

社員の平均給与が160%アップ。DXでV字再生した老舗食堂の“生産性改革”が一冊の本に
業績不振の原因は「人手不足」ではない。
新R25編集部

三重県・伊勢にある創業150年の老舗食堂「ゑびや大食堂」。

昔ながらのアナログな経営スタイルだった会社をDXで刷新し、約12年で利益80倍へと奇跡のV字再生をさせたのが、株式会社EBILABの代表取締役CEO・小田島春樹さんです。
小田島さんがおこなってきた“生産性改革”をまとめた書籍を上梓されたとのことで、見どころを伺いました。
〈聞き手=古川裕子(新R25編集部)〉
老舗食堂をV字再生させた“生産性改革”が一冊の本に!

小田島さん
「ゑびや」は、妻の実家が営んでいた老舗の食堂です。私が後継として参画して以降の約12年間で、利益を80倍にまで成長させました。
このたび、「ゑびや」のV字再生のプロセスと、これからの商売のあり方をまとめた書籍『仕事を減らせ。限られた「人・モノ・金・時間」を最大化する戦略書』を発売いたしました。
人口減少や原材料費高騰などによって経営が厳しくなる時代を生き抜くために、限られた「人・モノ・金・時間」で最大の生産性を上げる方法を伝えています。
「船井財団グレートカンパニーアワード ユニークビジネスモデル賞」のほか「日本サービス大賞 地方創生大臣賞」、「KANSAI DX AWARD グランプリ」などを受賞したんだそう

古川
たしか小田島さんが継いだときは、けっして「生産性が高い」とは言えない状況だったんですよね?

小田島さん
はい。私が継いだ2012年の時点では、手書きの食券とそろばん、紙の台帳で売上を管理していて。
「人・モノ・金・時間」において多くの無駄が生じている、昔ながらの経営スタイルでした。

古川
そろばん…

小田島さん
本来ならそういった無駄な仕事を減らして、「接客」や「料理の味」といった“コアな業務”を追求すべきですが…
やらなければいけない“作業”に追われ、本来の仕事の目的を見失ってしまう日々が続いていました。
食べログの評価も2.86と低くて。お客さんから「ここしか空いてなかったから来た」と厳しい言葉をかけられることもありましたね。

古川
そこからどうやって改革を?

小田島さん
改善をしようにも、いきなりスタッフの人数を増やせるわけでもないし、時間もお金もありません。
そこで最少限の人数で多くの利益を上げる戦略として、「データ分析」「デジタル化」「多事業化」の3つを軸に“生産性の改革”を進めることにしました。
ありとあらゆるデータを集約・分析することで、「現場の省力化」と「経営の属人性の解消」を実現。そのうえで事業を多角的に展開することで、V字再生を成功させることができたんです。

正社員の平均給与が160%アップ。“生産性改革”の一部をチラ見せ

古川
「データ分析」「デジタル化」「多事業化」の内容を、もう少しくわしく教えていただけますか?

小田島さん
はい。「データ分析」「デジタル化」では、たとえばこのようなことを実施しました。
✅ 屋台で稼いだ資金でPOSレジを導入し、売上管理を効率化
✅ 気象データ、観光客数、グルメサイトのアクセス数など、事業に影響する多岐にわたる外部データを自動収集
✅ 独自の「来客予測システム」により、来客予測の的中率は平均95%、食材の廃棄ロス72.8%削減、料理提供時間5分の1短縮などを実現。適切な人員配置が可能に
✅ IoTセンサーによるドリンクバーの残量計測や在庫管理・自動発注
✅ スマートフォンを用いたアンケート自動集計・リアルタイム共有


小田島さん
これらの改革の結果、「ゑびやグループ」では従業員の数はほぼ変わらないまま、1人あたりの生産性が大幅に向上し、1人で10人分の生産性を実現。
営業後の作業はゼロ。“経営者なしでも回る職場”へと変わり、正社員の平均給与は160%アップしました。


古川
すごい…生産性を高めるためには、データで可視化することが大事なんですね。

小田島さん
まさにそうですね。付加価値を向上させるためには、まず現状を把握する必要があります。
たとえば新しいメニューを開発する場合に、店舗に設置している画像解析機能付きのセンサーカメラで取得した通行客数や入店客のデータを確認します。


小田島さん
そこに「シェア」を組み合わせることで、「商品のデザイン変更」や「価格改定」といった施策が経営に与える影響を数値で検証します。
「データ分析→仮説→アクション→効果測定・検証→次のアクション」という“データ起点経営”のサイクルを絶え間なく回すことで、事業の成功確率を高められるんです。


小田島さん
ほかにも、「ゑびや大食堂」では客層のデータを分析し、写真映えする「松阪牛寿司」や、郷土料理を組み合わせた「ゑびやの食べつくし定食」を開発。
客単価を850円から2,847円へと3倍以上に向上させました。

古川
3倍…! 客層を分析することの重要性がわかります。


小田島さん
また「多事業化」についてですが…
新規のビジネスモデルを開発するのにあたって、場所依存からの脱却も大切だと考えています。

古川
そうなんですか? 「ゑびや大食堂」のある伊勢は、立地的にかなり恵まれているイメージですが…

小田島さん
たしかに店舗は日本屈指の観光地にあります。
しかし災害が起こっていきなり店舗営業ができなくなったり、市場が縮小したりする可能性もゼロではありません。

古川
たしかに…

小田島さん
多角的に事業を展開することで、ひとつの事業に何か問題が起きたときのリスク分散をしつつ、次のビジネスチャンスを広げられます。
「ゑびや」でも、土産物店やテイクアウトのお店のほか、自社開発のシステムとデータ分析ノウハウを活かして事業領域を拡大しています。

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「挑戦するマインド」には再現性がある

小田島さん
高齢化と人口減少が課題となるこれからの時代は、廃業に追い込まれる企業も増えていくと思います。
柔軟に変化しながら経営することが、企業ひいては地域社会や日本経済の発展につながるのではないかと考え、本書の執筆を決意しました。
本書では、企業が変化するために必要な“経営者のマインドセット”も丁寧にお伝えしています。

古川
経営者のマインドセット…というと?

小田島さん
たとえば…
「自分がいないと会社は回らない」という執着を捨てて、デジタルを活用したり従業員に頼ったりして「自分がいなくても会社が回る状態」をつくる。
さらに従業員にとって快適な職場環境をつくるために、給与や待遇改善に加えてクレド(行動指針)の浸透や、チームビルディングのノウハウを学ぶのもそうです。

古川
なるほど。

小田島さん
本書ではこうした“経営マインド”をただ頭で理解するだけでなく「実行に移す」ことの重要性を説いています。
地方の中小企業や個人商店、すべての挑戦する人々に対して、「変化が激しい時代でもチャンスがある」という希望を届けられるはずです。
成功に再現性はありませんが、「挑戦するマインド」には再現性があると信じています。
本書が「こういうアプローチがあるのか」「こんなふうにやれば実現できるのか」と何らかの実行に移す一歩になれたらうれしいです。
売上・利益を上げた実績のある小田島さんの取り組みや考え方を手軽に学べる同書。
生産性向上・DX・データ活用に関心のあるすべてのビジネスパーソンはもちろん、新しい挑戦をしたいと思っている人にも勇気をくれそうです。
変化のヒントがほしい方は手にとってみては?
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