

「No.12」の鍵・土地提供&トレーラー運搬を担当。創業90年の運送会社が語るカシマの未来像
【連載インタビュー】カシマの変遷と「No.12」プロジェクトが生む新たな風
新R25編集部
茨城県鹿嶋市は、鹿島アントラーズのホームタウンとして知られるサッカーの聖地であり、地域の人々が一体となって支える活気ある町でもある。
この地に新たな賑わいを創出するプロジェクトとして、地域の魅力を発信する宿泊施設「No.12 Kashima Fan Zone(=以下「No.12」)」が 2025年3月にオープンを迎えた。
プロジェクトを推進するのは、ツキヒホールディングス株式会社と、鹿島アントラーズFC代表取締役社長を務める小泉文明氏率いる株式会社KX。
「地方創生」×「スポーツ」×「リカバリー」をテーマに、スポーツを軸とした新しい地域の活性化モデルを打ち出し、ファンや地域住民が心から楽しめる場を提供することを目指している。
「物を運ぶことで生活を豊かにしたい」
そう語るのは、鹿嶋市を拠点に、全国で物流事業を展開する株式会社 大川運輸の代表取締役・大川博行さん。
鋼材や液糖など幅広い物資を約1,000台の車両で運送し、地域産業を支えている。また、社員約500名の活躍を支えるため、安全管理や環境配慮に注力し、持続可能な社会への取り組みも実践している。
今回、「No.12」のプロジェクトへの参画を通して、地域の未来に託す想いや、カシマの発展にかける情熱について、常務取締役・宇佐美清髙さんとともに語っていただいた。
「豊かな未来を運ぶ」を理念に物流事業を展開する大川運輸


川島
まず、大川運輸さんの事業内容について教えてください。

大川さん
弊社は貨物運送業をメインとしており、鹿島工業地帯で生まれる製品を全国に運んでいます。
具体的には、鋼材、板ガラスや液糖(水飴のような液状の糖)、コーンスターチ(ビールの原料)など、幅広い物資を運送しています。

川島
色んなものを運んでいるんですね!

大川さん
現在営業所は、鹿嶋の本社営業所をはじめ神栖、坂東、稲敷など茨城県内に計5カ所、宮城県や福島県に各1カ所、千葉県に2カ所の営業所を構えています。
合計で約1,000台のトラック・トレーラーを運用しているんですよ。

川島
すごい規模ですね。ドライバーさんは何名くらいいらっしゃるのでしょうか?

大川さん
ドライバーは約430名が在籍しています。
そのなかで女性のドライバーは4名とまだ少ない状況ですが、今後は女性の積極的に採用を進めていきたいと考えています。

川島
最近は、運送業界全体でドライバー不足が深刻と聞きます。

大川さん
そうなんです。この課題を解消するには、高齢化が進むなかでも若い人材や女性を積極的に採用し、育成することが重要です。
またドライバーの皆さんに安心して業務に従事してもらえるよう、安全対策にも力を入れており、専門部署を設けて定期的に安全会議を行っています。
一度事故が起きると、運送業界では非常に大きな問題になります。弊社で働くドライバーの一人ひとりが事故を起こさないよう、慎重に取り組んでくれているんですよ。

川島
創業89年という歴史も、その積み重ねの賜物ですね。当初から運送業を行っていたのでしょうか?

大川さん
2026年で創業90周年を迎える弊社は、もともと戦前の昭和10年(1935年)、蚕(かいこ)の運搬からスタートしました。
祖父が始めた生糸の材料を製糸工場に運ぶという事業から、その後の鹿島臨海工業地帯の開発に伴い、太陽酸素の高圧ガスや、工業製品や建設資材の運送へと事業を転換してきたんです。

川島
「豊かな未来を運ぶ」という社是も、創業当時からの想いを引き継いでいるそうですね。

大川さん
はい。これは祖母が考えた言葉です。
運送という仕事は、ただ物を移動させるだけではなく、運んだ先で付加価値が生まれます。それが日本の生活を豊かにする一助になればという想いが込められています。
この理念は、創業時から受け継がれているものです。

川島
「物を運ぶことで生活を豊かにする」という理念が素敵ですね。多様な商品を扱うなかで、それぞれの品物がどのように人々の生活を支えているのか考えると、とても感慨深いです。

宇佐美さん
その理念が、今の活動や地域社会への貢献にもつながっているんです。

川島
大川運輸さんは地域の社会貢献活動にも積極的に取り組まれていますね。

大川さん
はい。これまでに地元の図書館に雑誌を寄付したり、小学生向けの防犯ブザーの寄贈、道路清掃や植栽活動などを行ってきました。
また、献血活動を10年以上続けていますし、鹿島アントラーズを応援するFMラジオ番組への協賛も続けています。

宇佐美さん
ほかにも、産業道路に設置されているパトカー看板や白バイ看板も弊社が寄贈したものなんですよ。

川島
道路の看板は見かけたときにドキッとするので「うまいこと考えてるな」と思いました。そういった活動が地域に根差した会社としての信頼を築いているのですね。
環境配慮への取り組みもされていると伺いました。

大川さん
そうです。遊休地を活用してソーラーパネルを設置し、CO2削減に貢献しています。
また、燃費の良い車両や排出ガス基準をクリアした車両を積極的に導入しています。

宇佐美さん
運送業はどうしても CO2を排出してしまうものですが、少しでも環境負荷を減らす努力を続けています。

川島
社会貢献や環境への取り組みを積極的に行う姿勢が素晴らしいですね。

大川さん
ありがとうございます。環境配慮だけでなく、地域や社会に貢献することも重要だと考えているんです。祖父の代から交通安全協会に所属し、交通事故を防ぐ活動にも取り組んできました。
運送業は道路を利用する仕事なので、安全を守ることも私たちの使命のひとつ。私たちの仕事は、時代ごとに運ぶものは時代ごとに変わってきましたが、根本的な想いは変わりません。
それこそが「豊かな未来を運ぶ」ということ。
これからも地域や社会の発展に少しでも貢献できるよう、一生懸命取り組んでいきたいですね。

川島
その一生懸命さが、社会につながり、そして未来を創るのですね。

宇佐美さん
そうですね。運送業を通じて社会に価値を生み出すこと、それが私たちの役割だと思います。
カシマを知らなかった人も、鹿島アントラーズを通じて知ってくれるようになりました


川島
さて、カシマの町についてお伺いしたいのですが、昔と今でどのように変わってきたのでしょうか?

宇佐美さん
カシマは、もともと一次産業中心の地域でした。
農業が主だった時代から、鹿島臨海工業地帯の開発で重工業が進出し、現在のような産業都市へと変わってきました。
ただ私が聞いた話では、工業地帯ができる前はかなり閉鎖的な町で「陸の孤島」と表現されるくらいだったようです。

川島
今の姿からは想像しづらいですね。その後、どのように発展していったのですか?

宇佐美さん
工場ができると、全国から人が集まってきました。たとえば、住友金属(現在の日本製鉄)に関わる方々だけを見ても、関西、北海道、九州など、全国各地から来ているんです。
私の周りにもいろいろな地域の方がいらっしゃいます。それぞれの文化や習慣が少しずつこの地域に溶け込んでいき、町全体の雰囲気が変わったのだと思います。

川島
そうした変化が、人のつながりにも影響を与えたのでしょうか?

宇佐美さん
そうですね。たとえば、鹿島神宮や鹿島アントラーズのような地元の象徴的な存在が、地域の人たちをつなぐ役割を果たしています。
特に鹿島アントラーズは、全国から来た人々がひとつになって応援できる存在になりました。

川島
鹿島アントラーズがきっかけとなって、地域のつながりができたんですね。
宇佐美さんの出身は鹿嶋市でしょうか?

宇佐美さん
私はカシマ生まれではなく、日立市から来たんです。最初にカシマに赴任した時は、正直、何もないところだなと思いました(笑)。
水戸からバスで向かう途中、どんどん家が少なくなっていくのを見て、どこに連れて行かれるんだろうと。
でも、今はインフラも整備され、住みやすい良い町だなと感じています。

川島
大川さんは、カシマに長く住んでいらっしゃるわけですが、どう感じていますか?

大川さん
昔から鹿島神宮が地域の中心にあったことは変わりませんが、私が子どものころは、今ほど人が多くありませんでした。
住友金属がこの地に進出してから人口が増えて、インフラも整備されました。学校も当時は6クラスもあったんですよ。
しかし現在は4クラスになってしまい、人が減ってきているのを実感しています。

川島
たしかに、全国的にも地方都市の人口減少が課題になっていますね。
大川さんご自身は、カシマの外に出た経験はおありですか?

大川さん
はい。学生のころに東京へ出ていました。ただ、家業を継ぐことも考えていたので、自然とカシマに戻ってきたんです。
長くこの地域にいると、変化があまり実感できなくなることもありますが、それでも間違いなくカシマは良い町だと思いますよ。

川島
おふたりのお話をお伺いしていると、やはり鹿島アントラーズの存在が大きいように感じました。

宇佐美さん
はい、鹿島アントラーズが町に与えた影響はとても大きいです。
Jリーグ初優勝で一躍注目され、全国的に“カシマ”の知名度が上がりました。カシマを知らなかった人も、鹿島アントラーズを通じて知ってくれるようになりましたね。

大川さん
昔は「カシマってどこ?」と聞かれることも多かったですが、今では鹿島アントラーズや鹿島神宮のおかげで、だいぶ認知度が上がったと思います。
町の名前が全国に知られるのはうれしいですね。

川島
これからのカシマについて、どのように変わっていってほしいと考えていますか?

大川さん
地域の若い人たちが、新しいカシマを作っていってほしいです。
そのためにも、私たちは地域に根ざした活動を続けて、少しでも支えられる存在でありたいと思います。

宇佐美さん
これからの世代が町をさらに発展させていけるよう、私たちにできることを一 生懸命やっていきたいです。
運送業だけでなく、地域振興に役立つ取り組みをしていきたい


川島
では、「No.12」に参画された経緯を教えてください。

大川さん
このプロジェクトは、斉丸(斉丸不動産株式会社・代表 斉丸貴代)さんや鹿島アントラーズの鈴木(株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー・取締役副社長 鈴木秀樹)さんたちとのお話から始まったものなんです。
地域貢献という意味で、私たちも協力できることがあればと思っていました。
ちょうど弊社が所有していた土地が、立地や条件的にベストだという話になり、そこから本格的に参加することになりました。

宇佐美さん
このプロジェクトの大きな特長は、トレーラーを活用している点です。
普通の建物だと都市計画や調整区域の規制が絡むため、なかなか開発が進まない場所もあるのですが、そういった場合でも、トレーラーという形式であれば柔軟に対応できます。

川島
なるほど、“動かせる”というトレーラーならではの特性を活かしたのですね。
この仕組みの実現には、運送業をメインとしている大川運輸さまの協力がキーポイントになりそうですが…

大川さん
はい、私たちがトレーラーユニットを運搬させていただきました。
2回にわたって運んだのですが、これが意外と重くて(笑)。予定よりも頑丈な作りだったようで、重機を追加で用意する必要がありました。
結果的にそれが安心安全な施設につながったので、良かったと思っています。

川島
“運送業のプロ”としての力を発揮されたんですね!

大川さん
このプロジェクトを通じて、地域の新しい魅力を発信できるのがうれしいです。
運送業だけでなく、こういった取り組みが地域振興に役立つなら、それは私たちの企業としての意義にもつながりますね。

川島
今後「No.12」の施設をどのように活用していきたいですか?

大川さん
実はこの土地、もともとは車庫用地として購入したものなんです。
でも、こういった形で新たな使い道が見つかったので、社員の福利厚生などにも活用していけたらと思っています。

川島
こういう施設があると、なんだかワクワクして、社員の方々のモチベーションも上がりそうですね!
最後に、このプロジェクトを通じて実現したいことや期待することはありますか?

大川さん
地域の新たな魅力を引き出し、カシマの可能性を広げていくことです。
この「No.12」がきっかけとなり、カシマに足を運ぶ人が増えることを期待しています。そして、私たちもこの地域の発展に少しでも貢献できればと思っています。

宇佐美さん
この施設が、地域の人々にも外から来る人々にも愛される場所になることを願っています。

川島
地域愛にあふれるお話をたくさん伺って、私もぜひ訪れてみたいと感じました!
おいしい食べものや自然など、カシマの魅力を外へ伝えていく必要性を感じています

川島
カシマが今後もっと発展するために、どのような課題や解決策があるとお考えですが?

大川さん
カシマには海や湖といった自然のレジャースポットが多いですし、おいしい食べ物も豊富です。
ただ、まだインフラが整っていない部分が多いのが課題ですね。東京から近いという魅力を活かしつつ、もっとアクセスや情報発信を充実させていけたらと思っています。

川島
たしかに東京からの直線距離の近さを活かせれば、カシマの大きな強みになりそうです。
宇佐美さんはいかがですか?

宇佐美さん
カシマには魅力がたくさんあるのですが、外から来る人には情報が伝わりづらい部分があります。
たとえば、干し芋ひとつ取っても、どこで地元のおいしいものが買えるのか分からないことが多い。今回のような新しい施設が、地域の魅力を発信する拠点になればいいなと期待しています。

川島
なるほど、情報発信の強化は重要なポイントになりそうです。
ところで干し芋が話題に出ましたが、カシマの干し芋って本当においしいですよね。

大川さん
そうなんです。私も「マルセ物産」さんの直売所でよく買いますよ。
スーパーにも売っていますが、地元の農家さんが出している一番おいしいものを手に入れるには、やっぱり直売所がおすすめですね。

川島
そういった直売所や地元のおいしいものの情報が、もっと観光客に知られるようになると良いですね。
都会の喧騒から離れて、広々とした空の下でのんびり過ごしてほしい


川島
最後に、カシマに訪れる方々へメッセージをお願いします。

大川さん
カシマには、海もあれば湖もあり、おいしい食べ物も豊富です。
最近は茨城県の観光ランキングがようやく最下位を脱しましたが、まだまだ自己アピールが苦手な県民性が影響していると思います(笑)。
この施設をきっかけに、カシマの良さを体験してもらいたいですね。

宇佐美さん
この「No.12」では、グランピングだけでなくカシマの自然や食を存分に楽しんでいただけると思います。
また地域の人々の温かさも感じていただけるはず。気軽に訪れて、空の広さや美しい風景を体感してほしいですね。

川島
自然が豊かで、人も温かいカシマには、都会にはない魅力がたくさん詰まっていますね。

大川さん
そうなんです。都会の喧騒から離れて、広々とした空の下でのんびり過ごす時間は、本当に贅沢だと思います。
この施設が、そんなリフレッシュの場になれば嬉しいです。

川島
本当に楽しみですね!
これからカシマを訪れる方々が、「No.12」を通じてカシマの新たな魅力に触れるきっかけになりそうです。
私もぜひグランピングに訪れたいです! 素敵なお話をありがとうございました!
〈聞き手=川島(デジタルハリウッドSTUDIO by SAKURA 受講生)
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