企業インタビュー
大自然に囲まれた「高知県」で孤軍奮闘。生薬の研究と地方創生に励む、小林製薬の“植物大好き社員”に密着!
地道な研究のウラにある想いとは?
新R25編集部
私たちの生活を豊かにするアイデア製品と、その独特のネーミングセンスで多くの人に愛されている「小林製薬」。
そんな小林製薬には、都心から遠く離れた高知県で、とある研究に孤軍奮闘する社員さんがいるそうなんです。
小林製薬株式会社 中央研究所 生薬研究担当 宮本さん。
大手製薬会社の社員が、なぜ高知で研究を? そして、想像以上に“地道”な研究内容とは…?
宮本さんご本人による案内のもと、その全貌に迫ります。
〈聞き手=石川みく(新R25編集部)〉
「国産化の検討」から「地方創生」まで!? 宮本さんが高知県で試験栽培に励むワケ
宮本さん
私は今、高知県にある「高知県立牧野植物園(以下:牧野植物園)」で働いています。
牧野植物園は、「日本の植物分類学の父」と呼ばれる植物学者・牧野富太郎博士の業績を顕彰するために開園された、四国唯一の総合型植物園です。
小林製薬は2016年から、牧野植物園と共同研究をおこなっているんですよ。
石川
「製薬会社」と「植物」って、なにか関係あるんですか…?
宮本さん
実は小林製薬には「命の母」や「ナイシトール」など、生薬から作られた生薬製剤や漢方薬がたくさんあります。
そんな生薬製剤や漢方薬に使用する「薬用植物」の試験栽培を、牧野植物園をはじめとした高知県内の10カ所の圃場でおこなっているんです。
植物研究を志し、2015年に牧野植物園に入社したという宮本さん。2016年に共同研究が始まったことがきっかけで小林製薬に入社し、現在は牧野植物園駐在員として生薬の栽培加工研究に取り組んでいます
宮本さん
私たちが試験栽培をおこなう理由のひとつが、「生薬の“国産化”を検討するため」です。
漢方薬に使用している生薬は、多くは海外から仕入れているのですが…
資源の枯渇、異常気象、人件費の高騰などにより、生薬品目によってはこれまでのように海外から調達することが難しくなってきています。
調達リスクを回避するために、国産化への切り替えも検討できるよう、日本で栽培するためのノウハウを蓄積しているんです。
石川
でも、どうして高知県まで?
宮本さん
実は高知県は、薬用植物の栽培・研究に非常に適している土地です。
研究機能が備わった「牧野植物園」があるのはもちろんですが…土壌や気候も、薬用植物の生育にぴったりの条件が揃っているんです。
石川
そうなんですか! 知らなかった…
宮本さん
特に、牧野植物園の少し北にある大豊町の「東豊永地区」という地域は、標高・水はけ・土壌の状態が異なる土地がたくさんあるので…
環境や育て方の違いで、生育状態にどんな差が出るのかを検証するのにもってこいの地域なんです。
東豊永地区にも、こんなに広大な圃場があるんだそう
宮本さん
一方で、東豊永地区の人口は500人を割り込み、65歳以上の高齢者人口の割合は60%。
耕作放棄地の増加や、担い手不足が大きな問題になっています。
私たちがここで研究をおこなうのは、そんな東豊永地区をはじめとした高知県の“地方創生”のお手伝いがしたい、という想いもあるからなんです。
こんな壮大な風景が見られるのも、高知県の魅力のひとつ。西日本ですが冬は降雪もあり、四季ごとに異なる景色を楽しめます
宮本さん
地方創生の一環として、当社で栽培している「トウキ」という生薬を活用した取り組みもおこなっています。
トウキの場合、生薬として使う部位は根っこだけなので、葉や茎は収穫後に廃棄してしまっていて。
そこで牧野植物園のご協力のもと、高知にある「菓舗浜幸」さんにて、トウキ(非医部)を使用したクッキー「花と恋して」を発売しました。
生薬として使用するトウキの根がこちら
株式会社浜幸「花と恋して」。葉っぱや茎が、美味しそうなクッキーになりました
宮本さん
さらに…東豊永地区の圃場は、地元の有志の方々が管理をお手伝いしてくださっていて、とても助かっているんですよ。
2022年1月には、高知県と小林製薬で包括連携協定を締結。牧野植物園と連携して地方創生を推進する、新たな取り組みも始まっています。
今後も試験栽培などの活動を通じて、農地の保全や新たな産業の創出などの活性化を実現していきたいと考えています。
「無限に生えてくる雑草をむしって…」地道すぎる研究の日々
宮本さん
と言っても、具体的に何をやっているのかはイメージしづらいと思うので…
今日は私が、牧野植物園をご案内しますね!
お仕事見学①:「ホソバオケラ」の圃場
宮本さん
まずはこちらが、試験栽培をおこなっている圃場(農作物を生産する畑)の一部。
ここでは「ホソバオケラ」という、「命の母A」や「命の母ホワイト」に使われている薬用植物を栽培しています。
牧野植物園の園内にある圃場。草丈60cmくらいのホソバオケラが生い茂っています
石川
これはどのくらい育てているんですか? 見た感じ、半年くらいですかね?
宮本さん
実は…ここまで伸びるのに1年半かかっていて(笑)。
生薬として使えるくらい成長するには、3年程度かかる見込みです。
石川
3年!? 思った以上にスパンが長いんですね…!
宮本さん
生薬は季節野菜のように、数カ月で育つものではないんです。
環境・季節・栽培方法の条件を変えて、生育状況の経過観察をおこない、定期的にサンプリングして…
どのように育てたらどのくらいの大きさの生薬が採れるのか、その生薬のなかにどのくらいの有効成分が含まれているのかを、コツコツとデータ蓄積しています。
「ホソバオケラ」の収穫予定の「3年」もあくまで目安なので、今後、4年・5年と研究を続けていく必要があります。
石川
想像しただけで大変そう…手間はどのくらいかかるんですか?
宮本さん
なかなかのものですよ(笑)。夏などは雑草との戦いです。
薬用植物は、病害虫の被害により枯れたりしないように管理することが重要なのですが…
稲や野菜などのようにさまざまな農薬を使えるわけではないため、管理に工夫が必要です。
私はほぼ毎日、県内に点在している圃場をチェックして回っているので…研究といいつつ、大部分は野良仕事かもしれません(笑)。
気が遠くなるような地道な日々だ…
お仕事見学②:「ジョイントラボ」
宮本さん
そして、こちらが牧野植物園内にある「ジョイントラボ」という施設。
ここに、小林製薬の研究室を設置させてもらっています。
小林製薬が入る牧野植物園植物研究交流センターのジョイントラボ
宮本さん
ここでは、先ほどお見せした圃場で採取してきた薬用植物を乾燥させて…
日本薬局方*の基準に適合しているかどうかをチェックしたり、重量や有効成分の含有量などを調べたりしているんですよ。
*日本薬局方…日本国内で医療に供する重要な医薬品について、その性状および品質の適正をはかるため、品質・純度・強度の基準を定めた公定書
石川
へぇ〜! 植物園にこんな立派な施設があるんですね。
宮本さん
小林製薬は牧野植物園と最初にタッグを組んだ民間企業なので、研究室のレイアウト作成から参画させていただきました。施設も気兼ねなく使わせていただいてます。
以前は、採取した生薬を別の場所に輸送したりと手間がかかっていたのですが…
この研究所ができたおかげで、栽培・収穫から乾燥・加工・分析まで、一気通貫でできるようになりました。
牧野植物園植物研究交流センターの生薬標本倉庫。宮本さんも一気に研究者らしい雰囲気になりました
生薬と高知県の“あったらいいな”をカタチに
石川
たった1人で栽培から分析までこなしているなんて…さぞかし大変ですよね。
宮本さん
いえいえ! 好きでやっている仕事ですので、苦労よりもやりがいのほうが数倍大きいんですよ。
石川
趣味とか息抜きとかはあるんですか?
宮本さん
最近はもっぱら、家庭菜園でミニトマトを育てるのにハマってます。子どもの大好物で!
石川
いやそれ結局栽培じゃないですか。
プライベートでもがっつり栽培してた。筋金入りの植物オタクだ…
宮本さん
小林製薬がこのような研究をおこなっていることは、まだあまり知られていないかもしれませんが…
漢方を提供している会社だからこそ、よりよい品質のものをお客さまにご提供したいという想いで、この研究に励んでいるんです。
石川
なるほど、私たちにとってもメリットがあるんですね。
宮本さん
そうですね。漢方薬の品質においてもっとも大切なのは、原料となる生薬の品質です。
私たちの研究結果を漢方・生薬にかかわる社内関係者に伝えていくことで、製品品質の安定化に寄与できるはずです。
さらに、小林製薬と高知県で締結した包括連携協定には、生薬の国産化や、過疎化の進む地方の地域活性化への期待も込められています。
さまざまな枠を超えた取り組みで、生薬と高知県の“あったらいいな”をカタチにしていきたいと思っているので…
ぜひ、今後の研究成果にもご期待ください!
自社の利益のためだけでなく、高知の地方創生のため、そして私たちの健康のために。
壮大なゴールに向かって、宮本さんは日々地道な研究に励んでいます。
もう何年かしたら、宮本さんの研究結果が世の中を騒がせる日が来るかも…!?
その際はぜひ、この記事で見た宮本さんの笑顔を思い出してもらえたらうれしいです!
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