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「人は100%死ぬ。どうせ生きるなら、やりたいことをやり尽くす」日本で唯一の棺桶デザイナーが語る“はたらくWell-being”

「人は100%死ぬ。どうせ生きるなら、やりたいことをやり尽くす」日本で唯一の棺桶デザイナーが語る“はたらくWell-being”

新R25編集部

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。

現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。

そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

人はいつか必ず死を迎えますが、あなたは自分の「死」について考えたことはありますか?

どんな葬儀をしたいか、どんな棺桶に入りたいか、どんな骨壺を使いたいか…、考えてみると、なかなかイメージが湧かないかもしれません。

今回紹介するのは、日本で唯一の棺桶デザイナー・布施美佳子さんです。布施さんは前職の玩具メーカーに勤めていたとき、社内の新規事業として骨壺ブランドを立ち上げ、2022年6月に独立。「人生の最期にこそ、夢と希望と喜びを」をコンセプトに掲げ、可愛い葬儀のための可愛い葬儀具ブランドをリスタートしました。

「人は必ず死ぬ。どうせ生きるならやりたいことをやり尽くす」と話した布施さんの“はたらくWell-being”とは。

1973年秋田県能代市出身。文化服装学院アパレルデザイン科卒業。前職は株式会社バンダイで新規事業を担当。日本で初めてファッションブランドとキャラクターのコラボレーションを実現させ、2003年に女性用ブリーフブランド「MIKERA」のヒット、2005年ラフォーレ原宿「KIRAKIRAJAPAN」の立ち上げ等に携わる。2015年に日本初の葬儀ブランド「GRAVETOKYO」を立ち上げ、2022年6月に独立

葬儀グッズブランド「GRAVETOKYO」を立ち上げた、日本で唯一の棺桶デザイナー

田邉

本日はよろしくお願いします。

布施さん

こちらこそ、よろしくお願いしますー!

取材場所は、都内にある「終活スナックめめんともり」。海洋散骨事業会社のオーナーが立ち上げたお店で、布施さんも時々チーママとして立つそう

田邉

ここは「カラオケないけど、カンオケあります」をコンセプトに、「死」と「生」を気軽に話せるお店なんですよね。

布施さん

そうなんです! 店内は私が立ち上げた葬儀具ブランド「GRAVETOKYO」のショールームでもあり、棺桶も置いてあるので、いつでも入棺体験ができます

田邉

わ、可愛い! 棺桶といえば白くてシンプルなイメージだったので、こんな棺桶初めて見ました!

布施さん

ここにある棺桶はすべて私がデザイン・製作を行っています。

田邉

布施さんがデザイン!? あらためて、布施さんのお仕事内容を教えてもらってもいいですか?

布施さん

私は、葬儀グッズブランド「GRAVETOKYO」を立ち上げ、デザイナーをしています。「人生の最期にこそ、夢と希望と喜びを」をコンセプトに、その人らしいオーダーメイドの葬儀具、とくに棺桶に特化して製作しています。

ほかにも、遺影撮影や生前葬のプロデュースもしますし、企業とコラボした入棺体験イベントも行っているんですよ。

田邉

もともとデザイナーをされていたんですか?

布施さん

はい、新卒でアパレルブランドのニット担当を5年経験したあと、玩具メーカーに転職して。そこでは、プロデューサーという役職で数多くの新規事業の立ち上げを経験しましたね。

田邉

アパレルから玩具へ! ちなみに、どんな新規事業を立ち上げられたんですか?

布施さん

ヒット商品で言うと、女の子用のブリーフ「ガールズブリーフ」があります。

それから、今でこそ当たり前になっている、アパレルにおけるキャラクターの地位を確立したことですかね

「今もあの頃も、仕事が楽しくてしょうがないですね(笑)」スナックめめんともりにて

田邉

アパレル×キャラクターの地位を確立? どういうことでしょうか?

布施さん

当時、キャラクターものの洋服はダサくて売れないと思われていたんです。だけど私は、それがどうにも解せなくて

アーティストやブランドとのコラボなどさまざまな企画を通して、キャラクターが描かれていてもファッションとして通用することを証明しました。

田邉

今ではさまざまなアパレルブランドでキャラクターコラボを見ますが、その源流が布施さんだったとは!

布施さん

そうそう、私の自慢なんです(笑)。「売れない」「無理だ」とめちゃくちゃ言われたことも懐かしい思い出ですね。

そしてそのときと同じように「売れない」と言われたのが、骨壺ブランドの提案でした

20代で多くの死を経験。「私はたまたま生きているだけ」と思ったときに

田邉

どうして布施さんは葬儀具ブランドを提案されたんですか? なかなか思いつかなさそうな。

布施さん

きっかけは、20代の頃から友人知人含めて20人以上の死を体験したことがきっかけです。

田邉

20人以上も…!?

布施さん

始まりは、21歳のときに同級生が亡くなったことでした。

それからも同業の先輩や同僚たち、友人の葬儀に参列し、真っ白な死に装束を纏い、真っ白な棺桶に入っている姿を見て「こういう人じゃないのに」と思うことが増えたんですよね

田邉

こういう人じゃないのに?

布施さん

はい。ファッションが好きでデザイナーとしての実績や才能もある、おしゃれでセンスの良い人の最期が、その人たちの生き様とかけ離れた姿だったことに違和感を覚えました

田邉

多くの人の死を同時期に見たからこそ、違和感が芽生えたのですね。でも、もし私なら「若くして亡くなった」が衝撃で、そこまでは感じられないかもしれません。

布施さん

その違和感は突き詰めると、「私はこうなりたくない!」という気持ちでした。自分が亡くなったとき、真っ白な死に装束で真っ白な棺桶に入ることは、嫌悪を超え恐怖に感じたんです。

生きているうちは“自分らしさ”が表現できるけれど、最期は“自分らしさ”がなくなり画一的になってしまうと

田邉

言われてみれば確かに…。

布施さん

誤解を恐れずに言うと、私自身は生きることには夢も希望もない、生きるとは苦痛であると子どもの頃から考えていました。

終活スナックめめんともり開店時の花祭壇はクラウドファンディングで

布施さん

人は100%、例外なく死が訪れます。20代から多くの死に触れ、「この人と私の違いはなんだろう?」と不思議に思っていました。自分だってそうなる可能性は大いにあるはずなのに。

私は今たまたま生きていて、どうせ生きているならやりたいことをやろうと思って仕事をしてきたようなところがあります。複数の新規事業を行うなかで、新たな事業を起こす必要があったので、まずは自分が入りたいと思える骨壺のブランドをつくろうと会社に提案しました。

死ぬほど辛いなら、1回死んでみてもいい。生前葬のススメ

布施さん

この提案に直属の上司が賛同してくれて、スワロフスキーをちりばめたデザイン骨壺や、キャラクターをあしらった骨壺を作成し展示会に出展し、さまざまなメディアに取り上げられました。

スワロフスキーを散りばめた骨壺

布施さん

すると多くの方、とくに幼くしてお子さまを亡くされた親御さんたちから「子どもが亡くなったときに好きなキャラクターで送ってあげたかった。でもそんな商品はなかったから、いつかキャラクター骨壺ができるのではと何年も納骨せずにいました。これでようやく納骨できます。ありがとう」との声をたくさんもらいました。

ですがその後、上司の異動などがあり事業ごとストップしてしまいまして

どうしてもやりたい事業だったので数年間説得を試みたのですが難しく、独立することにしたんです。「GRAVETOKYO」の名前はそのまま引き継ぐ形でリスタートさせ、今に至ります。

田邉

それほど、この事業に可能性を感じられていた。

布施さん

最初は「自分がほしい」という思いから始まりましたが、私以外にも求めている人が大勢いると感じたからです。

すぐに結果は出ないかもしれないけど、事業としての可能性は大いにあると思いました。

編集部「インテリアにも馴染みそう」

田邉

正直、私はまだ20代で「死」もあまり身近ではないので、それほどニーズがあるとは思いませんでした。

布施さん

「死」や「葬儀」って若いうちはなかなか身近じゃないので、イメージが湧きづらいですよね。ですが「どんな最期を迎えたいか」は、人生最後の“自分らしさ”が表現できる場

だからこそ、生前から準備しておくに越したことはないと思います。

田邉

言われてみると、人生最期の買い物なのに自分は携われないんですもんね。

布施さん

そこで私がおすすめしているのが、生前葬です

田邉

生前葬って、亡くなる前の仮の葬儀ですよね。

布施さん

そうですそうです。生前葬をすることで実際の葬儀に何が必要なのか、どんな手順があるのかを自分で体感することができますし、自分をリセットできる機会でもあるんですよ。

私もこれからの後半の人生を生きるために、昨年50歳の誕生日に生前葬をしまして。人生で一番幸せな日になりました

2023年8月27日に「人生の披露宴」をコンセプトにして開催した生前葬での様子

田邉

生前葬をした日が人生で一番幸せな日!? どうしてでしょうか?

布施さん

人生で一番褒められた日だったからです。私は納棺されて、つまり死んでいる状態なので言葉は一切返せない。

「出会えてよかった」「ここが好き」「こんなところに勇気をもらった」など、ただただひたすら褒め言葉のシャワーを浴びました。

田邉

へえ~! 思い返してみても、それほど無条件で褒められた経験ってほとんどないかもしれません。生前葬を終えた今、布施さんは気持ち的には何歳なんですか?

布施さん

0歳です! 完全に生まれ変わって、人生2周目

性格も穏やかになって心が広くなりましたし、パソコンやスマホを強制的にリセットしフォルダが削除されたように、過去の嫌な記憶がすっかりなくなりました。

田邉

生前葬の効果がすごい! 言葉通りのセカンドライフですね。

布施さん

仕事で根を詰めすぎると、メンタルダウンや最悪の場合自死してしまうこともあります。でも、現実の死を選ぶくらいなら、引き戻せる死を1回体験してみてほしいと思います。

生前葬のような大々的な儀式でなくとも、一番小さい生前葬=入棺体験をするのでもいいと思います。実際に希死念慮をお持ちで入棺体験をされた方は「やりたかったことを思い出した」「まだやり残したことがあった」と、晴れ晴れした顔で棺から出てこられる方が多いです。

田邉

一度、「死」に触れることで価値観に変化があると。

布施さん

今って人生100年時代で、いつまでどうやって生きるのかゴールがあやふやじゃないですか。

ゴールが見えないまま走り続けていると、息切れしちゃいますよね。一度人生をリセットしてみることで、感じることや見えるものがあると思います。

仕事は、したいことができたり、夢を叶えられたりする可能性の塊

田邉

独立して3年が経ちましたが、これから挑戦したいことはありますか?

布施さん

「GRAVETOKYO」を立ち上げたときの目標である、キャラクターと葬儀の融合を叶えることですね

布施さんがつくられた「ゴスロリ棺桶」

布施さん

お子さまを亡くされた方も含め、今はよりニーズが高まっていると感じていて。たとえば若い頃からひとつのキャラクターを愛し、一緒に生きてきた50〜60代の世代は、好きなキャラクターとともに人生を終えたいと思っても不思議ではないと思います。

日本のアニメやキャラクターが好きな海外の方もとても増えていますよね。

そういった方々が自分らしい最期を演出できるような葬儀グッズを世界中に届けたい。いや、届けます!

田邉

世代や国籍を問わず、誰もが最期の瞬間まで“自分らしくあること”が布施さんのはたらく原動力なんですね。

布施さん

私、仕事は可能性の塊だと思っています。したいことで対価がもらえるし、会いたい人に会える手段にもなるじゃないですか。

叶えたい夢に近づけるツールとして考えてみると、もっと仕事を楽しめるようになるんじゃないかな。

田邉

仕事は可能性の塊、素敵な言葉…!

布施さん

私自身、仕事を通してたくさんの経験ができました。

年齢を重ねてわかるのは、仕事は点ではなく面になるということ。今日1日の点があって、それがつながり線になり、できることやスキルが増えることで面になる。失敗や怒られる経験も含めて無駄なことって、何ひとつないんですよね。

<取材・文=田邉なつほ>

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