企業インタビュー
前向きに仕事から離れる「キャリアブレイク」が“はたらくWell-being”に! 休むという選択肢がもたらす効能とは
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」 「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
みなさんは「キャリアブレイク」という言葉を聞いたことがありますか?
「キャリアブレイク」とは、離職、休職によって一時的に仕事から離れる期間のことを指す言葉です。実は欧州やアメリカでは一般的な文化として社会に浸透しています。
今回紹介するのは、「キャリアブレイク」を日本で文化として浸透させることを目指す、北野貴大さんです。北野さんは奥様がきっかけとなって「キャリアブレイク」を知り、2022年に一般社団法人キャリアブレイク研究所を立ち上げました。
社会ではたらくすべての人へ「キャリアブレイク」という選択肢を知ってもらうために活動中の北野さん。取材中、「実は総合人材サービスのパーソルグループに聞きたいことがあって」と本音を漏らしてくださいました。
一般社団法人キャリアブレイク研究所・代表理事。2014年、JR西日本グループに入社し、JR大阪駅直結の商業施設「ルクア大阪」をはじめ商業施設の企画開発に従事。一般社団法人キャリアブレイク研究所を設立し、無職のための宿「おかゆホテル」や情報誌「月刊無職」、「むしょく大学」などキャリアブレイクの文化啓蒙活動を行う
年間約150万人が「キャリアブレイク」経験者!? 「キャリアブレイク」を文化にするまで
ーー(編集部)一般社団法人キャリアブレイク研究所は、「キャリアブレイクを文化にする」ことが目的だと思うのですが、どうやって文化にしていくのでしょうか?
髪の毛を伸ばすことが好きだという北野さん。
北野さん
文化にするためにはいくつかのフェーズがあると考えていて、まずは顕在化フェーズがあります。あくまでも概算の数字ではありますが、実は年間約150万人ほどが1カ月以上の一次的な離職をしているというデータがあるんです。
ーー(編集部)年間で150万人も!? そんなに多くいらっしゃるとは。
北野さん
そう、実はけっこういるんですよ。中には「キャリアブレイク」という言葉を知らない場合も多く、僕のもとに「名前は知らなかったけど、言われてみれば自分はキャリアブレイクでした」という声が届くことも少なくありません。
ーー(編集部)言葉よりも前に、「キャリアブレイク」をしている人は一定数いるんですね。
北野さん
はい。なので一般社団法人キャリアブレイク研究所では、法政大学大学院の政策創造研究科の教授たちとともに、キャリアブレイクの実態を調査し、研究結果を発表することで顕在化をしています。
ーー(編集部)なるほど。根拠をもって「キャリアブレイク」の存在をあるものにしているというわけですね。
北野さん
そして次に、価値化です。一般的に、キャリアに空白期間があることや、一時的とはいえ無職になることはネガティブなイメージを持たれる場合があります。
そんなイメージを払拭し、「キャリアブレイクってなんかいいな」と思ってもらえるよう、キャリアブレイク経験者のエピソードをまとめた月刊誌「月刊無職」の発行や、キャリアブレイク当事者が集まれるコミュニティ「むしょく大学」の運営などを行っています。
「キャリアブレイク」についての勉強会の様子
北野さん
さらに、最終フェーズとして社会化を掲げています。文化にするためには当事者だけでなく、はたらいている人、企業、もっといえば地域、街の人にも「キャリアブレイク」のメリットを感じてもらうことが必要だと思っています。
たくさんの人に「キャリアブレイク」のことを知ってもらうために、イベントの開催や企業内研修の実施などを行い、「キャリアブレイク」を知るための機会をつくっています。
ーー(編集部)「文化にする」と仰っていた道のりが理解できました。ところで北野さん自身は、奥様がきっかけで「キャリアブレイク」という言葉を知ったのですよね。
北野さん
はい。キャリアブレイク研究所を立ち上げる前、僕はJR西日本のグループ会社で商業施設の店舗誘致や企画プロデュースをしていました。
妻は商社に勤めていて、社会人7年目のときにキャリアアップを目指して転職活動を始めたんです。内定も出ていたのでてっきり転職するのかと思いきや、あるとき「1年間無職になってみる」と相談されて。
ーー(編集部)びっくりしてしまう相談ですね。
北野さん
まさに当時の僕も「え、無職?」と驚きましたし、無職に対してネガティブなイメージを持っていたので、「キャリアに空白期間があると復職しづらくなるのに、どうしてだろう?」と思っていたんです。
ただ、当の本人は「海外旅行に行くみたいな気分」と割とあっけらかんとしていて。そこで調べてみると、妻のような状態は「キャリアブレイク」と呼ばれていることを知りました。
ーー(編集部)奥様自身は、無職になることに抵抗感はなかったのですか?
北野さん
妻はイギリスに住んでいた経験があるのですが、欧州では休学や無職、休職期間をとる文化が当たり前にあるそうです。だから、無職になることにネガティブなイメージはなかったんですね。
とはいえ、どうして転職ではなく無職になりたいのかを聞くと、「実は」な話がたくさん出てきたんですよ。
ーー(編集部)「実は」な話ですか。
北野さん
「実は、やってみたいことがある」 「実は、これを勉強したい」 「実は、ゆっくり会いたい友人がいる」などですね。商社でバリバリはたらいていたときにはできなかったことに、じっくり向き合いたいのだと。
そんな話を聞いているうちに、僕自身徐々に「無職になるのって楽しそうだな」と思い始めたんです。
ーー(編集部)無職が楽しそう!?
北野さん
僕は妻と話すうちに「離職期間が長いと復職しにくい」という考え方は、僕自身が無意識のうちに持っていた「呪い」だと気がつきました。
実際、妻は1年ほどのキャリアブレイク中にスキルを身につけ、エンジニアとして復職しました。
ーー(編集部)復職しにくいどころかスキルアップされたんですか!
北野さん
キャリアブレイクを経ることで仕事観や人生観が整い、納得感を持って前に進める効果があるんですよ。行きたいところへ行ったり、やりたかったことに挑戦してみたり、自分とゆっくり向き合ったり、自分の欲求に素直になれる期間でもあります。
自分が大切にしたいことを大切にできる時間があると、次に進むための「良い転機」になるんです。
選択肢があり、選択できる状況であれば、できることはぐっと広がるはず
ーー(編集部)そこから団体の設立は、どのような経緯だったのですか?
北野さん
キャリアブレイクについてSNSで呟いていたら、反響をいただいたことが最初ですね。近所に住んでいた方から「私もキャリアブレイク中です!」と連絡をもらい、意外と身近なところにも当事者がいることを知りました。
そこで、反応をくれた方々を自宅に集めてキャリアブレイクについて話す「おかゆホテル」というのを始めました。
スタート当初の「おかゆホテル」の様子
ーー(編集部)「おかゆホテル」、名前がかわいい!
北野さん
ありがとうございます(笑)。始めは一緒に話をして泊まるだけだったのですが、気がつくと参加人数もどんどん増え、さまざまなキャリアブレイクの形に出会いました。
そのうち僕も「これは面白いぞ」と楽しくなってきたので、独立して一般社団法人キャリアブレイク研究所を立ち上げました。
ーー(編集部)独立までに葛藤などはなかったのですか?
北野さん
そうですね。あまりなかったかもしれません。というのも、僕は独立するまでに1年の準備期間を設けていたので。
ーー(編集部)準備期間?
北野さん
はい。僕が勤めていた会社は副業が禁止だったので、「おかゆホテル」の規模が大きくなった段階で上司に「こういう活動をしていて」と相談をしました。「社会に貢献できそうな実感はあるけど、副業ができないからちょっと手詰まりな状況でどうしたらいいですかね」と正直に伝えました。
ーー(編集部)ええ、すごい! 私なら、上司に正直に言えないだろうな…話したときの上司の方の反応はいかがでしたか?
反応はいかに。どきどき。
北野さん
ありがたいことに、すごく親身に相談にのってくれました。はたらきながら、会社としてどういう形であれば僕の活動が続けられるのかを模索してくれたんです。
ーー(編集部)それを聞けて、自分のことのようにうれしい。
北野さん
たとえば、週3日だけ社員としてはたらく雇用形態にできないかと制度の企画・提案をしてくれたり、副業禁止の規定変更ができないか掛け合ってくれたり。ほかにも、副業OKのグループ会社への出向ができないかも検討していただきました。
ーー(編集部)めっちゃ素敵な会社じゃないですか…。
北野さん
ただ、どれもうまくまとまらなかったんですよね。でもだからこそ、それならしょうがないなと思えました。
僕としては、1年の間にこれだけ模索してくれて考えてくれたことがすごくうれしかったので、逆に清々しく、独立の覚悟が決まりました。
ーー(編集部)自分のためにそこまで動いてくれたからこそですね。
北野さん
さらに、その1年間で周りも僕の活動のことを知ってくれたので、「独立します」と話したときも「行ってらっしゃい!」と送り出してくれました。
今でも僕の活動を応援してくれていて、一緒にコラボイベントをすることもあるんですよ。
ーー(編集部)めちゃめちゃ円満な退社!
北野さん
なので僕は「選択肢があること」、そして同時に「選択肢があるうちに行動すること」ってすごく大切だと思うんです。
ーー(編集部)「選択肢があるうちに行動すること」。
北野さん
はい。キャリアブレイク研究所は日々いろんなご相談をいただきますが、相談者さんのなかには体調を崩してしまっていて、「休む」という選択肢しか選べない状況の方もいらっしゃいます。
北野さん
ギリギリまで粘ってはたらいてしまう人も多いのですが、それは結果として、選択肢の幅を狭めてしまうことと紙一重です。
ですがもし、「休む」しか選択肢がない1歩手前であれば、ほかにできることがあるかもしれません。他部署への異動を希望できたり、別の会社と比較してみたり、休職制度を利用したり、それこそキャリアブレイクを検討してみたり。
ーー(編集部)選択肢があると「こっちが上手くいかなくても、あっちもあるから」と、気持ち的にも切羽詰まらないですよね。
北野さん
そうですね。僕は独立を考えてから1年の準備期間があったので選択肢も多かったですし、上司の方々が動いてくれる時間的余裕もありました。
さらに上司に素直に打ち明けたことで自分の気持ちも楽になり、上司以外の人とも「辞めようか悩んでいて」とオープンに相談できたんです。
もちろん勇気のいることですが、そうした時間があれば、周りの方々も少しずつ心の整理をつけられるのかもしれません。その結果として、前向きに送り出してもらえたんじゃないかと思うんです。
あわや「キャリアブレイク」を面倒な文化と思う人もいるけど…ぶっちゃけどうですか
北野さん
実は今日、パーソルグループの方にお聞きしたいことが1つありまして…
ぶっちゃけ、「キャリアブレイク」ってどう思われますか?
ーー(編集部)というと?
北野さん
団体を立ち上げてから約2年が経ち、当事者にとってキャリアブレイクが良い転機・良い休暇になることは実感しつつあります。なので次の段階は、キャリアに関わる方々にも「キャリアブレイク」のメリットを知ってもらえればと考えています。
ーー(編集部)先ほど仰っていた、文化にするための「社会化」の部分ですね。
北野さん
はい。僕は、キャリアブレイクを共生文化にしたいと思っています。先ほども言ったように当事者だけでなく、経営者、管理職、人事、もっといえば、企業、学校、産業、地域にとっても良い文化にしたい。
ただ、僕も会社員時代、急な退職者や休職者に対して「穴が空いてしまった」と感じた経験があります。そう思うと、人事の方や人材サービスを展開されている会社にとっては、あわやキャリアブレイクは面倒な文化だと感じられるんじゃないかな…と。
ーー(編集部)いかがですか?
柳田
キャリアブレイク、いいですよね。
北野さん
えっ、ほんとうですか。
柳田
今の時代、人的資本経営が主流になっているので、人に優しい企業が生き残っていくと思うんですよね。人に優しい企業というのは、たとえば誰かが辞めたり休んだりしても、周りが負担にならない人員配置をすることなどがあげられます。
ある日急に「2年休職して海外留学をしたい」と1人が言ったときに、一緒にはたらくメンバーに皺寄せがいかない余剰人員が必要ですし、1人あたりの業務量も日頃から見直す必要があり、パーソルグループはそういったことを普段から意識しているんですね。
北野さん
おお…さすがパーソルグループです。
柳田
「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げているので、社内外含めていろんなはたらき方や生き方を知るのは重要だと思っていて、そういう意味でキャリアを離れて人生観や仕事観を整える「キャリアブレイク」という選択肢があることは、“はたらくWell-being”だと思いますね!
ーー(編集部)(大きく頷く)
北野さん
ありがとうございます。わあ…そう言っていただけてうれしいです。今まさに仰ってくださったように、いろんなはたらき方や生き方を知れるのもキャリアブレイクの効能だと思っていて。
ひとつの組織だけだと組織内の文化が当たり前になり、度を越えると暴走することもあるんですよ。
ーー(編集部)社内では常識だとされていることも、一歩外に出るとそうじゃないことはよくありますよね。
北野さん
そもそも「キャリアブレイク」に近い概念を最初に唱えたのは、哲学者のルソーだと言われています。彼はギャップやブレイク、余剰があることの重要性を説いているんですね。その考えをイギリスが先進的に取り入れたのですが、その目的は戦争をなくすためなんです。
ーー(編集部)ギャップやブレイクで、戦争をなくす?
北野さん
そうなんです。自分が今いる世界を離れて外の世界を見たり、自国外の文化と触れたりすることで、新しい気づきや視点を得る。そうすることで「争い、ひいては戦争がなくなる」とイギリスで推奨されたと言われています。
ーー(編集部)へえ~!
北野さん
なので先ほど、パーソルグループには余剰人員を設け、社外の世界や文化に触れられる環境があるというのは、キャリアブレイクと近いものを感じます。「はたらいて、笑おう。」のために、心の余裕もマネジメントされているんですね。
キャリアも人生もシーズンがあっていい。みんなが喜ぶ物語を目指して
ーー(編集部)北野さんは、「文化をつくる」という今のお仕事は好きですか?
北野さん
好きですね。ふとしたときでも「キャリアブレイク」のことを考えちゃいます。
ーー(編集部)どういったところで「好き」だと感じられるのでしょうか?
北野さん
僕は「みんなが喜ぶ物語にすること」が得意なほうだと思うんです。
前職で商業施設のプロデュースをしていたとき、お客さまに喜んでもらえそうな企画と、会社として売上をあげたい企画には齟齬がある場面がありました。ほかにも、部署内で「やりたい」と思ったことと、上層部が「やってほしい」と思うことも。
そういった両者の間に立つことが僕は多くて、お互いの大切にしたいことや守りたいもの、成し遂げたいことをそれぞれ翻訳して、ひとつの物語にして企画をつくってきました。
北野さん
僕が目指す「キャリアブレイクを文化にすること」もそれに近いんですよね。
「キャリアブレイク」に関わる全員にとって「喜ぶ物語」にしたい。今は、そのためのコミュニケーションを取り続けているところです。
ーー(編集部)「みんなが喜ぶ物語」、とても素敵な言葉ですね。ちなみに現時点で、その物語の最後には何が描かれているのでしょうか?
北野さん
そうですね。イギリスの考え方と似ていて「キャリアブレイク」があれば、戦争や争いをなんとかできるんじゃないかなと思っています。
もちろん、ある程度の競争や争いはあっても良いんです。前職のときも周辺に競合となる商業施設があったことで、モチベーションにつながっていました。ただ、それが行き過ぎるのは好ましい状況ではありません。
ーー(編集部)行き過ぎる前に、ふと立ち止まれる瞬間があると良いですよね。
北野さん
仰る通りです。キャリアも人生も、季節のようにいろんなシーズンがあります。めちゃめちゃ頑張ってはたらきたいときもあれば、家庭やプライベートを大切にしたいときだってあるはずで、いつもの自分と違う違和感を感じたら立ち止まって休むシーズンがあっても良い。
人生100年時代と言われて久しいですが、100年生きるとしたら1年ブレイクしても、人生で見ればたったの1%。なので、休むシーズンのひとつの選択肢として「キャリアブレイク」を知ってもらいたいです。
どんなシーズンであっても幸せになれる選択肢があれば、“はたらくWell-being”に近づけるように思います。
<取材・文=田邉 なつほ>
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