企業インタビュー
「タモリがブレイクし、ゴッホは商業的に成功しなかった」差とは。『ハイパフォーマー思考』#3
“縁”を成功につなげる方法
新R25編集部
「仕事で成果を出している人がうらやましい」「トッププレイヤーになりたい」
そう思う人は多いのでは?
そこで「企業トピ」にて展開する新R25書籍トピックス局では増子裕介さん・増村岳史さん著『ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)に注目。
お二人いわく、「高いパフォーマンスを出せる人はジャンルに関わらず共通した思考を持っている」そう。
本書が「高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式」として6つ目に掲げているのが「人との縁を大切にする」。ハイパフォーマーインタビューにおいて、必ずと言って良いほど「あのタイミングであの人と出会ったから...」という話が出てくるというのですが、どういうことでしょうか。
継続的に成果を出すために必要な思考法を、同書より抜粋してお届けします。
「自分1人でできることは限られている」人との縁と成功の関係性とは。
※以下、『ハイパフォーマー思考 高い成果を出し続ける人に共通する7つの思考・行動様式』(増子裕介・増村岳史)より
6つ目の「思考・行動」は「人との縁を大切にする」です。この項目の重要性をご理解いただくため、まず初めに、大変ユニークな弔辞をお読みください。漫画家の赤塚不二夫に宛てたタモリの弔辞です。
「(前略)何年か過ぎ、私がお笑いの世界を目指して、九州から上京して、歌舞伎町の裏の小さなバーで、ライブみたいなことをやっていたときに、あなたは突然私の眼前に現れました。その時のことは今でもはっきりと覚えています。赤塚不二夫が来た。あれが赤塚不二夫だ。私を見ている。この突然の出来事で、重大なことに私はあがることすらできませんでした。
終わって私のところにやってきたあなたは「君はおもしろい。お笑いの世界に入れ。8月の終わりに僕の番組があるから、それに出ろ。それまでは住むところがないから、私のマンションに居ろ」と、こう言いました。自分の人生にも他人の人生にも影響を及ぼすような大きな決断をこの人はこの場でしたのです。それにも度肝を抜かれました。
(中略)
赤塚先生、本当にお世話になりました。ありがとうございました。私もあなたの数多くの作品のひとつです」
ここに至るまでの経緯をご存じない方もいらっしゃると思うので補足させていただくと、コンサートツアーで福岡を訪れたジャズピアニストの山下洋輔は、ホテルの部屋に乱入してきた「森田」と名乗る男の芸を見て、その圧倒的なオリジナリティと熱量に度肝を抜かれます。
新宿ゴールデン街のバーでその話をしたところ、赤塚不二夫を含むメンバーで「伝説の九州の男・森田を呼ぶ会」が結成され、カンパで購入した新幹線のチケットを彼に送りました。
上京してきた「森田」ことタモリの芸を見た赤塚はその場で、8月末に生放送が決定していた自らのテレビ番組『マンガ大行進 赤塚不二夫ショー』に彼を出演させることを決意したのです。
オンエアまで日数があったため福岡に帰ろうとするタモリを、赤塚は「俺が持っている目白のマンションやベンツを自由に使っていいから」と言って引き止めました。
自分のマンションを譲る形となった赤塚は、仕事場のロッカーを横倒しにし、それに布団を敷いて寝るという生活をしながら、毎月20〜30万円の小遣いをタモリに渡していたといいます。
ちなみに1975年当時の平均初任給は8万9300円だったので、今の貨幣価値だと50万円以上に相当する金額です。
明治時代の高等遊民の如き日々を送りながら芸に磨きをかけたタモリは、それから1年後に『金曜10時!うわさのチャンネル』で本格デビューを果たし、国民的スターの座に駆け上がっていくのですが、赤塚との出会いがなければ、福岡のローカルタレントで終わっていた可能性もあるわけです。
ですから、弔辞を締めくくる「私もあなたの数多くの作品のひとつです」というフレーズは単なる比喩ではなく、タモリの本心から出た言葉だったのでしょう。
今も昔も世の東西を問わず、どれほど才能に恵まれた人であっても、自分1人の力だけでできることは限られています。
たとえば、ルネサンス期のレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロを支えたのはメディチ家に代表されるパトロンでしたし、モーツァルトやワーグナーといった大作曲家も宮廷のバックアップがあったからこそ、歴史に名を残すほどの活躍ができたのです。
逆にゴッホは理解者が弟のテオだけだったため、生きている間に商業的な成功を収めることはできませんでした。
人との関わりがチャンスに…!?
この項に登場した皆さんは有名無名を問わず、人に頼ることによって自らのパフォーマンスやビジネスを広げています。タモリには赤塚不二夫がいたからこそ「森田一義」から「タモリ」になり得ましたし、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロも時の権力者に頼ることによって多くの偉大な芸術作品を世に出すことができました。
全てを他人頼みにするのはどうかと思われますが、人に頼ることでさまざまなチャンスが生まれているという事実があるのです。
相手の意図を理解することが、チャンスの近道!?
聴く力、つまり“傾聴”が最近、よく話題に上がります。
これはまず、「相手側の想いを理解することから始めましょう」ということに他なりません。
ゴッホが生前にほとんど絵が売れなかった事実の裏側には、当時、何人かの画商がゴッホの絵を売りたい、と本人にオファーを出したのにもかかわらず、売値がゴッホの要求額とかけ離れていたために破談になってしまったことがあります。当時の若手作家であるゴッホに相手の想いを理解するスキルがあったならば、と思うと残念でなりません。
チャンスを掴んでいる人に共通する「行動を続ける」こと
タモリのケースで注目すべきは「初対面の相手に芸を披露した」という行動です。山下洋輔のホテルでの徹夜のどんちゃん騒ぎがお開きとなった後は自分の連絡先も教えずに立ち去っているので、この後の展開など微塵も期待していなかったことは明らかです。
しかし、「森田を呼ぶ会」から新幹線のチケットが送られてくると躊躇なく上京し、初めて会った赤塚に認められ、マンションとベンツと月20万円以上の小遣いを与えられています。
この一連のプロセスは決して「初打席のラッキーなホームラン」だったわけではなく、機会があれば芸を披露することを繰り返していたからこそ、山下との遭遇があり、その結果として赤塚との運命的な出会いにつながったということなのです。
ですから、世に打って出るための武器を身につけたら、あとはできるだけ多くの人に会ってプレゼンテーションするべきです。私の場合も、「ハイパフォーマー分析」というメソッドを確立した後は、あらゆる伝手をたどってプレゼンを繰り返しました。正確に数えてはいませんが、企業と個人を合わせると50回は超えています。その結果が人事サービス会社への転職であり、独立開業や本書の執筆にもつながっているのです。
不確定要素が多いからこそ出会いの“数”も大切
野球にたとえるなら「多くの打席に立ってバットを振る」ということですが、ここには「一試合四打席」などの制限はありません。また、野球と違ってビジネスの場で追求すべきは「打率」ではなく絶対値としての「安打数」なので、それがタモリと赤塚のような「ホームラン=決定的な縁」であれば一安打で十分なのです。
デビュー前のタモリが得意としていた「四カ国語麻雀」や「イグアナの形態模写」などのネタは九州では受けなかったそうですが、めげずに人前で披露し続けていたからこそ、赤塚とも巡り会えたわけです。
「少女漫画の神様」とも言われる巨匠・萩尾望都は雑誌『なかよし』でデビューしたものの、それ以降は何を描いても「講談社のカラーに合わない」という理由でことごとくボツにされていました。
同業の竹宮恵子にその話をすると小学館の山本という編集者を紹介され、萩尾の原稿を読んだ彼は「これ全部うちで買わせてもらいます」と即断します。講談社では日の目を見ることがなかった作品群は『少女コミック』で人気を博し、『トーマの心臓』、『ポーの一族』等の傑作を連発することで、押しも押されもせぬ小学館の看板作家となっていくのです。
ちなみに小学館の山本氏はこの後、竹宮恵子が執筆を熱望した『風と木の詩』の企画を「だってお前、ページ開いたら裸の男の子がいきなり2人出てきて抱き合ってんだぞ。こんなものは載せられないよ」とにべもなく却下し、この作品が日の目を見たのは担当編集者が別の人物に替わってからでした。
ですから、山本氏はあくまで萩尾望都にとっての「良縁」であり、日本初の本格的なボーイズラブ漫画を世に問おうとしていた当時の竹宮にとっては、立ちはだかる壁でしかなかったのです。
一方の情熱だけでは意味がなく、コントロール不可能な「相性」や「タイミング」といった要素が絡んでくるからこそ、出会いの数を増やすことが大切なのです。
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