幸福度ランキング6回連続1位の福井県! 県民の幸せのために奔走する「幸福実感ディレクター」とは!?
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「全47都道府県幸福度ランキング」というものを聞いたことがありますか? このランキングは、各都道府県の生活の質や経済状況、健康、環境、教育、福祉など計85の指標をもとに順位付けされています。
そんな「全47都道府県幸福度ランキング」で6回連続1位に輝いているのが、2024年3月に北陸新幹線が延伸開業したことも受け、注目が集まっている福井県。そんな福井県には、日本で唯一の「幸福実感ディレクター」を担う県庁職員がいます。
今回は、「幸福実感ディレクター」である飛田章宏さんに、なぜ「幸福実感ディレクター」というキャリアを歩んだのか、どのようなお仕事をしているのかを聞きました。
早稲田大学政治経済学部卒業後、2003年4月より福井県入庁。産業や観光行政のほか部局横断的な政策づくりを担当後、管理職等に積極登用する人事のチャレンジ制度に手を挙げ、2023年5月から現職。大学・企業などと連携し、県民の幸福実感を高めるプロジェクトを進めている。中小企業診断士。「はたらくWell-beingAWARDS2025」ビジネス・行政部門を受賞
日本唯一!? 福井県庁職員・飛田さんが担うのは「幸福実感ディレクター」
田邉
本日はよろしくお願いします!「幸福実感ディレクター」という肩書き、初めて聞きました。
飛田さん
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
なかなか聞かないというか…もしかしたら日本で私だけかもしれません(笑)。
福井県未来創造部幸福実感ディレクター兼ウェルビーイング政策推進チームリーダーの飛田さん
飛田さん
福井県庁には、若手職員を課長相当職として登用する「ディレクター制度」という独自の人事制度と、ディレクターや管理職などに自ら手を挙げられる「チャレンジ制度」というのがありまして。
2022年に「幸福度日本一の推進を担うディレクター」の募集があったことがきっかけで、自ら立候補し、「幸福実感ディレクター」になりました。
田邉
そういった制度があったのですね。でも、どうして「幸福実感ディレクター」に立候補したのでしょうか?
飛田さん
「県民のみなさんの幸せに貢献したい!」と思ったからですね。
実は福井県は、「全47都道府県幸福度ランキング」で6回連続1位を獲得しているだけでなく、教育分野においても公立の小中学校の学力・体力ともに全国トップクラスの水準です。また、社長輩出率に関しては全国平均の1.9倍で、42年連続1位なんですよ。それから女性や高齢者の有業率も高く…
田邉
ちょっとちょっと福井県、すごすぎます!
飛田さん
そうなんです! しかも福井の由来は「福居」からきていて、「福」には幸せ、「居」には住む場所という意味がありますので、幸福に縁深い県なんですね。
田邉
「福の居る街」「しあわせに住む場所」、素敵ですね。
飛田さん
これほどまでの素晴らしい実績があるのは、県民のみなさんが積み重ねてきた努力の賜物です。
ですが一方で、そうした真面目で勤勉な県民性から、もしかしたら自らの幸福を後回しにしていることもあるのではないかなと私は思っていて。
福井県民の幸せをひらすら願う飛田さん
飛田さん
県民一人ひとりが自分自身の幸せをより感じてほしいとの想いから、立候補を決めました。
県民の幸福を数値化!? まずは、エビデンスをつくることから
田邉
「幸福実感ディレクター」として、どんなお仕事をされているんですか?
飛田さん
私の役割は一言でいうと「福井県民のみなさんの幸福実感を向上させること」です。
そのために「幸福実感・ウェルビーイング」を軸に、どうしたら福井県民のみなさんの主観的ウェルビーイングが向上するかを日々考えながら施策を検討し、実行しています。
田邉
主観的ウェルビーイング…? ってなんですか?
飛田さん
「ウェルビーイング」には2つの種類があります。
1つ目は客観的な数値基準、たとえば平均寿命や所得、失業率、余暇時間などの統計指標から見える客観的ウェルビーイングです。
そして2つ目が、一人ひとりの実感にもとづく主観的ウェルビーイングになります。
田邉
なるほど。統計指標で見られるウェルビーイングと、個人が感じるウェルビーイングがあるんですね。
飛田さん
仰る通りです。先ほどお話した「全47都道府県幸福度ランキング」は客観的ウェルビーイングによって順位付けされています。しかし、あくまでも客観的な数値なので、福井県民一人ひとりが幸福を感じているか、の主観的ウェルビーイングとは別ものなんですね。
田邉
違いがわかってきました! でもそう思うと、「一人ひとりが幸福を感じているか」ってかなり個人差がありますよね。取り扱うのが難しそう…
飛田さん
なので、まずはエビデンスづくりから始めました。簡単に言うと、主観的ウェルビーイングの数値化ですね。
田邉
一人ひとりの幸福を数値化!?
飛田さん
はい。データサイエンスが専門の慶應義塾大学医学部の方々と、福井県立大学の高野翔准教授とともに、主観的ウェルビーイングを調査するアンケートを設計しました。
とても幸せを「10」、とても不幸せを「0」として11段階で測る設問に加え、幸福実感に何が影響しているかを分析するために、仕事や健康、孤独感、地域への愛着に関する設問も組み入れ、1,500人以上の県民のみなさんに回答していただきました。
飛田さん
その結果、福井県の幸福実感についての実態が見えてきました。
たとえば、「身体と心の健康に満足している人ほど主観的ウェルビーイングが高い」とか、「住んでいる地域に愛着や誇りを感じている人は主観的ウェルビーイングが高い」とかですね。
田邉
ということは、健康的になることや地域への愛着が増すと幸福を感じてもらえそうですね。
飛田さん
そうなんです。主観的ウェルビーイングのエビデンスができたことで、次に何をしたらいいが見えてきました。
“客観的ウェルビーイング×主観的ウェルビーイング”の両輪を目指して
飛田さん
まず取り組んだのは、デジタル地域通貨「ふくいはぴコイン」を活用した健康ポイント実証事業です。
田邉
「ふくいはぴコイン」、かわいいネーミングです!
飛田さん
これは住民の健康増進や幸せ実感の向上を目指して、池田町や慶應義塾大学医学部と連携した実証事業です。
健康アプリで計測した歩数に応じて、県内のお店で使えるデジタル地域通貨「ふくいはぴコイン」を付与するプロジェクトで、地域通貨を付与することで歩数がどう変化するか、歩数が増えることで主観的な健康感や幸せ実感が高まったかなどを分析しました。
実はこのプロジェクト、副次的な効果もあったんですよ。
田邉
副次的な効果ですか?
飛田さん
はい。プロジェクトのなかで、池田町では「走っちゃだめよ歩こう! 運動会」という、子どもから高齢者、大学や企業なども気軽に参加できるイベントを行い、多くの方が参加してくださいました。
こうしたイベントもきっかけになり、町内では歩くことが共通の話題になり、世代を超えてコミュニケーションをとる場面が広がりました。
年齢、世代問わず多くの人が参加した「走っちゃだめよ歩こう! 運動会」
飛田さん
結果として主観的ウェルビーイングも高まり、今では全県でのウォーキング事業として進化しています。
田邉
健康にもなれて、つながりも増える。そして幸福にもなれる。すごい施策ですね!
飛田さん
ほかにも、県民のみなさんが気軽に集い、つながりを育んでほしいとの思いから「焚き火×幸福実感・ウェルビーイング」イベントも実施しました。
「焚き火×幸福実感・ウェルビーイング」でヨガを行うみなさん
飛田さん
「暖かいって幸せ」をテーマに、福井市の中心を流れる足羽川の河川敷で焚火を囲みながら、ヨガインストラクターや心理カウンセラー、アーティストなど、福井県在住のゲストの方々と一緒に、さまざまなワークショップを行いましたね。
こちらはアーティストの生演奏!
田邉
焚火×ウェルビーイング! どれもアイデアがすごいですね。
飛田さん
とんでもないです(笑)。エビデンスをもとに企画したり、ウェルビーイング業界の方からさまざまな知見やアドバイスをわけていただいたりしながら、県民のみなさんの幸福のために何ができるかを日々考えています。
これまでの客観的ウェルビーイングの基盤に加えて、北陸新幹線開業を機に主観的ウェルビーイングも高まってきているので、引き続き“客観的ウェルビーイング×主観ウェルビーイング”の高い県を目指していければと思います。
<取材・文=田邉なつほ>
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