企業インタビュー
事業プランゼロで起業して12年。新規事業を毎年立ち上げ、岡山県北を盛り上げるレプタイル社とは

事業プランゼロで起業して12年。新規事業を毎年立ち上げ、岡山県北を盛り上げるレプタイル社とは

連載「“はたらくWell-being”を考えよう」

新R25編集部

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

今回紹介するのは、レプタイル株式会社の代表取締役、丸尾 宜史(まるお よしふみ)さんです。2013年、共同創業者の白石 七重(しらいし ななえ)さんと地域企業のプロモーション支援事業を創業した丸尾さん。

「“ここ”から、もっとおもしろく」をビジョンに掲げ、人口約10万人の岡山県津山市を拠点に、「地域にあったらいいな」を軸とした事業を毎年のように立ち上げています。過疎化が進む地方で、「地域をもっと盛り上げたい!」という想いだけで起業して12年。現在では55人のメンバーに加え、カメにイヌ、フクロウも一緒に地域を盛り上げています。

企業や行政、教育機関との連携も積極的に行い、「人生が、どんどんおもしろくなる」という丸尾さんの“はたらくWell-being”を聞きました。

1982年岡山県鏡野町生まれ。法政大学経済学部在学中、タリーズコーヒージャパン創業者の松田公太氏の著書『すべては一杯のコーヒーから』に感銘を受け、同社でアルバイトを経験。大学卒業後も同社に入社。システム会社への転職を経て、岡山にUターン。2013年レプタイル株式会社を創業し、「地域と企業のこれからを変えていく」をコンセプトにさまざまな事業を行う。毎日約4時間かけて、会社で飼っている動物のお世話をしている

毎年のように新規事業を立ち上げる。しかし、入念な起業準備はなかった

メリイ潤

2013年、人口約10万人の岡山県津山市で、レプタイル株式会社を起業された丸尾さん。

地方で事業を存続させるだけでも難しそうなのですが、創業以来、ほぼ毎年のように新規事業を立ち上げられていますよね?

丸尾さん

そうですね。「岡山県北を盛り上げたい!」との想いで、地域にあったらいいな」と頭で描いたサービスを事業として立ち上げ、1つずつ展開し続けてきました

メリイ潤

そもそも、創業時はどのような企業を思い描いていたのでしょう?

丸尾さん

実は、入念な準備をしての起業ではなかったんです。実際、半年間は売上がゼロという状況でしたしね。

メリイ潤

半年間、売上ゼロ!

丸尾さん

さらには、事業プランもありませんでした

創業した当初、共同創業者の白石と僕が持っていたのは、「地域をもっと盛り上げたい!」との想いだけです。

メリイ潤

想いだけで、起業ってできるものですか!?

丸尾さん

私は地元の中学・高校を卒業後、東京の大学に進学し、東京で就職しました。仕事は順調だったのですが、「自分が東京で仕事をする理由はあるのだろうか?」と考えはじめて、2009年にUターンしました。それが27歳のときです。

このときに気づいたことで後の事業につながるのは、地元での転職先を探すときに、東京では当たり前だった企業の魅力や仕事のやりがいなどが掲載してある求人情報がないことです。

結果的に、当時は地元のシステム会社に営業職として就職して、3年間で約600人の経営者にお会いしました。そこで、岡山県北にも海外や全国を相手にする企業があること、情熱的なおもしろい経営者が多く存在することを知ったんです。そのときは、岡山県北の魅力が「見える化」されていないことを残念に思いましたね。

メリイ潤

Uターンしたことによって、ちょっとずつ事業のタネが見えているような。

丸尾さん

さらに、経営者は「田舎だから、いい人材が採用できない」と言う。一方で、県外で就職している若い人からは「地元に帰りたい気持ちはあるけど、いい仕事がない」と聞く。

しだいに「もっと、地域を盛り上げるおもしろい仕事がしたい」とフツフツとした気持ちが湧いてきて。でも、前職の会社ではそれを事業化できそうにありませんでした。

会社の先輩だった白石にその話をしていたら、「それは起業するしかないね」と言われて。「そうか…! じゃあ起業しよう!」と思い、そこから2週間後に会社を退職したんです

めっちゃワロてますけど。起業って、そんなに簡単にできるんですか…?

メリイ潤

2週間後ですか!?

丸尾さん

はい。退職の日に、白石に「一緒に起業しますか?」と聞いたら、「軌道に乗ったら手伝うわ〜!」って言われてしまったんですけど。退職後は、具体的なプランがないことと孤独感で不安と恐怖に襲われて、一回寝込みました(笑)

退職したのが年末だったのですが、2カ月後に白石に連絡して「本気で起業します」と伝えたところ、共同創業者として加わると言ってくれて。2013年4月にレプタイルを創業しました

メリイ潤

起業を思いつき2週間で退職して、一旦寝込み、白石さんが合流して起業!

そこから毎年のように新規事業を立ち上げられ、すごい勢いに見えます。どのように事業を展開されてきたのでしょう?

丸尾さん

起業当初は、私が前職のシステム会社でSEと営業、白石がマーケティングに従事していたため、企業のマーケティング支援事業からスタートしたんです。一方で、地域を盛り上げるための事業は、アイデアや想いはあるものの、資金調達や知名度アップに苦戦しまして

そのころ、目に留まったのが双方を叶えられるクラウドファンディングでした。そこで、地域特化型クラウドファンディングサービス「FAAVO(ファーボ)」に連絡したところ、「FAAVO岡山版」の提携事業者として運営に携われることに。思いがけず、地域のチャレンジを応援する新たな事業がスタートしました

メリイ潤

クライアントワークと自社事業と、2つの事業が動き始めたんですね。

丸尾さん

自社事業の1つめは、翌年の2014年に、岡山県北エリアの求人情報を掲載するWebメディア「いーなかえーる」を立ち上げました。

これは、起業のきっかけにもなった「岡山県北の魅力が見えてこないこと」、また「地元にUターン就職したいと思っている若者がいる一方で、いい人材がいないと嘆く地元の経営者がいるミスマッチを解消したい」との想いがかたちになった事業です。Webメディアだけではなく、アナログの媒体を用い、年間28万部の新聞折込や県内の学校、保育園に配布しています。

2015年には、行政との連携も始まり、津山市定住ポータルサイト「LIFE津山」や津山UIターン創業拠点「アートインク津山」の運営などに携わるようになりました。

その後も、子ども向けプログラミング教室「TTT」、創業支援スクール「Homing」、金融機関の建物をリノベーションした複合施設「INN-SECT」、ワッフル専門店「晴レのワッフル」と事業を拡大してきました。

元金融機関の建物をリノベーションした複合施設(カフェ・ゲストハウス・シェアオフィス)「INN-SECT」

メリイ潤

プロモーション支援を軸に、クラウドファンディング、求人、パソコン教室、シェアオフィス、カフェ…と幅広い事業展開ですね! そして行政とも連携されていると。

丸尾さん

行政とは、創業や移住定住、サテライトオフィス誘致、学生のワーキングホリデーの誘致などで携わってきました。

メリイ潤

事業そのものが、地域の課題解決にもつながっているんですね。企業としての事業存続と社会貢献の両立は、難しくないのでしょうか?

丸尾さん

「地域をよくすること」と「利益性の高い事業」は、表から見るとつながっていないように見えるかもしれません。

ですが、私たちが事業を通じて達成したいのは「地域を盛り上げること」。そのためには、子どもたちの可能性を広げることも含め、この地域に暮らす人・企業が元気であることが大前提なんです。

弊社が毎年のように事業を立ち上げているのは、地域を盛り上げるための接点を立体的にするという狙いがあります。

メリイ潤

接点を立体的に…!?

丸尾さん

点と点が面となり、面が立体的になるというイメージです。「地域全体を盛り上げる」という視点を最前列に置いて、会社全体で地域に必要なサービスを提供できるようにしています

たとえば、休日にカフェを利用してくださったお客さまが、そのカフェに掲示されているチラシを見て、子どもをパソコン教室に通わせてくれるとか。また、Webサイト制作の依頼をきっかけに出会い、その後求人や広報の支援もお任せいただくなど、取引が拡大することもあります。

手広く事業をしているように見えるかもしれませんが、実は、核となる部分でつながっているんです

地元の銀行と連携し、岡山県北の事業承継者(アトツギ)を応援するセミナーを開催

社員数は55名に拡大! 個性豊かな動物たちも

メリイ潤

白石さんと2人で始められたレプタイル社。現在は、社員数が55名にまで増えているそうですね。

丸尾さん

カメのレプ太くんとココちゃん、フクロウのリリちゃんとたぬ吉くん。カエルとメダカ、犬のコマちゃんもいます。

メリイ潤

レプ太くんにモモちゃん、リリちゃんとたぬ吉くんに、コマちゃん…!?

丸尾さん

リクガメのレプ太くんは、2013年入社の広報部長なんです。現在の社員のなかで一番の古株ですね

メリイ潤

レプ太くん、大ベテラン…! なぜ、カメを飼うことになったんですか?

丸尾さん

弊社の社名である「レプタイル」は、直訳すると「爬虫類」です。ダーウィンの進化論の言葉「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもなく、唯一、生き残る者は変化できる者である」に影響を受けまして。

ダーウィンはガラパゴス諸島のカメを始めとする爬虫類を見て進化論を着想したといわれています。そこで、よし、カメを飼おう!と。

また、フクロウやカエルは会社で飼っていますが、弊社では社員が飼っている動物たちの「同伴出勤」を許可しています。犬のバモスくんや猫のうるるんちゃんなどは、社員とともに出勤してきます。犬のコマちゃんは私が飼っているので、朝自宅で散歩をさせてから一緒に出社しています。

動物たちのお世話は、もっぱら社長の仕事。毎日合計4時間。豊かな時間だという

丸尾さん

動物たちは津山の事務所にいるのですが、そこで「子どもパソコン教室」を開催しているので、子どもたちにかわいがられていますよ。

「こじらせた」子ども時代、引きこもった大学時代

メリイ潤

色々な接点から、地域の方々を楽しませているんですね。ちなみに、丸尾さんご自身は、どんなお子さんだったのですか?

丸尾さん

私は、完全にこじらせてましたね

メリイ潤

こじらせていた…!?

丸尾さん

私には一卵性の双子の弟がいます。顔もそっくりで、よく人から間違われるんです。だからなのか、子どものころから「自分はいらないんじゃないか?」と考えていて。

自分が自分であるという理由が必要で、人と一緒のことをするのが極めて苦手なんです。同じ制服、同じ時間にラジオ体操とか…

友達をつくるのも苦手なんですよ。「部活仲間」や「仕事仲間」とはコミュニケーションを取れるのですが。

メリイ潤

数々のセミナーにご登壇されていたり、日々地域の方々とコミュニケーションを取られている今のお仕事から考えると、想像できません。

丸尾さん

そう言われるんですけど。繊細で人に気を使ってしまう気質なんです。それなのに、期待に120%で答えようとしてしまうから、すごく疲れます。一方で、好奇心が強く、新しい刺激を求めようともするんです。

そんな気質がゆえに、大学時代は引きこもっていた時期もありました

メリイ潤

引きこもり…!?

丸尾さん

もともと人とのコミュニケーションが苦手なうえに、「岡山弁が恥ずかしい」と過剰に思い込んでしまい、「東京の人」と喋れなくなったんです。最低限の単位を取るために、学校と家を往復するだけの毎日でした。

メリイ潤

引きこもりから抜け出したきっかけは、何かあったのでしょうか?

丸尾さん

大学2年生のころに、一冊の本と出会いました。当時、飲食業界最短で上場を果たしたと話題になり、書店のビジネス書コーナーで見つけた、タリーズコーヒーの創業者・松田公太さんの『すべては一杯のコーヒーから』です。

衝撃を受けました。強い情熱で価値を提供しようと奮闘する姿が書かれていたんです。当時の自分の無生産な状態と相反していて、自分も何か価値を提供する側になりたい」と強く思ったのを覚えています

そして、自宅の一番近くにあるタリーズコーヒーに面接に行き、アルバイトを始めました。

メリイ潤

一冊の書籍に、突き動かされたのですね。

丸尾さん

でも、アルバイトを始めると自分の不器用さを痛感しました。接客をしたことがなかったので、お釣りの渡し方すらわからなかった。もらう側から渡す側になると、まったくできなくなると気づいて。

メリイ潤

岡山弁は気にならなかったんですか?

丸尾さん

それは大丈夫でしたね。接客は基本敬語なので、「敬語なら、方言が気にならない!」ってことに気づいて、お客さまとの会話も楽しめるようになったんです。

大学卒業後も、新卒でタリーズコーヒーに入社し、店舗経営やマーケティング、人材育成マネジメントなどを経験しました。その期間で、会社経営において重要な「ヒト・モノ・カネ」の基礎を学ばせてもらったと思っています

創業支援スクール「Homing」を主催。タリーズコーヒー創業者・松田公太さんをはじめ、数々の著名人が登壇する

自分の人生が、想像以上におもしろくなっていく

メリイ潤

これまでのお仕事で、とくにやりがいを感じたことはありますか?

丸尾さん

うーん、全部です。「地域にあったらいいな」と思うものを事業として立ち上げ、地域の魅力を発信することは、そもそも私の「やりたいこと」なんです。それを日々の仕事にできている状態なので、やりがいは凄まじいものがあります。

また、私の想いに共感して入社してきてくれる仲間も多くいます。私は、社員全員が、柔軟なはたらき方で全力で地域に貢献する仕事に携われる「場所」づくりにもやりがいを感じています。リーダーとしてはたらきたい人には それなりの裁量を。リーダーを支える役割が適している人にはその役割を。

仕事は、ある程度の山を越えたときに別の世界が見えてくるものだと思うんです。この場所で、仲間たちと全力で仕事をつくり、仕事に打ち込み、事業を存続させる。

毎日、「最高におもしろい!」と思いながら仕事をしています

事務所前で、社員たちとジャンプ!

メリイ潤

「最高におもしろい」って言えるのは、まさに“はたらくWell-being”ですね!

丸尾さん

これを言うと少し恥ずかしいのですが…私は、自分ほど、幸せに仕事をしている人はいないと思っています。

Uターンして起業したら、自分にしかできないことがもっと自由にできるようになりました。人と同じことが苦手な私にとって、この上ない環境です。

私は、歳をとればとるほど、自分の人生が想像以上におもしろくなっていると感じています。そしてここから、もっとおもしろくなる予感しかないですね

<取材・文=メリイ潤>

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