ビジネスパーソンインタビュー

「365日このTシャツ。ロゴを見せるために髪も切った」農業に懸ける食べチョク秋元里奈の“覚悟力”

あのビジネスパーソンの「○○力」

「365日このTシャツ。ロゴを見せるために髪も切った」農業に懸ける食べチョク秋元里奈の“覚悟力”

新R25編集部

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あのビジネスパーソンの「○○力」

2021/02/05

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仕事の現場で奮闘する、スゴいビジネスパーソンたち。あなたの会社にも「こういう人こそ新R25に取り上げられるべきでしょ」と感じる先輩や同僚がいるのではないでしょうか?

そんな人たちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者の皆さんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。

初回に登場していただくのは、秋元里奈さん。

新卒でDeNAに入社し、農家さん、漁師さんからネットで直接生鮮食品やお花を買うことができるオンライン直売所「食べチョク」を立ち上げた方です。

TBSの報道番組『Nスタ』に出演する、Tシャツ姿の彼女を目にしたことがある方もいるのでは?

【秋元里奈(あきもと・りな)】1991年生まれ、神奈川県出身。新卒でDeNAに入社後、2016年に農業支援ベンチャー「ビビッドガーデン」を創業。2017年に「食べチョク」をリリース。2020年からは報道番組『Nスタ』のコメンテーターを務める。好きなマンガは『ジョジョの奇妙な冒険』

常にTシャツ姿という噂の真偽」「農業で起業するのってハードル高すぎません?」「起業に向く人、会社員に向く人の違い」というテーマについて、野菜だけに根掘り葉掘り(は?)きいてきました!

…結論、秋元さんの魅力は、そのビジュアルにも表れている「覚悟力」でした。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

「みんなやろうとするアイデア」と言われた。食べチョク成功の理由は?

天野

農業系のベンチャーはいろいろありますが、成功が難しそうだと思ってしまいます。

そんななかで食べチョクは、月間100万以上のユーザーが訪問、2020年の年間流通総額は数十億円規模…なぜうまくいってるんでしょうか?

秋元さん

たしかに、起業する前に投資家さんに話すと必ず言われました。

ああ、みんなやろうとするアイデアだね」って。

「農家さんと消費者をECでつなぐ」っていうコンセプトはよくあるから、「これまでダメだったからね…」っていう反応をされるんです。

天野

正直そういうイメージがありますね…

秋元さん

でも私は、事業は「やる人」と「タイミング」がそろっていれば絶対うまくいくと思ってて…

天野

ほう…。「やる人」はどういう人がいいんでしょうか?

秋元さん

ストーリーと覚悟がある人ですよね。

私は実家が神奈川県の農家なんです。ただ、親は「農業は儲からないから継がなくていい」って言ってて、私が中学のころに廃業しちゃったんです。

社会人になってから実家の荒れた畑を見たときにすごくショックで、はじめて「一生を懸けて農業の仕事に取り組みたい」と思いました。

天野

なるほど、そういうストーリーが。

秋元さん

それで、私が着てるこの「食べチョクTシャツ」の話になるんですが…

「Tシャツを見せるために髪を切った」秋元さんが示した覚悟

天野

たしかに秋元さん、テレビでもいつもこのTシャツ姿ですよね。

秋元さん

365日、毎日これ着てますからね

天野

そんな人います!?

秋元さん

常にこのTシャツ姿のビジュアルでいることは、私にとって覚悟を示す方法なんです。

創業期にイベントをしたときに3万円で30枚発注したんですけど、お手伝いの人を入れても3人しかいないから、27枚余っちゃって

秋元さん

売上が月2万円ぐらいのときに3万円の出費なんで、すごいデカい(笑)。

だから「もう私が着ればいいや」と思って、まず1週間着てみることにしたんです。

天野

1週間ずっとTシャツを…

秋元さん

そしたら、すごい手応えがあったんです。

すれ違う人が「食べチョクってなんだろう?」って話してたり、ご飯食べてたらシェフに「それなんですか?」って声かけられて仕事につながったり…

私が毎日着れば、広告費として3万円のもとが取れるぞ!って(笑)。

天野

苦肉の策が功を奏したと。

秋元さん

私もともと髪の毛が長かったんですけど、最初のTシャツはロゴが小さくて、髪で隠れちゃってたんですね。

だから、ロゴをもっと見せたいと思って30cm髪を切りました

そこまで…

秋元さん

その話をすると、どんな人でも「そこまで本気なんだ」って驚いてくれるんですよ。

とくにシードラウンド(※ベンチャー企業の準備段階。“種”の状態)って、こちらには何もないので、投資家の人たちに「こいつは何があってもやめないか?」をすごい見られるんです。

最初に資金調達したときは、ほぼTシャツに投資されたって思ってます(笑)。

天野

そんなに扱いが変わるものなんですね…

秋元さん

それまでは普通にワンピース着て、ネイルして。別にそれが悪かったとは思わないけど、「どこまで本気なのかね」って感じはあったと思うんです。

自分自身の気持ちは、もちろん全然変わってないんですよ?

でも、見えるかたちで覚悟を示すことで、信頼されるためのコストが下がるんです。

天野

すごい覚悟だ…

でも、そう言われると新R25的にはもうちょっとツッコみたくなります…。本当の本当に毎日着てるんでしょうか?

イヤな質問をしている自覚はあります

秋元さん

着てますよ(笑)。寝るときもこのTシャツですし!

もう丸3年ずっとこの格好ですね。ほかの服はほとんど捨てました。

フォーマルな服だけちょっと残してたんですけど、最近は“ジャケット着たら許される感じ”になってるんで、それも捨てます。

天野

じゃあ、たとえばデートのときもTシャツで…?

秋元さん

なんか…ご飯に誘われて「これってデートかな」っていうときあるじゃないですか。

正直、“今日はさすがに普通の服着ていこうか”って思うんですけど、そうするとただのご飯の誘いだったときに、「えコイツ、デートだと思ってTシャツじゃない服着てきてるじゃん」みたいに思われるかなって…

じわ

秋元さん

それが悔しいんで、結局いつもTシャツで行ってます。だいたいそこから発展しないですね(笑)。

リアルすぎる心情をありがとうございます

秋元さん

脱線しちゃいましたけど…

農業に思い入れがあってストーリーを語れる人は、いると思うんです。ただ、その覚悟をまわりに伝えきれる人っていうのはそこまでいない

難しい業界でやるにあたって、第一歩としてそこは大きかったのかなと思います。

ほかの産直サービスが撤退した時期だったのに「今ならいける」と考えた“タイミングのつかみ方”

天野

なるほど…秋元さんの“ストーリーと覚悟”がよくわかりました。

もうひとつ、事業に必要な「タイミング」というのは?

秋元さん

世の中のちょっとした変化をとらえるタイミングってことなんですけど…

私が起業する2016年ごろ、都内のマルシェに行ってヒアリングしたら、「農家さんとつながっていいものを買いたい」っていう声はあったんです。

ただ、2013年ぐらいに生鮮食品の産直サービスが盛り上がったあと、そういうサービスがほとんど撤退してた時期だったんですよ。

天野

じゃあ厳しいのでは…? 「ダメだった」と証明されたタイミングですよね。

秋元さん

いや、そんなに単純じゃなくて…

すみません

秋元さん

メルカリを開いてみたら「野菜」が売ってたんですよ。今でこそ“メルカリで人気のニラ”とかありますけど、当時は服を売るフリマアプリっていうイメージだったので驚いて。

それを見て私は、「3年前とは消費者の意識が変わってて、ネットで生鮮食品を買うことに抵抗がなくなってるんじゃないか?」と思ったんです。

天野

…!

秋元さん

たとえば今、YouTubeが人気ですけど、それはYouTube自体がすぐれているってことだけじゃなく、たくさんのデータ通信を支える環境やスマホが普及してるタイミングということも大きいと思うんです。

それで、「スマホで動画を見るのが当たり前だよね」という意識がユーザーに根付いている。

天野

たしかに…

秋元さん

とくにルールが整備されてるわけでもないのに、自然発生的に野菜が流通してる、売りたい人と買いたい人がいる…。そういう世の中の空気感を見て、“今ならいけるんじゃないか”っていう確信が持てたんです。

起業に向いてる人、会社員に向いてる人っていますか?

天野

ちょっと個人的な相談になるんですが…。自分は実家が銭湯で、何かできないかなと考えてまして。

そんなふうに“将来的に経営すること”を考えてる人はけっこういると思うんですが、「起業に向く人」と「会社員でいたほうがいい人」ってどういう差があると思いますか?

秋元さん

性格的に「起業に向いてる、向いてない」っていうのはないですよ。

たとえば私も…、ホリエモンさんに対して劣等感をずっと抱いてたんですよ。

天野

堀江さんに…?

秋元さん

起業してからコーチングを受けたときに、「秋元さん、会話のはしばしに『ホリエモンホリエモン』って出てくるんですけどなんでですか?」って指摘されたんです。

変わった口癖ですね

秋元さん

言われてはじめて、たしかに!って気付きました。劣等感があったんですよね。

起業家って、堀江さんみたいに「まわりが否定しても気にしないでロケット打ち上げる」ようなカリスマタイプじゃないとダメなのかなって思ってて。

天野

たしかに、俺が俺がっていう人じゃないとダメなのかなというイメージがあります。

秋元さん

私はCOO(※Chief Operating Officer=最高執行責任者。いわゆるNo.2)タイプというか、経営者に向いてないって思ってたんです。

でもそこからちゃんと考えてみたら、起業家のなかでも家入(一真)さんとかはけっこう、こう…寡黙な方だったり…

「するじゃないですか!」はい

秋元さん

自分の性格を理解したうえで、それを補える働き方をしたらいいと思うんです。

私の場合は慎重すぎるところがあるので、“保守的になりすぎてないか振り返るミーティング”を入れたりするようにしてます。

天野

性格は関係ないか…。そう言われて救われる人は多そうです。

秋元さん

あとは、会社にいながら「週末起業」のようなかたちでトライしてみるのをオススメしたいです。

人って、想像できないことを不安に感じるので、まわりに同じような人がいる環境になれば不安はなくなってくるはず。

私も、「もし失敗しても、失敗のレッテルを貼られるより挑戦したという勲章がもらえる」と思って起業したので…

めちゃめちゃ背中を押してくれる言葉

天野

なるほどな…。今日はありがとうございます。

こんな真冬に、テレビで拝見してたTシャツ姿でお会いできるとは思ってませんでした…!

秋元さん

いやいや、Tシャツは冬こそボーナスタイムなんですよ!

まわりにTシャツの人いないからすごい目立つ。

風邪引いたら「じゃあTシャツやめれば」って言われそうだから体調崩せないんで、そこだけ気をつけてますけど(笑)。

ということで、「食べチョク」の躍進を支える秋元里奈さんの魅力ポイントは、365日サービスのTシャツを着続ける「覚悟力」でした。

ただ、一方で「自分は慎重派」と語るなど、地に足ついた姿勢とアドバイスも印象的…。

ご実家が“あんまり儲からなそう”な家業をやられている方など、ぜひ参考にしてみてください(銭湯も引き続き考えます)。

さて、新R25では、あなたの会社にいる「新R25に取り上げられるべき」スゴい人を募集します!

この人こそ…という方がいたら、Twitterなどで編集部員へ推薦してくださいね!お待ちしております~。

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=高橋団(@dangphoto83)〉

秋元さん、初の著書が間もなく発売!

「食べチョク」に興味を持った方はこちらから!

「野菜セット」から、「調味料」「お酒」まで、生産者さんがこだわった逸品を直接購入できます。見ているだけで楽しいので、オススメです。

秋元里奈さんのTwitterアカウントはこちら。話題の「Clubhouse」にて生産者の方とつながる「食べチョクハウス」を配信されているので、チェックしてみてください!

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