作物や水産加工品、工芸品などを販売するECサイト「復興デパートメント」(現「エールマーケット」)です。

「復興デパートメント」(現「エールマーケット」)

長谷川さん

ECサイトに出品する商品を交渉するなかで、いろんな生産者の方に会ったり、会社を訪問したりしました。あるとき海産物の缶詰加工会社を訪れたときに、漁師の方々を紹介してもらったんです。

しんどい状況でも漁業に熱い情熱を持つ彼らの姿を見て、「すげえ!」「これは一緒に何かしたい!」と思い、フィッシャーマン・ジャパンを立ち上げました。

田邉

なるほど。もともと会社のプロジェクトがきっかけで出会ったんですね。

長谷川さん

震災から10年が経ち、2021年のコロナ禍も相まって、会社のプロジェクトとしては一旦区切りを迎えました。ですが、今もフィッシャーマン・ジャパンは僕個人の副業として続けています

田邉

副業…!?

そうか、本業は会社員なんですもんね。でも、どうして海産物も海も苦手なのに、副業として今も続けているのでしょうか?

長谷川さん

知っちゃったし、出会っちゃったから、ですね

僕はこれまで食べ物があることを当たり前だと思っていました。つまり、生産者の存在やその過程に対して、無知で、無関心だったんです。

長谷川さん

だけど震災をきっかけに東北に行き、「地方こそが生産の拠点」であることを知りました。

それは食べ物だけでなく、電気などのインフラもそう。生産者の方々に出会い、「知らないまま生きてきちゃったな」と痛感して。

知ってしまった今、「知らねえよ」とか「別に海外輸入できるし」という態度はやっぱり違和感があるじゃないですか。

田邉

知る前と知った後では、見方が変わりますよね。

長谷川さん

生産者の方々の顔もわかるからこそ、自分にできることは続けていきたい

今は10年以上、会社と被災地の間に立ち続けてきたので、広い捉え方として、都会と地方、ネットとリアル、消費と生産、そういう両極端の間に立つのが僕の役割であり、使命でもあると思っています。

むしろ、どちらかに偏ると自分のバランスも崩れるような気がしていて。2つの間に立つことが僕の“はたらくWell-being”ですね

「愛・運・縁・恩」で、心が動くほうへ

田邉

どちらかに寄ったほうが楽なことも多いと思うのですが、両者の間に立つ辛さってないですか? 板挟みとか。

長谷川さん

もちろんゼロではないですし、かつては悩んだこともあります。でも、そもそも全然違うものなんですよね

「都会」と「地方」もそうですし、「ネット」と「リアル」も。両者の分断がますます進む今、お互いをつなげたり、翻訳したりする人が必要だと思っています。

田邉

確かに…分断が進めば、両者の理解はどんどん遠くなってしまいます。

長谷川さん

ですよね。理解が進んだ先で、地方の漁師が「デジタルって悪くないな」と思ってくれたり、都会の消費者が「生産者ってすごい」とリスペクトを持ってくれたりしたらうれしいじゃないですか!

だから、本業と副業と言いつつも、「ここからは本業、ここからは副業」って分けられないんですよね(笑)

長谷川さん

僕、はたらくうえで「あいうえおで生きる」というのを大切にしています。最初に、自分が好きかどうかの「愛」。自分がやりたいと思えるか、自分の心が動くかどうか。そのうえで、自分でコントロールできない運や縁も絶対あると思っていて。

そして、感謝、恩。「愛、運、縁、恩で生きる」ことを大切にしています。

自分がやりたいと思っているのはもちろん、運命的な出会いがあり、ご縁ができた。そして感謝を持っているから、今のはたらき方になっているんだと思いますね。

田邉

「愛、運、縁、恩で生きる」ってめちゃくちゃ素敵です。

「愛」は、長谷川さんにとって直感的なものですか? それとも、まずは食わず嫌いせずやってみる、とか?

長谷川さん

僕は直感的なものだと思っています。もちろん人によって向き合い方は違うと思うので一概には言えませんが、でも生理的に受け付けないものなら「やってみよう」とすら思わない気がします(笑)。

今の時代は情報も多くて、一説によると「0.数秒でクリックするかどうかを決める」と言われています。それぐらい、直感的でもいいんじゃないかと僕は思いますね。

理屈を超えて、直感で動く。「Don’t think. FEEL!」

長谷川さん

それともう1つ指針にしているのが「Don’t think. FEEL!」です。映画『燃えよドラゴン』に出てくる言葉で、実は映画自体は見たことがないんですけど…(笑)。

それは、東北エリアの拠点「ヤフー石巻復興ベース」で僕の上司から言われた言葉です。「地方ではThinkになりすぎるな」と。都会で育ったパンパンの脳みそで考えて考えて行動するだけじゃなくて、感じたままに行動してみろって。

田邉

確かに、頭で考えすぎると動きが鈍くなってしまう。

長谷川さん

何も考えず、ポケーっとしているときに下から湧いてきたり、上から降ってきたりするものが、自分にとって大事にしたいこと。

僕はお風呂が好きなので、お風呂に入ってボーっとしているときに浮かぶことは大切にしています。

田邉

完全リラックス状態でも、頭のなかから離れないってことですもんね。

長谷川さん

消そう消そうって思っても出てくるものってありますよね(笑)。フィッシャーマン・ジャパンの活動も、「これやりたい」ってふと思い浮かんじゃうんですよ。

結局は、自分が楽しいから続けているし、やっている自分のことが好きだから頑張れる。もちろん、役に立てることや感謝されることが嬉しいのは当然ながら。

長谷川さん

今は選択肢が多くて、考えることも増えた時代。だけど、自分の気持ちが死んでしまったら何も進みません

「あいうえおで生きる」ために、「Don’t think. FEEL!」を大切にして、これからもはたらいていきたいです。

<取材・文=田邉 なつほ>

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