罪に問われた者、ひきこもり者、依存症者…失敗に厳しい日本社会で“生き直し”を応援する「ワンネス財団」
「マイナス」を「プラス」に
新R25編集部
罪に問われた者、ひきこもり者、依存症者など…一度でも道を踏み外すと、社会復帰がなかなか難しい日本社会。
そんななか、雇用まで創出して社会復帰を応援しているのが一般財団法人「ワンネス財団」です。
どうやって社会復帰していくの? 共同代表の伊藤宏基さんと三宅隆之さんにお話を伺いました。
〈聞き手=山田三奈(新R25編集部)〉
“生きづらい人”を支援する「ワンネス財団」
伊藤さん
「ワンネス財団」は、メンタルヘルスに課題を抱える人たちの「心身の回復」と「その後の成長」を支援する専門機関です。
伊藤さん
依存症者や、出所者・出院者、職場でのバーンアウト、ひきこもりなど…対象者が抱える課題はさまざま。
一人ひとりの“ウェルビーイング(肉体的・精神的・社会的に満たされた状態)な生き直し”を叶えるために、「治療共同体(Therapeutic Community)」を軸に支援をしています。
山田
「治療共同体」というのは?
伊藤さん
グループカリキュラムを受けながら、それぞれが役割を担って共同生活をすることで、物事の見方や捉え方に変化が生じて、再犯防止や依存脱却など生き直しが実現するという考え方です。
三宅さん
社会復帰支援の先進諸国である欧米で高く評価されている方法で。
「ワンネス財団」でも、奈良と沖縄に入所型の施設を完備しています。
山田
この施設では、どんな支援をしているんですか?
三宅さん
社会で活かせる「スキル教育」を行うだけでなく、生きがいややりがいを自ら発見して社会に主体的に関われる仕事を創出しています。
たとえば、高級イチゴの事業。
三宅さん
「ワンネス財団」出身のメンバーが活躍して、海外王室や世界的なシェフにも納めている高級イチゴの生産をしているんです。
山田
へぇ…! 食べてみたい。
三宅さん
ほかにも、ジャパニーズバニラブランドの立ち上げや、観葉植物などを扱うグリーンショップ、オンライン学習事業の運営など…
37以上のアイデアを“新規事業”というかたちで自己実現してきました。
山田
「社会接点のきっかけ」どころか、雇用まで創出する場なんですね。
三宅さん
“生きがい”というプラスをつけるのが、私たちの考える「生き直し」です。
生きづらさを「マイナス10」だとしたら、それをゼロにするだけでなく「プラス10」にしたい。
だから「社会接点となる機会」を提供するだけでなく、「自己実現のステージ」まで応援しています。
伊藤さん
日本社会って、ひきこもりになったらその先ずっと転職がうまくいかなくなったりして、道を踏み外した人の「生き直し」に不寛容じゃないですか。
一度でも社会に適応できない経験をした人たちは、人との接点をうまく持てず、ずっと“孤独”であることが多いんですよ。
山田
それは生きづらい…
伊藤さん
コミュニティを通じて孤独を解消し、事業を通じて“チャレンジする勇気”を持ってもらうことで、「生き直し」ができることに気づいてほしい。
それをスタンダードにして、「生き直し」に寛容な社会の実現を目指したいと思っています。
「ウェルビーイング理論」をオリジナルカリキュラム化
山田
教育のカリキュラムは、どんな内容なんですか?
伊藤さん
カリキュラムのベースは、「ウェルビーイング理論」です。
ウェルビーイングというのは、身体的・精神的・社会的に「良好な状態」とか「幸せ」を意味します。
山田
ウェルビーイング。ここ数年で、よく聞くようになりましたね。
三宅さん
「ワンネス財団」では、自分自身のウェルビーイングを高めて周囲と絆を深めるスキルを身につけるために、「ポジティブ心理学」を教えているんですよ。
山田
「ポジティブ心理学」?
三宅さん
世界的に有名なアメリカの心理学者・マーティン・セリグマン博士によって、1998年に創設された学問です。
セリグマン博士は、「どうすれば病気が治るか」ではなく、「人が幸福になるにはどうすればいいのか」というポジティブ領域において、持続的な幸福を追求する研究を提言しました。
三宅さん
この「ポジティブ心理学」の中心的な人物の一人、タル・ベン・シャハー博士が、「ワンネス財団」の顧問をしてくださっていて。
タル博士の考える「ウェルビーイング理論」をオリジナルにカリキュラム化しています。
ハーバード大学の「ポジティブ心理学とリーダーシップ」のコースには、1学期で1,400名(ハーバード全体の2割)が殺到したというタル博士
山田
たとえばどんなことをするんでしょう?
三宅さん
馬と触れ合って社会復帰を目指す「ホースセラピー」を行ったり、大自然のなかで対話を重ねる「トーキングサークルキャンプ」を行ったり。
過去の自分に批判的になるのではなく、「どんなことが好きか・得意か」のような、心おどる“ワクワク”の源泉に触れることを軸としたカリキュラムを実施しています。
「グッドデザイン金賞」を受賞
伊藤さん
こうした取り組みや実績が認められて、2023年には「グッドデザイン金賞」を受賞しました。
三宅さん
さらに、「第1回 ウェルビーイングアワード」のモノ・サービス部門でもゴールド・アウトカム賞を受賞。
選考評で、「“失敗即退場”の雰囲気がある今の日本だからこそ、必要なのかもしれない」という言葉をいただけたのがうれしかったですね。
左から:宮田 裕章氏(慶應義塾大学医学部教授 ウェルビーイング学会副代表理事)、伊藤さん、三宅さん、矢澤 祐史氏(ワンネス財団 創業者)、前野 隆司氏(慶應義塾大学教授 ウェルビーイング学会代表理事)
山田
活動が認められたことで、取り組みの幅は広がりましたか?
三宅さん
そうですね。現在は、全国の刑務所や少年院で、私たちの作成した映像が教材として活用されるようになっています。
タイトルは『幸せに生きるための手引き』。
社会生活に支障をきたして刑務所へ入った一人の人間が、出所後に「ワンネス財団」に入って自己実現と向き合う姿に密着した、「生き直し」のドキュメンタリーです。
ストーリーに共感した、俳優の西田敏行さんがナレーションを務めたそう
伊藤さん
これまで1,300名を超える方々が、「ワンネス財団」を経て「生き直し」を実現してきました。
誰もが自分らしい人生を歩んでいくためには、本人の考え方のアップデートはもちろん、ご家族や教育機関、更生支援に関する各機関など、社会のアップデートも必要です。
包括的なアプローチにより、これからも“社会全体のウェルビーイングの底上げ”に力を尽くしていきたいと考えています。
社会復帰だけでなく、自らの手で雇用を創出し、自己実現できるまでを応援する「ワンネス財団」。
「“生きがい”のある生き直し」ができる社会の実現を目指すために、大きな意義を持つ取り組みだと思いました。
今後の取り組みにも注目です!
〈執筆=吉河未布/編集=山田三奈〉
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