ビジネスパーソンインタビュー
茂木健一郎著『孤独になると結果が出せる』より
コミュニケーションは意外にも脳を酷使する。成果を出すには「孤独という環境」が必要だ
新R25編集部
外出自粛期間が続き、ほとんどの時間を自宅ですごすようになりました。
家から出られないストレスもありますが、移動時間などがなくなったことで自分のために使える時間が増えているのも事実。
そこで、新R25が立ち上げる新連載「変化の時代にこの一冊」では、これまで多くの本に触れてきたビジネスインフルエンサーたちが「社会が大きく変化している今だからこそ読むべき一冊」をセレクト。
その内容の一部を抜粋して、自宅にいながらも気軽に読書体験ができる記事をお届けします。
もし興味のある本に出会ったら、ぜひ購入してこの機会にじっくり読んでみてください。
初回は、まず新R25編集部が本をセレクト。
選んだのは、3月に発売された脳科学者の茂木健一郎さんの新刊『孤独になると結果が出せる』です。
外出できないことで、多くの人が感じている「孤独」。
しかし、茂木さんは著書のなかで、「孤独」こそ“成果を出したいビジネスパーソン”にとっては必要なものだと語っています。
今回は、孤独が脳に与えるポジティブな影響について抜粋してご紹介。
この記事が、孤独を感じている現状を別の角度から捉えるきっかけになれば幸いです。
結果を出す人ほど孤独を求める
仕事柄、私は日本を代表する企業の経営者にお会いすることがしばしばあります。
みなさん分刻みのスケジュールをこなしていらして、頭が下がります。
「代わりにやれ!」と言われてもとてもできることではないので、私は日本経済の最前線にいる方々に敬意を抱いています。
ニコニコ動画を運営する株式会社ドワンゴの創業者・川上量生さんもその一人です。
その川上さんは、じつは数学が好きで、軽井沢の別荘に大学院生の家庭教師を招いて合宿し、群論や環論といった高等数学を教えてもらっているそうです。
何でもツイッターでその家庭教師を募集したとのこと。
なぜ数学を勉強しているのかと聞いたら、「素粒子理論を理解したい」と答えてくれました。
そのときのまるで子どものような川上さんの目の輝きは、今でもありありと瞼の裏によみがえります。
川上さんの学んでいる数学が、ドワンゴの経営に直接的に活かされることはまずないでしょう。本人もそういうつもりで勉強しているのではないはずです。
毎日ハードなスケジュールをこなしているので、勉強時間を捻出するにも、かなりのご苦労があるに違いありません。
川上さんを、そこまで数学にのめり込ませるものは何なのでしょうか。
それは、多忙な日々の中で、自分の素に帰るために、自分を見失わないために、孤独を求めているのではないかと、私は勝手ながら推測しています。
これは、脳科学的にも納得できる行動です。
経営者としての自分と、素の自分。どちらも本当の自分です。
コインの裏表を引っ繰り返すように、そのときどきに応じてどちらかの自分を前面に出す形で両立できればうまくいきます。
そしてその状態が、脳のバランスにとっても理想的なのです。
では、多忙な日常に追われる中で、素の自分でいられる場面をいかにして確保するのか。
唯一できるのが、孤独になることです。
一人の時間をつくって素の自分に戻ることで、プレッシャーからひととき解放されます。
それは「逃げ」ではなく、コンディションを高い水準で保つために必要な時間です。
言い換えれば、孤独な時間を確保できなければ、経営者として最良の結果を出し続けるのは難しくなります。
孤独になれば素の自分に戻ることができ、経営者として社会から求められている自分とのバランスが取れるようになります。
デキる経営者は、そのことを本能的に感じ取っているのではないでしょうか。
有能な人ほど、孤独を積極的に求めています。
そして、これは経営者にかぎったことではなく、すべての人に当てはまります。
会社員として、フリーランスの方なら仕事の受注者として、あるいは夫や妻として、子どもの父や母として、老親の子としてなど、誰しも社会に求められる何らかの役割を果たしています。
こうした社会的な自分と素の自分のバランスを上手に取ることは、結果を最大化するうえで誰にとっても重要な課題です。
つまり、孤独を必要としない人はいないのです。
脳は孤独を求めている!
人間の意識は、1秒間に100ビットくらいの情報量しか処理できないと言われています。
この100ビットが多いか少ないかはともかく、人と会話していると、そのかなりの部分が使われてしまうことがわかっています。
たとえば、商談やプレゼンなどで話をすると、終わったときにドッと疲れが出てしまった経験があなたにもあるのではないでしょうか。
それは、商談やプレゼン中に脳が目いっぱい情報を処理して、一種のパンク状態になってしまったからです。
脳の疲労が体全体に及んでヘトヘトになってしまっています。
このようなとき、じつはかなり目いっぱい脳の容量が使われているので、それ以外のことに割くリソースがなくなっています。
コミュニケーションは、意外にも脳を酷使することなのです。
人と会うのは楽しいことでもありますが、同時に脳の容量をかなり奪うことにもなります。
脳の容量には限界があります。
多少の個人差はあっても、その事実自体は変わりません。人とたくさん会うのであれば、その分、脳を休ませる必要もあります。
そのために必要なのが、「孤独」です。
脳は孤独を求めています。
脳にとっても、一人になれる時間は必要です。
その孤独の時間を持たないと、脳にストレスを与え続けることになります。
人とコミュニケーションをすればするほど、「自分の外にあるもの」ばかりに気を取られてしまい、「自分の内にあるもの」をついないがしろにしてしまうのです。
すると、「こういうことをしたい」「こんなふうにやってみたい」という自分の本当の欲望に気づきにくくなってしまいます。
脳は、本来的に孤独を求めています。
自分の本当の欲望を実現させたいというアピールに気づくためにも、あなたの脳に孤独の時間を与えてほしいのです。
結果を出すために「孤独という環境」をつくる
では、孤独は、結果を出すこととどのように結びつくのでしょうか。
結果を出すには、まずアウトプットするという行為が欠かせません。
アウトプットとは、脳の中にインプットしたものを惜しみなく自分の外に出すこと。
脳の中にしまい込んでいたものを目に見えるカタチにするのが、アウトプットです。
これがしっかりできれば、結果を出すことが容易になります。
実際には「話す」「書く」という行動を通じて行なわれます。
アウトプットは、必ず行動を伴うものです。
「話す」で言うと、スピーチやプレゼンがアウトプットの最たるものだと思われがちです
が、雑談やひとりごとなどもそれに含まれます。
「書く」は、企画書・報告書・稟議書・資料の作成、メモやノートをとること、メールの作成、ブログやSNSなどへの投稿、日記を書くことなどが該当します。
もちろん、作家の原稿執筆、音楽家の作曲、画家の描写なども、アウトプットです。
こうしたアウトプットはいつでもどこでもどんなときでもできるのかと言えば、そうではありません。
インプットしたものを惜しみなくアウトプットするには、工夫が必要です。
それが、「孤独という環境」をつくること。
プレゼンやスピーチといったプレッシャーがかかった場面では、自分が持っている力をなかなか発揮できないものです。
それは、脳にストレスがかかっているから。
「うまくやろう」「成功させよう」という意識優位な状態にあって、無意識を抑制してしまっています。
本当は主張したいことがあるのに遠慮して無難な発言にとどめようとするのも、自分で自分自身を抑圧しています。
芸術家にしても、「売れなければ食っていけない」という切実な現実と、自分のつくりたいものをつくるというジレンマを抱え続けていたら、やはりいいアウトプットは難しくなります。
そのアウトプットを最大化するのが、孤独でいるときです。
何も山小屋に行って籠もる必要はありません。
シンプルに言えば、無意識を解放する環境をつくること。
職場の煩わしく面倒な人間関係から一歩距離を置いて、つかず離れずでいること。
上司に干渉されず、やりたい仕事を遂行できるポジションをつくること。
過度にプライベートを詮索されないつき合いを続けること…。
同調圧力をスルーしつつも、孤立しない。そして結果を出す。
それができるのが、理想とする孤独の環境であり、アウトプット、ひいては仕事の結果を最大化するために必要なことです。
誰にも邪魔されず、かつ何者にも縛られることなく、「こういうことをしたい」「こんなふうにやってみたい」という自分の内にある欲望に気づき、それをトコトン追求し結果を出せる状態にあること。
それが、孤独です。
優れた結果を出すためには、孤独でなければならない理由があったのです。
あなたは「孤独な人」になれるか
「孤独でなければ味わえない喜びや幸せがあります」
孤独とは、寂しい生き方ではなく、結果を出すために、ポジティブに選び取るものである。
茂木さんは、はっきりとそう語ります。
24時間、常に人とのつながりを求めてしまう現代に「孤独」であることの重要性を具体的に説いた一冊です。
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