企業インタビュー
ガチャガチャ界のSDGs「デジタル×アナログ」の取り組み続々。高成長マーケット“次の潮流”とは?
“カプセルトイ”なのに、カプセルなし!?
新R25編集部
「あれ? 以前あったお店が、ガチャガチャ専門店に変わってる…」
そんな経験をしたことがある人、多いのでは?
日本カプセルトイ協会によると、2023年度の市場規模(製造出荷ベース)は約1,150億円で、前年の720億円から60%も増加しているという、拡大著しい市場なのだとか。
そこで「企業トピ」にて展開する「新R25書籍トピックス局」では、小野尾勝彦さん著『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)に注目。
ビジネス視点から考える、ガチャガチャの魅力とは…?
〈聞き手=鳥山可南子(新R25編集部)〉
※以下、『ガチャガチャの経済学』(小野尾勝彦)より
カプセルレス、キャッシュレスも登場! 進化を続けるガチャガチャビジネス最新トレンド
ガチャガチャだからこそ考えなくてはならない問題
この章では、ガチャガチャビジネスの世界で現在起こりつつある新しいトレンドについて紹介したいと思います。まずはガチャガチャとエコロジーの関係です。
1965年にガチャガチャが初めて日本に登場してから現在に至るまで、カプセルの中身や購入層などは大きく変わりましたが、中身がプラスチック製のカプセルに入っているというスタイル自体に変化はありません。
しかし、プラスチックの原料である石油は有限の資源であると同時に、自然界では分解されません。SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、プラスチックごみの問題が近年、国際的にも大きくクローズアップされて、飲料のペットボトルのリサイクルや、スーパーのレジ袋の有料化、外食産業でプラスチック製のストローを紙製に代替する取り組みが進んでいるのは、みなさんもよくご存じのとおりです。
このような社会の動きに合わせて、ガチャガチャのカプセルについても、リサイクルの促進、およびそもそもカプセル自体を使わないかパーツの一部にするような商品の登場、プラスチック製を代替する別素材への検討などの試みが始まっています。
すでにショッピングモールなどのガチャガチャコーナーにはカプセル専用のリサイクルボックスが置かれるようになりましたし、各専門店チェーンも不要になったカプセルのリサイクルを促すための工夫を店内に導入しています。
低価格を前提にするガチャガチャの場合、コスト的にはプラスチック製のカプセルが最適だったわけですが、ペットボトルやレジ袋などのように社会問題化する前に、業界各社でリサイクルの動きが始まったことは喜ばしいと思います。
カプセルレスの動き
また近年、カプセルそのものを使わない、あるいはカプセル自体を商品を構成するパーツとすることでカプセルの使用を減らすカプセルレスの商品も少しずつ出てくるようになりました。
たとえば、バンダイのヒット作である「いきもの大図鑑」シリーズでは、ダンゴムシが驚くと丸くなる性質を逆手に取ったダンゴムシのフィギュアを出して話題になりました。すなわちダンゴムシが丸まった状態でマシーンから出てくるというものです。
また、同シリーズのスズメバチは組み立て式を採用して完成後はカプセルがディスプレイスタンドになるというアイデアで、従来ガチャガチャの商品開発上のネックであった「カプセルサイズ以上のものはつくれない」という制約を打破することにもなりました。
もうひとつ、奇譚クラブのヒット作「おにぎりん具」もおにぎりをそのままカプセル代わりにすることで、カプセルレスを実現しています。
現在のガチャガチャ市場全体の中で、カプセルレスの商品が占める割合は決して多くはありませんが、今後も少しずつ増えていくと思われます。
カプセルレス商品の例。バンダイからリリースされた「いきもの大図鑑」シリーズのスズメバチ(左)はカプセルが台座になり、奇譚クラブからリリースされた「やきとリング」(右)はフタをした状態でマシーンから出てくる。いずれもカプセルを無駄にしないか、そもそも使わない工夫が凝らされている
紙カプセルも登場
そしてカプセルの材料をプラスチックではなく、紙で代替するという動きも出ています。
たとえば、バンダイは「マプカ」というバイオマス素材(紙パウダー%、ポリプロピレン%の混成)を使った紙カプセルを使ったカプセルを2022年6月から一部の商品で使い始めています。
また、ケーツーステーションは、段ボールメーカーであるレンゴー、およびパルプ射出成型技術で特許を持つ大宝工業との3社共同開発で、でんぷんとパルプのみで製造されプラスチックを一切使用しない紙カプセル「ecoポン」をつくり、「くら寿司」の「ビッくらポン」で使用を始めました。この「ecoポン」は資源ごみとして出せばリサイクルが可能で、一般ごみとして焼却しても有害物質が出ません。
私が代表を務める日本ガチャガチャ協会でも、各メーカーに働きかけて採用を呼びかけています。
紙カプセル「ecoポン」。プラスチックを一切使わずにでんぷんとパルプのみでつくられている
ガチャガチャの市場が今後ますます拡大するにつれ、プラスチック製カプセルの問題もそれに伴ってクローズアップされるようになると思います。
カプセルレスも新材料もプラスチックよりもコスト高であるため、中小企業が多いガチャガチャ業界にとってすぐには取り組みにくい問題ですが、世の中がこれだけ脱プラスチックに動いていて、消費者の意識や国際的な関心も高まっている以上、ガチャガチャだけが例外というわけにはいかないと思います。
もうコインは要らない? キャッシュレスガチャの動き
デジタルガチャの時代
ガチャガチャの基本スタイルの変化という意味では、前述したプラスチック製カプセルのリサイクルやカプセルレス、紙カプセルの導入以外にもうひとつ、コイン(硬貨)を入れて回すという前提が変わる動きも出始めています。
ガチャガチャはコインを用いることが前提であるがゆえに、ある意味で制約が多かったと言えます。メーカーにとっては100円単位でしか値段設定ができず、消費者にとっては小銭がなければ両替しなくてはならないといったものです。
もちろん、このコインを握りしめてマシーンに向き合い、1枚1枚投入してハンドルを回すという部分がまさに「コト消費」であったわけですが、世の中がキャッシュレスに向かう中、手元にコインがなくてもすぐに回せることで消費者にとっての利便性を高めたり、メーカーも細かな価格設定ができたりするなどのメリットを模索するようになっています。
すでにバンダイはQRコードや「スイカ」などの交通系ICカードを使ってガチャガチャを回せるマシーン「スマートガシャポン」をJR駅構内に置き始めています。価格設定はコインを使った場合と同じになっていますが、スマホやICカードでガチャガチャを回せるという意味で画期的です。
ピピットガチャ
私自身が関わっているキャッシュレスの動きには、株式会社ソニックジャムと株式会社fun boxが共同で開発した「ピピットガチャ」というマシーンを使ったプロジェクトがあります。
この「ピピットガチャ」はQRコードで回せるマシーンで、LINE PayやPayPayなどの各種QR決済サービスを使えるPayモードと、オリジナルのQRコードを発行して販促やPR、集客などに使えるQRモードの2つの機能があります。
キャッシュレスマシーン「ピピットガチャ」。主にイベントやコンサートなどの会場で活用
私はこのマシーンをガチャガチャを活用した町おこし活動「街ガチャ」に導入していたりしていますが、もっと他に利用できないのかと考えています。
実はこの「ピピットガチャ」を全日空グループの「ANA Blue Base」という一般でも見学可能な総合訓練施設のショップに置けないかという話がきました。これは、整備作業で出た廃棄部品をアップサイクルし、ガチャガチャの内容物としたものです。
カプセルの中身は、シートベルトのバックル、コックピットのスイッチ、そして地元の町工場とのコラボレーション企画として生まれた「ひこうきぶひんアニマルズ」などが封入されています。また、カプセルに付属の説明書にあるQRコードを読みとることで、部品にまつわる様々なエピソードを知ることができます。
ここでは「ピピットガチャ」を使ってQRコードでガチャガチャをすることができます。787円という値段は、ボーイング787に因んだものです。2023年3月から始まったばかりの取り組みですが、こういった形で「ピピットガチャ」の可能性があるのかなと思っています。
それから、ライブ会場にもこの「ピピットガチャ」は置かれています。カプセルの中身はライブをやっているアーティストの缶バッジなどのグッズです。
では何をすればこのガチャガチャができるかというと、WOWOWと提携していて、会場でWOWOWに加入するとガチャガチャをする権利がQRコードで送られてきて、会場に置かれている「ピピットガチャ」を1回回せるというしくみです。「何が出てくるかわからない」という、このガチャガチャのしくみはやはり面白く、まだまだ広がる可能性があると思います。
まだやり始めて2年ぐらいですが、コロナがなければもっと早く始めていたでしょう。近年ではようやくコロナも落ち着き、各種イベントが増えてきたので、こうしたマシーンがもっと広がる可能性があると考えています。
デジタルスタンプラリー
もうひとつ現在開発中なのが、デジタルスタンプラリーです。普通のスタンプラリーはアナログでスタンプをもらって、最終的にガチャガチャの専用メダルをもらって回すケースが多いですが、このデジタルスタンプラリーは、店舗ごとに置いてあるQRコードを集めてコンプリートした際に、最後にガチャガチャを回して景品がもらえるようなしくみです。
これもデジタルとアナログのミックスで、たとえばショッピングモールで子どもがQRコードを集めたときに最後に「ピピットガチャ」を回せるようにして、お客が色んなお店を訪問するようにするなどの方法を考えています。
他には、お散歩のアプリで、チェックポイントのときに全部チェックが入って、最終的にゴールインするとQRコードが発券されて、「ピピットガチャ」がやれるみたいなことができないかなと考えています。
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