誰かとの時間あっての、ひとり時間を提案したい。おひとりプロデューサー・まろの“はたらくWell-being”
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
2000年代、一人のジャーナリストが提唱したことで生まれた言葉「おひとりさま」。
昨今は各席パーテーションで区切られた一人客専用の飲食店が生まれ、チェーン店でもカウンター席や一人席が設置されるなど、一人でも入りやすい店舗が増えました。ほかにも一人でカラオケを楽しむ「ヒトカラ」、さらにはテーマパークのアトラクションをひとりで楽しめる「シングルライダー」など、おひとりさま市場は拡大しています。
今回紹介するのは、おひとりプロデューサーのまろさんです。まろさんが運営するひとり時間の過ごし方を提案するSNSメディア「おひとりさま。」は7万フォロワーを超え、2024年には『おひとりホテルガイド』(朝日新聞出版刊)を出版。休息する時間の中でも、特に「一人」に目を向けるまろさんに“はたらくWell-being”の高め方を聞きました。
1992年生まれ。東京都出身。新卒で株式会社テレビ朝日に入社し、デジタル領域の番組プロモーションに従事した後、独立。現在は、ひとり時間の過ごし方を提案する、おひとりプロデューサーとして活動しており、自身でメディア「おひとりさま。」(@ohitorigram)を運営。特に「ひとりホテルステイ」のコンテンツが人気を集め、現在コミックス5巻まで発売中の漫画『おひとりさまホテル』(新潮社)の原案を担当。今年6月には初の著書『おひとりホテルガイド』(朝日新聞出版)を出版。さらに、企業と連携してひとり客向けのプランを企画・コンサルティングを行うほか、ひとり時間でつながるコミュニティ「おひとりくらぶ。」も運営している
「自信がない」コンプレックスから始めた副業で
田邉
ひと昔前まで、一人は「ぼっち」や「寂しそう」と揶揄されるイメージがありましたが今では「ひとり時間を満喫!」という動きもあり、「一人でいること」がかなり一般的になってきたなと感じます。
まろさん
そうなんですよ。先日、とある雑誌で海外の俳優さんが「日本は一人で時間を過ごせる場所がたくさんある。孤独を味わう文化があって羨ましい」と答えているのを見かけました。
日本人は集団行動が好きな国民性と思われがちですが、実はその反面、孤独も愛している。島国ならではの逃げ道のなさから、集団行動に疲弊してしまう人は昔からいたのかなと思います。
田邉
海外から見ると、おひとりさまは日本文化として認知されているんですね! 確かに2000年代から社会現象になったことを考えると、20年以上。
まろさんは、おひとりプロデューサーとしてどんなことをされているんですか?
まろさん
大きく分けて3つあり、1つ目は、発信です。
SNSメディア「おひとりさま。」で、ひとり時間の過ごし方を実際の街、宿泊施設、飲食店などのスポットを交えて提案しています。
こうしてメディア取材を受けたり、雑誌やWebメディアへ寄稿したりもしています。
おひとりプロデューサーのまろさん
まろさん
発信に関して言うと、一番のターゲットは自分自身です。というのも、ひとり時間の醍醐味は、自分を満足・充実させること。なので私自身が体験して良いと思ったことを発信するようにしています。
10人いれば10人分のひとり時間のかたちがあると思うので、「絶対こう過ごしたほうがいい!」「こうじゃないとひとり時間とは言わない!」と言うつもりはまったくなく、「私はこれがよかったよ」と1つの選択肢として届けています。
田邉
まろさん自身が満足していることが、発信のベースになってるんですね。
まろさん
そうですね、そこは大切にしています。
2つ目は、ひとり客をターゲットにした企業とのコラボレーション。プラン立案やプロモーションのお手伝いなどをしています。最近は表立ったコラボレーションという形式だけでなく、コンサルとしてサポートをすることも増えていますね。
ひとり時間を過ごすうえで、周辺環境やひとり客を受け入れる体制づくりは意外と重要で。企業にとっては新たな顧客層の拡大や閑散期の集客などにも活用できるので、ひとりで過ごしたい方と企業がWin-Winになれる橋渡しをしています。
そして3つ目は、ひとり時間をキーワードにしてつながれるコミュニティ「おひとりくらぶ。」の運営です。
田邉
まさに、ひとり時間の先駆け的存在ですよね。最初は副業として「ひとり時間」の発信を始められたんですよね?
まろさん
そうなんです。新卒でテレビ局に入社したのですが、配属された部署の仕事柄もあって、最初は比較的時間のゆとりがあったんです。
でも逆に、クリエイティブな会社で働いているのに、何もできていないという焦りがあって。「何かしなければ」と思っていたのですが、大きな会社だったので「企画を出しても通るわけないよな」と自信がなく…
副業を始めたのは、そうしたコンプレックスからスタートしています。
田邉
コンプレックスですか。
まろさん
「本業で結果を残したいけど、自信がない」「そんな自分が悔しい」という気持ちでしたね。
このモヤモヤを晴らすきっかけをつくりたかったのと、情報発信にも興味があり、まずはノーリスクで始められるSNSからスタートしました。
「今思えば『そんなこと言ってないで当たって砕けようよ!』と思えるのですが(笑)」
田邉
ハングリー精神から始めた発信、自信がついた瞬間はありましたか?
まろさん
「ひとり時間」というテーマを決めて、コンテンツをつくり、ターゲットや魅せ方も考えて。
そうやって、自ら戦略的に練ったものに対する反響が数字で結果として出たり、「投稿を見て、こんなひとり時間を過ごしたいと思った」などと直接DMで感想をいただいたりしたことで、徐々に自信がつきましたね。
結果的には「デジタルに強い社員がいる」と社内認知度もあがり、いつか携われたらと思っていた本業のデジタルプロモーションにも携われるようになりました。
田邉
すごい! 副業で自信がついて、本業でも活躍の幅が広がった! そして、今では「おひとりプロデューサー」が本業になったんですね。
まろさん
本業にしようかなと思い始めたのは、今原案として参加している漫画『おひとりさまホテル』(漫画:マキヒロチ/新潮社)の反響をいただいてからですね。
まろさん
有難いことに、漫画をきっかけにいろいろとお声がけをいただくようになって、もしかしたら今が大きく飛躍するチャンスなんじゃないかなって。逆にいうと、もうここしかチャンスはないかもしれないと思って、決めました。
田邉
退職を決めたとき、社内の方々の反応はいかがでしたか?
まろさん
上司や先輩は私の活動を知っていてくれている人が多かったので、「いつかそういうときがくるんじゃないかと思ってた」と、快く送り出してくれました。
ひとり時間には、自己療養と自己鍛錬の2つの効果がある
田邉
以来「おひとりプロデューサー」と名乗られていますが、やっぱりまろさん自身は人といるよりもお一人のほうが好きなんですか?
まろさん
いや〜案外そうでもないんですよ(笑)。
仕事柄「一人が好きなんですね!」と言われることもありますが、私の場合「みんなといる時間もあって、ひとりの時間もある」という感覚なんです。
そもそも私がひとり時間の良さに気がついたのは、高校生の修学旅行のときなんですけど。
田邉
修学旅行ですか。同級生のみんなといる、というより、いなきゃならない時間ですね。
まろさん
そうなんです。1週間かけて北海道をめぐる旅程で、ひとりでいられる時間なんてほぼ皆無(笑)。
だけど夜、ふとお宿のテラスに一人で出て深呼吸をしたらすごくリフレッシュできたんです。スッと気持ちが整い、そのときに「私にはひとりの時間が必要なんだ」と感じました。
「すぐ『何してるの~』と友達から声を掛けられたのですが、貴重な時間でしたね」
田邉
ひとり時間の効果にはどういったものがあると感じますか?
まろさん
1つはリフレッシュ、リラックス効果ですね。近い意味で自分と向き合う、自己内省の効果もあると思います。
ひとり時間はすべてを自分で設計するので、自分で判断する力が必要です。周りの声を遮断し、「本当に自分が望むものはなんだろう」とじっくり考えられるんですよね。
田邉
最近話題になっている、自分自身に意識を向けてゆったり過ごす「リトリート」に近いですね。
まろさん
まさにです。そしてもう1つ、鍛錬があると思っています。
田邉
鍛錬?
まろさん
はい。基本的には誰にも頼れない、全部一人でしないといけないじゃないですか。だから、普段人に頼っている部分がよくわかるんですよね。
私、以前泊まった宿のアクティビティで「焚火したいな」と思ったんですけど、一人だと火を起こせないことに気がついて。そこで、いつも誰かを頼っていたんだと思い知らされました(笑)。
田邉
そういえば私も、一人旅をしようと思ったとき旅程を組むのが大変で大変で…いつも友達任せだったと感じました。
まろさん
小さなことでも、「私ってこんなこともできないんだ」という気づきがありますよね。
ある意味、ひとり時間は修行の時間でもあると思うんです。そう思うと楽しいばかりではありませんが、自分の無力さを知ることで周りへの感謝の気持ちも芽生える時間なんですよね。
田邉「ひとり時間の中でできなかったことは、基本自分の責任ですもんね」
田邉
一人旅を終えたあとに友達と出かけて、話し相手がいることにうれしくなった記憶があります。
まろさん
わかります(笑)。ただ最近は「ひとり時間」があまりにも浸透しすぎていて、逆に「ずっとひとりでいいじゃん」と思っている人が増えている気がして、それはちょっと危険だなとも思っているんです。
他者との時間は、ひとり時間と同じくらい愛しい
まろさん
「ひとりが一番」「自分だけでいい」という投稿を多く見かけるようになって。
若者の孤独死が増えていることがニュースになることもありますが、人とのつながりが希薄になっているのかな…と。
田邉
確かに今は、家での娯楽も多いし、ご飯も届くし、一人でも困らないですもんね。
まろさん
しかも、一人ってめちゃくちゃ楽なんですよ。すべて自分の好きなようにできるし、面倒事も起きない。その楽さは、私もすごくわかります。
ですがそれに慣れてしまうと、みんなといて楽しかった時間や衝突を乗り越えたことで得られた絆とか、確かにあったはずのみんなとの愛しい時間すらも置き去りにしてしまうというか。
田邉「言われてみれば、昔の同級生と会ったときの話題はいっつも、衝突したときのエピソードだな……」
田邉
ひとり時間の効果が行き過ぎてしまっている状態ですね。
まろさん
他者といることは面倒な面もあるけれど、やっぱりかけがえのない時間だなと思うんです。
自分が知らない世界を教えてくれるおかげで、新しい興味が生まれたり、刺激ももらえたりしますしね。
田邉
確かに。
まろさん
加えて、自分の間違いやかっこ悪さを教えてくれるのも他者なんですよね。
私、新卒のときに父からビンタをくらったことがあるんですけど。物理的にではなく、精神的に(笑)。
田邉
精神的にビンタ!?
まろさん
そのときの私はすごく他責思考で、仕事に関して愚痴ばかり言っていたんです。「なんで上は動かないんだろう」「会社としてこうすればいいのに」などなど。それを話していたら、父から「何を馬鹿なことを言ってるんだ」と言われて。
まろさん
「じゃあ、お前は何をやってるんだ? できることがあるはずなのに、愚痴ばかり言ってどうするつもりだ」と。最終的には「その姿勢が、ダサすぎる」とまで言われました。
田邉
「ダサい」は、効きますね…
まろさん
そこでハッと目が覚めて、愚痴ばかりで何も行動していない自分に気がつきました。もし父がおらず一人だったら、私はずっと裸の王様で他責思考の自分のままだったかもしれません。
田邉
自分でする客観視には、限界がありますよね。
まろさん
そうそう。他者といるのは面倒だし、煩わしいこともある。だけど、やっぱり必要な時間だと思うんです。そのときはそう思えなくても、あのとき言ってくれてよかったなあというときも多々ありますしね。
私は、もはや誰かと衝突したときですら愛おしいなと思うようになってきていて。もちろん、衝突している瞬間は、そんなふうには思えないのですが(笑)。
田邉
ひとりの時間とみんなとの時間、どちらも行き来するバランスがまろさんにとって重要なんですね。
まろさん
はい。そういった他者とのつながりや、みんなとの時間も大切にしてほしいと思うからこそ、ひとり時間が好きな人や、興味がある人が集う「おひとりくらぶ。」というコミュニティ運営を始めたんですよ。
田邉
そこにつながっていたんですね!
影響し合う「ひとり時間」と「みんな時間」、どちらも楽しめるように
田邉
まろさんにとって、はたらくことで得られる充実感や幸福感“はたらくWell-being”ってなんですか?
まろさん
誰かの選択肢になれていること、ですね。
私のひとり時間メディアでは、あくまでも自分の体験がベースになっているので、紹介しているスポットの趣味嗜好が自分と一致しないなと思う方もいると思うんですよね。
でも私が伝えたいのは、一つひとつのスポットよりも“過ごし方”なんです。たとえばホテルでいうと、「ホテルに泊まって欲しい!」というよりかは、「“ひとりでホテルに泊まる”過ごし方がいいよ」ということを伝えたくて。
そこから、もちろん私の投稿しているホテルを参考にいただくのもいいですし、自分で調べてみて「ここに泊まってみたい」と思って、泊まりに行くのでもいいと思っています。
田邉
自分流に、ひとり時間をアレンジしていいってことなんですね。
まろさん
そうなんです。ひとり時間を重ねた人は、「自分で選んでいる」という自己決定力も育まれていくと思います。いろいろ試してみる中で、自分に合ったひとり時間との向き合い方を見つけられるといいのではないかなという気がしています。
田邉
最後に、まろさんがこれから挑戦したいことはありますか?
まろさん
海外でひとり時間を広めることに挑戦してみたいと思っています。
冒頭の俳優さんの話もそうですが、最近海外では自分にフォーカスして過ごす時間「MeTime」がトレンドになっているんですよ。
まろさん
もちろん、日本でもまだまだできることはあると思っていて。
たとえば私の両親は定年退職し、子育てもひと段落したので「行きたいところに行こう!」と、それぞれが一人旅を計画しています。
そういったシニア世代のひとり時間、ほかにも子育て中のパパママ向けのひとり時間もできることがあるんじゃないかなと思いますね。
これからも、日本の文化の1つである「おひとりさま」をいろんな文脈で届けていきたいです。
<取材・文=田邉なつほ>
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