企業インタビュー
偶然出会った林業から、樹木医に! キャリアが深化した森さんの“はたらくWell-being”
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

みなさんは、「樹木医」という職業を知っていますか?
その名の通り、樹木のお医者さんとしておもに緑地における樹木の保護や育成、管理を行い、落枝や倒木などによる被害を抑制する専門家のことを言います。
今回紹介するのは、日本でも珍しい樹木医の会社HARDWOOD(ハードウッド)株式会社を立ち上げた樹木医の森広志さんです。HARDWOOD株式会社では、樹木医による診断・治療はもちろんのこと、倒木のリスクがある高木・巨木の伐採や個人宅の造園設計まで手がけています。
森さんはもともと樹木医や起業を目指していたわけではなく、キャリアを築いていくなかで道が開かれ、現在のキャリアにたどり着いたそう。どのようにして今の「はたらく」になったのか。仕事における“はたらくWell-being”について聞きました。
中央学院大学卒業。東京で生まれ育つが南伊豆に移住し、林業に11年従事。素材生産の現場と森林施業プランナーとして森林経営計画の策定を行いながら、間伐体験、ツリークライミングイベント等の環境教育事業を主催。樹木医の資格を取得後、2019年に独立しHARDWOOD株式会社を設立。樹木医業、特殊伐採、森林施業プランナーの仕事をメインとしている。南伊豆と東京を二重拠点として全国で活動中
全国に約3,000人。樹木のお医者さん「樹木医」とは!?

田邉
先日、熊被害のニュースを見ていたときに専門家として「樹木医」の方が出てきたんですね。
「樹木医ってなんだ!?」と思い、今回の取材を依頼をさせていただきました。
森さんは、日本でも珍しい樹木医の会社をされているとのことで、そもそも「樹木医」ってどういったお仕事なんですか?

森さん
簡単にいうと「樹木のお医者さん」です。
樹木医は、一般財団法人日本緑化センターが認定している資格で、樹木医試験に合格した人が樹木医になれるんですね。


田邉
ということは、民間資格なんですか?

森さん
現在はそうです。
もともとは、農林水産省の外局であり、森林の保全や林業の発展を行う林野庁主導で1991年に認定制度がスタートしました。
事業仕分けのタイミングで資格制度が第三者機関に譲渡されて、今のかたちになっています。

田邉
へえ~! 知らなかったです!

森さん
受験資格としては、僕らの時代は樹木の診断、予防・治療、維持管理などの実務経験7年以上が必要でした。
ですが令和5年度からは5年に短縮されています。
年1回の一次審査があり、それに合格すると2週間かけて講義と実習を行う研修、面接、樹木医制度審議会による最終審査の二次審査を突破して、ようやく樹木医の認定がもらえます。

田邉
おお…意外とハードルが高いですね。

森さん
合格率は大体、2割ぐらいと言われていますね。
樹木医は毎年100人ずつぐらい増えていて、2024年時点の樹木医登録者数は約3,000人なんです。

田邉
森さん的には、それは多いんですか? 少ないんですか?

森さん
正直、まだまだ足りていません。
それに、教員免許を持っている方が全員教員になるわけではないように、樹木医の資格を持っていても僕らのように樹木医として働いている人ばかりではないんです。
たとえば、大学の教授や、研究所の職員、土木系のコンサル会社や造園会社の社員さんで樹木医の資格を持っている、なんてパターンもありますね。

田邉
なるほど。
樹木医として働くのではなく、仕事をするうえでの資格として「樹木医」を持っている方もいらっしゃるんですね。
日本の森は、育ちすぎている。豊かすぎる現代ならではの問題点

森さん
じゃあさっそくですが、実際に樹木医がどんな仕事をするのか、現場を見に行きましょう!
そう言って準備を始める森さん。樹木医として「樹木診断中」の腕章は常に持ち歩いているそう
田邉「道具類、めちゃめちゃカッコいいですね!」 森さん「日頃から使うものなので、こだわって選んでいますね」

田邉
今回は、どんな現場なんですか?

森さん
学校内の敷地にある緑地の整備です。
管理者不足から人の手が行き届かなくなってしまい、成長の早い樹木がどんどん伸びて困っていると。
近隣に住宅もあり、倒木の可能性や、害虫・蛇などの被害もあったことからご依頼をいただきました。

田邉
そうか。管理されないと、そうした危険性や被害が生まれてしまうんですね。
伐採前は、あたり一面に樹木が鬱蒼と茂っていた

田邉
すごい! 樹木医という言葉から、なんとなく白衣を着たお医者さんをイメージしていましたが、伐採も行うんですね。

森さん
そうですね。
僕らの会社はご依頼にあわせて林業的な仕事も手がけています。こうした伐採・間伐もしますし、個人宅の造園設計のお仕事をすることも。
樹木の診断をする場合は、このように木槌で幹を叩き、打鍵音で診断するんですよ。
田邉「音でわかるんですか?」 森さん「それがね…わかるんですよ(笑)」

森さん
でも、昨今のご依頼の多くは、伐採や間伐がメインですね。

田邉
え、樹を切るお仕事が多いんですか?

森さん
そうなんです。
田邉さんは、「森林問題」と聞くとどんなイメージをしますか?

田邉
木が切られすぎて不足しているとか、緑が減っているといったイメージですが…

森さん
ですよね。
でも実は日本は真逆で、過去に植えた木の間伐といった適切な管理がされておらず、木が多すぎて困っている。
森が放置されていることにより、ある意味で森が豊かになりすぎているのが、今の問題なんです。

田邉
ええ! そうなんですか!?

森さん
意外ですよね。
そもそも日本の森林は約半分が天然林で、もう半分が人工林です。人工林は家や木製の製品をつくるために、人がスギなどを大量に植えて人工的につくった森です。
大量に植えたのは、良い木が育つように木を競わせて、間伐することが前提だったから。
しかし、木材の需要が減ったり、林業に携わる人が減ったりしたことで森が放置され、過去に植えた大量の樹木たちが今、飽和状態になってしまっているんです。


田邉
ということは、毎年スギ花粉量が更新されているのは…

森さん
こうしたことにも原因があると思いますね。
現代は、日本の歴史上でもっとも木が多い時代です。今ほど人間が、森や樹木、巨木と向き合っていることはありません。
大量に植えた樹木を適切に間伐、利用し、その場や土地にあった役割を与えて管理しなければならないのですが、人の管理が追いついていない状況なんですよ。
人が面倒をみなければ、ここのように倒木や土砂崩れの危険性、害虫や動物などの問題にまで発展してしまうんです。

田邉
全然知らなかったです。
林業のことを知ってほしい。自分の好奇心から始まったキャリアが今

田邉
やっぱり森さんは、子どものころから海より山派だったんですか?

森さん
いえいえ、まったく! むしろ超海派でした(笑)。
僕は東京生まれ東京育ちで、学生のころはひたすらサーフィンに熱中していましたね。


田邉
えっ、ええ!? 全然山派じゃない! どうして樹木医に…?

森さん
大学卒業後は、物流企業でセールスドライバーをしていました。
それも特になりたかったわけではなく、「セールスドライバーはハードワークだけど稼げる」というのを聞いて、「どれだけハードなのかやってみよう」と思った好奇心で飛び込みました。
子どものころから空手をしていて、サーフィンもしていたから体力には自信があった。それだけの理由で(笑)。

田邉
自分のタフさを試そうと。実際いかがでしたか?

森さん
噂にたがわず、めちゃくちゃハードでしたね! 1日の集配量は多いし毎日課される営業ノルマもあって。本当に朝から晩まで一日中走り続けました。
だけどその分、新卒でも月給50万円ほどをもらっていたこともあり、キャリアアップもできたので7年くらい続けました。
28歳のとき、結婚や2人目の子どもができるなどライフステージの変化もあり、仕事を辞め、伊豆に移住したんです。

田邉
伊豆ではどんなお仕事を?

森さん
それまでかなりハードにはたらいてきたから、当初はゆっくりやることを考えようと思って、失業保険をもらいにハローワークへ行ったんです。
せっかく移住したからには、自然に近い仕事をしたくて漁師を考えていたら、たまたま林業の募集を見つけて。「林業も自然に近いよな」と思って、応募したら採用いただいたんです。

田邉
そんな偶然が! それが「林業」との出会いだったんですね。

森さん
60代のベテラン木こりたちに囲まれて、いちからチェーンソーの使い方や間伐の方法、樹木の管理を学びました。
「都会から来た若者」ってだけで「何もできない奴」認定されて、それが悔しくて悔しくて(笑)。
とにかく必死に見て、聞いて、実践して、木こりとして自分ができることを増やしていきました。
でも、この業界は担い手不足を筆頭に課題だらけなんですよね。


森さん
それであるとき、学生時代の友人たちから「今何しているの?」と聞かれて、「木こりだよ」と答えたら、「なにそれ!?」と林業についていろんなことを聞かれたんです。
そのときに、自分にとっては身近だったけど、林業の実態ってこんなに知られていないんだと驚きました。

田邉
私も「豊かになりすぎていることが問題」って知らなかった…

森さん
僕が木こりとしてどれほど木をうまく、たくさん切ろうと、それだけでは業界のためにはならないんですよね。
もっといろんな人に業界の実態や、問題を知ってもらいたいと思うようになり、林業に触れてもらう機会として、間伐体験やツリークライミング®︎イベントなどの企画・運営も始めました。
そして、人に伝えるためには僕自身がもっと森や樹木に詳しくなろうと、いろいろ調べていたときに樹木医のことを知りました。
資格があることで説得力も増すだろうと思い、生まれて初めて真剣に勉強しましたね(笑)。

田邉
それから樹木医になられたんですね。独立は、いつごろ考え始めたんですか?

森さん
次のステップを考えていたときに、自然と考えるようになりました。
樹木医以外にも森林評価士という資格や森林所有者に代わって森林の管理計画をする専門家・森林施業プランナーの資格を取得したんです。
すると、現場に入って樹木の診断や伐採もできるし、管理計画も立てられるしで、任される範囲が増え、知り合いづてに個人でも仕事がくるようになったんです。
所属していた会社の代替わりもあり、「独立」という道が見え始めました。そのタイミングでちょうど林業仲間であった片岡と偶然樹木医の同期として再会して、独立した一年後、一緒に起業しました。

5大国家資格に挑む。楽しめる自信があるのが“はたらくWell-being”

田邉
たまたま出会った「林業」から、森さんのキャリアがどんどん深化していますね。

森さん
確かにそうですね。自分の好奇心や「やってみたい」「若造だと思われて負けたくない」といった気持ちで仕事に向き合ってきたら、自然と今のかたちにたどり着きました。
僕は40歳で起業したので、世間一般でみたら遅咲きだと思います。でも、だからこそ「自分なら大丈夫だ」と思える準備がバッチリ整っていたんです。

田邉
準備万端だった。

森さん
セールスドライバーでハードワーク経験もありますし、営業やクレーム対応、顧客対応も経験済み。
林業に入ってからも、クライアントとのやり取りから、現場作業、現場の納め方、請求書関連なども担っていましたから。仕事の生み出し方、こなし方、人脈、経験…そういうものが、気づいたときには自分に揃っていた。
今でも「どんな依頼だとしても自分ならできる」と思えるし、自信がある。だから、はたらくことが楽しいんですよね。

田邉
経験に裏打ちされた自信があるから、どんな仕事、場面であったとしても楽しめる。
すごい、めっちゃ“はたらくWell-being”ですね。

森さん
キャリアが浅いうちから独立や起業を考えなくても、まずは目の前の仕事を丁寧に、しっかりできるようになることで、自然と道が開けてくるってこともあると思いますね。

田邉
森さんは、今後の目標はありますか?

森さん
技術士の資格をとろうと思っているんですよ。


田邉
技術士?

森さん
技術士は、弁護士や公認会計士とならんで5大国家資格と呼ばれている資格です。
さまざまな技術に関する計画、研究、設計、分析、試験、評価と、それらを指導できることを国に認められた専門家で、建設や機械、農業、化学など21の部門があるんですね。いわばその分野の技術に関するスペシャリストです。
そのなかに森林部門もあり、次はこれを取得したいなと思っています。
でも、試験がめっちゃくちゃ難しいので、勉強のしがいしかありません(笑)。
これからも自信をもって仕事に向かうために、僕も成長し続けていきたいと思っています。
<取材・文=田邉 なつほ(声音)>
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