企業インタビュー
仕事は“無意識”に選べ。アート×ビジネス書籍から学ぶ「ピカソのアウトプット術」
書籍の一部を特別に公開!
新R25編集部
現代アートの巨匠たちから“ビジネスの黄金法則”を学ぶ『君はリンゴで世界を驚かせるだろう』(飛鳥新社)。
「アートは仕事に役立つ」とはよく聞くけど…「具体的にどういうふうに考えたらアートを仕事の役に立てられるのか」まで、ユーモアあふれる物語でわかる一冊です。
版元の担当者に聞いた、この本の楽しみ方とは?
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
担当者
書籍の世界では、いま「実用小説」が熱いです。
“お金の実学×小説”や、“地政学×小説”が大ヒット。本書も、佐賀から大阪に転勤したての営業マン・タケオが、ピカソ、バンクシー、ウォーホルなどから金言をもらうことでビジネスパーソンとして成長していく、“アート×小説”の実用小説になっています。
天野
「お前にたりへんのは、アートや!」というコピーもさることながら、奇抜なイラストが目を惹きますね…
担当者
「カバー自体もアートにしたい」という思いから、野性爆弾のくっきー!さんのイラストを使わせていただきました。
著者は、ニューヨークで数々のアーティストを国際舞台へ送り出しているアートプロデューサー・ARISAさん。
「ひらめきと行動の大切さを、日本のビジネスパーソンに伝えたい」と、今回の書籍化にいたりました。
著者のARISAさん
天野
アートって「崇高なもの」というイメージがあります。ビジネスシーンだったら、経営者が好んで飾るような。
担当者
そうですよね…でも実際は、どなたの生活のなかにも身近にあるものだと思うんです。
たとえばウォーホルは、「自分について何か書かれていたら、その内容は気にしちゃいけない。大事なのはどのくらいのスペースが割かれているか」という言葉を残しています。
まさにSNS時代の今に通ずる言葉だと思いませんか?
天野
ほんとだ…人からの批判やツッコミを気にしすぎるなということなんですかね。
担当者
本書は、より「アートは身近にあるもの」だとご実感いただくために、“お笑い”を取り入れた奇想天外な物語にしました。
しがないサラリーマンのタケオの目の前に現れたのは、サルバドール・ダリの生まれ変わりを名乗る謎の男、ダレ。
ダレ…
担当者
怪しい関西弁を操るダレは、時空を超えた「魔法のガラケー」で次々と現代アーティストをタケオの目の前に呼び出していきます。
天野
時空を超えたガラケー…奇想天外すぎませんか?
担当者
やや飛躍した部分はありますが…ダリを含む巨匠アーティストの金言は、現代のビジネスパーソンにも通じるものばかり。
タケオと時空を超えた世界旅行をしているうちに、「アートは仕事に役立つものだ」と身をもってわかるはずです。
天野
読みたくなってきました。
担当者
個人的には、ところどころに佐賀県へのリスペクトが散りばめられているのも好きです。
主人公の名前が嬉野市と同じ「嬉野タケオ」だったり、人気の焼き鳥チェーン店「ドライブイン鳥」が出てきたり、有田焼が趣味の上司・有田さんが登場したり。
佐賀県イズムを探しながら読んでみてください!
〈イラスト=いがらしなおみ〉
「僕が求めてる仕事は本当にこれなのか…?」進路に悩む営業マン・タケオ
以下、『
君はリンゴで世界を驚かせるだろう
』より
佐賀から大阪に引っ越してからというもの、灰色のビルとビルの谷間を行ったり来たりするだけの毎日で、田舎では当たり前の透き通った青空を見ることはまずない。
実家のリンゴ園では、リンゴの白い花の香りが風と共に舞い降りて自然に心が癒されたけれど、会社では排気ガスの臭いや人混みにまみれて、心が休まる暇もない。
(僕が求めている仕事って、営業マンなんだろうか?)
(この球電工に就職してから、僕は営業マンで構わないって思っていたけど、本当にそれでいいのだろうか…)
そんなとき、会社のオンライン掲示板にあった情報が、ふと目に留まった。
「小水力発電イノベーション部、立ち上げメンバー募集」
ーBARモダンー
〈チャリン、チャリン〉
「ダレ!聞いてください。やりたいことが見つかったんです。小水力発電イノベーション部に行きたくて、面接があるんですけど」
「えーなんか聞きなれない部署やけど、何それ?」
「一般的な水力発電って、ダムを建設したり大掛かりなプロジェクトになるんですが、小水力発電は、水車を回して発電するのでクリーンな循環エネルギーです。都市の排水でも利用できる新しいタイプの省エネルギーなんです」
「面白そうやけど、それって、お前がやりたいことなん?」
「そうだと思うんですが…でもどうなのかな…ちょっと新しいことがしてみたいだけなのかもしれません…」
「あ、そっか。じゃあ今のお前やったら、面接落ちるわ。サルバドール・ダリの先輩で、目に見えない無意識をアウトプットした男がおったんや。タケオの無意識をアウトプットするには、ピカソに会うしかない」
「ピカソ、知ってます!」
「ピカソの残した言葉を教えたる。『全ての創造行為は、まず第一に破壊行為である』。ってなわけで、無意識についてピカソに聞いてみよっか。今から電話するわ」
そういうと、ダレはガラケーで電話をかけ始めた。
〈トゥルルル…〉
「もしもし、サルバドール・ダリでーす。おー、久しぶり。今、スペイン? あのー来週やねんけど、タケオっていうニューフェイスが会いに行くからさ。で、例のやつ見せたって」
電話を切ったダレが、ドヤ顔で言ってくる。
「じゃあタケオ、スペインのソフィア王妃芸術センターの前で」
ピカソに学ぶ「アウトプット」の法則
僕は有給休暇を使って、待ち合わせをしているスペイン・マドリードにあるソフィア王妃芸術センターに向かった。もちろん、不安でいっぱいだ。
ソフィア王妃芸術センターはフアン・カルロス1世の王妃ソフィアにちなんで名づけられた、マドリードの美術館通り(パセオ・デル・アルテ)にあるミュージアムだ。
1986年に病院を改装して設立され、 世紀の近代・現代美術を中心とした作品を鑑賞できる。メインの建物となるサバティーニ館の2階と4階が常設展で、スペイン近代美術の作品が多く所蔵されているという。
(ん? 女の人に囲まれて、口論になってる人たちがいるけど。真ん中にいる、もしかしてあれがピカソ?)
「タケオくーん、ちょっと助けて」
ピカソは半泣きになって、僕に助けを求めていた。
「あ、えっと......女性のみなさん、すみません。僕はピカソさんと待ち合わせなんで、続きはまた後で!」
「ちょっと! 私たちピカソに話があるのよ。一体この中の誰を選ぶの? 一人に決めてよ!」
「じゃあ、殴り合いの喧嘩して勝った女と付き合うよ」
それを聞いたピカソの女たちがつかみ合いの喧嘩をし始めたので、僕はピカソの肩を抱いて、足早にミュージアムのエントランスに向かった。
ミュージアムの中を歩いていると、目の前にひときわ大きな、迫力ある絵が見えてくる。一番初めに僕の心に訴えてきたのは、人々が苦しんでいるさまがモノクロで描かれた、ゾッとするくらい奇妙なその絵の構図だった。
「これは、ドイツ空軍による無差別爆撃を受けた1937年に、僕が描いた絵画だ。ドイツ空軍によってビスカヤ県のゲルニカが受けた爆撃を主題としてるんだ」
「ゲルニカは日本でも有名です。思ったよりも大きい。ものすごい迫力ですね!直接見ると全然違う」
「タテ約3メートル50センチ、ヨコ約8メートルの大作なんだけど、たったの77日で頑張って描きあげちゃったんだ。早く乾かしたかったので、ペンキを使ったんだけどさ。最初は、スペイン大使館からの依頼でね。パリ万国博覧会のスペイン館を飾る壁画を描くっていう話だったんだけど、ゲルニカでの都市無差別爆撃を知って…この絵を描くことにしたんだ。ほんと、娘と遊ぶのも忘れて、制作に没頭しちゃったよ」
「悲惨な出来事が、ピカソさんの心を突き動かしたんですね」
ピカソは深く頷くと、解説を続けてくれた。
「この絵の中には、牛、馬、ランプを持った少女が出てくるんだ」
「え、爆撃がテーマなのにどうしてですか?」
「僕にとっての牛は残酷さを表しているし、馬は、犠牲にならざるを得ない人々。明かりを灯す女の子は正義を表現している。これらは全部、僕の無意識に湧き上がる感情をアウトプットしただけなんだ」
「ダレ…いや、サルバドール・ダリが、あなたは目に見えない無意識をアウトプット したと言っていました。僕も…無意識をアウトプットできますか?」
「もちろんさ。君もやり方さえ覚えれば、無意識をアウトプットできるようになるよ。 このゲルニカだって、だんだんキューブのような四角と三角と丸に見えてくる」
僕は、ゆっくり呼吸をして、少し作品から遠ざかってみた。そして頭の中を空っぽにし、半ば開いた目で作品を眺めた。
「あれ…不思議と心が静かになると丸と三角と四角に見える。複雑だと思っていた絵が急にシンプルに見えてきました」
「よかった、まず第一にモノの見方が破壊できたね。今、無意識が君にイメージさせているものはある?」
ゲルニカを見ていると、なんだか意識がもうろうとしてきて不思議な世界に入っていった。目の前の絵が、どんどん変化していく。
「あ…小学生の僕が…いじめられている女の子をかばってます。そしたらクラスメイトのやつらが数人で僕を攻撃してきて…それから僕はリンゴ園を理由にいじめられるようになって…それでも僕は負けずにその女の子を守っています。子どもの頃にその女の子とリンゴ園でいつも遊んでいて、そこには水が勢いよく回る水車があるんです」
僕は、話し続けた。
「僕のおじいちゃんが『こん水車は、リンゴの命ば繋つなげとーとばい』って教えてくれた。それから僕は、毎日のように、そのリンゴの命を繋いでる水車を見に行くようになったんです」
「タケオくん......今、何か大事なことを思い出したようだね」
自分でハッとした。
ーBARモダンー
〈チャリン、チャリン〉
日本に帰ったその足でBARモダンに飛び込むと、待っていたかのように、ダレはそこにいた。
「ダレ!ピカソさんのおかげで、小水力発電イノベーション部で働きたい理由…わかった気がします。僕が水力発電に興味を持ったのは偶然じゃなかった。小さい頃からリンゴ園の水車をいつも見に行ってて…それが僕の無意識に残っていたんですよ!」
ダレはふーんとつぶやくと、少し意地悪そうに訊ねた。
「でも小水力発電イノベーションって、聞こえはなんかカッコええけど、めっちゃマイナーやない?しかもコストがすごくかかるって聞くけど。その価値をどうやって知ってもらうん?世界中でも、まだ石油、天然ガス、原子力が主流やんかあ」
ダレの問いがあまりに現実的すぎてびっくりしたが、僕はなぜかすらすらと答えを返していた。
「実は小水力発電って天候や季節にかかわらず、水さえあればいつでもどこでもエネルギーが作れるんです。実家の小さなリンゴ園でもその水車を使用してて…水資源が多い日本に向いているんです!」
無言で聞いているダレに向かって、畳みかけるように言葉を続ける。
「ピカソさんによると、“全ての創造行為は、まず第一に破壊行為である”ってことですよね。いつかは尽きてしまうような資源に頼る人間の意識を、まず第一に破壊しなくちゃ。僕の過去も破壊された。佐賀のリンゴ園という悪夢も、破壊したんです…」
「ピカソさまさまやね。そんで、破壊した後のタケオの人生の創造行為は、これからがスタートってこと。ま、頑張りや」
ダレに認められたようで、なぜかちょっと嬉しかった。
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