企業インタビュー
副業と本業の両輪で叶える“はたらくWell-being”。「日本一のアイデアの人」を目指す、アイデアクリエイターいしかわかずやのはたらき方
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。
「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回紹介するのは、アイデアクリエイターのいしかわかずやさんです。総フォロワー数100万人超のSNSには、思わず「これが欲しかった!」「なんでなかったんだろう?」と言ってしまうようなアイデアの数々が並んでいます。
14thシヤチハタ ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション受賞作「筆跡えんぴつ」
サンスター主催 第25回文房具アイデアコンテストにてグランプリを受賞「Tapemark」
実際に商品化・販売されているアイデアもあり、2023年には『「ありそうでなかったアイデア」のつくりかた 』(クロスメディア・パブリッシング刊)というアイデアの発想法をまとめた書籍を出版しました。
そんないしかわさんですが、実はアイデアクリエイターの活動は副業で、普段は大手IT企業に勤務されています。メディアでも注目されている「令和のアイデア職人」に、本業と副業の両輪がもたらす“はたらくWell-being”について聞きました。
1991年生まれ。千葉県出身。大学ではカー・デザインを専攻し、卒業後は大手IT企業に就職。自社ブランディングの部署に配属され、現在は生成AIに携わっている。大学在学中からデザインコンペに多数出品し、受賞率は9割以上。主な受賞歴は、「サンスター文具 文房具アイデアコンテスト」第24回審査員特別賞、第25回グランプリ、「コクヨデザインアワード2020」ファイナリスト、「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」12th・13th・14th 3年連続受賞、宣伝会議賞2次通過など。その実績がメディアの目にとまり、大きな話題に。自身のSNSやYouTubeチャンネルでアイデアや発想のノウハウを多数発信するアイデアクリエイターとして活動。
アイデアクリエイターの後押しをしたのは、TikTokerの上司だった!
ーー(編集部)実は「筆跡えんぴつ」の投稿がたまたまXで流れきたことがあり、「こんな画期的なアイデア、誰が発明したの!?」とずっと気になっていました!
いしかわさん
あはは、ありがとうございます!こうして驚きの声を直接聞けると嬉しいですね(笑)。
「筆跡えんぴつ」は、シヤチハタ株式会社主催のアイデアコンペ『「 」を表すしるし』というテーマのときに受賞いただいた作品です。僕のアイデアのなかでもお気に入りのひとつなんですよ。
ーー(編集部)「筆跡えんぴつ」以外にも、四角いガムテープや、フチを折るだけで自分の紙コップがわかるアイデアなど、どれもユニークで新発想なアイデアばかりですよね。
Xにて投稿した、折り目をつけて自分の紙コップを見分ける「MY紙コップ」というアイデア
いしかわさん
すごい、めちゃめちゃ見てくれてますね(笑)。
ーー(編集部)いしかわさんのSNSを見ていると、ついつい夢中になって見てしまうんです! アイデアクリエイターとしての活動は、SNSが中心なんですか?
いしかわさん
SNSからスタートして、今では企業とコラボして商品開発をしたり、企画のコンサルティングに携わったり、アイデアにまつわるさまざまなご依頼をいただけるようになりました。
ーー(編集部)ということは、フリーランスで活動されているんですね。
いしかわさん
あ、違います。僕、本業あるので!
「今、本業と仰いましたか?」「はい!」
いしかわさん
普段はIT企業の会社員としてはたらいていて、アイデアクリエイターは個人活動、副業なんです。
ーー(編集部)ふ、副業!?
いしかわさん
驚かれることも多いんですよね。大学院卒業後、就職活動をして新卒で今の会社に就職しています。
ーー(編集部)そうだったんですか! 大学院では、どんなことを学ばれていたのでしょうか?
いしかわさん
大学院まで、車のプロダクトデザインを勉強していました。
ーー(編集部)これまた全然違う分野ですね。
いしかわさん
もともとモノづくりが大好きで、工業系の大学に進学してプロダクトデザインに出会ったんです。
アイデアクリエイターの活動のきっかけになったのは、大学1年生のときに学内で、ご当地土産の「馬サブレ」をテーマにしたアイデアコンペが開催されていたこと。鉛筆書きのスケッチにアイデアを描いて応募してみたら、有難いことに賞をいただけました。
そのとき「お金がかからず、自分のポートフォリオを増やせるなんて、めっちゃ良い手段じゃん!」と気がついたんです。
ーー(編集部)「馬サブレ」コンペへの参加が1回目だったのですね。
いしかわさん
それからいろんなコンペに応募するようになったんですが、とはいえ一学生の活動に過ぎなかったので、ふつうに就職活動をしました。
車メーカーはもちろんのこと、せっかくの機会だからといろんな業界を見て、人と環境に惹かれて、今の会社に入社を決めましたね。
ーー(編集部)人と環境、というと?
いしかわさん
「人」でいうと、面接のときに僕個人と話をしてくれたことです。面接官と就活生というくくりではなく、「いしかわくんはどんな夢があるの?」「どんなことをやりたいの?」と聞いてくれて、「すごくいいね!」と言ってもらえたことから、応援する社風を感じました。
「環境」の面では、副業を含めて多様なはたらき方を推奨していたことですね。実際に入社したあと、上司が副業でTikTokに力を入れてTikTokerになるのを目の当たりにしたんですよ。
ーー(編集部)上司がTikToker!?
いしかわさん
はい。今では100万フォロワーのTikTokerです。そんな上司との面談で「かずやもSNSやってみなよ!」と背中を押してもらいました。
そのときの僕の悩みは、アイデアコンペにおける商品化はごく稀で、受賞したのに一つひとつが単発で積み重なっている実感があまり持てていなかったことでした。
自分のなかで留めておくのではなく、世界に向けて発信できる場で資産として貯めていくのもいいなとXから始めたところ、「筆跡えんぴつ」がバズりまして。それを皮切りに商品企画のお話やメディアへの出演、書籍の出版まで活動が広がっていきました。
本業と副業、ふたつの柱があることが“はたらくWell-being”
ーー(編集部)アイデアクリエイターとして活躍の場が広がっていると思うのですが、本業を続けられているのは理由があるのですか?
いしかわさん
それは副業のおかげで、本業でも良い影響があったからですね。
実は僕、入社したときから副業は考えていたのですが「社内では静かにすごそう」と思っていたんです。
「ひっそりしたいしかわさん、想像できません」「ですよね(笑)」
いしかわさん
というのも、周りと比べてITのアの字も知らない新入社員でしたし、小学生のころに注目を集めたことで悪目立ちしてしまった経験があったので、大人しくしていようと。
ですが、バズったことで「SNSで見たよ!」とか「あのアイデアの投稿っていしかわだよな!」と、徐々に社内に広まっていきまして。
ーー(編集部)バズの力ってすごい。
いしかわさん
気がつくと社内認知度がめちゃめちゃ高くなっていて、びっくりするほど社内でのコミュニケーションが円滑化したんです。
社員数も多い会社なのに「いしかわかずやです」と言えば「アイデアの人ね!」とすぐに相手との距離が縮まり、本題に入れる。僕のことを知っていてくれるから、周りにも頼りやすくなりました。
さらに、「アイデアの人」というラベルができたので、新規案件に誘われることや、「いしかわくんのアイデアがほしい」と頼られることも増えたんです。
ーー(編集部)社内で「いしかわさん=アイデアの人」という共通認識があるから、機会提供がしやすいですね。
いしかわさん
そうなんです。「いしかわに任せたい」と言われると、僕としても期待に応えたいし、気合も入ります。
「自分は何者か」という共通認識を社内で獲得すると、圧倒的にはたらきやすくなるんだと思いました。
「もちろんプレッシャーに感じることもありますが、それもそれで燃えますよね」
いしかわさん
それに僕自身も、アイデアクリエイターとしての実績があるので自信をもってはたらけるようになりました。
自信をもってはたらくには、実績があることが重要だと僕は思うんです。実績が自信を育てて、自信が行動になって成果に繋がるという流れですね。
ーー(編集部)実績、自信、行動、成果の順。
いしかわさん
企業において上の人ほど発言力も影響力も大きくて堂々としているのは、実績や成果を積み、自信があるからだと思います。
ただ、入社したての若手が社内で実績を積もうと思っても、なかなかに時間がかかる。そこを副業や社外活動で補えれば、実績を積んで自信をつける近道になるんじゃないかな。
ーー(編集部)確かに。
いしかわさん
とはいえ、副業で実績を積めるかどうかは自分との戦いで、孤独でもあります。やり方があっているのかも、一人で試行錯誤しないといけない。
一方本業は、いろんな人とチームになってプロジェクトを遂行できて、自分以外の多様な視点も分けてもらえるし、資金力や社会へのインパクトも大きいのでやりがいも感じやすい。
いしかわさん
それぞれ良いところと、耐えないといけないところがあるので、両方あることが僕にとっては“はたらくWell-being”なんですよね。
ーー(編集部)副業は筋トレで、本業はその筋肉で人助けができるみたいな感じですね。
いしかわさん
あはは! まさにそれです!
ーー(編集部)逆に、本業が副業にもたらした影響は何かありますか?
いしかわさん
ちゃんとしてる人、と思われるようになったかな(笑)。
ーー(編集部)ちゃんとしてる人?
いしかわさん
はい。SNSを中心に活動していたので、「ただ目立ちたいだけの人」や「若い人が既存商品の紹介してるだけ」と捉えられてしまっていたことがありました。
本業があることで、社会に出てちゃんとはたらいている一社会人だと思ってもらえるようになりましたね。
ーー(編集部)「ビジネスパーソンであること」が安心材料になって、企業側も商品企画などの依頼がしやすくなったのかもしれないですね。
「成功=才能×努力」の考え方に出会い見つけた、自分の才能領域
ーー(編集部)どうやってアイデアを生み出しているのか、ちょっとコツを教えてもらえませんか?
いしかわさん
僕はアイデアを考えるとき、まず課題を見つけることから始めます。100人中90人が“言われてみれば”不便に思っていることや、「こうなってたらいいのにな」という問いを見つける。僕はそういった問いを、無意識のうちに見つけてしまうんですよ。
ーー(編集部)無意識のうちに!?
いしかわさん
たとえばこのペットボトルで言えば…
3秒経過
いしかわさん
ペットボトルってカバンに入れると幅をとるし、かといって手で持つと邪魔じゃないですか?
ーー(編集部)めっちゃわかります。小さいカバンを持つ女性も多いので、それだとペットボトルって入らないんですよね。
いしかわさん
課題、見つかりましたね。
(編集部)「確かに!」見つかってました。
いしかわさん
このように当たり前になりすぎていて気がつかない、だけど解決されたら100人中90人が助かる課題を見つけ、1時間ほどあればアイデアまで考えることができます。
ーー(編集部)すごすぎる。
いしかわさん
このアイデアを生み出すまでのプロセス、つまり発想法こそが僕の才能の領域なんですよね。
ーー(編集部)才能の領域ですか?
いしかわさん
はい。僕、島田紳助さんの「才能×努力=成功」という考え方が好きなんです。「成功は、才能と努力の掛け合わせ」という考え方で、それぞれ5段階のパラメーターで2つを掛け合わせた数字が25に近いほど成功するという考え方です。
ーー(編集部)なるほど。
いしかわさん
努力のパラメーターは可変なので、努力次第で最大値に近づけることができます。
一方で、才能のパラメーターは領域ごとに不変で、才能が3の領域ならずっと3のままなんです。
ーー(編集部)というと…?
いしかわさん
たとえば野球選手でいうと、3の才能がある人は、努力を重ねれば「才能3×努力5」で15になります。
しかし大谷翔平選手のような選手は、そもそも野球という領域で才能が5あって、5の努力をしているから数値は25になり、成功に近い。要はカリスマなわけです。
いしかわさん
この「才能×努力=成功」という考え方を聞いたとき、それなら僕の才能5の領域はどこなんだろう?と思い、ずっと探していました。好きなことから苦手なことまで幅広くやってみて、その一環で手を出したのがコンペだったんです。
応募し続けるうちに、アイデアを生み出すまでのプロセスこそが自分にとっての「才能5」の領域なんじゃないかと気がつきました。
ーー(編集部)確かに先ほどのペットボトルも、いしかわさんに言われたことで「そういえば」と不便であることを実感しました。
いしかわさん
この発想法が自分の才能であるとわかってから、アイデアがバズりやすくなり、トントン拍子で活動が広がっていきました。
今では、発想法さえわかれば誰でもアイデアを生み出せると思っているので、多くの人に「アイデアを創る」方法を伝える、「アイデアクリエイター」なんですね。
日本一のアイデアの人=いしかわかずや、これからのはたらき方
いしかわさん
最近では、企業からアイデア人材を増やす目的で、社内の人材育成のご依頼もいただいています。
ーー(編集部)人材育成ですか。
いしかわさん
企業にいると、「営業だから」「エンジニアだから」と専門領域外への視野が狭くなってしまうことがあります。
頭の柔らかい人材を増やしたり、クリエイティブな人を育てたりするためにワークショップ形式の人材研修をさせていただいてるんです。
ーー(編集部)まさに「アイデアを生み出すプロセス」をわかっているからこそのご依頼ですね。
そのワークショップ、受けてみたい!
ーー(編集部)最後に本業、副業の両方で得た武器を手に活躍されている、いしかわさんのこれからの目標を教えてください。
いしかわさん
僕は「日本一のアイデアの人になる」を目標に掲げています。今だと「アイデアの人といえば?」と聞かれたときに、すぐに思いつく人っていないですよね。そのポジションを僕は狙っていきたい。
その先で、いしかわかずやブランドを立ち上げ、僕が考えた商品だけが陳列されたロフトを開くのが夢です。
ーー(編集部)いしかわかずやブランドのロフト! めっちゃ行きたいです!
いしかわさん
ありがとうございます。そのためには、商品そのものの利便性に加え「この人から買いたい」という権威性も必要だと思っています。その影響力を、本業と副業の両方向からつけていきたいですね。
ーー(編集部)ちなみに今後、「アイデアクリエイター」のみになる可能性も…?
いしかわさん
考えていないと言えば、嘘になります。ただ、今のはたらき方も性にあっているので割合を変えるでもいいなと思っていて。
今は週5日はたらいていますが、僕がはたらいている会社は、例えば週2日だけといった雇用形態にも柔軟に対応してくれるんです。
いしかわさん
そのときは本業・副業といったくくりはなくなると思いますが、そんなふうに自分ではたらき方を選択できると、“はたらくWell-being”も高まりますよね!
<取材・文=田邉 なつほ>
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