企業インタビュー
地方で、生協で、めちゃくちゃ稼ぐ。「コープさっぽろ」の“生協らしくない”挑戦とは
ローカル企業のトップランナーが語る「キャリア」とは
新R25編集部
地方企業が都心部のプロ人材を採用するためのダイレクトスカウトサービス「チイキズカン」。
今回は、学生のための未来創生イベント「LOCAL CAREER FORUM 2024」で行なわれたクロージングセッション「民が官を支える時代」から、コープさっぽろ理事長・大見英明さん、株式会社SHONAI代表取締役・山中大介さん、株式会社XLOCAL代表取締役・坂本大典さんの対談をお届け。
地方企業とキャリアの選択肢を広げたい学生をつなぐ“いつでも戻っておいで券”を出すイベント「ローカルキャリアフォーラム」
2024年8月20日開催された「LOCAL CAREER FORUM 2024」についてくわしく知りたい方は、こちらの記事をチェック!
コープさっぽろの“既存の枠組みや概念にとらわれず、地域の人びとの課題に真摯に向き合い、解決しながら利益も出す”秘訣とは?
コープさっぽろとは?
コープさっぽろとは北海道の人々が加入できる生活協同組合(生協)。
食と生活を守り、より持続性のある社会を続けていくために、北海道全域で地味で堅実なイメージがある“生協”の概念を覆す、次世代を見据えた取り組みにどんどんチャレンジしている。
「つなぐ」を合言葉に、さまざまな分野で事業を行っており、道民の8割がコープさっぽろの組合員で、まさに北海道の一大インフラ。
【大見英明】生活協同組合コープさっぽろ理事長。1958年愛知県生まれ。1982年に北海道大学教育学部を卒業後、コープさっぽろに入協。さまざまな役職を経て、2007年に理事長に就任。宅配事業の強化、全道各生協の統合、物流内製化、ID-POSデータ活用など多岐にわたる斬新な経営実践により、組合員200万人、生活協同組合全国2位の売上高の組織に成長。2022年より小樽商科大学商学部特任教授も務める。日本生活協同組合連合会常任理事、日本流通産業取締役
株式会社SHONAIとは?
株式会社SHONAIは、「地方の希望であれ」をVISIONに、地方から大きな経済をつくりにいく会社。今年創業10年を迎え、本社を山形県の庄内に置く。
現在は、農業・観光・人材という3つの領域こそが地方の勝ち筋だと考え、この3つを成長させて、地方の教育に投資を行っている。
年間7万人が訪れる水田に浮かぶホテル「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」を経営しており、「優秀な人材が関わることによって、地方の企業はもっと伸びていく。」という考えのもと、地方に都市部の若者をつなぐ取り組みを行っている。
【山中大介】株式会社SHONAI代表取締役。1985年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、三井不動産で大型商業施設の開発と運営に携わったのち、2014年に山形県庄内地方に移住し、街づくりを担うヤマガタデザイン株式会社を設立。地域と全国から資本調達し、山形庄内から全国にも展開可能な課題解決のモデルづくりに挑む。自身も地方に移住し、地方に都市部の若者をつなぐなど、観光、農業、人材、教育の4つの領域から新しい経済を創出することで地域の課題解決を行っている
「Amazonに本気で勝とうと思ってる」コープさっぽろ
大見さん
コープさっぽろの事業高は小売だけで約3,200億円あって、北海道の食料品総小売額の26%のシェアを占めています。そのうち宅配事業が1,130億円ほど、現在43社ぐらいある関連会社は計850億円の事業規模です。
特徴①北海道の物流を支える宅配事業
大見さん
コープさっぽろでいちばん特徴的なのはやはり宅配事業で、Amazonに本気で勝とうと思ってます。
勝てるわけないだろと思うでしょう? でも、勝てるんですよ。
アマゾンでは、ほとんどの人が1個の商品しか発注してないと思います。1個だけを、家まで物流を使って届けているわけです。
大見さん
一方、我々は週2回の宅配ですが、13点~15点をまとめて買ってもらっています。つまり最終物流コスト、一個商品あたりのコストは絶対勝てる構造になっている。
そういう信念のもと宅配事業に注力して10年ぐらいやってきて、現在経常利益率は7%以上出ています。
利尻・礼文島のぽつんと一軒家まで、道内のすみずみまで必ず毎週行っていて、配送車両は末端車両だけで1,300台保有、基幹物流も含めると道内に2,750台持っています。
これは、北海道のヤマト運輸が持つトラック台数を超えているんですよ。
完全内製化し、北海道じゅうを走り回る一大物流会社として、物流系の各大賞も受賞(2022年日本ロジスティクス大賞、2023年物流環境大賞)しています。
特徴②エコセンター(資源回収センター)で「子育て支援」
大見さん
2008年に開設した資源回収リサイクルセンターでは、店舗から出る段ボールや発泡材などといった資源を回収しているのですが、その売上高が現在5億5,000~6,000万、経常利益が2億8,000万円あるという信じられない状態になっていて。
利益分で組合員さんの子育て支援を行なっています。
フィンランドでやっている「育児パッケージ」という、子育てに欠かせないものを詰め合わせたギフトをコープさっぽろでも「ファーストチャイルドボックス」という名前でやっていて。大体一人4万円ぐらいのベビーアイテムを、新しく子どもを産むお母様たちにお贈りしています。
おかげさまで、今北海道で赤ちゃんの検診に行くと、半分位がコープさっぽろのウェアを着てくださっています。
特徴③スクールランチの実施で「地方行政の問題を解決」
大見さん
行政機能の後退が日本中で起こっていますが、道内の学校が抱える課題に「給食」があります。北海道179市町村のうち、10町村は給食を提供できていません。
なぜできないのかといえば、学校給食法というものがあって、そのとおりやらないと給食施設をつくれないんですね。そうしたなかで、たまたま襟裳岬の先にある町の町長から給食やってくれという話があったので、給食事業をやることにしたのですが…
帯広から130km離れたところまで専用車が給食を届けていたら、話を聞きつけた他の町村が「うちもやってくれ」って言い出して。すでに3町村でやっていて、これからさらに1町村増える予定です。
大見さん
こうなってくると、給食事業としてコープさっぽろは北海道でいちばん大きな組織になっていくだろうなと思っています。
行政の人口が減ると、どうしても町村の事業規模も縮小していくので、効率が悪いことはできなくなってきます。
その点我々は学校給食だけじゃなく、高齢者向けのお弁当や高齢者施設の給食食事業など、“三毛作”ができる。単体で学校給食をやるより経常利益も増やせるので、この事業をどんどん進めているところです。
生協だからこそ地方の未来をつくることができる。
大見さん
ここまでいろいろな取り組みをお話してきましたが、とはいえ「生協」なんですよ。株式会社じゃなくて。
株式会社と生協の最大の違いは、株式会社には配当があることです。出資者に対して配当を還元しなきゃだめですよね。
地方のためを考えると、株式会社の短期的な利益だけを追求する姿勢は絶対によくない。
地方の中長期的な未来にとって、クラウドファンディングとサブスクと運営までやっている、協同組合のような組織が注目される感度は今後ますます上がってくると思っています。
「やっちまう、生協なのに」キャリアにつながるノリの良さとは?
山中さん
ところでコープさっぽろって一回倒産しかけてるんですよね?
当時部長だった大見さんが、個人で420億の債務保証を負って、一回お金を立て替えて、組合員に「俺がリスクを負ったんだから、もっかい出資してくれ」と頭を下げて出資を募り、借金を返済する…という。
坂本さん
なぜそれが可能だったのでしょうか。
大見さん
1980年代、北海道でいちばん大きな小売業はコープさっぽろだったんです。
昔は消費者運動というのがあって。新聞代や灯油の値上げ反対、といった運動を北海道では精力的にやっていたので、組合員さんとの関係性のような見えざる経営資産(=インタンジブルアセット)の価値が一般の組織とは全然違いました。
大見さん
そうしたなかで、コープさっぽろが立ち行かなくなりそうだった1995年、神戸の被災地支援に2週間ぐらい行った時のことです。
神戸の生協では、本部が倒壊しても翌日から従業員が店に出て、がれきのなかから商品を引っ張り出して、100円、200円で配っていたんです。さらには、生協の車両が1,500台ぐらい、全国から集まって支援していました。
生協の人員、スケール感は次元が違うことを目の当たりにして、コープさっぽろも破綻させちゃいけないと思って…本当は自分も辞めようと思っていたんですけど、辞めるのを止めて、がんばりました。
山中さん
マインド的に、「やっちまう」っていうのが大見さんにはあって。僕にも共通する部分で。
ほとんどの人が、新しいチャレンジをする時は100%の確信、賛同が整ったらスタートしようと考えるんですけど、永遠に「100%」は来ないんですよ。全員の同意なんて、とれるわけがないんです。
新しいことに理解がある人間って、3%ぐらいしかいないんです。ならば、3%の同意があればやってしまう、ということを僕はすごく大事にしています。
大見さんには「やっちまう」迫力がある。何がすごいかって、協同組合って、本来稼ぐことを目的化してはいけない風潮があるんですよね。でもお金は回さなきゃいけないから、結局稼ぐ力が弱まって、衰退するんですよ。
その点、大見さんは生協でめちゃめちゃ稼ぐんです。
坂本さん
やっぱり、こうやって何かやる人って、やっぱり一本ネジ抜けてないと無理なんですよ。
やったことないけど、やれると思ってやってみるっていう。やっぱちょっとずれてないと、一歩踏み出すことってできないんですよ。
そういう人が世の中を変えている、というのはぜひ感じてほしいなと思いますし、学生のなかでも最近すごい真面目な学生が多いなと思っていて。
一歩踏み出してみるノリの良さがキャリアを作るので、ぜひ参考にしていただければと思っております。
地方で成長するために必要なこと
山中さん
地方で過ごしていると、コンプレックスを抱えた人が多いなと感じることがあって。すごく後ろ向き、否定的にものごとを考える風潮があるうえに、“いつか誰かがやってくれる”という他人依存の根性を持ってたりする。
僕はそれがすごくもったいないなと思っていて。地方はものすごく可能性があるので、思考をもっと未来向き、前向きに変えたい。
山中さん
僕は10年間人口20世帯の村に住んでたんですけど、村中から「宇宙人」と呼ばれてきました。
面白いのが、SHONAIに近づけば近づくほど、我々のアンチが多いんですよ。離れれば離れるほどファンが多くて。近いと「なんかお前ムカつく」ってなるけど、遠くのほうでやっているぶんには「あいつすごい!」みたいになる。
足元の狭いコミュニティの中に閉じこもってしまうと、そこにある価値観に縛られて足を引っ張られ、イノベーションが起きない原因になってしまいます。
地方の人にこそ、もっと俯瞰してものごとを見てほしいと思っています。
大見さん
僕は愛知出身で、大学で北海道に行ったときに、こんなすごい自然の場所が日本にあったのかとびっくりしました。積丹の海に行ったら、18m下の海が見えるとかね。
こういうことって、北海道の人にとっては当たり前で、誰もすごいとは思わない。外部の人が入ってきて初めてその違いがわかるんですね。
Uターン、Iターンをする人がいるけど、やっぱり外部を経験してもう一回自分の故郷を見ると、見え方は全然違います。意識的な差ができていて、そこでの気づきが地域を変えるヒントになっていくと思います。
仲間を集めるために伝える「地方の可能性」
坂本さん
地方に人を連れて来るときは、お二人ともどうやって口説いてるんですか?
大見さん
お金ではないんですよね。社会的正義と可能性です。
たとえば、元メルカリCIOの長谷川秀樹さん。能力が発揮できると思ったら、3分の1以下の給料になるのに、うちに来てくれましたもんね。
坂本さん
可能性があるということを示したんですか?
大見さん
ついこの前、一緒にフィンランドへ行ったんです。
フィンランドは北海道と同じぐらいの人口(約550万人)で、組合員のシェアは54%。2兆円規模の事業なのですが、年間300億円もの金額を投資してアプリをつくっているんです。
日本の小売業で300億円も投資してアプリをつくるところなんてありませんから、反対に、日本ではそこまでお金かけなくても最先端のことができるフィールドと可能性があるということを感じてもらえます。
可能性を感じるための問題意識をもつ機会を、なるべく海外に行ってキャッチアップするということは大事にしています。
坂本さん
世界最先端の仕事をちゃんとつくっていくことで、人材を引き寄せているんですね。
山中さん
「SHONAI」では基本的にチャレンジングな人には、フィールドは用意するから、自分で勝手にやってくれというスタンスなんです。
グループ会社の取締役には、「自分の給料は自分で決めていいよ」と言っていて。
山中さん
基本的に僕らSHONAIは地方の課題を解決する事業なら、何でもやる。
次々に人が来て事業を手がけるなかで、その事業の可能性をよりスケールするためには、戦略を再構築しつづけることが重要です。
そのために「自分でやって自分で売り上げたのなら、それ相応の対価をもらえばいい。」それだけを僕はマネジメント層以上の方に求めていますね。
坂本さん
若いうちに「おもしろい仕事」をしたいのであれば、この人のもとであれば“思いっきりやれる”という人を見つけることが大切だと思っていて。
そういう意味では、地方はかなりおもしろいビジネスが集まっていると思っています。
本能にダイレクトに訴える地方の魅力とは
坂本さん
地方の魅力に関してどう思いますか?
大見さん
“生活の質”という概念があって。
東京に住んでるから生活の質が高いとは全然思わなくて。東京は、お金をもっている人なら少しは楽しいけど、普通の人は全然楽しくない街だなといつも思うんです。
私の住む札幌では、家から30分で海水浴、30分でスキーができますし、大自然の中の生活で、食材は豊かで東京よりもはるかに安い。
ただし、その価値がわかるかどうかも大事ですよね。生きていくうえで何が重要かっていうのは、全員が今一度見直す時期に来ているんじゃないかと思います。
山中さん
僕は、本能や感性にフタをしないことがいちばん大事だと思っていて。
海がきれいとか夕日がきれいとか、きれいなもの・美しいものへの渇望は、絶対に消えない人の欲求で、お金になる。
そして地方には、そういった人の本能や欲求にダイレクトに訴えかけるものがいっぱいあります。これこそが、僕が地方で経済をつくれると思っている、大きな理由の一つです。
大見さん
東京にいると、情報過多だと思うんですよ。
いろんな情報が入ってくるので、自分がどうしたらいいかがわからなくなっちゃう。
ところが地方では、そこでどうやって生きぬくかということを真剣に考えざるを得ない。そうすると、戦略的な方向性が見えてきます。つまり、考える余白が地方にはまだあるということです。
日本という場所は、非常に豊かな場所だと思います。今、日本の貨幣価値はどんどん下がっちゃって大変ですけど、それでも多くの日本人は、海外に行ってもやっぱり日本がいいと言いますもんね。変な国ですよね、日本は(笑)。
坂本さん
僕も今日本中回っているんですけど、めちゃくちゃ素晴らしい魅力がいっぱいあります。
そしてそれをいちばん知ってるのは、地元の経営者なんですね。経営者から話を聞くと、見え方がまた変わります。
山中さん
東京にいると、常に足し算、足し算の文化で、情報過多で、“フォロー”側になりやすいんですよ。でも地方にいると、何かをつくる側にまわれるんですね。
社会をフォローして生きるのか、社会をつくる側にまわるのか。そういう観点でいうと、僕は地方にはすごい可能性があると思っていて。
不完全でいいんです。不完全で飛び込んでみて、そこから自分の人生やキャリアをつくり続けるものなので。まずはとにかく、3%の賛同者で飛び込んでみてほしいと思います。
大見さん
人生は一回だけなので、自分が思ったこと、とことん自分がやりたいことをやったらいい。
自分が入った組織のなかでそれをみつけられたらラッキーですし、見つけられなかったら転職すればいいだけの話です。
ぜひ自己納得できる人生を歩んでいただけたらいいなと思います。
いま、地方に渦巻くエネルギーのパワーを感じさせる大見さんと山中さん。
自分が見ているものだけで、世界を判断していませんか?
本能や感性のフタをはずしてみたくなったら、一度地方へ足を伸ばしてみると、新たな発見があるかもしれません!
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