企業インタビュー

寝ても覚めても、海藻に夢中。シーベジタブル蜂谷を突き動かすのは、自分以外に影響を与えるポジティブな“使命感”

寝ても覚めても、海藻に夢中。シーベジタブル蜂谷を突き動かすのは、自分以外に影響を与えるポジティブな“使命感”

連載「“はたらくWell-being”を考えよう」

新R25編集部

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載“はたらくWell-being”を考えようではモヤモヤを感じているあなたへ令和の新しいはたらき方を提案していきます。

今回紹介するのは、合同会社シーベジタブル・蜂谷潤さんです。

蜂谷さんは、「海藻で海も人もすこやかに」というモットーのもと、「海藻」を軸に事業を展開する「シーベジタブル」の代表を務めています。

現在は海藻の研究や、日本全国で海藻の陸上栽培・海面栽培、さらには新しい海藻の食べ方を発信する活動なども行っています。

蜂谷さんはなぜ、「海藻」を仕事にすることにしたのか。キャリアを選択するうえで大切にしていることを聞きました。

岡山県出身。大学時代に、海洋深層水を活用したアワビ類及び海藻類の複合養殖のビジネスプランを事業化するべく研究活動を行う。その後、海藻の生産に特化する形で共同代表の友廣裕一とともに合同会社シーベジタブルを創業。日本各地の減少しつつある海藻を再生させることで海を豊かにすべく、海藻の種苗培養から、陸上・海面での栽培方法の確立まで、主に研究・生産メンバーとともに挑戦を繰り返している

市川

シーベジタブルの事業について教えてください!

蜂谷さん

はい。僕たちは全国に10か所以上の拠点を持ち、海藻の研究、陸上・海面栽培、海藻の新しい食べ方を提案・発信する事業など、海藻にまつわるありとあらゆる事業に取り組んでいます。

よくみると蜂谷さんのTシャツにも海藻が!

市川

海藻メインの事業をしている企業って初めて聞きました!

蜂谷さんは、なぜ「海藻」をお仕事にすることに…?

蜂谷さん

そもそもは海藻を仕事にしたいという思いよりも、「海の生態系を守りたい」という気持ちが先にあって、結果的にこの仕事に就いたという感じです。

物心ついたときから、父と一緒に船に乗って魚釣りをしたり、海に潜って遊んだり、日常に海があるのが当たり前の生活を送っていたんですよね

幼いころから海に慣れ親しんでいたという蜂谷さん

蜂谷さん

それで、父と釣りに行ったとき、ふと「魚が釣れるポイントと釣れないポイントの違いって何なんだろう」ということが気になったんです。

海のなかに潜ってみたら、魚が釣れるところには海藻が生えていて、魚が釣れないところには海藻がないことが多いということに気づいたんですよ。

市川

海藻があると、魚がいる確率が高いと!

蜂谷さん

海藻が生えているところを「藻場(もば)」というのですが、魚が産卵する場所になったり、光合成をして海中に酸素をもたらしたりと、多様な生態系を保つためにとても大切な役割をしているんです。

当時はそんなに細かいことは知らなかったのですが、「海藻が海の生態系を守るために重要な役割を果たしている」ということを肌で知ると同時に、いつも潜っている海の海藻が減っていることに気がつき、危機感を覚えました

それで、僕がいつも潜っていた海の生態系を守りたいという気持ちで、高知大学農学部栽培漁業学科というとてもマニアックな学科に進学したんですよね(笑)。

市川

海のなかの生態系そのものに関心があったのですね。

蜂谷さん

そうなんです。それで、生態系を守るために必要な海藻を増やしたり、海藻の培養を得意としている研究室に入ることになりました。

研究室に所属する技術者と一緒に海に潜って、海藻を植えたり、海藻の芽を食べにくるウニをハンマーでたたき割る…みたいなことをしていました。

市川

ここまでお話を伺っていて疑問に思ったのですが、蜂谷さんはなぜそこまで海に対して、強い思いを持てたんですか?

「何でですかねぇ…」

蜂谷さん

うーん…。僕は海以外のことを何にも知らなかったんですよね。

だから、海に関連する仕事以外の選択肢は、最初から頭にありませんでした。それに、本当に海に潜るのが好きで。研究や仕事で海に潜れたら、楽しいじゃないですか!

市川

(なんてまっすぐな瞳…!)本当に海がお好きなんですね。

蜂谷さん

当時は20歳そこそこでエネルギーが有り余っていたので、本当は毎日海に潜りたかったのですが、研究室の都合上、なかなかそうはできなくて。

だったらその余ったパワーと時間で、藻場から、海藻の種を取り、それを発芽させる技術を身につけたいなと思ったんですよね。

その研究の延長線上で、青のりの養殖と、その排水でアワビを育てる事業に取り組むことになり、高知県の室戸岬というところで活動していました。

市川

へぇ! 最初は研究の一環で、青のりとアワビを育てていたんですね。

当時は何をモチベーションに事業に励んでいましたか?

蜂谷さん

室戸の豊かな資源を枯渇させたくない」という思いですね。そう思うようになったのは、室戸の漁師の皆さんにすごく目をかけてもらったからなんです。

若い人がそう多くない地域だったこともあり、漁師さんやそのお母さんたちから「うちにご飯食べにきいや!」ってよく声をかけてもらいました。

なので、僕たちのチャレンジを応援してくれる人たちのためにも頑張りたいという気持ちもありましたね。

市川

そこからなぜ海藻の専業になったんですか?

蜂谷さん

研究の最中、全国の青のりがどんどん採れなくなるという事態が起こったんですよ。

それで、僕たちが青のりの栽培をしているという噂を聞きつけた、さまざまなメーカーさんが「どうにかなりませんか」と相談に来てくださったんです。

市川

周囲から求められて始まった事業だったんですね。

蜂谷さん

そうなんです。メーカーさんに話を聞くと、これまで自分たちがつくってきた量とは比較にならない量の海藻を求めていらっしゃると聞いて、海藻の事業に専念することになりました。

そのときは人に頼ってもらえたことがうれしかったですね〜。

「これで研究の成果や自分の力が生かせるぞ!」って。

心から「やるべきだ」と思うことが広まる喜び

市川

海藻の研究をされていたとはいえ、ビジネスにするのはなかなか大変だったのではないでしょうか?

蜂谷さん

そうですね。海藻を仕事にするって、意外と泥臭いことも多くて

市川

泥臭い!?

蜂谷さん

たとえば、ある海で海藻を栽培したいと思ったら、現地に赴いて、海藻が育つ環境なのか、はたまた広さは十分なのかなどを確認しなくちゃいけないんですよ。

だから、火曜日から金曜日まで出張に出て、日本中を駆け回り色々な現場を見て、意思決定をしています。

市川

すごく大変そうです…

蜂谷さん

さらに、日本全国を探して、海藻の栽培に最適な場所を見つけたとしても、僕たちには漁業権がない。

だから海で海藻を栽培するときには、地元の漁協に協力を仰ぐ必要があります。その交渉も自分たちでやらなきゃならないんです。

地方の漁協に赴いて、漁師さんたちがずらりと座っている会議室で、海藻を増やす意味、それによるメリットを説明します

市川

わぁ、考えただけでドキドキする現場…

取材前日も、北海道に出張されていたそう

蜂谷さん

ベテランの漁師さんばっかりですからね。最初は緊迫した空気感が漂うこともありますが、海面栽培を行うことで、漁師さんが仕事を通じて「海を豊かにすることに貢献できる」ということを伝えるように心がけています。

「丁寧に伝えれば、メリットを理解してもらえるだろう」と思うと、アウェイな状況ですら、ワクワクしてのぞめるようになってきました(笑)

たとえば、僕たちはある団体さんと協力して、海藻の生えている藻場が増えると、生物の多様性を保つことができるという調査をしているのですが、そうした調査結果を伝えることもあります。

最初は黙って話を聞いていた漁師さんも、話を聞くうちに、一人、また一人と「こういうことは、積極的にやらんと!」ってポジティブな反応をしてくださることがあるんですよ。

自分が本当にやるべきだと思っていることを伝えて、それに賛同してもらえる瞬間というのはたまらなくうれしいですね。

「自分にしかできないこと」が使命感に

市川

シーベジタブルのお仕事は、取引先はもちろん、色々な地域の海の漁師さん、地元で海藻の生産に協力してくださる方、研究者の方、はたまたレストランで海藻を使った料理を考案するシェフまで、ステークホルダーが多いですし、環境にまで影響を与えていますよね。

蜂谷さんはどこまでの人や範囲を視野に入れてお仕事していますか?

蜂谷さん

うーん…。とにかく「目の前にいる人・目の前にあるもの」ですね

僕は日本2周分くらい、さまざまな場所で海に潜っているのですが、ここ数年、すごい勢いでコンブやひじきなどこれまで当たり前にあった海藻が減っていっているのを感じるんですよ。

海藻の減少は、生態系に影響を及ぼすのはもちろんのこと、そういった海藻を収穫して生活していた人たちにも影響が出てしまいます。

仕事がなくなる人が出てくる」「このままじゃまずいなぁ」っていつも思っているんですよね。

市川

目に見えてわかるくらい、海藻が減っていっているんですね。

蜂谷さん

そうなんです。たとえば、北海道で収穫できるコンブの量は、20年間で半減しています。さらに怖いのは、収穫量の減少に伴って、需要も減ってしまうこと。

食べる機会が減ることで、マーケットが縮小していく可能性も大いにあると思うんです。だから目の前の困っている人や、海藻が減り続けている状況を「今、何とかしたい」という気持ちになるんですよね。

スピード感もすごく重要だし、朝起きてから寝るまで、海藻のことで頭がいっぱいです

市川

背負うものが大きいですが、プレッシャーを感じることはないですか?

蜂谷さん

焦りとかプレッシャーのようなネガティブな気持ちというよりも、ポジティブな使命感を持っています。

僕が今やっていることは、自分のなかで「仕事」という枠組みでは捉えていないかもしれません

僕たちシーベジタブルが頑張らなかったら、日本の海藻はもっと早いスピードで姿を消していくはず。僕らが踏ん張れるか、踏ん張れないかで状況は全然変わってしまうと思うんです。

自分たちにしかできないことだからこそ、「やりたい」「やらなきゃ」という気持ちが内発的に湧いてきている気がします。

自分の行動が“他人にポジティブに作用する”ことがやりがい

市川

蜂谷さんは、すごくお仕事にやりがいを感じていらっしゃると思います。

はたらく人が仕事にやりがいを持つためにはどんなことが必要だと思いますか?

蜂谷さん

「自分のやっていることが、どんな結果を生んでいるか」を知ることかなと思います。

僕は海藻の種の研究をして、それを栽培・収穫して、地元の漁師さんが喜んでくれるところも、エンドユーザーが海藻を「おいしい」と言って食べてくれるところも見られるので、それが喜びややりがいにつながっています。

「自分たちの行動が、誰かや何かにポジティブな影響を与えられている」ことを知ることで、自分たちの存在意義を確認できていますね

市川

確かに、すごく大切なことですね。

今では全国に仲間がいるというシーベジタブル。

蜂谷さん

僕たちの会社は、全国10か所以上の拠点で、たくさんの職種の人がはたらいてくれています。

メンバーたちにも、自分の仕事が誰をどんなふうに喜ばせているのかを知ってもらいたいという思いから、4カ月に1度、全員でひとつの拠点に集まる機会を設けているんです。

そこで日ごろの業務を頑張るための「意義」みたいなものを感じてもらえたらいいなと思っています。

一人で始めた事業が、今では大きな「渦」に

市川

シーベジタブルは、最近、都内の百貨店で催事を開いていらっしゃいましたよね!

蜂谷さん

そうなんです。伊勢丹新宿店と日本橋三越本店とタッグを組んで、海藻を使った商品を170種類以上開発して販売するイベントを開催しました。

すじ青のりが入ったフィナンシェや、おはぎなどを食べることができるんですよ!

イベント時の様子

市川

海藻がスイーツに!? 海藻サラダとか、ひじきの煮物とか、お好み焼きの上にかける青のりくらいの料理のバリエーションしか思いつきませんでした。

海藻って、脇役じゃなくて主役にもなれるんですね!

蜂谷さん

これまで、海藻を増やす方法について研究や実践を重ねてきた結果、だんだんと技術の確立ができてきました。

この一歩先の未来を考えたときに必要なのは、ただただ生産量を増やしていくだけではなく、海藻の需要も一緒に拡大していくこと

海藻の新しい食べ方を提示して、その魅力をたくさんの人に知ってほしいんです。

市川

催事はそのきっかけになりそうですね。

蜂谷さん

この催事は、僕にとって今までやってきたことのひとつの集大成になりました。

イートインスペースで海藻の料理やスイーツを食べているお客さまや、販売している店舗の皆さんの姿を見て、「一人でやってきたことが、こんなに大きな渦になったんだ」と感慨深く感じました。

これからの僕の目標は、今できつつあるこの「渦」をどこまで大きくできるかチャレンジすること。

たくさんの人にかかわってもらい、「海に海藻がある状況」を守れたらいいなと思っています。

<取材・文=市川みさき>

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