企業インタビュー
「関わる人の手を感じてほしい」綿花栽培から手がける遠州織物ブランド“HUIS”の挑戦
世界に誇る、美しい景観と織物を未来に。
新R25編集部
高級生地が魅力の遠州織物であるHUIS製品。
これまで新R25でも、その「上質な生地について」や「遠州織物の洋服を安価に提供できる理由」についてお伝えしてきましたが…
現在HUISでは、棚田で生産した綿花から糸をつくり、HUIS製品として全国で販売する「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」に取り組んでいるそう。
プロジェクトの背景にある課題と、プロジェクトの目指すものを「HUIS(ハウス)」のオーナー・松下昌樹さんにお伺いしました。
〈聞き手=森田志穂(新R25編集部)〉
「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」とは
松下さん
「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」は、耕作放棄地化が進んでしまっている棚田を利用して綿花を栽培し、遠州織物製品として販売することにより、棚田の保全・活用を進めるプロジェクトです。
松下さん
このプロジェクトは久留女木地域の農家さんとHUISが連携して2023年春に始めました。
久留女木の棚田のその美しい風景と、受け継いできた稲作の伝統を後世につなげるために、地元住民が中心となって2022年に設立された「久留女木地域振興協議会」のみなさんにとって、HUISとの連携は、棚田を活用する取り組みの一環です。
森田
棚田の保全・活用とは…
松下さん
2023年春に地元の農家さん、子供たちやHUISの関係者などみんなで綿の種を植え、秋に無事、棚田で栽培した綿を収穫することができました。
2024年春にはその種を市内の幼稚園や小学校に配って体験授業を行い、啓発活動にもつなげています。
地元で育てた綿を原料とした遠州織物によるシャツ・ワンピースなどを製作し、全国の弊社店舗や百貨店などで販売を行なう予定です。
地域の伝統産業を取り巻く「課題」とは?
森田
そもそも、このプロジェクトはどのようなきっかけで?
松下さん
久留女木の棚田を後世につなげるための連携といいましたが…久留女木の棚田も遠州織物も、課題を抱えていて。
森田
課題?
松下さん
「遠州織物」は、世界のメゾンブランドにも数多く使われ、国際的に高い評価を得ているものの、BtoBという流通形態に加えて少量生産ゆえに情報が閉塞的で、今もなかなか一般の人には知られることがありません。
森田
地元でもあまり知られていないというお話がありましたね。
松下さん
そうなんです。
やはり高齢化による慢性的な担い手不足の影響や、アパレルのファストファッション化などで、最盛期には1000軒以上あった機屋も、今や数十軒を残すだけと縮小の一途をたどっている現状があります。
そして、「久留女木の棚田」も、農林水産省が認定する“つなぐ棚田遺産”にも選ばれているほど、全国有数の地域資源なんです。
松下さん
棚田は食料の供給はもちろん、国土の保全や美しい景観の形成、伝統文化の継承など、多面的な機能をもっています。
森田
どの写真もとても素敵な景色ですね。
松下さん
でも近年は後継者不足や農家の高齢化などで、荒廃の危機に直面していて。
実際、広い平地でお米を育てるのと比べて、狭くて傾斜の急な山の農業というのは機械化が難しく農家さんの手作業が中心になりますし、すごく大変なんですよね。
松下さん
久留女木でも、最盛期には800枚の田んぼが耕作されていたんですよ。
ただやはり高齢化や地域の人口減少により、かつての半分以上が休耕田になっているのが現状で、後継者不足と農地の耕作放棄地化が深刻です。
森田
半分以上も…! 耕作が放棄されたままでは、やっぱりよくないんですか。
松下さん
一度耕作放棄地になると、その地は山林化し、どんどん荒れてゆきます。
そして、一度山林化してしまうと元の田んぼに戻すのはものすごく大変なことで。
棚田はお米を作るだけではなく、水をためたり、生き物のすみかになったりと、田んぼが果たす役割はたくさんあるのですが…すごくもったいないですよね。
でも、多くの棚田でこうしたことが起こっていて、日本全国で大きな社会課題になっています。
森田
誰かが、手を入れ続ける必要があるんですね。
松下さん
そうなんです。
そこで、このような久留女木の棚田の課題に向き合うべく、久留女木地域振興協議会の方々は地元の企業や大学、ボランティアサークルなどと連携していて。
気軽に参加できる田植え・稲刈り体験会や生き物・星空観察会、また1年通してお米づくりを学ぶ「棚田塾」など様々な挑戦をおこなっています。
綿花栽培を通して、メッセージを届ける
松下さん
「遠州織物×久留女木の棚田プロジェクト」は、こうした棚田での活動のひとつとして取り組んでいます。
僕たちは、綿花栽培から服づくりまでをお客さまが目に見える形で手がけることで、いろいろな気づきにつながればと思っているんです。
森田
綿花から手がけるブランドって珍しいような…
松下さん
かつて人々は食べ物を育てるように、衣服の原料も自ら育て、織物を作ってきました。
遠州地域では温暖な気候と豊かな天竜川水系の恩恵により、江戸時代中期から綿花栽培が盛んだったことから、綿織物の一大産地となります。
その後、遠州生まれの豊田佐吉が日本で初めて自動織機を発明し、この地域で遠州織物と呼ばれる高級アパレル生地を中心とした繊維産業が地域の基幹産業になっていくわけですが、そんなルーツをぜひ知ってもらいたいですね。
松下さん
さらに、今年2年目を迎えたHUISの綿花栽培では、耕作放棄地となっていた田んぼを開墾し直した畑も活用し、耕作面積を増やして綿花栽培をしています。
このプロジェクトを通して、こうした中山間地農業の課題を知ってもらい、一人でも多くの方に棚田や農業へ関心を寄せていただけたらと思っています。
松下さん
そして、繊維業やアパレル業界に向けたメッセージもあります。
綿花の栽培から繊維業としての地産地消、さらにはアパレル製品の製作までの一連を発信することで、現代アパレルの大量生産・大量消費構造の課題への気づきにつなげられたと思っていて。
森田
構造的な課題への気づき…?
松下さん
今はファストファッション全盛の時代で、売り場にたくさんの商品が並んでいますよね。
すると、まるで機械が自動的に服を生み出しているように錯覚してしまいます。
でも実際は、綿花を作り収穫する農家さんから、紡績で糸を作り、機織りし、染色して、その後縫製…とまだまだ他にもここに挙げられないくらい無数の職人さんの手がかかって服一着はできているんです。
森田
たしかに…
松下さん
そのことをイメージしてもらうためには、あえて日本国内で綿花栽培から手がけることが近道だと思っていて。
森田
日本で作ることがなぜ近道に…?
松下さん
だって、わざわざ日本で綿花からつくるなんて、どう考えても採算性は悪いじゃないですか。
HUISが使用する生地はすべて最高級の綿糸を用いていますが、こうした高級綿をつくっている国の多くは発展途上地域です。
これを国内でつくろうとすると、人件費や土地代などで、非常に高価なものになってしまいます。
松下さん
つまり今回、久留女木の棚田でつくる綿からできる糸は、通常HUIS製品が使用しているものより価格が高くなります。
その糸を織り、仕立てた服はとても高いものになるということです。
そうした商品が売り場に並んでいることが、いろいろな気づきにつながればと思っています。
森田
関わっている人のことを考えてみたくなりますね…!
松下さん
「棚田から作った服だからすごいんだよ!」という付加価値をつけることが僕たちの狙いではありません。
あくまで、気づきにつながるきっかけづくりのプロジェクトです。
でも、そうした狙いのプロジェクトから生まれる服を、結果的に大切に思ってもらえれば嬉しいですね。
「農業×福祉×繊維業」の循環をつくる
松下さん
ひとつの服にも、多くの人の手、途方もない作業の積み重ねがあるのだということを、もっともっと知ってほしいと思っていて。
種まきや収穫では、農業体験学習として地域内外の子供たちも募るほか、次世代への環境教育、地域産業教育も随時行なっています。
松下さん
さらに福祉とも循環させるべく、地域の障がい者施設との連携も始めました。
森田
福祉と?
松下さん
収穫した綿花は、紡績工場で機織りの原料になる糸にしていただくのですが、その前に、綿花の種を取り除く作業が必要となります。
大規模生産であれば、大きな機械で自動的に行なえますが、国内で小規模に生産する綿花栽培では、昔ながらの“綿繰り機(わたくりき)”という機械を使い、手作業で種をとっていきます。
森田
手作業…!
松下さん
プロジェクトに共感し、この丁寧な作業を請け負ってくれることになったのが、浜松市三幸町で障がいのある方の就業支援を行う、障がい者就業・生活支援センター「だんだん」さんです。
森田
実際に手作業をしている場面を見ると、服を丁寧に着ようという気持ちになりますね…
松下さん
環境に負荷をかけることなく、持続可能な循環が生まれるのは、やはり天然素材ならではです。
久留女木の棚田の保全に関しては、この事例をスタートに、CSR活動を担う企業との連携の事例が広がっていくといいですね。
製品制作も順調に進んでいて、2025年春にはいよいよ久留女木の棚田の綿花で作るシャツやブラウスなどをリリースする予定です。
ぜひ、楽しみにしていてくださいね。
たくさんの人の手を介してできあがるHUISのプロジェクト製品からは、品質を超えた大切なものが伝わってきそうです。
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