企業インタビュー

「MADE in JAPANの服=国産で良質」ではない。多くの日本人が誤解している“国産タグ”の事実

「MADE in JAPANの服=国産で良質」ではない。多くの日本人が誤解している“国産タグ”の事実

“純国産”の服は日本で1%にも満たない!?

新R25編集部

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みなさんは、MADE in JAPANの服にどんなイメージをお持ちですか?

生地がよさそう。安心・安全。なんとなく信頼できる。

そんなイメージをお持ちの方は、もしかしたら“大きな誤解”をしているかもしれません…。

遠州織物のアパレルブランド「HUIS(ハウス)」のオーナー・松下昌樹さんに「MADE in JAPAN」の誤解についてお話を伺いました。

〈聞き手=山田三奈(企業トピ編集部)〉

あまり知られていない「MADE in JAPAN」の真実

山田

前回、「HUIS(ハウス)」の生地へのこだわりを教えてもらったじゃないですか?

山田

一生着られるほど生地もしっかりしているし、文化的なストーリーもあるし…

やっぱり国産の服っていいな〜って思いました。

松下さん

ありがとうございます!

「HUIS」では、生地から縫製まで、すべて国内で一つひとつ丁寧におこなっていて。

タグにも「MADE in JAPAN」と表記されています。

松下さん

ただ…「MADE in JAPAN」って、誤解されているところも多いと思っていて。

じつは、タグに「MADE in JAPAN」という記載があるからといって、すべてが“純国産の服”とは限らないんですよ。

むしろ、「MADE in JAPAN」というタグがついている服の中に、日本の生地が使われている服はほとんどないんです。

山田

え…そうなんですか?

松下さん

アパレル業界において「MADE in JAPAN」という表示は「最終縫製地」だけを指すもの。

たとえばですが、海外産の生地をつかい、海外で縫製してシャツまで仕立て、「ブランドタグ」だけを日本で縫製した場合でも「MADE in JAPAN」と表記できるのがアパレル業界の国際的なルールなのです。

山田

じゃあ、「どこでつくられた生地か」まではわからない?

松下さん

そうですね。

ある統計によると、日本で流通している「MADE in JAPAN」と表記されている衣服のうち、実際に「日本製の生地をつかい、かつ、日本で縫製」した衣服は、1%に満たないとも言われています。

つまり、「MADE in JAPAN」と表記された服も、そのほとんどがアジアを中心とする海外産の安価な生地でつくられた服ということなんです。

まじか

日本国内で“国産生地”が使われないワケ

山田

でも…海外産よりも国産のほうが流通コストを抑えられるはずですよね。

なぜ国産の生地が使われないんでしょう?

松下さん

日本でつくられる生地が、高価な高級生地だからです。

僕たちがつかっている「遠州織物」のように、職人技術で時間と手間をかけてつくる生地が多いので、着心地や機能性が高いぶん、必然的に高価な生地になります。

生地の原価が高いと、メーカーも「高価な値段の製品」をつくるしかなくなりますが…今は“ファストファッション”の時代

高価な服をつくっても売れないので、安価な海外産の生地に頼っているんです。

山田

“ファストファッション化”によって国産生地の需要が減っていると。

松下さん

「低価格の服」を大量につくるために、生産現場では強烈に“効率性”が求められるようになりました。

そのため、現代使われている「最新型の機械」は、ものすごいスピードで糸を飛ばして織っていきます。また、早く織り上げるためには低密度なほうが効率的です。

ギンギンにテンションが張られたスカスカの生地は、もっとも効率的で安価につくることができますが…「良い生地」とはかけ離れていきます。

山田

スカスカの生地…(クローゼットにあるかもしれない)

松下さん

対して、日本に残る「古い機械」は、長く使えて着心地が良く豊かな風合いを持った「良い生地」を織ることができます。

ただ…時間も技術も多く要する(=高価になる)ことから、選ばれなくなってきているんです。

松下さん

ちょっと寂しいですが…

わざわざ高価な国産生地にこだわらなくても…」と考えるアパレルブランドが多いのは、必然なのかもしれませんね。

安価なものを大量生産する時代。たしかに寂しい

職人が手間をかけた生地には「付加価値」がつく

松下さん

とはいえ…手間を惜しまずに職人がつくった生地には、ほかにはない着心地や複雑な織り柄といった「付加価値」がつくのも事実です。

現に、地域ごとに独自の特色を活かした製品はずっと残っていますよね。

たとえば、今治のタオル奈良の靴下岡山・広島のデニムとか。

山田

ほんとだ、ずっと人気ですね!

松下さん

タオルや靴下、デニムといった製品は、形が概ね決まっているので、生地そのものが最終製品に近いですよね。

だから、「産地が消費者に知られやすい」という特徴もあるんです。

農産物の産地が知られやすいのと同じですね。

山田

「青森のりんご」「山口のふぐ」みたいな。

松下さん

一方、多くの洋服の生地(中間材)は、製品化のために服のデザインが必要になります。

結果、デザイナーや商社に卸す「BtoB」に特化した産地になるので、知られづらいのが残念なんですが…今なお素晴らしい産地が日本には多く存在しています

たとえば、愛知県一宮市の「ウール」、滋賀の「リネン」、和歌山の「丸編みニット」…

そのなかで「HUIS」が生まれた静岡の遠州(えんしゅう)は、いわゆる「高級コットン生地」の産地なんですよ。

松下さん

遠州は、トヨタグループ創始者であり、日本初の自動織機の生みの親でもある発明家・豊田佐吉が生まれた土地。

織機をつくり操る技術者が集結し、「ものづくりのまち」として大きく発展してきました。

「HUIS」の衣服に使われているのは、その当時に発明された旧式の「シャトル織機」で織られた生地です。

たくさんの細い糸をゆっくり、ぎっしり織る「シャトル織機」

松下さん

「シャトル織機」は何十年も前に生産が終了しているので、もう二度と手に入らない貴重な織機です。

だからなおして使い続けるしかないし、扱える職人も少なくなっていますが、それだけに“特別な生地”だと言われます。

とくに遠州織物のような細番手&高密度のシャツ生地を織るのは難しく、何十年と磨き続けてきた遠州の職人の技術が凝縮した生地は、特別な風合いと機能性を兼ね備えていて。

少し触っただけでも全然違います。軽くてふわふわ。しかも丈夫で長持ちします

山田

これは、ファストファッションブランドでは絶対に買えないですね…

松下さん

それだけ高価な生地ですけどね。

もちろん、安価な生地が一概に悪いというわけではありませんが…私たちは、世の中に2つとないこの生地を誇りに思っています

「HUIS」の生地のより詳しい解説は、以下のブログにまとめていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。

正しい知識で“個人の選択肢”を広げたい

山田

そもそもなぜ今回、「MADE in JAPAN」の誤解について発信しようと思ったのでしょうか?

松下さん

以前ポップアップイベントをおこなったときに、お客さまのなかにMADE in JAPANの製品しか買いたくないと言う方がいらっしゃったんです。

松下さん

その方は、テレビで「海外での就労問題」「日本の繊維産地の現状」などを知って以来、「MADE in JAPAN」と記載された服だけを買うようにしていたそうで。

「MADE in JAPAN」の誤解の話をしたところ、とてもショックを受けられていました。

山田

よかれと思っていたことが誤解だとわかったら、すごくショックですよね…

松下さん

「誤解を解きたい」という気持ちもあるし、「日本の生地をすごさを知ってもらいたい」と、お客さまにはイベントでの販売の際などでいつもお話しているんですが…

その姿を見たときに、あらためてより広くお伝えしなければと思って。

ブログを書いたり…私たちがつくっている冊子「HUIS JOURNAL」でもくわしくご紹介したりしました。

vol.1〜3まで出ているそう

松下さん

この号では、「繊維産地」や「アパレルの裏側」などについてまとめています。

オンラインストアから無料でお届けしているので、興味のある方はぜひご注文ください!

松下さん

私たちは、個人にとって“選択肢”があることが大切だと思っています。

一人ひとりが「心地よい暮らし方」を満たせるような衣服を届けられるブランドでありたい。

だからこそこれからも、“生地の価値”を正しく届けていきます。

「MADE in JAPAN」と表記がある服でも“純国産”とは言えないことが判明。

そんななかで“純国産”を貫く「HUIS」は、とても尊いブランドだと思いました。(ストーリーが込められたアイテムも要チェックです!)

今後も「HUIS」から、遠州織物やシャトル織機で織った生地のこと、繊維産地についてなどシリーズで伝えていく予定。次もお楽しみに!

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