企業インタビュー
「伝えたいことが伝わらない」という人は、“ゴール”を間違えている。コピーライター直伝の目線とは
「言いたいことがわからない」と言われることありませんか?
新R25編集部
「言いたいことが、うまく伝わらない…」 「説明がうまくなりたい」
そう思う人は多いのでは?
そこで「企業トピ」にて展開する新R25書籍トピックス局では井手やすたかさん著『伝え方図鑑 当てはめるだけで「結果」が変わる!コミュニケーション・フレーム73』(SBクリエイティブ)に注目。
井手さんいわく、「何を伝えるか」ではなく「どう伝えるか」を意識するだけで、伝えたい内容の“価値”が変わるそう。
「国語が苦手だった」という井手さんが、現在コピーライターとして活躍する源泉である“伝わる言葉”への意識とは、どのようなものなのでしょうか?
〈聞き手=森田志穂(新R25編集部)〉
井手さん
私はもう20年もコピーライターを続けています。ですが、私は学生時代、国語が苦手科目でした。
特に現代文など、文章を読み解いたり書いたりすることが不得意で、むしろ数学などの理系科目のほうが得意でした。
森田
え、そうなんですか?
井手さん
それでもコピーライターとしてこうして仕事ができているのは、「伝わる言葉」というものには、文学や詩のような感性だけでなく、数学的・戦略的なソリューション思考もそれ以上に重要だからだと思います。
また、個人的に言葉への苦手意識があるからこそ、わからない人にわかりやすく伝えるためのスキルやノウハウへの感度が高まったのかもしれません。
森田
言葉=感性みたいなイメージがありました…どうやって「伝わる言葉」を身につけたんですか?
井手さん
コピーライターは、ふつうに伝えてしまえばふつうになってしまう内容を、すごいものに見せるためにがんばる仕事。
さらにそれを、社内の打合せ、クライアントへのプレゼン、そして世の中への広告メッセージ、といういくつもの規模や段階で伝える経験を重ねてきました。
「何を伝えるか」はもう決まっている上で、「どう伝えるか」の技術を磨き続けた結果だと思います。
森田
なるほど…
井手さん
伝える内容の価値を高めていけば、その人自身の価値も上がっていきます。つまり、伝え方がわかると、大きな変化になります。
悪いことが、良いこととして伝わる。良いことは、もっともっと良く伝わる。
そんなよりよい未来に変えていけると思っていますよ。
「何を」伝えるかだけにこだわると、話は伝わりづらい。
※以下、『伝え方図鑑 当てはめるだけで「結果」が変わる!コミュニケーション・フレーム73』(井手 やすたか)より
「同じ会社にいて、ほとんどおなじ仕事をしているのに、なぜかその人の言うことが魅力的に聞こえる」
そんな体験をしたことはありませんか。
本書をこうして手に取った方であれば、それが「伝え方の違い」であることになんとなくお気づきの方も多いのでは、と思います。
なぜ、おなじお願いごとでも、あの人が言えば通るのか。
なぜ、おなじ報告でも、あの人から受ければ成果を感じるのか。
なぜ、おなじ説明でも、あの人から聞けばわかりやすいのか。
なぜ、おなじ雑談でも、あの人と話していると楽しいのか。
それは「伝え方」が違うからです。
言葉には「何を伝えるか」と「どう伝えるか」があります。
広告の世界ではこれを「what to say」と「how to say」と呼び、入社したばかりの広告一年生たちが必ず習う、コミュニケーションの基礎のような内容です。実は、この2つの要素をよく理解しておくことが、なぜ伝え方を学ぶことが大事なのか、を説明する大きなポイントになるのです。
日常生活では、人は「何を伝えるか」のほうを意識して生きています。
何をお願いしようか。
何を報告しようか。
何を説明しようか。
何を雑談で話そうか。
人に何かを伝えるときの判断力を、「何を」の部分にまず大きく使ってしまっているんですね。ふつうの人は、その「何を」が決まってしまった時点で、あまり深く考えず、思うままにそれを伝えてしまいます。
でも、本当に重要なのは、それを「どう」伝えるかです。伝え方の工夫しだいで、伝わる内容が大きく変わります。良くもなる。悪くもなる。伝えたい内容の「価値」が変わると言っても過言ではありません。その最も大きな変数が「伝え方」にあるのです。
ここを意識し、工夫することで、一日に何回も訪れる「伝える」機会を、すべてチャンスに変えることができます。これからの一生、という期間で考えると、大きな違いが今後生まれることになります。
伝え方をモノにして、一生役立つ武器にするか。
伝え方を知らずに、一生チャンスを逃し続けるか。
今が、分かれ道かもしれません。
伝わらないのは、相手のことを考えられていないから。「伝わる」話し方とは?
「伝える」と「伝わる」の、大きな差。
このことは、伝え方に関するほとんどの書籍に書かれています。「伝える」と「伝わる」という2つの言葉。この両者の間には、圧倒的な違いがあります。わかりやすくそれぞれを言い換えると、「伝える:自分の伝えたいことを伝えたいように伝える」と「伝わる:相手にとって伝えてほしいことが伝わる」ということになります。
相手の視点になれるかどうか。
「伝える」と「伝わる」の、たった一文字の違いは、本質的にはその違いを生んでいます。
相手の視点になって考える、という姿勢は、人と人の間のコミュニケーションを表現するときに、実に多彩な言葉で表現されます。
「思いやる」
「ホスピタリティ」
「空気を読む」
「気遣う」
「親身になって考える」
「共感する」
これらポジティブな言葉はすべて、自分勝手な一方通行ではなく、2人の意識や気持ちを近づけようと努力するときに使われる言葉ではないでしょうか。
もう少し違う言い方で説明します。
伝えたいことが伝わらない方は、「伝えること自体」がゴールになってしまっている場合が多いように思います。「こう話せば伝わるだろう」 「こう書けば伝わるだろう」という意識が自分の中で判断を完結させてしまっていて、伝えるべき相手の状況や気持ちを考慮できていないのです。
私が過去にとある自治体を担当させていただいた際、そこの職員の方に相談を受けたことがありました。市民に向けた手続きのパンフレットやホームページが、どうしても複雑で難しく伝わらない内容になってしまう、という悩みでした。
それもそのはず、見せていただくと「市の部署別の担当者が、それぞれに手続きに関する書類の定義を長文で書き連ねている」という内容でした。本来であれば、相手=市民の視点に立って、「誰が対象で」 「いつまでに」 「どこへ」 「何を持っていく」という情報がシンプルに書いてあればいいだけのはずです。
なのに、一生懸命まとめているうちに、「自分たちが間違えないように、正しい情報を書く」ことがゴールになってしまい、「相手が理解し行動できるように、わかりやすく書く」という本来のゴールを忘れてしまったのですね。この場合、伝える側である市の職員が、様々な市民の状況をがんばって想像して、必要な要素だけを厳選し、適切な順番で、シンプルにデザインして記載することが必要です。
そんな話をしたら、その職員の方に質問されました。「それは理想的ですが...でも、毎回そんな努力してたら大変ですよね?」と。答えは「YES」です。
書くほうが、伝えるほうが、相手のためにがんばる。汗をかく。努力をする。それが、伝わるコミュニケーションには多少なりとも必要なことなのです(完璧にこなすのはもちろん難しいことですが)。
「初見でもわかりやすい構成」は「目的」の明確化に
「目的と手段」の関係で整理すると、大事なことが浮かび上がる。
・いろんなレイヤーの要素が入り乱れてわかりづらいと感じたものごとは、「目的と手段」という関係で整理してみる。そもそもの「目的」(メイン)と、それを達成するための「手段」(サブ)という重要度で分けて理解できる。
・みんなで議論するときも、この型が役に立つ。たとえば様々なアイデアや意見が入り乱れて混乱しているときでも、「そもそも、目的はこれですよね。大事なことだけ議論しませんか?」と提案できれば、場が整理される。
・「目的と手段」という関係が、大小で複合する場合もある。
相手に何を伝えるべきかを探る「俯瞰視点」
「全体と部分」の関係がわかると、「部分」のことがよくわかる。
・全体像や前後の文脈を伝えることで、その部分の意図や理由がわかりやすくなる。逆に、説明が部分的だと、全体の意図や前提がわからず混乱しやすくなる。
・一方で必要のないときにもいちいち全体を伝えようとするのは、ただの説明過剰。「全体を知ることに意味があるかどうか」を確認すべし。
・また、全体の説明を正確に知ってもらいたいあまり、複雑で情報量が多い説明になってしまうと本末転倒。シンプル・簡潔で、直感的に伝わることを心がけること。
最適な伝え方は、「自分の目的」と「相手の視点」で判断できる。
上述した事例でもわかる通り、最適な伝え方というのは、その時々で変わります。
どの伝え方を用いればうまくいくのか、「自分の目的」だけを基準にすると間違えてしまうのですが、そうならないために必要なのが「相手の視点」というわけです。
【自分の目的】×【相手の視点】=最適な「伝え型」
たとえば、
【自分の目的】複雑なことを説明したい
【相手の視点】全く知見のない分野についての内容だから、前提がわからず不安だ...
という状況であれば、「冒頭で全体像と結論を把握してもらう『俯瞰』の型が最適」となります。
【自分の目的】上司から、ある仕事を許可してほしい
【相手の視点】部下はまだ若いから個人的な理由で仕事を選べない
という状況であれば、たとえば、「組織や世の中への貢献、という否定しづらい理由を添える『大志』の型が最適」となります。
もちろん、こんな計算式をいちいち頭の中で思い描いたほうがいい、と言いたいわけでは決してありません。
お伝えしたいのは、そこに【相手の視点】をいつも判断の要素として入れる姿勢があるかどうか、ということです。誰かと何かコミュニケーションをするたびに、相手のことを理解しようとがんばることで、伝え方は上達していくはずです。
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