企業インタビュー
「変わらない町」を意識から変える。地元企業・2代目が目指す地域活性化の未来と「No.12」への想い

「変わらない町」を意識から変える。地元企業・2代目が目指す地域活性化の未来と「No.12」への想い

【連載インタビュー】カシマの変遷と「No.12」プロジェクトが生む新たな風

新R25編集部

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茨城県鹿嶋市は、鹿島アントラーズのホームタウンとして知られるサッカーの聖地であり、地域の人々が一体となって支える活気ある町でもある。

この地に新たな賑わいを創出するプロジェクトとして、地域の魅力を発信する宿泊施設「No.12 Kashima Fan Zone(以下「No.12」)」が2025年3月にオープンした。

プロジェクトを推進するのは、ツキヒホールディングス株式会社と、鹿島アントラーズFC代表取締役社長を務める小泉文明氏率いる株式会社KX

「地方創生」×「スポーツ」×「リカバリー」をテーマに、スポーツを軸とした新しい地域の活性化モデルを打ち出し、ファンや地域住民が心から楽しめる場を提供することを目指している。

まずは自分が動く。そして皆を巻き込んでいきたい

——そう語るのは、鹿嶋市を拠点に、半導体関連のエンジニアリングや石油化学工場設備の補修工事などを手掛ける企業、株式会社サクライの取締役・櫻井拓也さん

高校卒業後、国内トップクラスの化学企業でエンジニアリング業務に従事。その経験を経て、30代で家業を引き継ぎ、カシマの地に戻った。

以降、地域に根差しながらも、SDGsの視点を取り入れた水素事業の推進やM&Aを通じた企業の再生を目指すなど、多角的な事業展開に挑戦している。

今回、「No.12」のプロジェクトへの参画を通して、地域の未来に託す想いや、カシマの発展にかける情熱について語っていただいた。

半導体関連のエンジニアリングや石油化学分野まで。技術の継承で未来を拓く、株式会社サクライ

川島

櫻井さん、まずは株式会社サクライさまの事業内容について教えていただけますか?

櫻井さん

当社は主に半導体装置の設計や、部品製造と、石油化学関連のエンジニアリング業務を行っています。

具体的には、半導体製造装置の配管部品をオーダーメイドで製造したり、石油化学のプラントメンテナンスを行ったりしています。

ほかにも、機械加工や流量計算、設計など、専門性の高い業務を手掛けていますね。

川島

半導体関連のお仕事がメインだと思っていましたが、石油化学も取り扱っているんですね。

どのような役割を担っているのでしょうか?

櫻井さん

石油化学分野では、ガソリンや皆さんのお住まいの住宅資材に使われる塩ビの原料を製造するプラントの補修工事を行っています。

あらゆるプラントに対応できる技術を持っており、それが当社の強みです。

川島

お父さまの代から現在の事業内容を手掛けられていたのですか?

櫻井さん

いえ、創業当時は今とはまったく違う事業をしていました。

父が起業したころは、山の砂利の採取や住宅の解体業が中心でした。時代の流れやニーズに合わせて、徐々に業務内容を拡大し、現在の形になりました。

川島

すごい進化ですね! 半導体分野に進出されたのは、どのような経緯があったのでしょうか?

櫻井さん

ひとくくりに「半導体」と言っても、それ自体は小さな電子回路やチップに使われる素材で、スマートフォンや家電、自動車など、あらゆる分野の製品に欠かせない存在です。

その製造には、多くの工程と専用の装置が必要で、当社はその装置内で使用される配管部品を設計・製造しています。

これらの部品は、装置の動作に不可欠な役割を果たしており、各メーカーのニーズに合わせたオーダーメイド品を提供しています。

CAD設計や流量計算などのエンジニアリングから、国内生産による高品質な製品提供まで、一貫して対応できる点が当社の強みです。

川島

国内での品質管理やオーダーメイド対応は、たしかに大きな強みですね。

それにしても、幅広い分野で活躍されていますが、どのようにしてこれだけ多角的に事業を展開できたのでしょうか?

櫻井さん

それは、私たちが常にお客さまのニーズに寄り添いながら、技術を磨いてきたからだと思います。

当社は、熟練技術者と若手が協力し、技術の継承と成長を目指す仕組みを構築しています。

経験豊富な人材を迎え入れ、その知識と経験を若手に伝えることで、技術力の向上と次世代の育成を図っています。

時代を築き上げてきた先人から学ぶことで「僕たちが未来を明るく変化させたい」そんな風に考えております。

川島

なるほど。過去から未来へとつながる技術とこれからの人材育成が、今の株式会社サクライさまを支えているんですね。

櫻井さん

その通りです。

技術の継承だけでなく、次世代に新たな挑戦の場を提供することも私たちの使命だと思っています。

それが地域の活性化にもつながると信じています。

鹿島アントラーズ誕生をきっかけに地域の壁を越えた町には一体感が生まれました

川島

櫻井さんは2代目ということですが、お父さまが創業された時からカシマの町の様子はどのように変わってきましたか?

櫻井さん

そうですね。父が起業したころ、この地域はまだほとんど何もない状態でした。

舗装された道路も少なく、企業の進出が進む前は本当にただの田舎町だったと思います。それが、大手企業の参入によって町が大きく発展しました。

工業団地の建設やプラントメンテナンスの需要が増え、カシマの町は企業活動を中心に栄えるようになったんです。

ただ、発展が企業頼みであったため、地元の人々自身が主体的に動いて変化を作り出しているわけではないという現実もあります。

川島

そのような背景で、今の鹿行水郷エリアの課題についてはどうお考えですか?

櫻井さん

やはり、町が「大手の企業に依存しすぎた」ことが大きな課題です。

大手企業が撤退すれば経済基盤が一気に崩れる可能性があります。

その一方で、地元の若い人たちが就職先を求めて東京などの他県に出て行き、地域に戻ってこないケースが増えています。

これは人口流出だけでなく、地域の技術継承やコミュニティの弱体化にもつながっていますよね。

川島

他の地域でも若者が出て行き、定年を迎えた高齢者が仕事を持て余している状況もよく耳にします。

この問題を解決するために、具体的にどのようなことをされていますか?

櫻井さん

そうですね。今、うちの会社では60代以上の技術者を積極的に採用しています。

豊富な知識や経験を若い世代に伝えてもらうことで、会社全体の技術力向上を図っています。

また、M&Aを活用してさまざまな要因で経営が難かしくなってしまった地元企業を引き継ぎ、新たな価値を付加して事業を再生する取り組みも進めています。

これにより、地元での働き口を増やし、より多くの若者や高齢者が活躍できる場を作りたいと考えています。

カシマの地で「自分が変わらなければ」と考えるようになりました

川島

櫻井さんご自身が、株式会社サクライさまに関わるようになったきっかけは何だったのでしょう?

櫻井さん

正直なところ、高校卒業のころは家業を継ぐつもりはありませんでした。

ただ、継ぐという将来の選択肢を持つのであれば、まずはしっかり学ばなきゃいけないなとは考えていました。

そんな思いがあったからこそ、信越エンジニアリングでのプラントの補修・メンテナンスを学び地域や家業の可能性に気付くことができました。

その経験がなければ今の自分はなかったと思います。

川島

素晴らしいですね。若い人材の地元定着や高齢者の再雇用といった取り組みは、どの地域でも大きな課題です。

櫻井さんご自身がこうした活動に意欲を持たれるきっかけは何だったのでしょう?

櫻井さん

ひとつは、自分の同級生たちが次々に地元を離れていったことですね。

「何もないから出ていく」という現実を目の当たりにしたとき、このままでは地域が衰退してしまうと感じました。そこから「自分が変わらなければ」と考えるようになりました。

また、私は仕事を通じてさまざまな業界の知識を得ました。その経験から、この地域でも新しい事業や雇用を生み出せると確信しています。

やるべきことは多いですが、誰かが最初の一歩を踏み出さない限り、何も変わらない。だからこそ、自分がその役割を担いたいと思っています。

「変わらない町」という感覚を変えたい

川島

今回の「No.12」プロジェクト」に参画しようと思った理由を、ぜひお聞きしたいです。

櫻井さん

率直に言えば、自分が「泊まりたい」と思ったからですね(笑)。

川島

泊まりたい! シンプルですけど、すごく大事な感覚ですよね。

それだけ魅力を感じたということでしょうか?

櫻井さん

そうですね。ただ、それだけではなくて、この地域には長い間「変わらない町」という感覚があるんです。

僕自身、何かを変えたい、地域を盛り上げたいという想いがあって、このプロジェクトに出資させていただきました。

特に、「No.12」のような企画が、外に出て行った人たちを少しでもこの地域に呼び戻すきっかけになればと考えています。

川島

地域を変えるきっかけとして「No.12」を捉えていらっしゃるんですね。

戻ってきてもらう仕掛けというのが印象的です。

櫻井さん

そうなんです。「No.12」を通して、まずは外から人を呼び込む。

そして、この場を利用してカシマや神栖に住む地元の人たちも「次は自分たちの番だ」という意識を持つようになればいいなと思っています。

川島

たしかに、地元の人が率先して動く姿勢を見せることが、次の大きな波につながりますよね。

櫻井さん

そうですね。このプロジェクトに参画したのは、単に楽しい企画だからとか儲かるからとかではありません。

この地域をもっと活性化したい、そして今ある良い流れを途絶えさせないための一歩として必要だと思ったからです。

外部の企業が「何かやってくれた」だけで終わらせてはいけない。

僕たち地元の人間が次の行動を起こさなければ、地域は結局元に戻ってしまう。それを避けるために、まずは動いてみようと考えました。

川島

櫻井さんの行動が、この地域を変える最初の「旗振り役」になるわけですね。

本当にワクワクします!

櫻井さん

ありがとうございます!

でも、1人では何もできないので、KXさんやツキヒホールディングスさんたちと一緒に、このプロジェクトを通じてもっと地域全体を盛り上げられるように頑張っていきたいです。

僕らの明るい未来のために、止まっていてはいけない。まだまだ伸びていかなきゃいけないので、僕たちは。

川島

さて、櫻井さんはこれからのカシマの未来をどう描いていらっしゃいますか?

櫻井さん

この地域がこれからも続いていくためには、新しい挑戦が不可欠です。

たとえば、私は最近、水素事業に可能性を見出しています。この地域を「化学の町」にするというのが私の夢のひとつです。

水素は環境負荷が少なく、エネルギー源として非常に将来性があります。

これを地域の特色にできれば、カシマを中心とした新しい産業の形が作れるのではないかと考えています。

川島

水素事業というと、具体的にはどのようなイメージでしょうか?

櫻井さん

たとえば、焼肉屋さんの燃料をプロパンガスから水素コンロに替える、といった取り組みですね。

実際、東京都内では既に水素を活用した飲食店が話題になっています。

この技術をカシマでも展開し、さらにそれを観光資源として活用することができれば、全国的にも注目されるエリアになる可能性があります。

ただ、安全性の確保が重要なので、そこをエンジニアリングの力でしっかり対応することが鍵です。

このような付加価値を持った取り組みを増やしていきたいですね。

川島

それは非常に興味深いですね。

ただ、ひとつの企業やプロジェクトで地域全体を変えるのは難しい面もあると思います。

地域全体で連携して取り組む必要があるのではないでしょうか?

櫻井さん

おっしゃる通りです。この地域の未来を考える上で、1社単独では限界があります。

だからこそ、地域の他の企業や団体、行政との協力が欠かせません。地域に根差した事業者/プレイヤーの方との連携や、外部からの知識や資金を取り込むことが重要です。

また今後は、先ほどお話ししたM&Aによる事業承継を進めていきますが、「潰すのではなく

伸ばして継続させる」という思いで引き継ぎ、どんどんこのカシマを盛り上げたいです

止まってちゃいけない。僕たちの未来を明るくするために、まだまだ伸びていかなきゃいけない。僕たちはしっかり動き続けて、上を目指していかなきゃいけないなって思ってます。

ただ、そのためには健康も大事ですね。健康でなければ何もできないので(笑)。

僕たちと一緒に変化していくカシマを体感してください

川島

その想いが地域を動かしていく原動力になるのですね。

最後に、カシマや鹿行地域に訪れる方々へメッセージをお願いします。

櫻井さん

ぜひカシマや鹿行地域に「何か面白いことがあるんじゃないか」と期待して訪れてほしいです。

私たちは、この地域をもっと魅力的な場所にするために挑戦を続けています。

訪れることで、地域の変化を感じてもらい、その一部になっていただけたらうれしいです。

川島

本日はどうもありがとうございました!

〈聞き手=川島(デジタルハリウッドSTUDIO by SAKURA 受講生)〉

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