

跳ぶ、はたらく、学ぶ。陸上選手・赤松諒一さんが、トリプルキャリアを持つ理由とは
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

4年に一度のスポーツの祭典、オリンピック。2024年夏はフランス・パリで開催され、数々の名シーンが生まれました。
そんなパリ五輪において、陸上競技の走高跳で2m31cmを跳躍し、日本勢88年ぶりとなる5位入賞を果たしたのが赤松諒一さんです。

実は赤松さんは、アスリートでありながらホテリエでもあり、さらに岐阜大学大学院医学系研究科の研究生でもあります。
運動、仕事、勉強の文武両道を成し遂げる赤松さんの“はたらくWell-being”の根源とは?
高校から陸上競技の走高跳を始め、3年生の全国高等学校陸上競技対校選手権大会にて第3位を勝ち取ると、同年には2m16cmをクリアし、その年の高校記録保持者となる。その後岐阜大学へと進学し、日本学生陸上競技選手権大会にて3度の優勝を収めた。岐阜大学大学院修了後はシステムエンジニアとしてはたらきつつ、地元企業にて所属アスリートとして活躍。2022年にはオレゴン世界選手権に初出場し、翌年のブタペスト世界選手権で8位入賞。2024年からは株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドに所属し、日本選手権2連覇、パリオリンピックにて5位入賞などの成績を残している。また、研究にも力を入れ、岐阜大学医学部研究生として転倒予防の研究を行っている
バスケから陸上へ。シンプルだけど制御できないことが魅力

田邉
パリ五輪、5位入賞おめでとうございます!
日本勢としては、88年ぶりの快挙となりました。

赤松さん
ありがとうございます! みなさんの応援のおかげです。

田邉
2m31cmの大ジャンプでしたよね。
サッカーゴールは約2m40cmなので、サッカーゴールを超えるくらい!

赤松さん
僕としては2m34cmを目標に掲げていたので、正直悔しさも残っています。もし跳べていたならメダルも…と考えてしまって。
この悔しさを忘れずに、今は次の大会、2025年9月に東京で開催される世界陸上競技選手権大会に照準を合わせています。

田邉
赤松さんは、いつ陸上選手になろうと思ったんですか?

赤松さん
僕が陸上を始めたのは、高校生のときでした。それまではバスケットボールをしていて、高校でも最初はバスケ部に入る予定だったんです。
ただ、いろんな部活動を見て回るなかで、陸上部の雰囲気や競技の面白さに惹かれたんですよね。

田邉
競技の面白さですか。

赤松さん
走ったり、投げたり、跳んだり…陸上競技は、言葉にするととてもシンプルな動作ばかりです。僕がしている走高跳も、助走して、踏み切って、バーを超えてマットに着地する、その繰り返し。
ですが、それだけの動きのなかでも、自分の動きを完全には制御できないんですよ。自分の感覚と実際の動きのズレを修正したり、理想とする動きを追求するために試行錯誤を重ねたり。自分の身体で研究し続けられるところに面白さがありますね。

田邉
確かに、ジャンプという行為は同じでも、まったく同じジャンプはないですよね。

赤松さん
まさにです。そして陸上は、0.1秒、0.1cm、微妙なズレでも明確に記録が出て、順位も勝ち負けもバシッと決まるスポーツです。
ストイックな世界だからこそ、自分の今までの自己ベストやライバル選手の記録と向き合い、目標を明確に持てるのも魅力のひとつです。

田邉
なるほど。やみくもに進むのではなく、常に「〇m〇cm」と目標数値がある。

赤松さん
そうですね。大会や記録会の規模感にかかわらず、目指すべき記録が常にあります。

田邉
それだけ常に目標に向かっていると、しんどさや苦しさを感じることってありませんか?

赤松さん
もちろん、あります。記録が伸び悩む時期もありますし、なかなか勝てないライバル選手もいて。
でも僕は、そういったときでもあんまり落ち込むことはないんですよね。

田邉
ええ! 落ち込まない!?

赤松さん
もちろん悔しいですし、「なんでダメだったのかな」と考えます。ただ、これがスポーツの面白いところで、できなかったときにはできなかったなりの理由が必ずあるんですよ。
足の運びが違ったのか、背中のしなりが足りなかったのか。撮ってもらった映像などで客観的に見て、今までの練習や筋トレがどういった影響を与えていたのかを再考するんです。


赤松さん
結果的に、「次はこの練習を取り入れてみよう」「ここを強化してみよう」と次のステップへつながっていく。
どんな結果であれ前に進んでいけるからこそ、落ち込むというよりは次につながる一歩として受け止めています。

田邉
(受け止め方が、かっこいい…!!)
アスリート×ホテリエ! 異色のキャリアは自ら希望

田邉
アスリートでありながら、ホテルでもはたらかれていると聞いたのですが。

赤松さん
2024年に西武・プリンスホテルズワールドワイドに在籍して、所属企業の一員としてオフシーズンにホテル業務をしています。

田邉
具体的には、どういったことをされるのですか?

赤松さん
お客さまをお迎えするフロント・ベル業務やレストランでの配膳業務、外回りをする営業も経験させてもらいましたね。

田邉
まさにホテリエ! でも、ぶっちゃけアスリートとホテル業務を両立するって大変じゃないですか…?

赤松さん
よく言われるのですが(笑)、そもそも「ホテルではたらきたい」と僕から申し出たんですよ。
えっ!自ら希望!?

赤松さん
選手として所属する以上、「何をしている会社かわかりません」というのは違和感があるなと感じたんです。会社からは、「在宅でもできる作業を」と配慮していただいたのですが、ホテル業務の経験ができるのは貴重なので、やってみたい! と。
僕はどんな経験もマイナスになることはないと思っていて、ホテル業務をしたことで見えた世界もあるんです。

田邉
といいますと?

赤松さん
お客さまに満足いただくために、どうご対応したらいいかなと考えたり、「今お客さまは何を求めているだろうか」と想像したりできたのは、経験したからこそ。
ベストなご対応ができたときに、お客さまから「ありがとう」と感謝の言葉をいただけると、陸上競技でいただく声援とはまた違ったうれしさがありましたね!
さらに研究生まで!? 大学院で、高齢者の転倒予防を研究

田邉
陸上選手、ホテリエ、さらに研究生という一面もあるとか!

赤松さん
はい。岐阜大学大学院医学部整形外科の研究生として、高齢者の転倒予防について研究しています。

田邉
高齢者の転倒予防。どんな研究になるんですか?

赤松さん
高齢の方の歩行から転倒予測をする研究をしています。人が歩くときって、足裏で重心点が軌道を描いているんですよ。踵から足を着き、ちょっと外側を回って、親指の母指球あたりに重心が抜けて足が地面から離れる。
その重心点の軌道が、通常の動き方と比較してどう変化すると転倒しやすいのか、怪我につながりやすいのかを研究しています。

田邉
研究方法としては、いろんな方の歩くときの重心点の軌道を収集して、データを集める感じですか?

赤松さん
まさにその通りです。
ブレが生じると転倒しやすいということがわかったので、そこからさらに、歩行の軌道を測ったときに「転倒する確率がこのぐらいあります」と示せる計算式もつくって論文を書きました。
計算式も!? めちゃめちゃすごい

田邉
だからこそ気になるのですが、どうして社会人になってから大学院に入学し、研究生になったのでしょうか。

赤松さん
もともとは、以前所属していた地元、岐阜県の医療系IT企業に務めていたときに「博士号を取得しない?」とお声がけをいただいたんです。
学生のときに同じ岐阜大学大学院の教育学研究科で修士の学位を取得していましたし、骨や筋肉について学べるいい機会だと思い、入学することを決めました。
移籍してからも引き続き学ばせていただけているので、ありがたい限りです。

田邉
すでに選手としての練習もあり、仕事もあるなかで、さらに研究…?

赤松さん
陸上をしているので、身体について学べるのは楽しいんですよね。仮説を立てて、その仮説を立証するために、データ分析をしたり考えたり、一歩ずつ積み重なっていく感覚が心地よいというか。
それに、いつか陸上を引退したときのセカンドキャリアとして、研究生という道があるのもいいなと感じたんです。
3つのキャリアが、僕の“はたらくWell-being”

田邉
お話を聞いていると、どの分野でも常に冷静にご自身の現在地点を見つめて、そこからどうアクションしていくか、どう行動していくかを考えられているなと感じました。

赤松さん
確かにそうかもしれません。
自分の理想とするものがあり、理想を目指して計画を立てて、考えて、少しでも近づけていく。どの分野であっても、そのプロセスは必ずありますよね。


赤松さん
陸上でもホテルでも研究でも、毎日同じことの繰り返しに見えますが、何のためにしているのか目的をわかったうえで取り組むと実際の動きも変わり、結果に反映されていく。
全部に通ずるそのプロセスが、僕は楽しいんだと思います。

田邉
3つのキャリアの同時進行が、赤松さんにとっても“はたらくWell-being”なんですね。

赤松さん
まさにです。
競技の練習だけだと、やっぱりどうしても煮詰まってしまうことがあります。そういったときに、ほかに集中できる環境や打ち込めることがあるおかげで、限られた時間のなかで練習効率もあがり、質も高まって、最終的には競技に反映されています。
別分野で頭を切り替えられるからこそ、“はたらくWell-being”なんだと思います。

田邉
だけど根底では、目標に向かうという同じプロセスがある。

赤松さん
もともと飽きっぽい性格なので、結果はどうあれ自分が起こしたアクションで何の変化もなかったら、たぶんどれも途中で飽きて辞めてしまっていたかもしれません。
陸上もホテルも研究も、目標を達成できた瞬間がうれしいですし、一番やりがいを感じます。
そして、また次に向かっていける活力も湧いてくる。どの分野も、それが楽しいんです。
<取材・文=田邉 なつほ>
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