

「今、カシマに必要なのは…」地域の魅力と可能性を広げる「No.12」プロジェクトが目指すもの
【連載インタビュー】カシマの変遷と「No.12」プロジェクトが生む新たな風
新R25編集部
茨城県鹿嶋市は、鹿島アントラーズのホームタウンとして知られるサッカーの聖地であり、地域が一体となって支える町でもある。
この地に新たな賑わいを創出するプロジェクトとして、地域の魅力を発信する宿泊施設「No.12 KASHIMA FAN ZONE(以下「No.12」)」が2025年3月にオープンを迎えた。
プロジェクトを推進するのは、ツキヒホールディングス株式会社と、鹿島アントラーズFC代表取締役社長を務める小泉文明氏率いる株式会社KX。「地方創生」×「スポーツ」×「リカバリー」をテーマに、スポーツを軸とした新しい地域の活性化モデルを打ち出し、ファンや地域住民が心から楽しめる場を提供することを目指している。
「今のカシマにはこういう取り組みが必要だと思ったんです。」
そう語るのは、株式会社アスドリームの代表、大田勝彦さんだ。
平成11年に鹿嶋市で創業した同社は、自動車販売をはじめとする幅広い事業を手がけ、地元の高校生の新卒採用や人材育成にも取り組み、地域に貢献している。代表の大田さん自身も、地元の祭りグループの創設をはじめ、地域の人と人をつなぐハブとして活躍中だ。今回は、大田さんが「No.12」に込めた想いと、カシマの未来について語ってくれた。
地域に根差し、若者の未来を育むアスドリーム


川島
ホームページを拝見しましたが、幅広く事業を展開されていらっしゃいますね。
もともとは車の販売からスタートされたのでしょうか?

大田さん
そうですね。約9年間、新車ディーラーで営業マンとして勤務し、その後31歳で退職、独立しました。「オートガレージオオタ」という社名で、自動車の販売を始め、地域の皆さまにご支援いただき、現在は4店舗・60数名体制で運営しております。
正直、最初は会社を立ち上げたという意識はそこまでなくて、振り返ると当時は時代が良くて、お客さまにも支えられ、おかげさまで事業もうまく回っているような状況でした。
ただ、会社が大きくなって従業員が増えるにつれ、やはり壁にぶつかるんですよね。これは多くの人が言いますけど、本当にそうなんです。

川島
そうだったのですね。大田さんの会社では、若手の採用や人材育成にも力を入れていらっしゃるようですが、そちらについてもお話を伺えたらうれしいです。

大田さん
はい。最初は「できる人だけ集まれ」という方針でしたが、13年ほど前から新卒採用をはじめました。
そのころから企業理念や研修制度もつくり始めて、今では従業員が約60名、そのうち正社員が42名在籍しています。
そして正社員のうち、22名が10年以内に新卒で入った若手で、社員平均年齢は31歳です。

川島
今、人材育成は社会問題になっていますよね。すぐ辞めてしまう人が多いなか、社員の半数以上が若手というのはすごいことです。

大田さん
ありがとうございます。とくに地元の高校生の採用に関しては、注力してきました。
入社1年目は日々3分間の上長面談、そして月1回の同期生研修を実施し、定時退社・残業ゼロを徹底しています。2年目も残業は月数時間程度と、基本的に定時内での働き方を心がけています。
今年は社員旅行も勤務扱いにして、沖縄に行ってきました。

川島
手厚い研修機会と福利厚生ですね。そこまで気を配ってやっている会社さんは多くはないと思います。やはり人材育成がひとつのミッションなんでしょうか。

大田さん
そうですね。売る力や整備の力も重要ですが、結局は一人一人に合った能力を伸ばしていくことがすべてだと思います。
とくに、高校を卒業してすぐに就職する子たちは、社会人としての振る舞いや保険や車のことなどまったくわからない子も多いです。新卒採用を始めてからは、毎年研修内容や評価制度を見直し、時代に合わせて進めております。

川島
企業理念にも「個々の能力を尊重する」とありますよね。

大田さん
創業から10年は本当に試行錯誤の連続でしたが、個々のスタイルを尊重しながら成長を促すことが、今の会社の基盤になっていると感じます。
社員一人一人の個性を大切にしつつ、全体のチームワークを高めていく。
そして、「最後はともに協力して頑張ろう!」という意識を共有できていることが、今の会社の強みだと思います。

川島
素敵なお話をありがとうございます。
大田さんは、固定観念や先入観といったものにとらわれず、「まずはやってみよう」という精神を強くお持ちのように感じます。
そのエネルギーはどこから湧いてくるのでしょうか?

大田さん
思考のベースは、学生時代、柔道のキャプテンや生徒会長などを任されてやってきた経験にあると思います。
「最後までやり抜くこと」や、「失敗しても当たって砕けろ」という意気込みが染み付いているんです。今も商売をやっていて「明日は大丈夫かな」という感覚に瞬間なるときはありますが、「挑戦」することで、得た経験や知識は残ります。
それが、次の原動力になっています。「No.12」のプロジェクトも大きな投資ではありましたが、今のカシマにはこういった新しい取り組みが必要だという思いのほうが強かったですね。

川島
確かに、車の販売とはまったく違う分野での挑戦ですよね。

大田さん
そうですね。でも、このプロジェクトによって、カシマに新しい集まりや価値が生まれるのであれば、それだけで十分意義があると思ったんです。
話をきいて、すぐ「こう使える」というビジョンが見えた。「正直、ワクワクしました。」


川島
では、あらためて今回のカシマ「No.12」に参画された理由についてお聞かせください。

大田さん
鹿島神宮の周辺をもっと元気に、どうにかできないかと。カシマ地域として遊べる場所や、人が集まれる場所が本当に必要だなと思っていましたから。

川島
人が集まれる場所や遊べる場所が少ないというのは、地域にとって深刻な問題ですね。そこで「No.12」に参画しようと考えたわけですね。

大田さん
「No.12」の話をきいて、すぐにピンときましたよ。会社の仲間や、地域の人たちとの集まりにも利用できるな、と。
うちの会社が利用するにも、ちょうどいい規模なんですよ。4店舗なので店舗別の会議もできるし、合同会議も可能だし、非常にぴったりですね。

川島
そこに可能性を感じて、ワクワクしたということですね?

大田さん
そうです。とてもワクワクしました。
とくに今の若い子たちは、飲み会だけに参加となると抵抗がある人もいるかもしれないけど、サウナやバーベキューには興味を持ってくれるんじゃないかと。
そういった新しいかたちで集まる場所を提供することが、会社の成長、そして今後の地域の活性化につながると思いました。

川島
確かに、サウナとかだと行きやすいかもしれませんね。映像を見ながらサウナに入るのもいいですし。

大田さん
そうそう、「途中で帰ってもいいから、とりあえず来てみて」と声をかけてみる。たとえば「バーベキューとサウナがあるよ」と言ったら、きっと来てくれます(笑)。
サウナに入らなくてもその空間にいるだけで居心地がいいし、そして宿泊もできる。
そんな場所をつくれたら、それだけで喜んでもらえるはずです。

川島
実はほかの参画企業さんからも、施設ができたら「貸し切りで使わせてもらえないか」という話が少しずつ出てきているようです。

大田さん
本当に使い道はいくらでもあると思います。
とくに我々のようなサービス業にはぴったりです。お客さんに成約記念として招待券をプレゼントするとか、キャンペーンの景品にするとか、ふるさと納税など。
地域活性化に会社として取り組んでいることをアピールすれば、イメージアップにもなると思いますし。あと、最近うちの若いスタッフが「運動会やろう」ってアイデアを出してきたんですよ。

川島
それは面白いですね。

大田さん
できるでしょ? うちの会社なら店舗対抗でもいいし、取引先を招いてもいいですよね。
運動会を開くというアイデアは面白いなと思いました。とにかく、集まることが大事ですから。

川島
いろいろな使い道が考えられそうですね。

大田さん
やっぱり最近はサウナが人気ですからね。サウナって、ちょっと入るだけで十分癒されるものらしいです。長く入る必要はなくて、短時間でもリフレッシュできるのが魅力みたいで。
別に泊まらなくてもいいし、お酒を飲む必要もない。いろんな入り口があって、自由な楽しみ方ができる。
そういう場所が増えるのがいいんだと思います。とにかく人が集まれる場所をつくることが重要ですね。
地域一体でカシマを盛り上げたい。鹿島神宮を中心に、祭りでつながる“地域の力”

川島
カシマについて、昔と今の変化や、この地域の魅力についてお聞かせください。

大田さん
まず、やっぱり人口の変化が大きいと思います。鹿嶋市の人口は今、約6万5千人ですが、地元生まれの人が少ないんです。
住友金属(現在の日本製鉄)ができたころに多くの人がほかの地域から移住してきました。その子どもたちが進学のタイミングで出ていく。そしてそのまま向こうで就職する。そういうパターンがとても多いんです。実際、私の同級生の半数近くは、東京方面など市外に住んでいます。

川島
地元に戻ってこない人が多いというのは、地域の発展にとって大きな課題ですね。

大田さん
その通りです。だからこそ、たとえば地域に大学ができれば、もっと学生が地元に残りやすくなると思います。地元でアルバイトをしたり、卒業後に地元で就職することができるようになる。
しかし、実際に大学を運営するのは簡単ではないという現実もあります。

川島
ほかの地域の事例をみていると難しい話もありそうですね。これもカシマにとっては大きな問題です。

大田さん
町全体のバランスを考えると、先頭に立って町を引っ張るような人材が育ちにくい環境にあると思います。
現場の仕事を一生懸命やる人は多いけれど、そういう人たちをまとめて引っ張るリーダーが少ない。

川島
リーダーシップを発揮する人が少ないんですね。

大田さん
そうなんです。実際、カシマに大きな施設は多いんですが、周囲との一体感があまりないと感じます。
茨城県全体にも言えることですが、施設をつくっても、それをどう地域と結びつけて活用するかが足りていない。
以前、アメリカのボストンレッドソックススタジアムを観に行ったことがあるのですが、スタジアムと町が一体になっていました。駐車場が全然ないんですけど、みんな町中を歩いて球場に向かうんですよ。その「歩く時間」や「町を楽しむ時間」も含めて、観戦の一部になっていました。

川島
なるほど。施設をつくるだけではなくて、そのまわりの地域と一体となって盛り上げていけたらいいですね。

大田さん
その通りです。課題は色々とありますが、地域全体がこれからも一体となってほしいです。
とくに祭りがその象徴です。鹿島神宮の「神幸祭」や「祭頭祭」が挙げられますが、鹿島神宮を中心に、それぞれの地域が参加するかたちで盛り上がっています。
「祭頭祭」では年番で毎年どこかの地域が祭りを取り仕切ります。こういった行事が、地域の結束を強めていると感じますね。

川島
カシマといえばやっぱり祭りが一大イベントなんですね。
大田さんは「提灯まち」(鹿島神宮神幸祭の出御の際の灯りとなる行事)を盛り上げるチームの創設にも関わっていらっしゃいますよね。

大田さん
きっかけは飲みの席での「祭りやっちゃおう!」でした。
たった1カ月の準備期間でしたが、無事に開催できたんですよ!

川島
随分と急なことだったんですね。どのように実現したのでしょうか?

大田さん
まず仲間を集めて、提灯などの資金集めのために、50社くらいに声をかけました。
1週間で寄付を集めましたね。当時、私の会社もまだ1年目で、何もわからないなかでの挑戦でしたが、大成功でした。
「男だけだよな」「女性は入らないよな」なんて冗談を言いながら決まった「男友會(だんゆうかい)」という名前ですが、今所属している子どもは男女半々ですね(笑)。約100名ほど所属してます。

川島
「男友會」の創設が、地域活動として芽生えた最初の一歩だったんですね。

大田さん
仲間と盛り上がった勢いで始めたことなので結果論ともいえますけど、そうですね。
今では、この祭りが地域に根付いて、後輩たちが受け継いでくれています。
鹿島神宮を中心に広がる地域の力を感じますね。やっぱり、神宮には人を惹きつける力があると思います。

キーワードは「定住できる、定住したい町になるには」

川島
これからのカシマについて、どのような町になってほしいか教えていただけますか?

大田さん
やっぱり集まってきた人々が、カシマに定住してくれたら本当にうれしいですね。
そのためにも、もっと楽しめる施設や、カシマの魅力を発信するものをつくりたいです。
土地はたくさんありますし、海産物も新鮮でおいしいんです。漁師の同級生からタコやハマグリをよくもらうんですが、本当においしいですよ。

川島
それは羨ましいです。採れたての海産物を味わえるのは地元ならではですよね。

大田さん
はい。実はカシマにも漁港があり、漁師さんもたくさんいらっしゃいます。
ただ、漁業が盛んな地域にもかかわらず、一般の人が楽しめる施設が少ないんですよね。
おいしい魚は獲れるけど、ほかの地域に持っていかれてしまっている現状は、本当に残念です。

川島
確かに、漁港の活用がもっと進めば、観光地としての魅力が増しますね。

大田さん
そうですね。カシマの海は本当に素晴らしいのに、観光施設が少なくて、もったいないと感じています。
実は鹿嶋市には海水浴場が2ヶ所もあるんですよ。それをもっと活用すれば、多くの人が訪れるようになるはずです。

川島
地域が活性化していろんな人に訪れてもらったら、定住にもつながりそうですね。

大田さん
そうですね。キーワードは「定住できる・定住したい町になるには」かもしれません。
つまり、定住したい町にするためには何が必要なのかを考えるべきです。単に口だけではなくて、小さなことでもいいから、これまでと何かを変えてつくってみる。
「創造の創(つくる)」が必要です。たとえそれが失敗だったとしても、成功のための失敗なら、意味があると思っています。

川島
課題は山積みですよね。でも、やればいい方向に向かっていきそうではありますよね。

大田さん
絶対できますよ。だって人はいるんですから。
茨城県としては人口が減少していますが、鹿嶋市は横ばいを保っているので、今ならまだやれることはたくさんあると思っています。
私も57歳になりましたが、引き続き地域を見守りながらやるべきことを考えています。

鹿行・カシマにこれからお越しいただく方へのメッセージ

川島
最後にこれからカシマにお越しいただく方に向けてメッセージをお願いできますか?

大田さん
カシマは、まず歴史的にもとても価値のある場所です。
鹿島神宮は日本でも有名な神社で、古くからの歴史があります。訪れる人々にとって、心が安らぐパワースポットとしても知られています。
さらに、カシマの誇りでもある鹿島アントラーズを、地域が一体となって応援しています。それ自体がカシマの活力となっています。
一方で、地域の魅力を十分に発信できていない部分も多いと感じています。

川島
もっと発信できる余地があるということですね。

大田さん
その通りです。先ほどの海鮮のほかにも、カシマにはおいしいものもたくさんあります。
とくにサツマイモの「ベニアズマ」は、甘さがしっかりしていて本当においしいんです。
毎年、収穫時期になると、この地域の農家さんが一生懸命育てています。
そういったカシマのおいしいものをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。とくにベニアズマは、食べた人には驚かれることが多いので、ぜひ試しに味わっていただきたいです。

川島
ベニアズマ、私も味わってみたいと思います。カシマは自然や歴史、食文化がいっぱい詰まった場所なんですね。これからが楽しみです。

大田さん
はい、カシマにはまだまだ発展の可能性がたくさんあります。
これから、ぜひ多くの方に足を運んでいただき、この地域の魅力を肌で感じていただければうれしいです。

〈聞き手=川島(デジタルハリウッドSTUDIO by SAKURA 卒業生)〉
新着
Interview

「今、カシマに必要なのは…」地域の魅力と可能性を広げる「No.12」プロジェクトが目指すもの
NEW
新R25編集部

社員の平均給与が160%アップ。DXでV字再生した老舗食堂の“生産性改革”が一冊の本に
新R25編集部

社会課題を“真面目におもしろく”解決。元・国会議員秘書の異色経営者が語る「発想の源」
新R25編集部

“落とし物”に新たな価値を。廃棄コストを削減して収益を生むサービス「findリユース」が登場
新R25編集部

サッカーだけじゃない。地方創生プロジェクト「No.12」で進化する“カシマ”の知られざる魅力
新R25編集部

楽しみは持ち越さない。今を自分らしく生きるきょうこばぁばが貫く“Well-being”
新R25編集部