企業インタビュー
屋外イベント、被災地、発展途上国 …“旅する冷凍倉庫”が、世界の「コールドチェーン」に革命を起こす!
フードロスや地域間格差の解決にも
新R25編集部
豊かな世の中を目指すにあたり、意外と見逃せないのが「物流」。
どんなにいい商品が生まれても、それを必要とする人に適切に届けられないと意味がありません。
今回紹介するのは、そんな「物流」のなかでも、特に繊細な温度管理を必要とする「コールドチェーン(冷蔵・冷凍物流)」に革命を起こそうとしている企業。
日本の…いや、世界の物流に、一体どんな変化が待ち受けているのか?コールドストレージ・ジャパン株式会社 代表取締役 後藤大悟さんにお話を伺いましょう。
〈聞き手=石川みく(新R25編集部)〉
日本の「コールドチェーン」が抱える課題とは?
後藤さん
コールドストレージ・ジャパンは、小型の冷蔵保管庫「コールドストレージボックス」を活用し、さまざまな社会問題の解決に挑む次世代コールドチェーンのプラットフォーム企業です。
石川
「コールドチェーン」というのは…?
後藤さん
温度などで状態が変わってしまう、冷蔵・冷凍での運搬が必要な商品の物流網を指します。たとえば新鮮な食材、医薬品、工業品などですね。
一般的な物流と違うポイントは、生産地から消費地まで一定の温度を保たなくてはならないという点です。
そして、そのためにはものすごくお金がかかります。
石川
なんとなく想像がつきます。
後藤さん
そこで…効率化を追求する物流業界では、専門のメーカーが、消費地から近いところに大きな冷蔵庫をドーンと作って、そこから大型トラックで配送していたんですね。
それだと、大量の物を運ぶ場合はいいのですが、小ロットには対応できません。
また、郊外には冷蔵・冷凍倉庫が少なく、そこで必要とする人のところまで輸送ができないという現実があります。
石川
いわゆる“中央集権型”というやつですね。都心部に物流が集中してしまうという…
後藤さん
そうです。ほかにも、届けられる時期が限られてしまうという課題もあります。
たとえば、チョコレートのお菓子って「冬季限定」のものがたくさんありませんか?
生チョコのようなやわらかいものは、暖かいシーズンだと運んでいる間に溶けてしまう。だから、お金をかけないでも運べる寒い季節にだけ販売しているんです。
石川
そんなカラクリがあったとは…
後藤さん
冷蔵・冷凍の技術はどんどん向上しているのに、そこと物流が紐づいていない。
たとえ冷蔵・冷凍したとしても、流通過程で余計な時間がかかったり、放置されていたりしたら溶けてしまい、フードロスにつながります。
テクノロジーを追い求めるばかりで、どう届けるかという流通の部分が抜け落ちてしまっているんです。
食品に限らず、たとえば医薬品など…「届いたら生活の質が上がるのに、届けきれていない」というケースがたくさんあるんですよ。
乗用車でけん引可能。どこでも使える「コールドストレージボックスポータブル」
後藤さん
そこで「もっと広く、たくさんの人に“現場の想い”をそのまま届けられたらいいのに」と考えて…
私たちが開発したのが、「コールドストレージボックスポータブル」という“旅する冷蔵倉庫”です。
後藤さん
「コールドストレージボックスポータブル」には、当社のコールドストレージボックス機能を搭載。
生産地と消費地を直接結ぶことを目的にした、移動式冷蔵・冷凍庫です。
当社のコールドストレージボックスは、コンテナボックスに断熱パネルを入れ、食品衛生基準も満たした特許モデル。
小型の冷凍・冷蔵倉庫として増減築ができ、さらに食品加工施設としての建築まで、フレキシブルな対応が可能です。
こちらはコンテナ型の「コールドストレージボックス」です
石川
その「コールドストレージボックス」が「ポータブル」に…
ということは、トラックとかで運べるサイズ感ということでしょうか?
後藤さん
はい。トラックどころか、一般的な乗用車でもけん引できますよ。
かっこいい…!
後藤さん
さらに、100vの家庭用電源仕様。特別な設備がなくても、どこでも冷蔵・冷凍保管が可能になります。
コールドチェーンが変われば、世界が変わる
石川
道さえあれば、どんなところにも冷蔵庫ごと持っていけるんですね。
たとえばどんな活用法があるんでしょうか?
後藤さん
みなさんがイメージしやすいところで言うと…
・屋外イベントでの冷蔵、冷凍保管、物販
・飲食店や商店街の一時的な冷蔵、冷凍保管
・災害時の避難所での冷凍倉庫の確保
などで活用ができます。
石川
そうか、避難所でも使えるのか…!
後藤さん
乗用車でけん引できるので、けん引免許は不要。さらに消費電力も少なくて済むため…
“旅する冷蔵庫”は、コールドチェーンが行き渡らず電力事情も安定していない場所でこそ、その威力を発揮します。
後藤さん
電源のない場所・地域のひとつが「避難所」。
避難所では食中毒の懸念もありますので、冷蔵食品の保管ができるのは大きなメリット。
さらに、ご遺体やにおいの強い生ごみの保管など…さまざまな用途での活用が見込まれます。
石川
すごい…これがあれば日本が変わりますね。
後藤さん
フードロスや地域間格差といった社会問題への解決の一助にもなりますので、もはや世界が変わります。
たとえば、昨年ジャパンモビリティーショーに出展したオフグリッド(独立電源)モデル。
これは世界初、太陽光パネルとバッテリーで冷凍機を稼働させることを可能にしたモデルです。
石川
もはや電源すら要らないんですね…!
後藤さん
実際、このオフグリッドモデルのコンテナを、ルワンダ共和国に設置しています。
ルワンダでは、せっかく作って収穫した農作物でも、大量に廃棄が出てしまうため、廃棄を承知で生産するのが常態化していました。
石川
それはやはり、冷凍できる手段がないからですか?
後藤さん
はい、農作物を新鮮なまま市場まで運ぶインフラが整っていないんです。
その結果、輸送中にどんどん傷んでいく…廃棄による経済損失は大きく、大きな社会問題でした。
「コールドチェーン」という概念がない地域では廃棄前提で動いていたものが、コールドストレージボックスを導入するだけで捨てる必要がなくなります。
実際ルワンダではこのボックスを導入してから、市場で野菜を高く買い取ってくれるようになったという話もあるんですよ。
本当に世界が変わってた
後藤さん
そして「コールドストレージボックスポータブル」が役立つのは、食料品の輸送だけではありません。
たとえば、発展途上国や被災地などへ医薬品の輸送。格段に生活者のQOL(生活の質)を上げることができます。
さらに活用方法によっては、輸送効率化やドライアイス使用量の減少によるCO2削減で、環境負荷も低減。
長時間の長距離輸送による過酷な労働という社会課題への解決にもつながります。
後藤さん
私たちのミッションは、コールドストレージボックスを活用し、世界中に次世代コールドチェーンを行き渡らせること。
今まで冷蔵・冷凍保管が難しかった場所における最適な温度管理を実現し、世界中のあらゆる場所に住む人々の生活を豊かにしていきます。
コールドチェーンが変われば、世界が変わる。
身近なところから遠い世界の裏側まで、“次世代のコールドチェーン”が革命をもたらすかもしれません…!
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